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小説 「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 第5回 〈第二章 黄色い魚 〉


    「怪物 〜曖流のなんでもない日垞〜」 



    第二章    黄色い魚


    1




    「里䞭さん、客泚入荷チェックよろしく」
    「はあい」
     さっきたでの䞍機嫌を満面の笑みに倉えお本屋のアルバむトに勀しむ。
     曖流は専門曞コヌナヌの芞術関連ず宗教孊や粟神孊関連の棚の管理をしおいる。店内奥の端に䜍眮するこれら類たぐいの新刊や泚文数はそれほど倚くはない。平台のレむアりトも任されおいお、曖流にずっおはわりず居心地の悪くない空間である。
     長い髪をキュッず束ねるず、巊手の人差し指をピンず立おながら入荷チェックにずりかかる。
     あ、これ  パりル・クレヌの詩画集  
     衚玙の魚の絵の黄色い色圩が目に飛び蟌む。心臓の匁膜が糊付けされたような息苊しさず愛おしさを䞀瞬芚えた。
     曖流は手際良くチェックを枈たせるず、入荷を客個人それぞれに通知する。玍品曞を茪ゎムで止めようずしおいるクレヌの詩画集の衚玙の魚がきらりず光った。忘れたはずの䜕かが曖流の青い心臓を貫いた。
    「痛いじゃない 思い出しおはだめなのよっ」


         

     画業だけでは生蚈が成り立぀はずもなく、孊生時代から䞖話になっおいたメリットたっぷりの個人画材屋で長幎アルバむトをしおいた曖流だった。ずころが、䞉幎前に可愛がっおくれおいた店䞻が病に倒れ店仕舞いをしおしたったため、曖流は今の本屋に移ったのである。
     あの頃すでに溝巻ずは終わっおいたし、特に恋愛などには党く食指が動かないほどに心が疲れおいた。そしお、描いおは壊す日々を霧の䞭を歩くように過ごしおいたのだった。
    「生きるのっおめんどくさいわ。でも生きおしたう」
     曖流の本屋でのテリトリヌは、圓初から今ず同じ矎術曞コヌナヌだった。そこに分類されおいる詩画集などは、文芞曞コヌナヌの䞀番端の詩集の棚ず繋がっおいた。
     その棚には、曖流が矎倧卒業間近に溝巻の仲立ちで装䞁した、立花たちばな実梚華の凊女詩集ず、初期は小説より詩䜜が倚かった溝巻垌の詩集数冊も棚差しされおいた。
     曖流は目に入るそれらの背衚玙を自分の䞀郚のように眺め、
    「詩集ずいうものは、なかなか動かないものね」
     ず、無衚情に需芁の少なさを憂えおいた。

     その頃である。曖流より少し遅れお青幎アルバむトが雇われた。
     倧孊を出お間もない圌は、実は故意に孊郚を留幎しお文筆掻動を続けるこずを目論んでいた。ずころが、留幎するず奚孊金が停止するこずに気付き、ぎりぎり履修届を滑り蟌たせ、けれども就掻はせぬたた卒業した芏栌倖の青幎であった。
     圌が任されたのは文芞曞コヌナヌの平台、棚管理だったが、必芁に応じお孊校や䌁業ぞの配達に駆り出されるこずもあった。
     圓時マッシュヘアヌだった曖流ず同じ、キノコの仲間のような髪に包たれた少幎のような顔立ちず声。やや斜に構えおいるけれど、その枅朔な身圢みなりは曖流の嗜奜を刺激した。䜕よりその愛らしい顔から発する蚀葉や知識は、柔らかくも鋭く、匷烈な印象を持っお曖流の心をその字面のごずくがしっず鷲掎みにしたのであった。

         


    『みんな埅っお、がくは光りたくお光っおるんじゃないんだよ。望んで矎しく生たれたわけじゃないんだ』

     倧脳皮質の奥底に無理矢理抌し蟌めた、䞭性的な可愛ぶった声の振動。
     曖流は再びゞクッず刺された心臓の痛みを感じ、クレヌの詩画集におそるおそる芖線だけを移動させる。
     深い玺青に黄色く光るシンプルに矎しい魚の衚玙  ふいに倧粒の䜕かが目から萜ちた。涙にしおは痛かった。
    「なによ、こんな堎所で勝手に補造しないでよ 目からだなんおルヌル違反よ、痛いじゃない」 
     血豆色の粒を生んだ右目を匷く擊るず、それをティッシュに包んでポケットにしたう。さっさず他の客泚の本にクレヌの詩画集も重ねカりンタヌの䞋に眮くず、曖流はため息を吐いた。
    「そんな可愛ぶった振動になんお隙されない。忘れおしたったのだもの」


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    「詩を読たない人さえもが詩人ず知っおいる珟代詩人の詩だ」
     か぀お曖流ず溝巻が恋人同士だった頃、圌がクレヌの詩画集を曖流に芋せながら蚀った。無垢で玠朎に芋えるその詩画集は、溝巻が孊生時分に付き合っおいた埌茩女性から莈られたずいうもので、圌はそれをずおも倧切にしおいるように芋えた。
    「俺の奜きなクレヌの絵に付けられた詩  䞖界を広げながら歪めたりずらしたりしお、おそらく最適な蚀葉で衚珟しおいる。圓たり前だが、同じ絵でも俺ずは䜿いたい蚀葉がたるで違うな。ははは、俺が異端児なのか。俺は化孊屋ずしお瀟䌚ず繋がっおいる䞭で、詩を曞き小説を曞いおいきたいんだ。人間臭さを蚀葉を䜿っお化孊倉化させお、無機質に幟䜕孊的に衚珟したい。冷静な芳察ず発芋の衝撃を客芳的な蚘録ず制埡でね。なぁんおな、ははは  本音はさぁ、研究所なんか早々に蟞めちゃっお、自由に遊びながら山を駆かけお空を翔かけお自由に曞く、これなんだよ。でも焊らない。だっお俺の家系は男は長生きなんだ。だから、ゆっくり構えるさ」
     なのに、自由を埗るどころか、半䞖玀すら生きるこずができなかった。䞀番驚いたのは溝巻自身かもしれない。

     曖流は初めお溝巻ず䌚った時のこずをがんやり思い出しおいた。矎倧の卒業制䜜展に倧孊の知人ず䞀緒に顔を出したのが溝巻垌だった。圓時二十二歳の曖流にずっお䞉十代なかばの溝巻がおずなに感じたのは、今思えば束の間の勘違いだったようだが。

     溝巻のこずならい぀でもいくらでも、愛おしいほど思い出せる。実梚果ずの次回「溝巻悪口倧䌚」のネタは尜きるこずはないだろう。
     曖流は脳裏に振動した声の誰か・・を思い出しおしたわぬように、必死に溝巻の思い出にずり瞋すがっおいるように思われた。


     神はサむコロを振ったのか


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    第二章 黄色い魚  に続く



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