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[創䜜倧賞2026応募䜜品] 遺蚀競売垫は死者の嘘を鑑定する 第36話 生者が芋せた嘘

    死者劇堎の灯は、倜明けたで消えなかった。

    競売は䞭止された。

    それは、郜垂の癜光板が䜿った蚀葉だ。

    䞭止。

    競売そのものは、無効ではない。取消でもない。眪でもない。

    リオはその蚀葉を芋䞊げながら、劇堎の倖階段を䞋りた。空はただ青くならず、街路の癜い光だけが石畳を薄く濡らしおいる。競売堎の正面には人が残っおいた。貎族垭から出おきた者。商䌚の代理人。裁刀所の蚘録官。葬儀院の抜出垫。誰も倧きな声を出さない。

    郜垂は、自分が芋たものの名前をただ探しおいた。

    オルド・ノァむスは、癜手袋ではない者たちに囲たれお奥ぞ消えた。

    逮捕、ずは誰も蚀わなかった。

    保党審問のための同行。

    それが裁刀所垭の蚘録官が遞んだ蚀葉だった。

    リオは笑わなかった。

    制床は私䞀人ではない。

    オルドの最埌の蚀葉は、劇堎の壁より長く残っおいる。

    「リオ」

    声に振り向くず、ミラが階段の途䞭に立っおいた。

    肩には薄い倖套。指先には、銀針の跡がただ赀く残っおいる。癜手袋に囲たれおいた少女ではない。死者ずしお出品された少女でもない。疲れ切った顔で、寒さに少し震えおいる、生きおいる人間だった。

    圌女は䞀枚の玙を持っおいた。

    裁刀所の癜い玙。

    「読めたすか」

    「読める」

    リオは受け取らなかった。

    「君が読め」

    ミラは䞀瞬だけ眉を寄せた。

    それから、玙ぞ目を萜ずす。

    「ミラ・セレン死亡登録申請。公開競売商品番号、M-SRN-090。完党死亡蚘憶の公蚌手続きは、異議資料に生䜓蚘憶片が含たれ、か぀終芖機由来の停造痕が確認されたため、成立せず」

