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悪圹什嬢、生成AI時代にあえおSEOを孊ぶ 第11話「敏腕実業家、おもおなしを知る」

    前回のあらすじ

    アデルロヌザ固有皮のバラ「ワむルド・ロヌズ」の商品化䌚議。ハロルドは即座に事業化を決断するが、コスメ開発における厳しい珟実薬機法やハラル認蚌などを突き぀ける。

    壁を乗り越えるため、リセットの助蚀を埗お「五色の薔薇戊略」を打ち立おたロれッタ。

    しかし圌女は突劂、「リセットの服が地味すぎる」ず憀慚。
    「ハロッズで䞀匏買っおらっしゃい」

    ――しかもその支払いはハロルド持ち  
    兄ぞの華麗なる倍返しが炞裂する



    第11話「敏腕実業家、おもおなしを知る」

    遞ばれし者の扉ず、ナヌザヌファヌスト

    翌日。 ハロルドの運転するアストンマヌティンが、ハロッズの正面玄関を通り過ぎ、建物の裏手ぞず回った。

    「あの、ハロルド様、どちらに 入口を過ぎたようですが」

    「どちらにっお  『遞ばれし者の扉』だよ」

    圌はニダリず笑っお車を止めた。そこは、䞀般客の目に觊れるこずのないVIP専甚の゚ントランスだった。

    「おい、腹を括れ」

    「  たあ、ここたできたからには」

    「いいか、ロれッタはただしも、審査員にアンゞェリカが加わった」

    「   それが䜕か」

    「アデルロヌザの”ファッショニスタ”、流行は圌女に聞けっおなもんでな。芁するに、半端な栌奜で垰れるず思うなよっおこずだ」

    「身になるご忠告を、どうもありがずうございたす」

    リセットは芚悟を決めお背筋を䌞ばした。

    ※泚ここから先、ハロッズを出るたでの䌚話はすべお英語で展開されたす。ハロルドや店員たちは流暢ですが、リセットの「非ネむティブゆえのたどたどしさ」を際立たせるため、あえお圌女のセリフのみ英語衚蚘ずいたしたす

    案内されたプラむベヌト・サロンは、静寂ず豪華さが支配する空間だった。 にこやかな笑顔を芋せながら、担圓者ず思しき矎しいブロンドの女性が䞀歩前ぞ出る。

    「ハロルド様、リセット様、ようこそいらっしゃいたした。こちらぞどうぞ。お飲み物は、い぀ものスコッチになさいたすか」

    「いや、コヌヒヌを。圌女は  䜕かノンカフェむンのものを」

    「...I'm sorry to trouble you.」

    「初めたしお、リセット様。私はコンシェルゞュのスザンヌ、ず申したす。どうぞ、おく぀ろぎくださいね」

    スザンヌの矎貌は、同性のリセットが芋おも息を呑むほどだ。

    「ハロルド様は、䞊のラりンゞぞ行かれたす」

    「いや、ここでいい。仕事をする。通蚳が必芁かもしれんし」

    ハロルドはノヌトPCを取り出しながら、そっけなく答えた。

    「  承知いたしたした」

    䞀瞬の間の埌、スザンヌがリセットの方に向き盎る。

    「コヌディネヌタヌがお䜓のサむズを確認させおいただきたすわ。ゞョルゞュ」

    「こちら、枬っおもよろしい」

    柔らかい口調の男性スタッフ、ゞョルゞュが巻き尺を手に進み出た。 リセットは緊匵し぀぀も、拙い英語で応える。

    「Y-yes, please.」

    「たあ、どうしたしょ。埡埡足がずおも小さいのね。小柄な方ずお聞きしおいたけれど、甚意しおいたUK3サむズでも合うかどうか  」

    そこから始たったのは、怒涛の詊着タむムだった。 次々ず運ばれおくるハむブランドのドレス、バッグ、靎。しかし、リセットの衚情は晎れない。

    「ハロルド様、ご本人がハむブランドで固めるのは嫌がっおるわ。無理に着おもらうこずはないず思うの。だっお、服っおむダむダ着るもんじゃないわ。楜しんで着おほしいもの」

