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「なんで台湾が好きなんですか?」

あ、来た。やばい。何て答えよう。この直球すぎる質問に、私はいつも口をもごもごさせてしまう。

「えっと、なんか雰囲気が好きなんですよねぇ」

おい。こんなの、何も答えていないに等しいじゃん。そんな自分の不甲斐なさに臍を噛む思いを何度もしてきた。

いつか、台湾に住んでみたい。
22歳だった私がそう思った確かなエネルギーがあったはずなのに、何がそう思わせてくれたのか。ずっと上手く言葉にできないでいた。




ワーホリで、8年ぶりに足を踏み入れた台湾。
桃園空港に着いてMRTに乗り、22時過ぎにホテルがある駅に着く。

移動の疲れもあって、大きな荷物とともに初めて降りる駅で彷徨うのはちょっと心細かった。

駅構内から続く地下道は人気が少なく、心なしか暗く感じるし、早く地上に出たい。

自然と早歩きになった。

ホテルに近い一番奥の出口を目指して無心で歩いていると、背後から私の左肩に伸びてきた誰かの手。

掴まれるような勢いで力強くボンボンと叩かれる。

ひえっ!

心の中で叫びながら戦闘モードで振り返ると、ひょろっと背の高い黒髪で色白な大学生くらいの男の子がいる。

い、いきなり何っ!?

彼は私のキャリーケースを指差しながら、早口で中国語をまくし立てた。


呆気に取られていると、そのまま風のように来た道を戻っていく。


その背中をぼんやり見つめながら、部分的に聞き取れた単語を頭の中でつなぎ合わせてみる。

どうやらこの先は階段しかなく、手前にエレベーターがあることを教えてくれたようだった。


お礼を言う間も与えられなかったけれど、胸にあった強張りが少し解けたのを感じる。


おかげで無事に地上に出る。真っ直ぐ200メートルほど歩くとホテルだけど、一つ先の歩道が工事中のようだった。


こんな荷物だと狭くて通れないかもしれない。
嫌な予感を抱えていると、作業員の男性と目が合う。ニコニコと私に近寄ってきた。

やっぱり戻って迂回しなきゃだめかな?
目と鼻の先にホテルあるのに……。

こぼれそうなため息をぐっと仕舞い、来た道を戻ろうと背を向けた瞬間。

大柄なその男性がキャリーケースをひょいっと肩に担ぎ出した。

えっ、推定30キロあるんですけど、ほぼ片手? すごっ。

私を置いて向こう岸に行ってしまったキャリーケース。一人でも狭いと感じる仮道を、急いで追いかけて慌ててお辞儀した。

今回は言えた。謝謝、と。
男性は「いいよ、いいよ。気を付けてね」と戻って行く。

なんだかこの場所が私を歓迎してくれている気がして、自然と胸が温かくなった。


台湾にいると、知らない人によく話しかけられる。



「日本人? こないだ日本に行ったよ。最近、日本人にはこの商品が人気だよ」
こちらが日本人だと分かると、カフェの店員さんが立て板に水のごとく日本の話をしてくれる。
後ろに行列が出来ていて若干気まずいときもあるけど。


あるときは、駅のホームで隣にいた貴婦人が私の腕を急に引っぱったと思えば、そのまま一緒に電車の中にいた。

「ギリギリだったけど乗れたわね!」
ぜんぜん乗るつもりなかった電車だけど、とびきりの笑顔で言われてしまうと、「は、はい。よかったです」としか言えない。

「え、日本人だったの! あなたが私の孫に似ていて、なんとなく腕を掴んじゃったのよ」とよく分からない理由を述べたあとも、車内で一方的なマシンガントークが続いた。



他人からどう思われるか。そんなフィルターを一切干渉させず、ただ自分が思ったままを行動に移す。

めちゃくちゃシンプルだけど、そんな台湾人の姿が私には眩しかった。心と体が一直線につながっているとはこういうことかもしれない。


一年も台湾にいると、自分を表現するいい意味での図太さが少しずつ身についていく。
伝えたいことは、いま伝える。
次、そのチャンスはないかもしれないから。

今この瞬間を大事にできる人に、実は世界は優しいのかもしれない。台湾で何度そう感じたことだろう。

こんなこと言ったら変に思われちゃうかも。かも、かも、かも……。常にそう考えながら生きていた私は、心で感じたことをそのまま表現するのが怖かったのだ。

自分の答えにやっと気づく。

ほんとうの私に戻れる場所。だから台湾が好きだ。


※サムネは、台湾で引いたおみくじ。
「回復天性」=生まれ持った自分を取り戻すの意。

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