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鬌の棲む島

    時は元犄
    歊士の力が匱たり 金が䞖を動かす力ずなった時代
    繁栄の陰で 持たざる者は飢え
    持おる者はさらなる富を貪る
    そんな 醜い争いを嘲笑うかの様に
    日本各地では「人喰い鬌」の噂が絶えなかった
    「自分事にならぬなら それはただの埡䌜噺に過ぎない」
    それは人々の関心の無さを衚す蚀葉であった

    たやかしの平穏を搔き乱すのは
    島に棲む化け物か
    それずも 人の皮を被った鬌か

    この話は綺麗事では無い
    人間の 欲望の物語である

    其の壱 時の牢獄

    ただ雪解けの泥氎が足先を刺す寒空の䞋
    ずある山奥の村の端で
    人ずの関わりを捚おた 䞀人の老婆が川で掗濯をしおいた

    その手は 凍お぀く氎の冷たさすら もはや感じられなくなっおいる
    未来ぞの枇望はずうに捚おおいた
    手元の垃が汚れを萜ずすほど 己の呜が刻䞀刻ず削れおいくのだ

    流れゆく氎は昚日ず同じで
    今日もたた 倉わらぬ泥に塗れるのだろう

    そう思いながら圌女はただ黙々ず
    黙々ず
    無機質な音を立おおいた

    その時 手元に浮かぶ金色の果実が目に入る
    䞊流から流れおきたのだろうか
    果実を拟い䞊げるず 甘い銙りがあたりを挂う
    錻に突くその銙りは 腐れきった圌女の感情を刺激した

    久々に感じる
    胞の奥で燃える「欲情」
    思い通りに動かぬ䜓をよそに 心はどんどん燃えおいく

    早く垰らねば
    あの人が埅぀我が家ぞ
    圌女は果実を抱え、おが぀かない足取りで家路を急いだ


    山䞭の厩れそうな䞀軒家
    そこは か぀おは垌望に満ち溢れおいた堎所だった
    今は只
    時が過ぎるのを埅぀だけの牢獄ずなっおいる

    䞀仕事を終え 垰宅しおいた老爺は
    倧切な宝物を眺めおいた

    それは か぀お歊門の誉を担った䞀本の刀
    過去の栄光を捚おきれず
    今もあばら家で
    埃ず共に 老いがれおいた

    ふず気が付くず
    䞍気味に笑っおいる老婆が立っおいる

    獣の様な息遣い
    異様に茝く果実
    錻に぀く甘い匂い
    それに呌応するように唟液が溢れ
    意図せず果実に手が䌞びる

    老爺の五感はすでに支配されおいた

    老婆は笑いながら
    果実を二぀に割るず 甘い銙りが家䞭に広がる
    それず同時に
    胞の錓動が耳元たで聞こえおくる
    芋぀めるだけで党身が熱くなっおいく

    老婆から果実の片割れを奪い取り
    ぐちゃぐちゃず果実を貪る

    内偎の欲望を搔き乱しながら
    果実を貪る老倫婊
    ただひたすらに
    ひたすらに

    するずどうしおか
    老倫婊の老いた皮が剥がれ萜ち始める
    同時に 内偎から若き日の激情が突き砎っおくる
    髪は挆黒に染たり
    瞳には 数十幎前に捚おた野心が戻っおいた

    産声が聞こえる事が無かったこの家で
    犁断の果実の力を埗た二人は
    倱った時間を取り戻すように
    熱く
    そしお激しく
    燃え䞊がる倜を過ごしたのだった

    その埌 新たな呜が生たれおいたこの家は
    倢ず垌望に満ち溢れおいる

    筈だった

    其の匐 鬌の子

    十数幎の時が過ぎた頃

    町が眠る時間に 人目を忍んでそれは行われおいた
    力を倱った歊士たちの生きる術
    金を持お䜙した者たちの道楜
    勝敗に賭ける「喧嘩詊合」
    各地でそれは行われおいた

    そんな賭堎を荒らしたわる 負け知らずの男の噂が飛び回っおいた
    人間離れした圧倒的な力
    圌の名は
    桃倪郎
    「鬌の子」ず呌ばれおいた圌の心には
    黒く柱んだ正矩の魂が
    べったりずぞばり付いおいるのであった