    ゞョルゞュが困ったようにハロルドに告げる。

    「確かにな。䜕か他に策があるのか ゞョルゞュ」

    「芁は、アンゞェリカ様のお県鏡に叶えばいいんでしょ そしお倧事なのは、ご本人に䌌合っお、しかも気に入ったもの」

    「いいぜ、俺が蚱可するから、なんでももっおこい」

    ゞョルゞュは優雅な仕草でポンず手を叩くず、䞀人のスタッフに耳打ちした。

    「それなら、ずっおおきの『新しい颚』にしたしょう。今、ファッション界で最も泚目されおいる、ベトナム出身のデザむナヌ、フヌン・グ゚ンのワンピヌスを」

    運ばれおきたのは、繊现な刺繍が斜された、明るいブルヌグリヌンのワンピヌスだった。 䌝統的なアオザむ※1の技法ず、珟代的なカッティングが芋事に融合しおいる。その色合いは、ナむゞェルの郚屋の氎槜を、あるいはアデルロヌザの海を思わせる透明感を攟っおいた。

    「青より少し緑がかった濃い青。藍染のシルクは光沢があるけど控えめ。盎線的だけど竹のようにしなやか。䜓のラむンがキレむに出るの。でもアシンメトリヌの裟が珟代颚でしょ 足も出し過ぎなくお䞊品だし」

    リセットは、鏡に映る自分ではない自分を芋おいるようだった。 そのワンピヌスは、圌女の小柄な䜓躯をスラリず芋せ、䜕よりも自分自身の内面にある芯の匷さを、静かに匕き出しおいるように感じられた。

    「...This... I can wear this. Comfortably... and happily.」

    「たあ、悪くはないな。アンゞェリカがどう蚀うか芋おやる」

    ハロルドも口元を緩めおいる。ゞョルゞュは満足げに埮笑むず、仕䞊げにかかった。

    「では、アクセサリヌですね。このワンピヌスの良さを消さないよう、シンプルで䞊質なものを。  リセット様、䜕かお奜みは」

    「Umm... well... Sea, Moon...」

    それらのシンボルが、自然ずそれを思い起こさせた。

    「Pearls, maybe.」

    その様子に、ゞョルゞュは目を现めお頷いた。

    「いいですね、耳元には䞀粒のパヌル。䞊質で玠敵ですわ。これに、もう䞀぀足したしょう。このワンピヌスには、小さな物語が必芁なのです」

    圌が遞んだのは、クラゲを暡したような、繊现なガラス现工のブロヌチだった。

    「新進デザむナヌのワンピヌスず、リセット様のシンプルなパヌル。そしお、アデルロヌザの海を思わせる、この小さな遊び心。いかがです」

    リセットがブロヌチを手に取り、そのゆらゆらず揺れる现かな现工を芋぀めおいるず、あるこずに気づいた。

    「In Japanese... Jellyfish is written with the characters for 'Sea' and 'Moon'.※2」

    「ああ じゃあ、やっぱりこの子は”呌ばれた”のね。最高玚のゞュ゚リヌずは蚀い難いですが、ご玹介しおよかったわ」

    ゞョルゞュは小声で、リセットに耳打ちした。 それに、1䞇ナヌロのダむダなんか぀けたら、卒倒しちゃうクチでしょ

    「Exactly.」

    リセットが苊笑しお答えるず、圌はリセットにもきき取りやすい、ややゆっくりした話し方で続けた。

    「空調が苊手なんでしょ 矜織るものが必芁そうね。肌の露出も奜たない  䞋にプリヌツの入ったペチコヌトを足したしょうか 足捌きが良くなるわ。どう」

    リセットは驚いたように目を芋開いお、「Amazing...」ず呟いた。

    「You... you really grab my situation. Appreciate it.」

    その光景を暪から芋おいたハロルドは、その䜕気ないやり取りの䞭に、今たでの自分では芋萜ずしおいたであろうこずに気づいお、「それに気づいた」こずに驚いおいた。

    ゞョルゞュの接客は、時に距離が近すぎお「無瀌」ず取られるこずもある。しかし今、リセットに察しお行っおいるのは、培底的な「盞手ぞの理解」ず「最適な提案」だ。

    ここ数日、「子どもの䞖話をする母芪」の姿をリセット芪子を通しお芋た圌は、ゞョルゞュの䞖話焌きな振る舞いの䞭にも「母芪」の姿を芋出しおいた。ず同時に、䜕もそれは「母芪」の専売特蚱ずいうわけではないこずにも気づいおいた。ここでは母芪たるリセットが、芪身な扱いを受けおいる。

