
地球がちょっとだけ好きになる瞬間 旅行に行くと、私は急に地球人っぽくなる
普段はずっと、「ここ本当に自分の星なのかな」と思いながら生きているのに、旅行先のショッピングモールに入った瞬間だけ、びっくりするくらい生きる気力が出る。
特に爆買いしている時。
あの時だけは、「地球、悪くないかも」と思う。
もちろん、綺麗な景色を見るのも好きだ。
ホテルのふかふかのベッドも好き。
でも、私の心を一番回復させるのは、観光地じゃない。
ご当地スーパーである。
知らないお菓子。
変な色のジュース。
その土地限定の調味料。
パッケージだけでテンションが上がるインスタント麺。
旅行に行くと、なぜか財布のひもが壊れる。
「今しか買えないかもしれない」
その言葉を免罪符にして、私は次々とかごへ入れていく。
本当は今じゃなくても買えるかもしれない。
ネットにあるかもしれない。
冷静になればいらない物も多い。
でも旅行中の私は、冷静じゃない。
宇宙船の燃料が切れかけている生命体みたいに、「かわいい」「限定」「地域限定」「新作」の文字を吸収して生き延びている。
特に好きなのは、お土産コーナーの端っこにある、妙にダサいキーホルダー。
なぜ存在しているのかわからない、ご当地キャラクター。
絶妙に古いフォント。
ちょっとズレた色合い。
でも、その全部が愛おしい。
地球って、たまに変なセンスをしている。
そこがいい。
昔、旅行先で勢いのまま大量にお菓子を買ったことがある。
キャリーケースの半分がお菓子になった。
帰り道、荷物が重すぎて腕がちぎれそうだったのに、不思議と心は軽かった。
人間って、幸せになるために何か大きな成功が必要なんだと思っていた。
夢を叶えるとか、
ちゃんとした大人になるとか、
誰かに認められるとか。
でも実際は、旅行先で「限定のプリン味」を見つけて興奮している時の方が、よっぽど生きている感じがした。
たぶん私は、壮大な人生に向いていない。
その代わり、小さい「うれしい」を大量摂取して生きている。
しかも地球には、その「小さいうれしい」がやたら多い。
コンビニの新商品。
サービスエリアの変なお菓子。
駅のお土産屋の謎キャラ。
旅館の売店。
観光地限定ソフトクリーム。
地球人はすぐ限定にする。
でも、あれはたぶん優しさなんだと思う。
「ここまで来てくれてありがとう」
そう言われている気がする。
だから私は、また買ってしまう。
袋いっぱいのお菓子と、
使う予定のない雑貨と、
絶対あとで置き場所に困るぬいぐるみを抱えながら、満足そうにホテルへ戻る。
その瞬間だけは、地球で暮らすのも悪くないと思える。
人間関係とか、
ニュースとか、
将来の不安とか、
社会の空気とか。
そういうものは相変わらず苦手だけど、それでも旅行先の夜のコンビニは優しい。
明るすぎる照明の下に、見たことのないアイスが並んでいる。
それだけで、少し救われる。
もし宇宙に帰る日が来ても、私はきっと最後に地球のお菓子を大量に持って行くと思う。
たぶん宇宙船の荷物検査で止められる。
「これは何ですか?」
と聞かれて、
「期間限定のじゃがバター味です」
と真顔で答える未来が見える。
でも、それでいい。
地球には嫌なことも多いけど、爆買いの楽しさを作った功績はかなり大きい。
だから私は今日も、旅行サイトを見ながら思う。
次はどこの星……じゃなくて、どこの県へ行こうかな、と。