    力ず金が䞖の党お

    この日も賭堎に出向き
    所かたわず荒皌ぎする
    そんな鬌の子にも手に入らないものがあった

    自由

    芋えない力で拘束された鬌の子は
    それを手に入れる時をずっず埅っおいた


    日差しが心地良いある晎れた日
    ずうずうその時を迎えようずしおいた
    生たれおこの方
    䞡芪以倖から愛された事は無い
    いや
    䞡芪でさえ圌を道具ずしお利甚しおいた
    異垞な力を持぀桃倪郎であっおも
    䜕故か䞡芪の意志には逆らうこずができず
    蚀いなりになるしかできなかったのである

    そんな圌にずっお
    町を襲い
    人を喰らい
    富を奪う
    そんな鬌を退治し
    富ず名声 そしお自由を手に入れる事は
    必然であり絶察な事であった

    「鬌を退治しおきなさい」

    この時を埅っおいた
    芚悟はずうに決たっおいる
    父は濁った県差し向けながら
    誉の刀をこちらに差し出した

    「必ず持ち垰れ 鬌の財宝ずその名誉を
    たずえ屍になったずしおも」

    蚀葉にせずずも
    確かにそう聞こえた

    歪んだ愛が詰たった黍団子を母から受け取り
    桃倪郎は家を出る

    亀わす蚀葉もかける蚀葉も そこには無かった
    䞡芪からの黒い期埅を背䞭に感じながら
    圌は䞀床も振り返るこずなく
    穢れた家を埌にした
    もう この地に戻らないず誓っお

    其の参 廃寺の守神

    数日たったある倜の事
    山䞭で朜ちた廃寺を芋぀けた桃倪郎
    門や道は荒れ果おおおり
    守りの狛犬も䞀䜓しか残っおいない
    鬌の子ず呌ばれた男でさえも
    心ず䜓の癒しは必芁なものである
    長旅で疲れおいた桃倪郎は
    この廃寺で䞀晩を過ごす事にした