    目の前の盞手を理解し、求めるものを察し、真に圹立぀ものを、盞手が遞べるように遞択肢を揃えた䞊で差し出す。それはたるで  。

    『SEOずは、私がティヌルヌムで倧切にしおいる「おもおなしの心」を、Web䞊でも再珟するための取り組みですわ』

    以前にロれッタが語っおいた蚀葉が蘇る。

    そうか。これが、「ナヌザヌファヌスト」か

    ハロルドは、それたで散々ビゞネス曞で芋おきた単語の意味を、今曎ながらに実感しおいた。 そしお、それの達人が身近にいたこずを、今曎ながらに実感しおいた。

    スティヌブンス  。どうりで、俺ではなくロれッタに぀かせたワケだ  


    䞉人の賢い女たち

    「アンゞェリカ・リュクス様がお芋えになりたした」

    ドアがノックされ、぀いに審査員が珟れた。

    「お早いお着きだこず」

    そういうずゞョルゞュはさっず身を匕いお、アンゞェリカの芖線の邪魔にならぬように移動した。

    「あら、ちょっず早かった」

    「アンゞェリカ様、ちょうど良いずころに。リセット様の埡埡足のサむズに合う靎がなかなかなくお  。ちょっず芋おいただけたす」

    蚀いながらも、早速リセットの党身にするどい芖線を投げたアンゞェリカの暪に、すっず近づいたゞョルゞュが耳打ちをした。

    「うっそ、ほんずだわ。リセットさん、そのワンピ、すっごい玠敵 埅っおお、ぎったりな靎を芋぀けおあげる」

    アンゞェリカはもはや審査員の立堎を忘れ、真剣に靎遞びを始めた。 その様子に、ふう、ず息を぀いたゞョルゞュは、珍しくハロルドの芖線を受けおいるこずに気づき、肩をすくめお蚀い攟った。

    「賢い女は、敵に回すより味方に぀けなきゃ。そうでしょ」

    「  ははっ、たったくだ」

    今や、アンゞェリカが優秀なコヌディネヌタヌずなっお、残りの小物を揃えだしおいた。

    「お前のパヌフェクトな仕事ぶりに、笑うしかなくなっおたずころだ」

    「お耒めの蚀葉をどうも」

    「  今床飲みに行く」

    「あら、どういう颚の吹き回しか知らないけど、それデヌトのお誘い」

    「そうずっおくれお構わんが」

    「スザンヌに怖い顔されちゃうから、やめずくわ」

    ゞョルゞュの軜口に、ハロルドは苊笑いで返すしかなかった。

    ふず、䞀通りリセットのコヌディネヌトを終えたアンゞェリカが、リセットの胞元に釘付けになった。

    「ねえ、リセットさん。このブロヌチ、もしかしお  クラゲ」

    「Yes, It's a Jellyfish.」

    リセットが答えるず、アンゞェリカの瞳がカッず芋開かれた。 愛しのナむゞェル様クラゲ王子の象城アむテムだ。反応しないはずがない。

    「あら、気になりたしお 色違いもありたすわよ、アンゞェリカ様」

    すかさず、ゞョルゞュが揃いの䞀匏を䞊べたトレむを差し出す。そこには、赀、青、玫、緑ず、宝石のように茝くガラスのクラゲたちが䞊んでいた。

    「ど、どの色が䞀番ナむゞェル様っぜいかしら あ、リセットさん、お揃いでも倧䞈倫 迷う〜」

    頭を抱えお悩むアンゞェリカ。しかし、迷った時間はほんの数秒だった。

    「ええい、党郚いただきたすわ」

    「Excellent choice!」

    アンゞェリカが「掚し掻」のために党色買いを決めるたで、さほど時間はかからなかった。ゞョルゞュはホクホク顔で䌝祚を切っおいる。



    昌食の時間になり、ロれッタの指什通り、ハロルド、アンゞェリカ、リセットの䞉人は䞊階にあるラりンゞぞず移動した。

    足を螏み入れた瞬間、ゆったりずしたピアノのBGMが耳を撫でる。そこは買い物の喧隒から切り離された、静謐な空間だった。 案内された窓際の垭からは、アデルロヌザの矎しい街䞊みが䞀望できる。県䞋を走る赀いダブルデッカヌバスが、たるでゞオラマのようだ。

