
植物に熱湯を注ぐ女
青々としげった草花に沸騰したお湯を注いでいる。来る日も来る日も注いでいる。
次の日庭を見てみると、私が熱湯をかけた部分の草花だけ変色して枯れている。それを確認すると、私はまたお湯を沸かしては枯れていない草花にたっぷりとそれをかける。
悪魔の所業だ。きっと地獄に堕ちるんだろう。そういえばここ最近ずっと体調不良が続いていてなかなか治らない。植物たちの恨みなのかもしれない。
かくいう私も心が痛い。しなくていいならばこんなことはしたくない。私が熱湯を以て殺しているのは、どこからか種子が運ばれて芽吹いた雑草たちだ。大体の人は「草刈り」をしてそういう雑草を処分し庭をきれいに保つのだろう。それができないので、こうして強制的に枯らすという手段に出ている。
「草刈り」ができるだけ元気があった時代の私は、草を刈ることにこんなに罪悪感を覚えはしなかった。だって、彼らは刈り取られても青々として、自分が刈り取られたことにも気づいてなさそうだった。青々としているうちに袋にまとめられ捨てられていた。私はその後を知らない。言ってしまえばピンピンコロリ。まあ、自然に死んだわけではなく、人間に殺されてはいるんだけど。
熱湯をかけると草はじわじわと弱り、変色して土にへばりつく。その過程を眺め続けていると、なんとも言えない気持ち悪さがヘドロのように胸に溜まる。その気持ち悪さは、草に対してなのか自分に対してなのかはわからない。
人間に、「枯らす」という目的を持って熱湯をかけられる雑草。じわじわと自分をつくる細胞が死んでいく感触。「在る」と思っていたものが時間の経過と共に崩れ無くなる感覚。「雑草」なんて言われてても実際にはそれぞれ名前もある。これが人間なら、と思うと心底恐ろしい。ここにあるのが好ましくない、という理由で、自分より強大な力にじわじわとなぶり殺されていく。好きでここにいるわけではない奴らもいるかもしれないのに。
ついに吐き気をもよおし、考えすぎだ、とお湯の入ったヤカンを持ち立ち上がる。
雑草はまだ広範囲に生い茂る。まだ続く自分の殺戮行為の度に、よせばいいのに同じことを考えては吐きそうになっている。