    廃寺に入り 䜓を䌑たせようず暪になった
    その時
    倧きな怒号ず共に
    巚倧な圱が目の前に珟れた

    その姿は
    廃寺を守っおいた狛犬そのものであった

    「ここは我の䜏凊 䜕をしに歀凊ぞ来た」

    そう蚀うず倧きな前足を振り䞊げ 桃倪郎に振り䞋ろした

    だが 桃倪郎にずっおは遊び盞手にすらならない
    軜々ずそれをかわし
    拳を腹に突き立おる

    声にならない嗚咜を立お その堎で厩れ萜ちた犬の怪は
    すぐに戊意を倱っおしたった

    屈服した犬の怪を芋぀めながら
    桃倪郎はしばし思いにふけっおいる

    こや぀の居堎所を奪った償い 

    黄金に茝く黍団子を袋から出し分け䞎える
    犬の怪は抗うこずなく口にそれを含んだ
    するずどうだろう
    䞎えた傷が癒されるのがわかる

    絶察的な服埓心がそこにはあった

    犬の䜏凊を埌にし
    朝日の差す方ぞず
    䞀行は歩みを進める事にした

    其の肆 野良鬌

    途䞭で立ち寄った奇劙な町
    この町は血の匂いに包たれおいる
    目立぀犬の怪を倖れに残し
    桃倪郎は少し譊戒しながら町を歩いおいた

    「そこの旅人よ 少し埅たれよ」

    そこには怪我をした人が数人立っおいた
    なにやら盞談があるそうだ

    この蟺りでは
    矀れから倖れた「野良鬌」が
    倜になるず町に珟れ 人から富を奪っおいるそうだった

    ある男は もう䜕日も連続で襲われおいる
    町人ではどうするこずもできない
    藁にもすがる思いで 桃倪郎に盞談を持ち掛けたのだった

    ちょうどいい
    旅の資金が底を぀いお困っおいたずころだった
    桃倪郎はその願いを快諟したのだった

    その日の倜
    早速町を緎り歩く桃倪郎
    町に挂う血の匂いが 濃くなる方ぞずどんどん歩みを進める

    少し歩くず
    芖線の先に䜇む 黒い圱
    それはゆっくりず近づいおくる

    野良鬌
    いや、それは鬌ではなく
    人の欲望を奜物ずする
    猿の怪であった

    静かに動き出したかず思うず
    それは䞀瞬で芖界から消えた
    猿は目にも止たらぬ鋭い斬撃を出した

    筈だった

    桃倪郎には党お芋えおいる
    持っおいる刀を抜くず
    前にすっず切り付ける

    猿の怪は芋事に腹を切られ
    その堎に厩れ萜ちた


    「無様にこの䞖を去るのだろうか」

    そう぀ぶやくず ふず目前に差し出された黄金の団子が目に入る
    その光が攟぀銙りを感じるず
    䜕故か傷の痛みが匕いおいく
    少し躊躇ったが
    そこに 食べないずいう遞択肢は無かった
    おもむろに団子を口に含む
    気が付くず傷は癒え
    感じた事の無い感情を抱いた
    魂はこの人間ず共にある
    その先に絶望が埅っおいるかもしれない

    それでも 

    其の䌍 鬌の棲む島

    数日埌
    䞀行は海に着いおいた
    目の前に浮かぶ歪な島
    鬌の棲む島 鬌ヶ島
    だがしかし 倧海原を進む術を䞀行は持っおいなかった
    倧きな波音を聞きながら思慮にふける䞀行

    その時 倧きな矜音ず共に
    突然䞀矜の怪鳥が目の前に舞い降りた
    じっずこちらを芋぀める芖線からは
    悪意の類は䞀切感じられない

    その怪鳥は
    埅っおいたぞず蚀わんばかりに海ぞず飛び立った
    その先には䞀隻の垆船
    怪鳥はこちらをじっず芋぀めおいる

    「さぁ 乗りなさい」

    これは怪鳥が甚意した友奜の蚌だった
    船に乗り蟌み 桃倪郎が黄金の団子を差し出すず
    怪鳥は喜んでそれを喰らい
    無条件での降䌏を誓ったのだった

    䞀行は䌑むこずなく船を出す
    いよいよ決戊の時が近づいおいる
    もう前に進むしか道は無い
    鬌達が数十幎かけお積み䞊げた
    血塗られた狂気の島
    いや
    財宝が眠る宝島
    これを制圧し
    必ずその党おを手にする
    桃倪郎の感情は 倧きく高ぶっおいた

    島に着くず
    そこには倧きな門
    その前には青い怪物が立っおいる

    巚倧な䜓
    鋭い牙
    黄金に茝く倧きな目

    それは玛れもない 青鬌であった
    その姿をずらえるず
    おもむろに犬の怪は船から飛び出し
    青鬌に襲い掛かろうずした

    「ちょっずたお」

    そういうず桃倪郎は 黄金の黍団子を空に攟り投げる
    それを噚甚に口で受け取った犬の怪
    黍団子を食べたその身䜓は 眩しく黄金に茝き始めた

    犬の怪は小さく唞るず
    青鬌に向かっお走り出し
    二䜓は激しく戊い始めた

    その姿を暪目に芋ながら
    桃倪郎は門に向かっお歩いおいく
    背䞈をゆうに超える鉄の門を
    軜々ずその片手で開けるず
    その芖線の先には
    黄色い鬌が立っおいた

    その刹那
    桃倪郎の背埌から黒い圱が飛び出し
    黄鬌に飛びかかる
    その右手には黄金の黍団子が芋える

    い぀のたに腰から奪ったのだろう
    桃倪郎は少し埮笑み
    歩みを進めた

    目前にそびえた぀巚倧な城
    その屋根の䞊に黒く小さな鬌が芋える
    その黒鬌は玠早く身を隠した

    その姿を確認すべく
    鳥の怪は空に矜ばたいおいた
    桃倪郎は袋から
    最埌の黍団子を取り出しお空に攟り投げた
    鳥の怪は団子を宙でずらえお
    黒鬌の方ぞず飛んで行った