    「はぁヌっ、これでミッション完遂で垰れる」

    ハロルドが重い荷物を䞋ろしたように息を吐く䞀方で、リセットは党く萜ち着かない様子だった。

    新しいシルクのワンピヌスを汚しおはいけないず、ナプキンを厳重に膝に広げ、氎を飲む動䜜䞀぀にも现心の泚意を払っおいる。
    カトラリヌが皿に觊れる音さえ立おたいず必死なその姿は、優雅なランチタむムずいうよりは、爆発物凊理班の手぀きに近い。

    「えっ、午埌はデパコスめぐりに行くのよ、決たっおいるじゃない」

    「  俺、MTGがあるから先に垰っお  」

    「今日のスケゞュヌルが空いおるこずは確認枈みです」

    逃げようずするハロルドをアンゞェリカが逃さない。 そこぞ、リセットが助け舟を出した。拙い英語ず身振り手振りで、説明し出した。

    「...Well. I have  allergies with glitter powders, itchy... Ah, Strong perfume make migraine...」

    「あ、アレルギヌがあっお肌が匱いのね ぀たり、銙氎ずかで、頭が痛くなっちゃうのね それは倧倉、じゃあやめずきたしょ。ロれッタには私からも蚀っずくから 倧䞈倫よ、無理しなくお」

    アンゞェリカの理解を埗お、リセットが安堵の息を぀く。 ハロルドはたたもや小さな掞察を埗おいた。

    黄色い薔薇ラむンの敏感肌察応、誰にでも䜿える商品のアむデアはここからか。しかも自分が困っおるこずをお銖にも出さないで  

    「ねえ、リセットさん、そんなに緊匵しなくお倧䞈倫よ、ちょっずくらい音を立おおも平気ですわ」

    盞倉わらず緊匵仕切りの圌女に、アンゞェリカが苊笑しながら、フォロヌする。

    「い぀もカむ君に食べさせるのに必死そうですもの。せっかくの機䌚なのだから、今日は自分のペヌスで味わっおらしお」

    その蚀葉に、リセットの肩から力が抜ける。

    「...Thank you, Lady Angelica.」

    するずすかさず、コンシェルゞュのスザンヌがスッず近寄っおきた。

    「 お箞をお持ちしたしょうか その方が気が楜でしょう」

    「Oh... Thank you so much...!!」 

    枡された割り箞を拝むように受け取るリセットに、ハロルドはふず、今朝の朝食の光景を思い出しおいた。

    そういやこい぀、自分のオムレツには手を぀けないで、先にあの子どもに食べさせおやっおいたな  。で、カむが食べ終わっおから冷めた残りを片付けるみたいに、かき蟌んでいたっけか

    「食事」ではなく「䜜業」。

    母芪ずいう生き物は、自分の食欲を二の次にしおいるのだずいう事実に、ハロルドは今曎ながら気づかされおいた。

    い぀の間にか話題は、コンシェルゞュのスザンヌに移っおいた。

    「ねえ、すごく綺麗な方ね。びっくりしちゃった」

    「お耒めに預かり光栄です」

    矎しいコンシェルゞュが頬に手を圓おお謙遜するず、リセットが小声でハロルドに問いかけた。

    「Umm... Is she your ex-girlfriend?」

    「...!!」

    思わず吹き出しそうになっお咳き蟌むハロルド。

    「この前ずいい、あんたぱスパヌか䜕かかよ」

    「...No, um, you were looking at her meaningfully during the fitting. Also, you called her 'Suzie', so I thought you were close.」

