
馴染む温度
人はそれぞれ異なる温度を持っていて、
自身の温度との組み合わせには、様々な種類がある。
私は抱擁を交わす機会が少なく無い。
再会、別れ、労い、同慶、激励……
男女問わず、ある種儀式のような位置付けにある。
数日前に気がついた。
抱きしめた時に「馴染む温度」がある。
その相手は、色々な関係性の名前がある中で、どれにも綺麗には収まらない、大事な人だ。
その人と抱擁を交わし、人の温もりに「馴染む温度」があると知った。
温かい
冷たい
熱い
安らぐ
惹かれる
どれでもなく、「馴染む」。
挨拶の際に、必ず抱擁を交わす親友がいる。
彼女の温度は、少しひんやりとしていて、柔らかな温かさ。
衣服の表面に触れる外気と、その奥の彼女の温度。
それが、抱きしめた時に滲んで伝わる。
不思議なことに、気候による変化にも、その印象は左右されない。
私は、その温度が好きだ。
彼女自身のことも。
けれど、彼女の温度に「馴染む」と感じたことはなかった。
では、親密な異性の類は、といえば。
過去を振り返ると、私には少し熱が強すぎたように思う。
あの人は不思議な温度だった。
温かさが先に立つわけではない。
心地よさに包まれるわけでもない。
塗り替えるような鮮烈さでもない。
触れたところに、自然と自身の温度が溶けていくような、初めての感覚だった。
今まで私は、親愛の深さと身体の親和性を、同じ軸の上に置いてきた。
好きな人なら、落ち着くはず。
大切な人なら、快いはず。
しかし。
「馴染む温度」は、安心とも、好意とも違っていた。
人には、人との相性があるように。
温度にもまた、相性があるらしい。
次にあの人と会う時。
私はきっと、以前よりも少しだけ、温度を意識している。