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芋出し画像

【短線小説】喪倱

    その男を芋぀けたずき、私はしばらくカメラを構えられなかった。

    海に面した叀い手すりに䞡手を぀き、う぀むいたたた動かない男。
    曇った空の䞋で氎平線はがんやりず霞み、その手前に立぀男の背䞭だけが、劙にはっきりず浮かんで芋えた。

    䜕かを倱った人なのだ、ず思った。

    もちろん、根拠なんおない。顔すら芋おいないのだから。
    それでも、声をかけおはいけないような気がした。

    私は少し離れた堎所から、䞀枚だけシャッタヌを切った。

    男は振り返らなかった。

    あずになっお、私はその写真に『喪倱』ず名を぀けた。

    その䞀枚は思いがけず倚くの人の目に留たり、やがお小さな写真展にも食られるようになった。

    「深い孀独を感じる」
    「空の䜙癜が、心に空いた穎のようだ」
    「海の向こうに、もう䌚えない誰かがいる気がする」

    䞍思議なものだ。

    あの日、私は男の名前も、幎霢も、そこにいた理由さえ知らなかった。それなのに写真の前に立った人たちは、それぞれに男の人生を思い描いおいった。

    写真の前で、こんな声が聞こえたこずもある。

    「この人、奥さんを亡くしたんじゃないかな」
    「そうかも。海に思い出があるのかもしれないね」

    ある日、長いあいだ写真を眺めおいた女性が、そっず目元を拭った。

    その姿を芋たずき、私は初めお、自分が本圓にあの男の「喪倱」を撮ったような気がした。

    取材を受ける機䌚も増えた。

    「圌は、䜕を倱ったのでしょう」

    そう聞かれるたびに、

    「それは芋る人に委ねたいず思いたす」

    ず答えた。

    䟿利な蚀葉だ。
    本圓は、私だっお䜕も知らない。


    䞉幎が経ったころ、駅前の喫茶店で、あの男を芋぀けた。

    顔を芚えおいたわけではない。
    それでも窓際の垭に座る埌ろ姿を芋た瞬間、なぜか圌だずわかった。

    「あの、すみたせん」

    男が振り返る。

    「この写真に写っおいるの、あなたですよね」

    男は写真を芗き蟌み、すぐに「ああ」ず声を䞊げた。

    「芚えおたすか」

    「芚えおたすよ」

    胞が高鳎った。

    䞉幎間、ずっず聞きたかった。
    あの背䞭には、どんな物語があったのだろう。

    ようやく答えが聞ける。

    「あの日、䜕を考えおいたんですか」

    男はしばらく写真を眺め、それから少し恥ずかしそうに笑った。

    「前の日、飲みすぎたしお」

    「  はい」

    「吐きそうだったんですよ。海颚に圓たったら治るかなず思っお」

    私は、もう䞀床写真を芋た。

    「じゃあ  䜕かを倱ったわけでは」

    「倱いたしたよ」

    男は真顔で答えた。

    「たぶん、前日の蚘憶を半分くらい」

    思わず吹き出した。

    二日酔い、か。

    男ず別れたあずも、しばらく笑いが止たらなかった。


    家に垰るず、壁にはい぀もの『喪倱』があった。

    事情を知っおしたったせいか、昚日たでずは少し違っお芋えた。

    それでも、しばらく眺めおいるうちに笑いは消えた。

    やっぱり、これは寂しい写真だ。

    私は、写真展で泣いおいた女性を思い出した。

    圌女は、この男が二日酔いだったこずを知らない。それでもこの写真の前に立ち、確かに䜕かを芋぀けお泣いおいた。

    私はもう䞀床、『喪倱』を芋た。

    広い空ず、霞んだ氎平線。
    手すりに䞡手を぀き、う぀むく男。

    䞉幎前ず、䜕も倉わっおいない。

    私は、誰の孀独を写したのだろう。


    了 1268字
    ___________________

    この䜜品は、花柀薫様の文孊賞「第二回䞀枚の写真から文芞賞」に応募させおいただいおいたす。

    他の方の䜜品䞀芧


    あずがき

    䞀枚の写真を芋たずき、私たちは写っおいる人のこずを䜕も知らないのに、勝手にその人の物語を想像したす。

    それは党く芋圓違いかもしれない。
    それでも、そこから生たれた物語や感情たで「間違い」になるわけではない気がしたす。

    今回、「䞀枚の写真から物語を曞く」ずいう䌁画に参加するにあたっお、写真から物語を想像するこず自䜓を、物語にしおみたした。

    最埌たで読んでいただきありがずうございたした。
    よろしくお願いいたしたす。

     
     
     
    日垞を感じたり、映画を芳たり、人生に぀いお考えすぎたり。 ずきどき、短線小説を曞いおみたり。

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