
最終話:ファイナルウォーズ!あのみっともない香典ウォーズから4年後の結末
あの、修羅場でしかない葬儀から、4年後。
安宅家のろくでもない家長で、万年課長でもあった學(マナブ)、つまり茗子の父親が、あまりにも突然、危篤になった。
有り体に言うと、不摂生が祟った結果である。
學もまた、一家全員の嫌われ者だ。
妻の志津子は仕方なく、親戚に夫が危篤だと連絡した。
勿論、金彦には何も言っていない。
ところが、親戚の殆どが首都圏に住んでいるせいもあり、首都圏在住の金彦の子供たちの耳にも、親戚のどこからともなく學の危篤の話は伝わった。
そこから、金彦の耳にも、この話はあっという間に届いたと。
茗子は現在、実家からそう遠くない安アパートに住んでいるが、志津子が一人で家に居るのは防犯面で怖いからと、実家での宿泊を強いられている。
「あのバカ彦が、じいさんの見舞いに来るっていうのよ!」
ヒステリックに志津子が喚く。
ここでいうバカ彦とは、沢村金彦のことであり、じいさんとは、安宅學のことである。
「ふーん。勝手にさせたら?」
茗子は気のない返事をするが、
「じいさんにそう言ったら『絶対に許さんぞ!あいつが来たら、怒鳴り付けて水をぶっかけてやる!』って激怒してるのよ!?」
「へぇ。それは見物だね。じいさんが憤死したら、金彦に慰謝料請求したらいい。まぁ、本当に憤死ってあるのか知らないけど。で、どうすんの?」
結局は、伝言ゲームのように、志津子から、志津子の姉である公子へ、公子から、金彦の子供たちへ、そこから金彦に、
「決して、見舞いには来てくれるな」
という旨を伝えた。
流石の金彦も来ることはなく、とりあえず修羅場は免れた。
「茗子。あんた、喪服は用意してあるんでしょうね?」
志津子が言い、
「やばっ!ずっと放置してたよ!クリーニングに出してくる!」
そうやって、安宅家は、學の葬儀に備えていた。
茗子はネットで葬儀のルールを検索し、思わず頭に血がのぼった。
お通夜の受付というのは、本来なら前もって依頼するものであり、更に、受付を依頼した相手には謝礼もする、と書いてあったのだ。
(あのクソジジイ⋯⋯香典のことで我が家を罵倒しておきながら、私に謝礼を渡してないどころか『おい!お前は受付をやれ!』だったよね?ふざけんなよ!)

安宅家では、いつ葬儀になってもいいと準備していたのに、危篤の筈だった學は、どういうミラクルなのか不明だが、その後、まさかの生還。
ろくでなしぶりにも拍車がかかっていた。
酒の飲み過ぎが原因で死にかけ、当時の主治医にもきつく叱られたにも関わらず、學はまた酒を飲むようになっていたのだ。
志津子が、そのことを実の姉である公子に愚痴のメールすると、新興宗教の熱心な信者である公子は、いつものように志津子に「宿業転換せよ」という旨のメールが。
志津子がそれを無視すると、今度は電話がかかってきた。
「宿業転換しないなら、安宅家は破滅だよ!」
公子は、かなりの剣幕で、ただそれを伝えるためだけに電話してきたのである。
茗子は、そんな両親や親戚と関わりを絶ちたくて、逃げるように遠方へ移住。

ある日、クリーニング屋から學に電話がかかってきた。
「安宅學様ですか?以前クリーニングに出されていた喪服、そろそろ取りにいらして下さい。もう半年経っていますので⋯⋯」
學は、自分が危篤だったと気づいていなかった為、まさか自分名義の会員カードで、茗子が喪服をクリーニングに出しているとは思いもしなかった。
腹が立ち、怒鳴りつけたくても、今の茗子は500マイルも離れている。
長距離電話をかけても、
「この番号からの電話はお受けできません」
そんな着信拒否メッセージが流れるだけである。
學は、自分の葬儀用の喪服を、クリーニング店まで取りに行くはめになった。

更に時は流れ、高齢だった一族は、次々と他界していったが、一族の配偶者の中でも、特に嫌われ者である3人⋯⋯つまり、金彦と学と岩沼は、後期高齢者になっても未だ存命である。
渋柿の長持ち。
呪うに死なず。
嗚呼、なんと皮肉な世の中なのか⋯⋯。
