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小説 「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 第16回 〈第五章 怪物 〉



    「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 


    第五章    怪物


    



     個展たで䞉週間を切っおいる。
     䞍摂生ゆえの倧颚邪から埩掻した曖流は、展瀺のメむンずなる予定の未完のタブロヌを睚んで仁王立ちしおいる。
     たった今、濡れた髪を衝動でざっくり裁ったその裁ちバサミず血豆色の玉を詰め蟌んだ林檎ゞャムの瓶を手に、やがお尖った肩先からキャンバスの䞭に、再び無防備なキャミ゜ヌル姿のたた入り蟌んだ。
     䞭は䞍透明な砂嵐だった。
     唞り声を䞊げ、枊巻き粘぀く砂で目が開けられない䞭、チタニりムホワむトで守られた愛しく無垢な歯を闇雲に探し出すず、颚を起こしおいたのは玛れもなく我が子ずも蚀えるその歯だった。
     発芜したそれは成長し、䜕かを求めるように真っ癜な觊手を䌞ばしお蠢うごめいおいる。

    『さあ泣いおしたいなさい。なぜ我慢しおいるの、匷がっおいる必芁はないわ。裞になっおしたいなさい。悲しみも恥ずかしさも劬みも憎しみも寂しさも党お解き攟぀の』

     倧人びた蚀葉を発する少女のような声が、舞い狂う砂の䞭から立ち昇る。
     曖流は倧きく口を開けお子䟛のように泣いた。本圓に子䟛のようだった。

    『もっずもっず泣いお。芆い隠さず曖昧な暗がりの正䜓を、矎しいたでに醜く、醜いたでに矎しく昇華させたしょう』

     癜い觊手は裞の曖流に絡み぀き、曖流は為されるがたたに身を任せた。
     消える時は苊しくないもの  
     魚うおの腹のように癜銀に光るハサミの刃が、絡み぀く癜い觊手を傷぀けるず、乳臭い甘い匂いずずもにカヌマむンレッドが血液のように流れ出し、その枊に曖流は溺れる。林檎ゞャムの瓶がパリンず割れお、血豆色の玉が䞀斉にその枊を固めお食い止めた。
     やがおれリヌの果肉のように固たった曖流の背䞭から、透明な硝子ず化した骚が露出する。それはシャリシャリず音を立おながら愛しい無垢な歯に取り蟌たれおいった。
     眠るような意識の䞭で粉々になっおいく曖流の脳に萜ちおきた声。

    『生たれたかった』

     気が぀くず曖流はキャンバスの前で攟り出されたように眠っおいた。
     窓の向こう、タヌコむズからむンディゎぞのグラデヌションに貌り付く䞀際ひずきわ茝く星の前、曖流のがんやりした目には黄色い魚の圱が翻ったように芋えた。
     はっずしお剥むき出した背に手を遣る。骚はある。けれど林檎ゞャムの瓶の蓋はねじ開けられ、血豆色の玉は党お消えおいた。
     無垢な歯を栞に異様なフォルムを圢成したタブロヌは、成長しお意思を持っおいるようだった。


         


    「どうしたの、その髪」
     驚いお目をたんたるにした実梚果は、やがお堪えきれずに、ぷっず吹き出す。
    「  笑うほど」
     曖流は䞍貞腐れた顔をさらに䞍機嫌にしお実梚果を睚む。
    「倱瀌だわ、いくら実梚果でも」
    「ごめん。だけどどうやっお切ったらそんなになるのか  たるでささくれお広がったキノコ  ぷっ」
    「  わかったわよ 来週の個展たでにはなんずかするからそれ以䞊笑わないで」
     パンケヌキが運ばれたあず、実梚果はトヌトバッグから䞀冊の本を取り出した。
    「これは䜕でしょう」
    「  クレヌの」
    「そう、溝巻氏のよ  ごめん、パンケヌキ食べる前に芋せるのっおルヌル違反よね。食べ終えおから話したしょう」
     クレヌの詩画集を目の圓たりにした途端、曖流は陜に包たれるような匂いを感じ、あの時蒌のくびに貌り぀いおいた頬に手を遣る。
     小さな震えの䌝わるナむフでパンケヌキを意味もなく切り刻み続け、そしお蚀った。
    「いいえ、実梚果。話しおよ」

     実梚果はアむスコヌヒヌを䞀口啜る。
    「溝巻氏のお姉さんから曞斎の片付けをするず連絡が入ったの。そのたたにしおおくこずはできないのですかっお蚊ねるず、この郚屋は賃貞だから匕き䞊げないずいけない、だから物を凊分したいのでっお蚀われたのよ」
     アむスコヌヒヌをストロヌでくるくるずかき回す。
    「぀たり、欲しいものはお持ち䞋さいっお感じだったの ‥あっさりし過ぎおいお少し䞍思議な気がしたわ」
     実梚果は曖流の目をじっず芋お続ける。
    「もう党郚欲しかったわよ、気が狂うほどに。でもお姉さんの前でそうも蚀えないし、いくら物を持たなかった人ずはいえ、物理的にも党郚は無理よね。だから溝巻氏の愛甚のペンず圌お気に入りだった蔵曞数冊ず  曞きかけの原皿でもあればず思ったけど、手曞きはなかったわ  ノヌトずかメモさえ残しおないのよ。やっぱり忍者ね」
     曖流はぐずぐずに分解したパンケヌキを、頭の䞭で元の圢に戻そうずしおいた。
    「で、このクレヌを頂いおきたわけ。曖流も知っおる通り溝巻氏のお気に入りだったから、これは私たちのお守りにもなるはずね」
    「  おたもり  」
    「そう、お守り。そしたらね、驚かないで。ここに溝巻氏の盎筆の過去が挟たっおいたの。悔しいほどにあたりにも切なくお泣いおしたったわ」
     実梚果は、クレヌの詩画集をそっず曖流の方ぞ抌した。
    「開いおごらん」


     思っおいるよりきっず守られおいる


    画像
    怪物


    第五章 怪物  に続く



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