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銖なし地蔵 第章完結

    第章 芋えない人たちぞ

    翌日の午前䞭から、連絡が届き始めた。

     奉玍の倜は、䜕も起きなかった。めぐみの事務所で䞉人が埅っおいたが、連絡は来なかった。朔は䜕も蚀わなかった。鈎音も䜕も蚀わなかった。ただ、倜が明けた。

     倱螪者の家族から、めぐみのもずぞ。「気づいたら家にいた」ずいう報告が、䞀件たた䞀件ず入っおきた。䞃件党員が、その日のうちに揃った。䜓に異垞はない。ただ、倱螪䞭の蚘憶がない。

     鈎音はその報告を聞きながら、䞀件ず぀確認した。䞃名。党員。

     蚌拠ず論理で動く人間だ、ず自分では思っおいる。でも今、䞃件目の報告を聞いたずき、鈎音の目に涙が浮かんだ。なぜ泣きそうになるのか、自分でも分からなかった。ただ、戻っおきた、ずいう事実だけが、胞の䞭に静かに萜ちおきた。

     枉からも家族を通じお連絡が来た。

     短いメッセヌゞだった。戻っおきたした。䌚えたすか。

     翌日、鈎音ず朔で枉に䌚いに行った。

     枉は自分のアパヌトにいた。枉が写真を芋お、カメラが起動しお、声が聞こえた倜の郚屋だ。今は普通の郚屋に芋えた。ただの六畳䞀間。

     扉を開けた枉は、思っおいたより普通だった。少し痩せたかもしれない。目の䞋に隈がある。でも立っおいるし、話せるし、笑おうずしおいる。困惑しおいお、少し怖がっおいお、それでも笑おうずしおいる。そういう人間だ、ず資料から分かっおいた。実際もそうだった。

    「すみたせん、よく分からなくお。」枉は蚀った。枉を加えた䞉人でテヌブルを囲んで、枉はコヌヒヌを䞡手で持っおいた。「どこにいたのか、䜕をしおたのか、党然芚えおなくお。」

    「無理に思い出さなくおいいです。」鈎音は蚀った。

    「でも——。」枉は少し遠い目をした。「すごく長い倢を芋おた気がするんですよ。寝おたわけじゃないのに。」

    「どんな倢ですか。」

    「知らない人たちがいっぱいいる倢。」枉はゆっくり蚀った。「みんな静かで、ただそこにいる感じで。䜕もしおないんですけど。怖くはなかったんです。ただ——」枉は少し考えた。「長かった。すごく長い時間、そこにいた気がしお。」

     鈎音はノヌトを開いお、曞き留めた。

     『知らない人たちが、いっぱいいる倢。みんな静かで、ただそこにいる』

     ”ネノカタさん”の子䟛たちず、同じだ。あの砂堎で、蓮たちが聞き続けおいた声ず——同じ堎所に、枉はいたのかもしれない。堎所は違う。でも、同じ堎所に。道が違っおも、行き着く堎所は同じなのか。

     それずもあの堎所は、道ずは関係なく——どこにでもある堎所なのか。

    「他に芚えおいるこずは」鈎音は聞いた。

    「んヌ  。」枉は銖を傟けた。「なんか、ずっず誰かに芋られおる感じはしおた気がしたす。でも怖くなかった。芋おる、っおいうか——気にかけおる、みたいな感じで。」枉はそこで少し笑った。「なんか倉な蚀い方ですね。」

    「倉じゃないです。」鈎音は蚀った。

    「あの、地蔵の写真なんですけど。」枉が蚀った。「消した方がいいですか。」

    「消せ。」朔が蚀った。

    「  はい。」枉は玠盎に頷いた。それから少し間を眮いお、「なんで消した方がいいのか、聞いおもいいですか」ず蚀った。

    「消した方がいい、それだけだ。」朔は蚀った。

     枉はしばらくそれを聞いおいたが、「分かりたした」ず蚀っおスマヌトフォンを取り出した。少しの間操䜜しお、「消したした」ず蚀った。それから、少し躊躇っおから、続けた。「チャンネルも、䞀回止めた方がいいですか。」

    「それはおたえが決めるこずだ。」朔は蚀った。「ただ——同じ堎所には、もう行くな。」

    「  行きたせん。」枉は頷いた。「なんか、もういいかなっお気がしおたす。心霊系。」少し間を眮いおから、「面癜いものは他にもあるんで」ず蚀った。笑おうずしおいたが、少し目が赀かった。

     倕方近くの光が、暪から差し蟌んでいた。十䞀月の終わりの光で、角床が䜎くお、圱が長い。枉のアパヌトを出おから、二人ずも黙っおいた。

    「䜕を枡したんですか。」鈎音は蚀った。

    「忘れた。」

    「本圓に忘れたんですか。」

     朔はしばらく黙った。「  分からない。忘れた気がする。でも、䜕かがなくなった気もする。どちらか区別できない。」

     鈎音はそれ以䞊聞かなかった。

     聞いおも答えは出ない、ず思ったからではなかった。聞かない方がいい、ず思ったからでもなかった。ただ——朔が枡したものが䜕だったずしおも、それはもう朔のものではない。そういうこずだず思ったからだ。

     朔は䞃人を戻した。

     それは事実。蚌拠も論理も芁らない、事実だ。鈎音はそう思った。自分がそう思っおいるこずに、少しだけ驚いた。民俗孊者ずしお、蚌拠なしに䜕かを「事実だ」ず蚀うのは——本来ならあっおはならない。でも今は、それでいいず思った。

     圱が長く䌞びおいた。鈎音の圱ず、朔の圱が、䞊んで道に萜ちおいた。


     䞉日埌、めぐみの事務所に䞉人が揃った。

     い぀もの雑然ずした䞀宀。本棚の民俗資料ず週刊誌。食べかけのクッキヌ。お茶の匂い。䜕も倉わっおいない。鈎音はその䜕も倉わっおいない感じが、今日は少しだけ、ありがたかった。

     めぐみがお茶を配りながら、さりげなく蚀った。

    「次の案件があるんだけど。」

     鈎音はお茶を受け取りながら心の䞭で぀ぶやいた。
     次から次に 勘匁しおや 。

    「SNSで拡散しおる動画があっおね。ある音楜を聎いお寝るず、党員が同じ倢を芋るらしいの。」

     朔が目を茝かせた。

     鈎音はため息を぀いた。「  たた倱螪者ですか。」

    「今のずころはね。」めぐみは穏やかに蚀った。

    「今のずころ、ずいう蚀い方が既に䞍安です。」

    「毎回こんなもんよ。」

    「毎回こんなもんじゃないです。」

     めぐみが笑った。朔が少し笑った。鈎音も、少しだけ笑った。

     窓の倖、十䞀月の空が広がっおいた。


    ヌ 了 ヌ


    フィクションです。登堎する人物、団䜓、名称、地名などは架空のものであり、実圚の人物や既存の組織、事本䜜は件などずは䞀切関係ありたせん。

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    長野・安曇野垂圚䜏。 郜垂䌝説やオカルト陰謀論、UMA、宇宙人、土着信仰などからむンスパむアされたミステリヌ、ホラヌ系が奜きです。 ふず思い立っおAI掻甚しお自分でも曞いおみようず執筆䞭。

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