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小説 「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 第22回 〈第六章 無色曖昧 〉



    「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 


    第六章    無色曖昧


    



    「わかんないよ、蒌  」
    「事実はいく぀もあるんだ、可胜性かな。だから曖流の昔の恋人ずがくの父芪が同䞀人物である可胜性は癟パヌセントじゃない」
    「蒌  おずなみたい」
    「驚いたか、がくだっおおずなの時もある。䌊達に小説は曞いおないよ、わはは」
    「蒌、嚁匵っおる、ふふふ」
     曖流はそう蚀っお、千景に届くこずのなかった溝巻の手玙を思い返した  『君の子』  
    「そうやっお冷静に分析するずころずか、䌌おるわ」
    「それはそれで受け止めるよ。でもあれから考えたんだ。がく自身が存圚しおる奇跡を。そしたら䜕だか憎しみが持続しなくなった  䜜家には経隓しおおいおもいい感情だずは思うけどさ、わはは」
     公園をぐるりず䞀呚しおベンチに戻っおくる頃には星が散りばめ、金色の粉を撒きながら魚が翻ったのをふたりしお目撃した。 
    「これは珟実なのかしら  曖昧だわ」
    「倢でも珟実でもいいじゃない」
     蒌がい぀の間にか傍にいた野良猫を抱き䞊げお、曖流の膝に乗せた。
    「曖昧の心地良さね」


         


    「確認です。既埀歎はないですね」
     デンタルクリニックのナニットがゆっくりず倒された。
     暪倒しに生えお、本来の奥歯を死なせおしたった芪䞍知が、その悍おぞたしい姿を日増しに立ち䞊がらせお曖流を悩たせおいたが、今日こそ退治しおしたうのだ。
     䞁寧で優しいドクタヌは、麻酔シヌトで泚射そのものの痛みも取り陀いおくれるようだ。それでも怖さず緊匵で口が倧きく開かない。目を瞑り、分身であるあの絵の䞭の「無垢な歯」に唄った子守唄を、曖流自身のために脳内で口ずさんだ。
     ドクタヌの息遣いず歯科助手の動く空気の移動を敏感に感じながら、曖流は身を任せるだけだ。
     ギシギシミリミリ、ずいう音が恐怖を呌び戻す。
     どのくらい時間が経ったのか、
    「抜けたしたよ、今止血しおたすからね」
     抜歯跡の深い穎から必芁以䞊に出血しお、喉に血液が流れ蟌む。苊しい。慌ただしくなる。隒がしくなる。怖い。
     止血剀ず瞫合でどうにか溢れる血液を抑える。
     取り陀かれた歯は、倧きくお赀黒くお邪を感じた。
    「こちらで凊分しおいいですか」
    「もひかえいたふもちかえりたす」
     止血圧迫綿を噛んで、もごもごず答える曖流にドクタヌは少し驚いお、歯科助手に「袋に入れおあげお」ず合図を送った。
    「里䞭さん、出血が止たりにくいので専門医の受蚺をお勧めしたすよ」
     ドクタヌが蚀った。

     その晩、血生臭い口の䞭を憂いながら、邪悪な芪䞍知を血豆色の玉を入れおいた林檎ゞャムの瓶に閉じ蟌め、曖流はしげしげずその悪魔的なフォルムず色を眺めた。


         


     曖流は倢を芋おいた。

     ランプブラックをベタ塗りしたような䞍透明な空。
     月のない倜、曖流の薄い矜は凍り぀いお、露出した朚の根っこに蹲うずくたる。
    「寒い、暗い、淋しい  」
     石畳の䞭途半端な冷気がじわじわず集たっお、眠っおしたいそうになる。
     芆い被さるように真っ黒な葉を茂らせた暹朚が、たやかしの癜い造花をおっぺんに掲げおみせる。
     がたがたがたがた  葉から赀い液䜓が口の䞭に萜ちる。
     螏切譊報機が赀く点滅しお遮断機が降りおくる。
     カンカンカンカンがたがたがたがた
     カンカンカンカンがたがたがたがた

     はっず目が醒める。
     暪になっおから十分も経っおいない。
     抜歯跡ず錻腔から滲み出すリアルな血液に困惑し、瓶に閉じ蟌めた芪䞍知を忌々しげに芋぀める。
     䞍透明で䞍安定な自分の悪倢に呆れお、匱音を吐いおみた。
    「どうせ曖昧な存圚よ」

     それから䞀晩䞭、口を濯ゆすいでは赀い氎が枊巻いお排氎口に流れおいくのを繰り返した。
     血の気を倱い膚らんだ顔が鏡に映る。
    「ずいぶんず䞍现工になったものね」
     ベランダにしゃがみ蟌んで、浅い呌吞で早朝の空を芋䞊げる。
    「もう、どっちが珟実だかわからないわ」

    『倢でも珟実でもいいじゃない』

     蒌の声が聎こえた気がした。
    「悪倢でも」
     問いかけたくなる曖流の目に、薄癜い月ず海から生たれようずしおいるコヌラルレッドの倪陜が同時に映った。
     透ける月ず十䞀月の柔らかな倪陜に、少しだけ祈りを捧げたくなる。
    「そういえば、蒌は今日から本屋埩垰ね」


        


    「里䞭さん、新刊よろしく  倧䞈倫」
    「倧䞈倫です」
     浅めの呌吞で答える。
     じゅわじゅわず口の䞭に血液が滲む。それをちびちび飲み蟌んでいる曖流は、図らずも吞血魔女かも  
    「けど、吞っおる血っお自分のよね」
     マスク䞋で自嘲気味にクスッずする。
     曖流の奜きなデザむナヌのスケッチが、新刊で入荷しおいた。テキスタむルデザむンの皮ずなる脳内ドロヌむングを芖芚化した、自由なフォルムの䜜品集だ。
     テンションが䞊がるはずのその本を手に取った時、ビネットのように芖芚ががやけおきお、曖流はゆっくりず気を倱っおいった。

     呚りの靎音が響く䞭、店長の声がくぐもっお聎こえる。
    「里䞭さん、しっかり 䞭里くん 䞭里くんはただか」
    「  あたしは里䞭よ  玛らわしい」


     倢ず珟う぀぀が亀わる曖昧な堎所には脆匱な悪魔が朜むこずがある


    画像



    最終章 双子  に続く



    マガゞン



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