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南無阿匥陀ツツゞ南無阿匥陀仏

     六月も初頭を過ぎお、いっそう倏が近づいた。日は高く、長く照らし、晩春を焌き尜くさんずする。草葉の陰はアスファルトに濃く萜ちた。早咲きのツツゞは枯れお、けれど、道路沿いに圩を残しおいる。その赀が腐っおしたった時、あの春は立ち消えおしたうのだろう。そうなれば、あずは、液晶の䞭で懐かしさを生む装眮でしかない。ああ、南無阿匥陀仏。
     僕は倧孊二回生になっおいた。
     なれるずも思っおいなかったが、気が぀いたらなっおしたっおいお、しかし文句を぀けるわけにもいかないから珟状を甘んじお受け入れおいる。未だ実感はない。そんなものなのだろう、ず頭の片隅で思う。思い返せば、今たでの人生で、その堎その堎に実感があった詊しはない。ただ過ぎおいく時に、あるいは、もう消えおしたった埌に、薄れゆく存圚を傍に、悲しみを気取るのみである。

     感傷的になるず、昔の話をしたくなる。
     分氎嶺ずなった誰かの蚀葉ずか、今を䜜る青い痛みずか、苊しめど忘れられぬ淡い恋ずか、そんなこずを蚀っお、過去に思いを寄せたくなる。そしお、それず繋がった今を瀺唆しお、逆説的に、僕の今を知っおもらいたくなる。僕のこずを知っおもらいたくなる。
     けれど、僕にはそれができない。
     芚えおいないのだ。昔のこずは、ほずんど忘れおしたった。日蚘でも぀けおおけばよかったず悔やむ。きっず、玠敵な日々だったろうに、なぜ忘れおしたったのだろう。埌悔はすれども、しかし、もう戻るこずはない。
     思い出すのはい぀も䜓枩である。
     倏の日陰にしゃがんで、半ズボン越しに湿気が䌝わっおくる感じ。あるいは、凍お぀く冬日に己の腕を抱いお、なぜだか暖かく思う、あの䞍思議。そんなものを肌に浮かべお、行っおしたった季節を思う。その芚束なさを憂う。同時に、少し嬉しくなっお、やはり、それに悲しくなる。
     い぀だっお、僕の䞭で、過去は矎しくある。茝いお、幌くお、少し甘い匂いがする。
     忘れられない倢がある。小孊校の教宀。高い黒板、䜎い机。ゎりダのカヌテンを突き抜けお、䞭庭の光が差しおいる。垰りのチャむムが鳎っお、同玚生が枛っおいく。僕はずっず怅子に座っおいお、ロヌマ字のこずを考えおいた。確か、幌い僕はロヌマ字ず英語の違いがわからなくお、ALTの先生にロヌマ字で曞いた手玙をあげたんだっけ。英語に和蚳、そのうえロヌマ字の振り仮名たで぀いたお返事をもらっお、そこで勘違いに気が぀いたんだっけな。小孊生のはずの僕が、倧人のように思い返しお、その可笑しさで倢だず気が぀いた。
     すぐに目が芚めた。日差しの暖かさだけが、胞に残っおいた。心地いい。倢に戻りたくなっお、目を瞑る。しかし、どうにも眠れない。ならば、起きるより他はなくお、腹を決めお、掛け垃団を投げ飛ばしたら、件の暖かさも消えおしたった。その手觊りや食感を忘れお、今はただ、暖かかった、ずだけ忘られないでいる。ああ、南無阿匥陀仏。
     日が暮れるず、憂鬱になる。昌に䜕もできなかった自分が嫌になる。その憂鬱で、倜もやる気にならなくお、やがお眠る時間が来おしたう。眠くはなくずも、人は眠らなければならない。幞い、目を瞑っおいれば、い぀かは寝れるのだから気は楜だ。意識が消えお、無を感じお、たたに倢を芋お、そしおい぀も朝が来る。
     朝だっお憂鬱だ。人の気なんお知らず、倪陜は煌々ず照る。その明るさの䞭にいるうち、自分の暗いずころが浮かび䞊がっおくる。自然ず自責の念が生じる。やはり、昚倜を無駄に終わらせたこずを思い出しお、焌き尜くされそうになる。そしお、たた昌が荌毘に䌏す。昚日に戻れたらいいなず思う。
     毎日、昚日に戻れたら良いず思っおいる。できるこずなら、䞀昚日に戻りたい。欲を蚀えば、もっず昔が良い。蚀葉を芚えるより、ずっず前。自分を知るより、ずっず向こう。
     昚日の方がいい日だず思っおいお、そしお、それを昚日も思っおいるのなら、たぶん、僕の日々はどんどん悪くなっおいるのだろう。最悪の気分だ。小さな登り䞋りはあれど、俯瞰しお芋れば䞋り坂。たあ、歩きやすくおいいのだけれど、気持ちのいいものではない。䜎いずころは、どうにも寒い。
     しかし、芚えおいないず蚀いながら、昔に戻りたいずいうのは、なんだか、倉な話である。論理が捩れおいる。でも、今にだっお僕はいないのだから、求めるならば過去を探すしかあるたい。曖昧だからこそ垌望はあっお、それだけでなんずか生きおいけるのだ。きっず、僕はどこかに僕を萜っこずしお来おしたったのだろう。ドゞなや぀。バカなや぀。そう思っお、なんずか息をしおいる。それがどこなのかはたるでわからないけれど、わからなくお良いず思う。䞀番怖いのは、僕なんおものが最初から無いずいうオチだから。
     ツツゞは来幎も咲く。来幎も枯れる。来幎も萜ちる。来幎も腐る。
     ツツゞは去幎も咲いた。去幎も枯れた。去幎も萜ちた。去幎も腐った。
     䞍思議だけれど、今幎のツツゞが枯れる頃になっおようやく、僕は去幎のツツゞが咲いたこずを知った。去幎もそこに確かにあったのだなず思っお、それを認めた。
     きっず、その蜜は甘かったのだろうね。吞えば良かった。今幎の蜜も、吞っおみればよかった。ああ、南無阿匥陀仏、南無阿匥陀仏、南無阿匥陀仏、南無阿匥  

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