6月のタコ

この腕と足、たくましいでしょ。さわってみる?
*
6月、魚屋のおじさんはタコをよく連れてくる。
そのタコは水っぽいグレーのような地味な色で、
そして動いている。
ぎゅうー、と腕が大きな胴の下から伸びた、
と思ったら縮んで曲がって、
また別の足がぎゅうー、と伸びる。
くねくねと、ではない。
ぎゅうー、ぎゅうー、ぐぐぐぐぐっ、
きしむ音が聞こえるよう。
そんなタコと初めて出会った日、
動く物体を不思議な気持ちで眺めていると、
さわってごらん、とおじさん。
恐る恐る指先で触れてみたら、吸盤で吸い付いてきた。
あったかい!
その瞬間、周りが海に変わった。
海の息吹に触れた瞬間だった。
おじさんが、赤いネットから1匹ずつ出して、
暴れるタコと格闘しながら急所を突いて締める。
締められても動くのをやめない。
ぎゅうー、ぎゅうー、
同じポーズは二度となくてずっと見ている。
湿っぽい6月にタコが重なるのは、
このニュアンスのある色のせいだろうか。