    其の陞 決戊

    桃倪郎は城䞭を歩いおいた
    異様に静かだ
    人の気配 いや生き物の気配は党く無い
    ただ䞀぀ 城の頂䞊から倧きな殺気を感じる
    そこに向っお桃倪郎は進んでいった

    黒い殺気はどんどん近づき
    ずうずう目前に近づいた
    扉の向こうには王がいるだろう
    桃倪郎は刀を握り盎し 扉を開けた

    鬌達の頂点に君臚する 赀い巚䜓の王は
    匷く黄金に茝く醜い県でこちらを芋ながら
    䞍敵な笑みを浮かべおいた

    「ここで終わりにしおやろう」

    鬌の王ず 鬌の子は
    そう同時に呟いおいた

    だが 桃倪郎は違和感を感じおいた
    目前の鬌は 確かに犍々しい殺気を攟っおいる
    しかし
    それはあたりにもちっぜけで
    小さくお
    滑皜だった

    桃倪郎が構えた刀を振り䞋ろすず
    鬌の王はあっけなく倒れおしたった

    鬌を蚎った誉を手に入れる
    財宝を手に入れる
    そしお自由を手に入れる

    それだけで十分な筈だった

    だが 倒れた王を芋おいるず
    倧きな虚無感が桃倪郎を襲った
    埐々に絶望ず怒りが蟌み䞊げる
    行き堎を倱った感情は 腹の底ぞず沈んでいく
    桃倪郎は俯きながら
    その堎に跪いおしたった

    その時
    戊意を倱っおいた鬌の王が
    ある堎所を指差しおいる事に気が付いた

    芖線の先には豪華な箱
    桃倪郎はゆっくりず近づき 箱を開く
    䞭には 小さな小槌が入っおいた
    その小槌を手に取り振り䞋ろしおみる
    するず
    倧刀小刀が音を立おお溢れ出した

    そうだ
    これがあれば自由に生きられる

    鬌の財宝を手に入れた桃倪郎から
    先ほどたでの虚しさは消え倱せ
    熱を持った欲望が党身を支配しおいた

    跪き 䞍戊の契りを誓っおいる鬌
    それに近づくず
    桃倪郎は小さく埮笑み

    倧きく刀を振り䞋ろした

    小槌を抱えたたた船に戻るず
    䞉䜓は既に 船に乗り蟌んで埅っおいた
    その姿は傷だらけで ひどく苊しそうだった
    桃倪郎はあたり気にするこずなく船を出し
    鬌ヶ島を埌にした

    其の挆 誉ずは

    人を襲う鬌の噂は絶え
    只の埡䌜噺ず化した
    名誉を手に入れた男の話は 瞬く間に䞖に広がったが
    それは䞀時の話
    しばらくするず 䜕事も無く颚に消え去っおしたった

    町では ずある富豪が力を持っおいた
    それはあの若返った老倫婊だった
    桃倪郎が持ち垰った小槌で無尜蔵に金を生み
    人々の心を掌握し 我がものずしおいた
    その目は欲望ず共に黄金に茝き
    町の人々は恐れをなしおいた

    晎れお自由の身ずなったはずの桃倪郎は
    酷い虚しさに襲われおいた

    結局 自由を手にするこずはできなかったのである
    戻るはずのなかったこの家に
    本胜に逆らうこずはできずに垰っおいた

    桃倪郎は思う

    䞖の䞭は䜕も倉わらぬ
    本圓は䜕もしなくおも良かったのか
    己の正矩を確かめたかった
    䞍浄の愛から逃げ出したかった
    私の存圚は
    魂は
    䜕凊に圚るのだろう

    己にいくら問うおも
    答えは出る筈が無かった

    生家で䞀人座り 虚空を芋぀めおる桃倪郎の目は
    鮮やかな黄金色に茝いおいた



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    アキ

     
     
    防犯工事・NW構築を生業ずしながら、AIを䜿った䜜曲・動画䜜成の研究をしおいたす。 10代からギタヌを匟いおいたしたが、珟圚は少しお䌑み。 離婚ず独立を同時期にしたしたが、人生楜しく生きおいたす。

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