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あなたも私も繊細さん? “あすやせ”になったワケ

    日付が変わるころ、携帯が震え出した。
    知っている。この振動は止まらない。
    通話ボタンが押されるまで続く。

    降伏してボタンを押すと、
    かすかに震える声が流れ出した。
    それは途切れることなく
    高くなったり、低くなったり、
    まるであの世まで続く川のようだ。

    携帯を耳に押し当て、天井を見上げる。
    なんだか、低くなってない?
    部屋もやけに暗く感じる。

    き、切りたい、な……

    なんとか隙間を見つけると
    ねじ込むように早口で告げる。
    「あのね、明日も仕事だから……」

    間髪を入れず、返事がきた。

    「あ、だいじょぶ!
    こっち明日、休みだから!」

    ……な、なんだとぉ?
    ってか今、めっちゃ元気だったじゃん!

    あっけに取られたその隙を、
    逃さず掴まれた。
    こうなるとお手上げだ。
    あの世からの奔流が部屋に注ぎ込まれ、
    明け方まで流れ続けるのであった。

    こんな夜が幾度か続いたある日、
    珍しく昼間に会うことになった。
    顔を見るなり、息を弾ませて告げられた。
    「病院で診断をもらったの!」

    うん、だと思ってた。
    でも、なんでそんなに
    目をキラキラさせているんだい……?

    やっとの思いで、返した。
    「そう、良かったね」
    いや、良くないだろう!いろいろと!

    結局、すったもんだの末に、
    縁を切ることになりました。

    思えば昔からそうでした。
    “あすやせ”はよく、
    「王様の耳はロバの耳」に出てくる
    森の穴になってしまう。

    相手も、試しているのです。
    この穴は大丈夫か?と。
    よし、いける!となったら
    穴が満杯になるまで放り込まれます。

    でも、穴が浅いんだな、これが。
    最初から底は見えているのに、
    まるで地の果てまで深いように
    見せかけてしまうのだ。

    だから、すぐに満杯になって
    そこらじゅうに溢れ出す。
    ちぇっ、なんだよ、この穴。
    もっと放り込めないの?

    ここらで、やっと告げてみる。
    この穴、実は人間なんですよ。
    相手はビックリして、捨て台詞。
    「そういうことは最初に言ってよ」

    何度か繰り返したら、
    すっかり人里離れた村に住んでいました。

    その村人を「繊細さん」と人は言う。

    でもその呼び名、しっくりこない。
    だって村外れに何年も住んで、
    分かったことがある。

    本当は、同じことがしたかったんだ。
    “あすやせ”もなりふり構わず、
    あれやこれや、訴えればよかった。
    でも、やれなかった。

    なぜ?

    あの娘のかわいそうな訴えを
    聞いているのが楽しかったんだ。
    一段上に立ったようで、
    気持ちがよかったのだ。

    同じように泣きついたら、
    平等になってしまう。

    ほら、全然、
    繊細なんかじゃないや。

    アラフィフになって、考える。
    もし、平等になっていたら
    あの娘と友達になれたのだろうか。

    ちょっと、遅かったかな。
    もう少し早く気づいていれば。
    だっていま、こんなに人恋しい。

    日常の、つまらないこと。
    そういう話を聞いてもらいたい。
    そういう話を聞きたいんだ。
    繊細なんか、くそくらえ。

    だから、書き始めた。
    “あすやせ”になって。

     
     
    女。生まれた時からぽっちゃり人生。 そのままアラフィフになりました。 仕事して、食べて、飲んで、 行き詰まったら旅に出る。 膨らんだり萎んだりしながら、 ダイエットを口実に人生を書いています。 ※当コンテンツの全ての 文・写真の無断転載、 無断引用はご遠慮ください

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