
キリング・ミー・ソフトリー【小説】65_いつもこの世は回るので
9月。血眼で天気予報と睨めっこした。
例の如く接近する台風(いい加減にしろと苛立つ)の進路が逸れるまたは去って、問題なく莉里さんと会えるか心配だ。
次の約束は今のところ、ない。
出来ればライブ以外で顔を合わせたいものだが大方、あれこれ理由を付け上手いこと身をかわされる。
即ち、胸の内に秘めたる思いの丈をぶつける機会は生憎フェス当日のみ、そういった意味でも大いに天気は重要だった。
どのタイミングで伝えるのが最適?
悩むにつれて〈Lily〉の曲調も影響される。
優しく誘い、掻き立てられ、膝を抱えた悲しげな雰囲気となったり情緒不安定、変化が生じては一向に纏まらずに何度も転がっていく。
考えようによっては彼女らしい。
自分達のバンドは結成から幾つか揉め事が起こった末に足並みを揃え、コピーバンド限定イベントに穴が空いたと淳の知り合いに呼び出されて来月初ライブを行なう。
南が専門学生で時間的に猶予がないのはもう分かりきっていた。彼は短い夏休みを終えて再び通学を始め、就職活動のガイダンスがあり将来を真剣に見据える大事な合間を縫ってでもドラムを叩き、娯楽に興じる。
主催側から前座にはなってしまうけれど、せっかくだから是非とも初期衝動の塊のようなコンセプトでお願いしたいとの注文が入った。満場一致で
「最初に合わせた曲を演ろう。」
と決め、明確な目標が定まれば驚く程に溺れる。
「あっくん、ライブやるんだ。行きたいなあ。」
「父さんは来ないで。」
照れ隠しでなく本音。客などたかが知れており無名の新参者に興味を示さないだろう。しかしギターは兎も角、久々に人前で歌う為に緊張して歌詞を飛ばす可能性が高かった。
ひたすら練習に取り組むうちは莉里さんについて綺麗さっぱり忘れられる。この姿勢が正しいのか、そんな苦悶は投げ捨てて結構。
ああすれば良かった、こうしたら良かった?
どうせ思い返すと失敗だらけ。