
スキップ【ショートショート】
その能力に気づいたのは、会議だった。
月曜の朝、いつもの長い会議。
特に発言することもなく、誰かのどうでもいい報告を聞いていた。
退屈だった。
次の瞬間、会議が終わっていた。
私は少し驚いた。
時計を見ると、一時間きっちり経っている。
だが、私の体感では数秒だった。
最初は居眠りかと思った。
だが、次の通勤電車でも同じことが起きた。
混雑した車内。
退屈だと思った瞬間、もう会社に着いていた。
どうやら私は、退屈な時間を飛ばせるらしかった。
ただし、飛ぶのは体感時間だけだった。
現実の時間は、ちゃんと経っている。
便利だった。
行列。
待ち時間。
退屈な説明。
病院の待合室。
人生には、妙に長い時間が多い。
それを一瞬で済ませられるのはありがたかった。
私はよく使った。
ある日、恋人と待ち合わせをした。
駅前のカフェだった。
彼女は少し遅れることがあった。
十分経っても来なかった。
私はメッセージを送った。
返信はない。
コーヒーを一口飲む。
ぬるい。
さっきまで熱かったはずなのに。
三十分ほど経っていた。
まだ来ない。
何かあったのだろうか。
少し気になったが、もう少し待つことにした。
窓の外を眺める。
通行人が行き交っている。
ふと目を戻すと、ガラスに夜の街が映っていた。
私は時計を見た。
また時間が飛んでいた。
さすがに店を出て電話をかけた。
つながらない。
メッセージも既読にならない。
心配になった。
だが、待っていれば来るかもしれない。
駅のベンチに座る。
寒い。
腕をさする。
次の瞬間、朝日がまぶしかった。
私は立ち上がった。
少し混乱した。
スマートフォンを見る。
着信が何件も入っていた。
知らない番号。
ニュース通知。
恋人の名前。
私はようやく開いた。
事故だった。
昨日の夕方。
待ち合わせに向かう途中。
私はしばらく画面を見ていた。
駅のベンチに座った。
何もすることがなかった。
ただ待つしかなかった。
私は、あと少しだけ待つことにした。