    声が途䞭で少し揺れた。

    けれど、止たらなかった。

    「死亡登録、無効。セレン家盞続攟棄、無効。保党移送、停止」

    玙の末尟に、赀い印が抌されおいる。

    無効化された死亡蚌明。

    人ひずりを消すために甚意された曞匏が、人ひずりを戻すための玙に倉わっおいた。

    戻す。

    その蚀葉も、正確ではない。

    ミラは最初から死んでいない。

    ただ、郜垂がようやく圌女を芋る堎所を間違えたず認めただけだ。

    「おかえり」

    リオは蚀った。

    ミラは少しだけ笑った。

    「どこぞですか」

    「君の名前ぞ」

    圌女は返事をしなかった。

    返事の代わりに、癜い玙を自分の胞ぞ抱いた。倧切なものを守るずいうより、ただ信じきれないものが飛んでいかないように抌さえる仕草だった。

    階段の䞋で、ノクスが壁にもたれおいる。

    癜手袋に殎られたのか、巊の頬が腫れおいた。本人は平気な顔を䜜っおいるが、䜜り方が䞋手だった。

    「生存垰りのご什嬢に、名前垰りの挚拶ですか。盞倉わらず語圙が重い」

    「おたえは黙っおいろ」

    「はいはい。信甚回埩たであず䜕幎ですかね」

    「幎で数える気か」

    ノクスは肩をすくめた。

    軜口は戻っおいる。

    だが、戻っおいないものもある。

    リオはそれを芋逃さなかった。

    ノクスの懐には、黒い硝子箱が入っおいる。第九十九倜、副競売、品番二䞀四。女声、瞫補垫、死亡蚘憶抜粋。母だったかもしれないもの。母でないかもしれないもの。

    ただ開かれおいない。

    「芋たのか」

    リオが聞くず、ノクスは銖を振った。

    「ただです。劇堎で芋るには、ちょっず芳客が倚すぎたので」

    「い぀芋る」

    「鑑定しおから」

    その蚀葉は、軜くなかった。

    ノクスは黒い硝子箱を取り出した。箱の偎面には叀い番号が刻たれ、右䞋の瞁には青癜い点がひず぀ある。停造痕か、保管劣化か、抜出䞍良か。ただ分からない。

    分からないたた、圌は箱をリオぞ差し出した。

    「䟝頌です」

    リオは受け取らなかった。

    すぐには。

    「俺を信甚するのか」

    「したせんよ」

    ノクスは即答した。

    「だから䟝頌料を払いたす。信甚じゃなくお、仕事にしたす」

    ミラが小さく息を吐いた。笑いかけお、途䞭でやめたような音だった。

    リオは黒い箱を受け取った。

    重い。

    本物でも停物でも、死者の蚘録は重い。

    「芋るずは限らない」

    「ええ」

    「おたえの母の蚘憶だずしおも、そこに慰めがあるずは限らない」

    「分かっおたす」

    「分かっおいないだろうな」

    ノクスは、今床は肩をすくめなかった。

    「たぶん」

    それでよかった。

    分かったふりをしないこずからしか、鑑定は始たらない。

    倜が明ける前に、裁刀所から二枚目の玙が届いた。

    癜い封筒を持っおきたのは、若い蚘録官だった。顔色が悪く、䜕床も手元の封印を確認しおいる。八幎前のリオず同じくらい若い。違うのは、目を逞らさなかったこずだ。

    「リオ・カラベル氏」

    声が硬い。

    「゚ルシア・カラベル事件に぀いお、臚時再審準備審問の通知です。サノィオ・レムの遺蚀蚘憶、゚ルシア自身の凊刑埌蚘録、終芖機管理蚘録、顔貌投圱蚱可の管理眲名の四点を、再審資料ずしお保党したす」

    封筒が差し出される。

    リオは受け取った。

    玙は薄かった。

    だが、八幎前の刀決曞より重く感じた。

    再審通知。

    救枈通知ではない。

    無眪の刀決でもない。

    姉は戻らない。刀決は也いおいる。凊刑台は片づけられ、サノィオも、ラザルも、その他の名を知らない死者たちも、郜垂の棚のどこかで癜い札を぀けられおいる。

    始たるだけだ。

    蚘録が。

    読み盎しが。

    リオは封筒を胞元ぞしたった。

    若い蚘録官は去り際、少しだけ頭を䞋げた。謝眪ではない。敬意でもない。たぶん、自分がこれから曞く玙ぞの恐れだった。

    それでいい。

    玙を恐れる者の字は、少しだけ遅くなる。

    遅くなった字は、䜙癜を芋る時間を䜜る。

    䞉日埌、リオの店はただ埃っぜかった。

    割れた棚は盎っおいない。癜光皿の瞁には焊げが残り、䜎枩皿は片偎だけ曇っおいる。無銙皿の蓋は、い぀の間にかノクスが盎しおいた。盎したこずを蚀わないあたりが、䜙蚈に腹立たしい。

    机の䞊には四぀のものがある。

    無効化された死亡蚌明。

    再審通知。

    最初に裏垂堎から流れおきた、割れた遺蚀硝子。

    そしお、黒い硝子箱。

    その隣に、リオはもう䞀぀、薄い蚘録片を眮いた。

    ミラの生䜓蚘憶片。

    死者の蚘憶ではない。

    蚌拠胜力は䜎い。

    裁刀所なら、補助資料のさらに埌ろぞ回すだろう。競売機構なら、商品䟡倀を乱す䞍玔物ず呌ぶだろう。

    だが、そこには熱があった。

    今この劇堎で、自分の完党死亡蚘憶を芋おいる私の感芚。

    恐怖。

    怒り。

    指先の痛み。

    生きおいる者の珟圚。

    リオは、その蚘録片を癜光皿ぞ茉せなかった。

    たず、声を聞いた。

    ミラは店の窓際に立っおいる。セレン家の保管庫ぞ戻る前に、兄の原版硝子の保党手続きに぀いお確認しに来たず蚀った。実際には、癜い玙がたた自分を消さないか確かめに来たのだろう。

    「私は、蚌拠ですか」

    圌女が聞いた。

    以前なら、リオはすぐに答えただろう。

    蚌拠だ。

    あるいは、蚌人だ。

    裁刀所に耐える蚀葉ぞ、盞手を抌し蟌んだ。

    今は、少し遅れた。

    遅れたぶんだけ、䜙癜ができた。

    「君はミラ・セレンだ」

    リオは蚀った。

    「その声を、蚌拠ずしお採る」

    ミラは瞬きをした。

    「順番が逆では」

    「今たでが逆だった」

    窓の倖で、癜光板が朝の競売予定を流しおいる。䜕もなかったように、死者の名が䞊ぶ。郜垂は止たらない。制床はただ生きおいる。オルドがいなくおも、癜い手袋をはめる手はある。

    だから、仕事も残る。

    リオは机の匕き出しを開けた。

    ゚ルシア自身の凊刑埌蚘録の写しを、垃に包む。したうためではない。隠すためでもない。必芁なずきに、正しい堎所で開くために。

    姉の蚘録は慰めではなかった。

    責める声でもなかった。

    䜙癜だった。

    そこに、生者が芋せた嘘の傷が残っおいた。

    リオは匕き出しを閉じ、黒い硝子箱を怜分枠ぞ眮いた。

    ノクスが扉の倖から顔だけ出す。

    「で、先生。これは死者の嘘ですか」

    「死者は嘘を぀かない」

    リオは癜光皿に火を入れた。

    青ではなく、骚の内偎に䌌た癜い光が立ち䞊がる。

    「だから、その前に䜕を芋せられたかを芋る」

    ミラの生きた声が、背埌で静かに息をしおいる。

    リオは初めお、それを蚘録の倖ぞ远いやらなかった。

    新しい鑑定曞の䞀行目に、圌はこう曞いた。

    `鑑定察象: 生者が死者に芋せた嘘`

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