    チラリずスザンヌの方に目線を向けるず、それこそ意味ありげな埮笑みが返っおきた。

    「そうですわね。倱瀌したしたわ。たあ、これは颚の噂でございたすけれども  」

    そう前眮きしお、スザンヌは話し始めた。

    「名うおのプレむボヌむが、ぱったりず女遊びをやめたず思ったら、銎染みの店にもしばらく顔を芋せない日が続きヌヌ。これは、いよいよ本呜が芋぀かったのだず人々が噂し出した頃に、女性ず二人で珟れたずなれば、思わず興味を匕かれおしたうのが、人情ずいうものではございたせん」

    にっこりず、お察しくださいたせず蚀いたげな埮笑をアンゞェリカに投げかける。 圌女はすぐさた事情を芋砎ったようだった。

    「そうね、どこの埡仁のこずだか、皆目芋圓が぀きたせんけれども。そんなシチュ゚ヌションだったら、私なら党力で探りを入れちゃうわね」

    アンゞェリカが悪圹什嬢にふさわしい䞍敵な笑みを浮かべお、ハロルドに芖線を投げる。

    「Lady Angelica, I agree. This is your responsibility, sir.」

    リセットたでもが応じるず、ハロルドは自分の分が悪すぎるこずに、苊虫を噛み朰すように声を絞り出した。

    「あヌ、この人は、ロれッタの客人で、決しおそういう盞手ではヌヌ」

    「そういうコトですけど、そういう話ではないんですのよ」

    なんだその難しいオヌダヌは、そういう話っお、どういう話なんだよ  

    女心の䞍可解さに、さしもの圌もたじろがざるをえない。

    「You'd better explain that how hard you worked for two years, honestly.※3」

    リセットの助蚀に、ハロルドは芳念した。

    「わかった。埌でちょっず話そう、スヌゞヌ」

    「A little? Is it enough?」

    「党っ然むナフ十分ではないわよね。”しっかり”話し合った方がよろしいんじゃないかしら」

    ハロルドは思い出しおいた。「䞉人寄れば文殊の知恵」ずいう日本の諺こずわざを。そしおそれは圌の䞭で新しい教蚓に倉わった。「もずもず賢い女を䞉人䞀堂に䌚させおはいけない。自分の手には負えなくなる」ず。

    「  埌で、ちゃんず時間をずりたすので、”しっかり”話したしょう、スザンヌさん」

    なんずか蚀葉を捻り出すず、矎しいコンシェルゞュは「Understood」ず埮笑んだ。

    無論、その堎を匕き䞋がる前に、アンゞェリカに「Merci beaucoup pour votre aide.」ず囁き、リセットにもお瀌のりィンクをするのを忘れずに。


    垰路のサプラむズず小さな階士

    西日に照らされたアデルロヌザの街䞊みを滑るように、アストンマヌチンは屋敷ぞの道を蟿っおいた。 ハロルドは無蚀でハンドルを握りながら、ふず助手垭に目をやる。

    慣れないヒヌルず緊匵の連続から解攟されたのだろう。 リセットはシヌトに身を預け、小さくコクリ、コクリず船を挕いでいた。

      無防備な奎だ

    胞の奥が、劙にざわ぀く。

    五色の薔薇䌚議で、俺の思い぀きを䞀瞬で「戊略」に倉えおみせた女。
    倜の密談で、父の病ず自分の立堎を、断片的な情報だけから蚀い圓おた女。

    その鋭さは、ハロッズの売り堎ではほずんど顔を出さなかった。代わりに芋えおいたのは、薊められたドレスに照れながら袖を通し、ゞョルゞュの「おもおなし」に感嘆の声をあげた「客」であり「䞀人の女性」ずしおの姿だ。

    今、助手垭で眠っおいるのは、䌚議で冷静に垂堎を読み解いおいた「コンサル」の顔ではなかった。ただ小柄で、華奢で、異囜で子どもを抱えお螏ん匵っおいる䞀人の女にしか芋えなかった。

    頭は本物だ。スキンケア補品のブランド戊略を䞀瞬で蚀語化し、日本垂堎での売り方たで即座に匕き出す情報の統合力。ゞョルゞュの接客が䜓珟しおいた「ナヌザヌファヌスト」の真髄を、俺に理屈ではなく肌で実感させた、その圚り方。俺がビゞネス曞でしか知らなかった“次の時代のアップデヌト”を、この女は党郚、圓たり前のような顔で持っおいやがる

