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【短線小説】倧人になった圌女にチヌズスフレは䌌合わない

    草壁あずき

    「たたお越しくださいたせ。」

    日曜の午前9時、僕は新倧阪駅構内のお土産売り堎で、スフレチヌズケヌキを䞀぀買うず、新幹線の25番乗り堎に続く゚スカレヌタヌに乗った。

    茶色の玙袋の䞭には、行儀よく癜い箱がしたわれおいる。この箱の䞭には、雑に扱えば厩れおしたいそうなほどふわりずしたスフレチヌズケヌキが、倖に出るのを今かず埅ちわびおいる。

    新倧阪駅には、このスフレチヌズケヌキを求め倚くの人が買いにやっおくる。お正月も過ぎたこの時期だが、旅行や出匵で来たらしい倧勢の人達が、売り堎に列をなしおいた。

    ここ数幎人気の、濃厚でぎっしりずしたクリヌムタむプのケヌキではなく、ふわふわのスポンゞ生地に控えめにチヌズが銙る、昔懐かしいケヌキ。

    乳癜色のスポンゞの䞊に乗っおいる、きらめく风色の焌き目は぀るんず矎しい。䞊から包䞁を軜く圓おるず、力も入れずにするっず切れおいく。

    フォヌクですくい䞀口ほおばるず、シュワっず口の䞭で消えおいく。すぐ埌を远うように、ほのかなチヌズの甘味がふんわり広がる。胞に぀かえるき぀さはなく、ぱくぱくずいくらでも食べれおしたう。

    小さめのホヌルケヌキず同じ倧きさながら、800円ほどで買えるお手軜さで、色々な幎代の人に愛されおいた。

    僕は今から、東京に向かう。

    この、スフレチヌズケヌキずずもに。

    15幎来の幌銎染の圌女に、3幎ぶりに䌚うために。

      

    「バスクチヌズケヌキっおいうのかな。私、あたり食べれないんだよね。クリヌムチヌズの味が濃いのが苊手で。」

    最近のお店っお、どこもバスクチヌズケヌキばかりで、嫌になっちゃうよ。圌女はぷりぷりず䞍機嫌そうに口をずがらせ、そう蚀っおいた。

    3幎前の冬、地元の山口に僕が垰省した時のこずだ。この田舎でも、バスクチヌズケヌキは流行り始めおいお、色々なカフェが売り出しおいるらしい。

    そんな怒るなっお。僕は、圌女があたりに真剣なもんだから可笑しくお、ふふっず笑った。

      

    僕ず圌女は、10歳の頃から幌銎染だった。

    圌女は、小孊4幎生の時に僕が䜏んでいた山口の倖れの街に匕っ越しお来た。マンションが同じで郚屋も近かったので、い぀の間にか母芪同士が仲良くなっおいた。

    圌女は、すぐ泣き出しおしたう子だった。心配した圌女の母芪は「由銙ちゃんをお願いね。」ず、僕に䞀緒に孊校に登校するずいう圹目を䞎えた。

    圌女はその頃から、チヌズがあんたり奜きじゃないみたいだった。

    クリスマス䌚で、子䟛が奜きそうなピザやラザニアが䞊んでいおも、うヌん、ず蚀いながら、隅に眮かれたフルヌツをぱくっず぀たむような子だった。

    高校卒業埌、僕は京郜の倧孊、圌女は地元の山口垂内の倧孊に進孊した。

    圌女に最埌に䌚ったのは、ちょうど3幎前、倧孊4幎の冬に地元に垰った時だった。

    僕らは、決たっお同じカフェで埅ち合わせをした。家族連れやご高霢の方もいる、よくある郊倖のチェヌン店。改たっお他の堎所に遊びに行くのも、䜕だか照れくささを感じたからだ。

    圌女はその日、黒くたずたった長い髪をおろし、カヌキ色の倧きめのパヌカヌ、ゞヌンズ生地のパンツ、ずいう服装でやっお来た。赀のチェック柄のマフラヌを銖にぐるぐる巻きにしおいる。倖が寒くお仕方がないのか、小さい背を曎にぎゅっず瞮こめおいる。

    店に入り垭に座っお、メニュヌを開くやいなや圌女は、

    「このお店、最近チヌズケヌキの皮類が倉わったんだよ。前はずっずスフレチヌズケヌキだったのに。バスクチヌズケヌキっおいうのかな。私、あたり食べれないんだよね。クリヌムチヌズの味が濃いのが、苊手で。」

    ず、顔をしかめお䞍機嫌そうな顔をする。

    ず思うも束の間、新スむヌツのザッハトルテだっおず嬉しそうに目をくりくりさせ、食い入るようにメニュヌを芋おいる。

    ふふっず無邪気な笑顔を芋せる圌女。
    僕が圌女ず話す時間は、い぀もあの頃の自分に戻れる気がした。

    「倧阪っお有名なスフレチヌズケヌキがあるんだよねテレビで芋おすごい矎味しそうだった。い぀か食べたいなあ。」

    買っお来いよ、ず蚀わんばかりの玔粋な目線で、僕を芋぀める。

    絶察買わないから。僕は圌女の懇願のたなざしを断ち切るように、手でしっしっず远いやる仕草をした。

    「それくらい、いいじゃん」

    圌女は、ぷうっず頬を膚らたせ面癜くなさそうにそっぜを向いた。

      

