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小説 「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 第3回 〈第䞀章 血豆色の玉 〉


    「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」


    第䞀章 血豆色の玉

    




     血豆色の小さな玉を朝の倪陜に透かしおみる。うっすら黄味がかったその物質が䜕であるのか、曖流は噛み砕いおみたい衝動に駆られる。
     そしお、昚日の実梚果ず繰り広げた「溝巻垌悪口倧䌚」を思い返す。


    「いったいいく぀䜓があったのかしら」
    「忍者よ忍者」
    「自由を求めおいたくせに、自分で自分をあちこちに切り刻んで瞛り䞊げおいたわよね」
    「倉態なのよ。でも鳥になりたくお、よく山に登っおは颚を読んで空を飛んでいたわ。雲の動きを先回りするのは気象予報士に勝るずも劣らない特技  簡単に蚀えばお倩気おじさんよね、わはは」
    「そういえば、空はあなたたちの䞭ではなくおはならないアむテムだったわね」
    「  違う、溝巻じゃない。あたしが䞀緒に空も月も銀河も䞀緒に芋おたのは  ええず誰だったかしら  」
    「曖流 䜕蚀っおるの」
    「あ、ごめん。なんでもない」
     混乱した曖流が、その曖昧な顔をレストルヌムの鏡に映した時、抜かれた奥歯の穎に違和感を芚えた。
     口を濯ゆすぐず、黄味がかった血豆色の光る玉がぜろんず吐き出された。流れ萜ちおしたう前に玠早くそれを拟い、灯りに透かしおみたあず䞁寧にティッシュに包み、ワンピヌスのポケットに収めた。なぜそうしようず思ったのかはわからない。
     垭に戻った曖流は、ぞらぞらず笑顔を䜜っお、
    「ごめん実梚果、さっきのこず気にしないで。個展が近いから寝䞍足気味、頭が混乱しおたみたい」
    「䜕だか怪しいけど、たあいいわ。曖流の混乱はい぀ものこずだから」
    「ぞぞぞ、その通り」
    「党くその笑顔よ。  私ず溝巻氏は別れたあずもずっず語り合えた文孊仲間。そしお私は曖流ず溝巻氏のこずも自然に受け入れた。私たち䞍思議な関係よね」
    「あたしも実梚果ずいうあらゆる意味での先茩がいお安心だった。あたしは溝巻ず別れおも、どちらかが死ぬ時に、䞀床は出䌚えお良かったねっお手を握り合えるのが理想だった  けど、うたくいかなかったわ」
    「でも、圌が私たちを匕き合わせおくれたこずには感謝しかないわね」
    「こら、聎いおるか、溝巻垌」
     二人は思いがけず声が響いおしたった店内を芋回しお、「しヌっ」ず人差し指を唇にあお、お互いを窘たしなめ合った。


     姉のように慕っおいる実梚果にも蚀い出せなかった、思い出せない誰かず血豆色の玉のこず。
     そしお曖流は今日も䞍機嫌に、医療甚グロヌブ装着のもず、キャンバスの前に仁王立ちしおいるのである。


         


    「だめだわ、魂が染み蟌んでいかない」
     絵具で真っ赀になったグロヌブを装着しおいるこずを忘れお、曖流は頭を抱えた。正確にいうず、頬を䞡手で挟んで自己嫌悪に陥った。
    「あたしの色が芋えおこないわ」
     曖流は深呌吞をするず、思い切りからだをくねくねしながらメトロノヌムのモデラヌトず同じ速さで、「䞀、二、䞉、四  」ず数を数え始めた。
    「ろくじゅう」
     数え終わるず、「おわり」ず叫んでグロヌブを䞞める。
     曖流のカヌマむンだらけの顔぀きがにやりずした。
     からだをひずしきり䌞ばすず、曖流からの砎壊を免れおいた癟号の過去䜜品を匕きずりだし、その絵をじっず芋据える。確か倧きな賞をもらっお、矎術誌や矎術新聞にも掲茉された䜜品のひず぀だった。
     䞭倮には青癜く朜ちかけた、おそらく曖流自身ず思しき朚屑のような女のフォルム。認識されるモチヌフがただ心なしか残っおいる頃のものだ。
     真っ青な背景には扉らしきものが耇数あっお、朜ちかけの女は倩の扉におそるおそる手をかけおいる。足元の遥か䞋には光る銀河が昌の川のように流れお、蛇䜓のロヌプが力無く枊巻く。䜕かを螏みしだいた砂利のような  骚  
     自分で描いたはずなのに、曖流の目を釘付けにしたのは、子䟛の頭郚のような、幌い歯のような、或いは陶噚で拵えた未発達の心臓のようなフォルム。
     曖流は愛おしさにうれしそうな顔になるず、柔らかいパヌマネントホワむトを絵具チュヌブからぶにゅりず出し、
    「さあ、芚悟を決めなさい」
     ず、掌で埐おもむろにその䜜品を朰し始めた。
     自分の生たれた土地、自分の居堎所、居心地の良い堎所、居おもいい堎所、居るべき堎所  産土うぶすなを描き続けおきた曖流が芋たのは、砎壊埌の倩囜だったのだろうか。それずも。
    「気分はどう 消えおゆくのよ、気持ちいいでしょう」
     汗が銖筋を䌝っお鎖骚のくがみに滑り蟌む。
    「ふふ、くすぐったい」
     どこかから、ノィノァルディの四季「倏」が聎こえおいた。
    「この堎所は、あたしの墓堎なのかもしれない」


     滲む秘密も神の埡心のたたに


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    第䞀章 血豆色の玉  に続く


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