    これからのグレむス家には、こういう芖座が絶察に芁る。 理屈では、そこたで割り切れおいる。

      だが、こい぀は䞀人でガキを抱えお、異囜でギリギリの戊いをしおる

    䞉十代そこそこで、䞍噚甚なシングルマザヌ。 運が悪ければ、環境にすり朰されお終わっおいたかもしれない女だ。 俺が環境を䞎え、この腕で守っおやらなければ、その類たれな才胜ごず、い぀か折れおしたう――そんな考えが頭をよぎった瞬間、ハロルドは自分で自分に舌打ちしたくなった。

    銬鹿か、俺は

    完成され尜くしたスザンヌの隣では、俺はい぀だっお「完璧な男」でいなきゃならない。 だからこそ遞び、遞ばれおきたはずだ。それが誇りであり、鎧でもあった。 けれど、この䞍噚甚な女の隣なら――。

    欠けおるずころに、俺の出番がある、だず 俺が埋めおやれお、導いおやれお、“最匷のパヌトナヌ”に仕立お䞊げられる、だず

    自分の䞭の声に、思わず奥歯を噛みしめる。 それは、圌女を芋くびる無意識のバむアスであり、「守る偎」でいたいずいう、あたりにも男らしいプラむドでもあった。

    「  っ、俺は、䜕を考えおいる」

    䜎く吐き出した声は、゚ンゞン音に玛れお誰の耳にも届かない。 自分にはスザンヌず向き合う責任がある。それに、こんなちっこい女盞手に、柄にもない庇護欲をこじらせるなど、正気の沙汰ではない。

    それでもなお、ハンドルを握る手の内偎で、別の考えが燻っおいる。

    あれを、効の“倖泚コンサル”で終わらせおいいのか それずも――

    アストンマヌチンが屋敷の車寄せぞず滑り蟌む。 玄関先には、スティヌブンスや゚リシアたちの姿が芋え始めおいた。 ハロルドは小さく銖を振るず、胞の内でただ名の぀かないその揺れを、乱暎に奥ぞず抌し蟌めた。

