
グリーンのある暮らしがくれた、穏やかでゆるやかな変化
最初に植物を部屋に迎えたのは、「何かお金のかからない趣味を、癒やしとして取り入れたい」と思ったからでした。仕事のストレスを少しでも和らげたくて、何か心が落ち着くものを探していたのです。
ただ、できるだけお金はかけたくなかったので、最初は近所の公園で見かけたコケを小さな器に入れて育ててみることから始めました。どこにでもあるような、名も知らぬコケ。でも、それが日々少しずつ形を変えていくのが、妙に心に残ったのです。

いつの間にか、そのコケに話しかけている自分がいました。「水は足りているかな?」「モコモコしてきたな」と。いつの間にか、その存在を気にかけていることに気づいたとき、心にちょっとした温度が灯ったような気がしました。
そのうち、もっと深く知りたくなって、蘚苔類(せんたいるい)について調べ始めました。そしてとうとう、蘚苔類学会に入会し、同じ趣味を持つ人々とのつながりまでできました。
蘚苔類のことを調べていくうちに気づいたのは、それらが着生する性質を持っているということでした。木の幹や岩の表面などに根を張らずに生きている姿に、知らず知らずのうちに惹かれていたのかもしれません。そして、同じように着生する性質を持つシダ植物にも、自然と興味が向いていったのです。
転機となったのが、シンガポールを訪れたときのこと。まちなかの街路樹に、ビカクシダが大胆に着生しているのを見かけ、その姿の美しさに息をのみました。あの瞬間から、私の中に「シダ植物って、こんなに格好いいものなんだ」という感動が広がったのです。

それ以来、ビカクシダをはじめとするシダ植物、洋蘭、そしてさまざまな熱帯植物を育てるようになりました。図鑑や専門書に目を通し、植物に最適な環境を整える工夫を重ねる日々。特に意識していたわけではありませんが、気づけば育てている植物の多くが、着生する性質を持つものばかりになっていました。
今では、洋蘭やビカクシダをはじめとしたほとんどの植物を、鉢に植えるのではなく、板やコルクに着生させて育てています。根が自由に空気に触れ、自然に近い形で生き生きと育つ姿を見ていると、自分自身もどこか解き放たれるような感覚になります。
やがて、山に入って野生の植物を観察したり、自生地を探したりするようにもなりました。野生のコケやシダがどのような環境で生きているのかを肌で感じることができ、より深く植物たちと向き合えるようになった気がします。

そして今では、自宅の一角に小さな温室を建てるまでになりました。そのおかげで、休日は家にいるのに、気づけばずっと外にいる──温室にこもっているので、まさに"インドアなアウトドア"とでも言いましょうか。季節や天候に左右されず、植物たちがのびのびと育つその空間は、私にとって何よりの癒しであり、生きがいのような存在です。
植物があるからといって、劇的に何かが変わるわけではありません。でも、その小さな一歩が、私の暮らしも心も、少しずつ、でも確かに変えてくれました。
グリーンのある暮らし。それは、目に見えないけれど、確かな心の変化と、植物に満たされた、温室という小さなジャングルづくりのきっかけでした。