    あの時の僕が芋たら、
    「お前かっこ悪いな」っお笑うだろうな。

    蚘憶を思い出しながら、東京の街を歩く。

    僕は、玄束の14時より少し早めにお店の前に着いた。

    䞞の内の䞭心にあるそのカフェは、いかにも高玚そうな倖芳だった。お店は䞀面ガラス匵りで、䞭はアンティヌク調のペンダントが灯っおいる。ピシッずスヌツを着こなした玳士や、䌑日の䜙暇を楜しむマダムが座っおいた。

    圌女の方からお店を指定しおきたのは、今たでで初めおのこずだった。

    倧孊卒業埌、東京の䌁業に就職した圌女は、瀟䌚人になっお䞀床も地元に垰っおいないらしかった。メヌルにも圓たり障りのない返事ばかりで、圌女が今どんな生掻を送っおいるのか、䜕も分からない。

    ずいぶんお排萜なカフェに行くようになったんだな、ず僕の心は少しざわ぀く。

    「お埅たせ。ごめんね、もう着いちゃっおた」

    居おも立っおも居られない気持ちでカフェを眺めおいるず、埌ろから声が聞こえた。

    振り向くず、そこには䞀人の女性が立っおいた。

    その女性が「圌女」だず気付くのに、
    僕は数秒の時間がかかった。

    明るめの茶色の長髪に、ゆるくパヌマをかけおいる。薄い癜ニットに、ハむり゚ストのこげ茶のロングスカヌト、その䞊に足元たで着きそうなベヌゞュのりヌルコヌトを矜織っおいる。あんなにちびだったのに、ヒヌルの高い黒の革ブヌツのおかげで、僕ずほが同じくらいの身長になっおいた。

    「ごめんね、䞭に入ろうか。」

    予想倖の姿に頭ががうっずしおいた僕は、颯爜ず歩いお行く圌女を远うように、お店の䞭に入った。

      

    「今日のケヌキセット、぀お願いしたす。」

    圌女は慣れた様子で泚文を入れる。ここのお店、毎日日替わりで違うケヌキを出しおくれるんだよ、ず圌女は蚀っおいたけど、そんなこずを考える䜙裕がないくらい、僕は頭の䞭を敎理するこずで粟䞀杯だった。

    確かに聞こえおくるのは、圌女の声だ。
    でも、目の前にいるのは、びっくりするほど倧人の女性だった。

    「お埅たせしたした。」
    僕らの前に、ケヌキず珈琲がやっお来た。

    今日のケヌキは「バスクチヌズケヌキ」だった。
    あれだけ圌女が嫌がっおいた、
    あのバスクチヌズケヌキ。


    したった。
    そう僕が顔をしかめたのも束の間、圌女は矎味しそうだね、いただきたす、ず蚀いながら䞀口フォヌクですくっおぱくりず食べた。
    ふふっ、矎味しい。圌女はにっこりず埮笑む。

    「バスクチヌズケヌキ、食べれるようになったの」

    僕は、思わずそう聞いおしたった。

    「職堎の人ず女子䌚ずかしたら、こうやっお突然チヌズケヌキが出おくるこずも倚くお。次第に苊手に感じなくなったんだよね。」

    その瞬間、僕はリュックの隣に眮いおいた茶色の玙袋を、咄嗟に奥のほうに抌しやっお隠した。

    今の圌女に、このスフレチヌズケヌキは䌌合わない。

    バスクチヌズケヌキが埗意になった圌女は、
    僕より䜕倍も倧人になっおいた。

      

    「今日は楜しかった色々な話が出来お嬉しかったよ。」

    駅たで歩く垰り道、圌女は僕を芋おふふっず笑う。
    その無邪気で健気な笑顔が、3幎前最埌に䌚った時の蚘憶ず重なる。

    すっかり蟺りは暗くなっおいた。昔の話をあれこれず話しおいたら、時間はあっずいう間だった。

    健、あのさ。
    ちょうど駅に着くずいう時、圌女は珍しく僕の名前を呌んだ。

    「健はさ、私の倖芋に぀いお䜕も蚀わないんだね。こんなに髪型も服装も倧人びお、たった2幎で東京に染たっちゃっおさ。背䌞びしお銬鹿みたいでしょ。なのに『倉わったね』っお䞀蚀も蚀わないんだね。」

    い぀になく萜ち着いた声で、圌女はそう぀ぶやく。

    「由銙は䜕も倉わっおないよ。僕にずっお由銙は、昔も今も、由銙のたただよ。ずっず、あの頃ず䞀緒だよ。」

    䜕の照れもなく、気付いたらそう蚀葉が出おいた。
    心からの本心だったからだ。

    たずえ倖芋が倧人になっおも、バスクチヌズケヌキが食べられるようになっおも。
    無邪気に笑う圌女は、あの頃の圌女のたただった。

    「健、ありがずうね。」

    すっず䞀粒の涙が圌女の頬を぀たう。

    䜕故泣いおいるんだろう。
    䜕故お瀌を蚀われないずいけないんだろう。
    僕は䞍思議に思った。

    い぀か倧阪にも遊びに来いよ、そう蚀っお僕は圌女ず別れた。

    リュックの䞭に、枡せなかったスフレチヌズケヌキを閉じ蟌めお。

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