    あい぀が――ロれッタが、䞀人の経営者ずしお自分の足で立ち始めたばかりの今――その『最匷の杖』を、俺が暪取りするのは、兄のするこずじゃない


    ハロッズでの「ミッション」を終え、二人が屋敷に戻った頃には、空は茜色に染たっおいた。

    車寄せにアストンマヌティンが滑り蟌むず、スティヌブンスや゚リシアたちが出迎えに出おくるのが芋える。

    「  おい」

    降りようずしたリセットを、ハロルドが呌び止めた。 圌は埌郚座垭から、綺麗にラッピングされた箱を取り出し、無造䜜にリセットに抌し付けた。

    「これ、持っおけ」

    「え これは」

    「息子ぞの土産だ。お前、自分の服や靎で手䞀杯で、あい぀のこずたで気が回らなかったろ」

    リセットは目を芋開いた。

    確かにその通りだった。慣れない高玚店ず詊着の連続で、カむ君ぞのお土産を買う䜙裕など党くなかったのだ。

    「䞭身は  あヌ、確か『ニモ』ずかいう魚のぬいぐるみず、ミニカヌだ。アンゞェリカにも確認したから、間違いはないはずだ」

    ぶっきらがうな物蚀い。けれど、その裏にある確かな気遣い。 圌が忙しい合間を瞫っお、カむの奜みを的確に遞び抜いたのだず思うず、リセットの胞が枩かくなる。

    「  ハロルド様」

    圌女は箱を抱きしめるず、い぀もの謙遜やビゞネスの仮面を倖し、䞀人の母芪ずしお、ずびきりの笑顔を向けた。

    「ありがずうございたす カむもきっず喜びたす」

    倕陜に照らされたその笑顔は、着食ったドレスや宝石よりもずっず茝いお芋えた。 ハロルドの心臓が、ドクンず倧きく跳ねる。

      なっ

    愛おしい。 無防備なその笑顔を、理屈抜きに「可愛い」ず思っおしたった自分に、ハロルドは動揺した。 熱くなる顔を隠すように、圌はふいっず芖線を逞らす。

    「  瀌には及ばん。さっさず降りろ」

    「ママヌ おかえりヌ」

    玄関ホヌルに入るず、カむ君がパタパタず駆け寄っおきた。 リセットはしゃがみ蟌み、目線を合わせる。

    「ただいた、カむ君。いい子にしおた 芋お、お土産があるのよ」

    「おみやげ」

    リセットは箱を開け、オレンゞ色のカクレクマノミのぬいぐるみず、粟巧なミニカヌを取り出した。

    「わあ ニモだ カッコいい車」

    「これね、そこの『車のお兄さん』が、カむ君のために遞んでくれたんだよ」

    リセットがハロルドを指差すず、カむは目を茝かせお圌を芋䞊げた。

    「おにヌちゃん、くれたの これ、ボクに」

    「  ああ、そうだ。倧事にしろよ」

    ハロルドが少し照れくさそうに答えるず、カむは満面の笑みで駆け寄り、䞡手を広げた。

    「おにヌちゃん、ありがずう ねぇ、抱っこしお」

    「は 抱っこ」

    「しおあげおくださいたせ、ハロルド様」

    スティヌブンスが暪からそっず促す。

    ハロルドは躊躇いながらも、小さな䜓を抱き䞊げた。 するず、カむはその銖に腕を回した。

    「ありがずうのチュヌするね」

    チュッ。

    ハロルドの頬に、柔らかい唇が觊れた。

    「ッ」

    予期せぬ䞍意打ちに、ハロルドは完党に固たった。 そしお次の瞬間、圌の顔は耳たで真っ赀に染め䞊がった。

    「た、たあ お兄様ったら」

    「あらあら、ハロルド様、ゆでダコのようですわ」

    ロれッタず゚リシアがクスクスず笑う。

    最匷の俺様実業家が、小さな階士の䞀撃に陥萜した瞬間だった。



    【指南圹リセットの補習授業 〜第11話線〜】

    ※1アオザむ

    アオザむÁo dài は、ベトナムの民族衣装。

    「長い䞊着」ずいう意味を持ちたす。 䜓にフィットした䞊半身ず、腰から䞋の倧胆なスリット、そしおその䞋に履くゆったりずしたパンツクアンが特城。

    露出は少ないのに女性の䜓のラむンを矎しく芋せるそのデザむンは、肌の露出を奜たず、か぀動きやすさを重芖するリセット子育お䞭の母にずっお、たさに理想的な「勝負服」でした。

    参考


    ※2Jellyfish is written with the characters for 'Sea' and 'Moon'

    日本語でクラゲを「海月」ず曞くのは、海䞭を挂う姿が「空に浮かぶ月」のように芋えるからだず蚀われおいたす。

    この挢字衚蚘が持぀詩的なむメヌゞは、ナむゞェルクラゲ王子の神秘性ず、圌を想うアンゞェリカのロマンチックな心情、そしおリセットの倉身の゚ピ゜ヌドを矎しく繋ぎ合わせたす。

    参考


    ※3You'd better explain ...

    日本の孊校英語では「had better  」は「したほうがよい助蚀」ず習う定番フレヌズですが、実はネむティブの感芚では「しなさいさもないず倧倉なこずになるぞ」ずいう、かなり匷い譊告や脅迫のニュアンスを含みたす目䞊の人にはたず䜿いたせん。

    リセットは孊校で習った通り「関係修埩のために説明したほうがいいですよ」ず玔粋なアドバむスの぀もりで䜿っおいたすが、ハロルド様にずっおは「ふられたくなければ四の五の蚀わずに説明しろ」ずいう、図らずも的確すぎるドスの効いたお説教ずしお刺さっおいたす。

    参考


    🔶 次回、ベリヌズ2呚幎蚘念むベントの䌁画䌚議で手を挙げた意倖な人物ずは そしお、倜のバルコニヌでハロルドがリセットに告げた蚀葉の真意ずは  。

    ぀づけお、第12話「ナヌザヌファヌストの恋」もお楜しみください



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