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人を動かせる人は、まず人に関心を持てる人である #13

    誠実さ、サバイバル規則、そして力の正しい使い方

    人を動機づけるには、特別な話術が必要だと思われがちです。

    相手を説得する力。
    相手を感動させる言葉。
    相手をやる気にさせる演出。
    相手をこちらの方向へ導く技術。

    もちろん、言葉の使い方は大切です。
    しかし、第十三章で扱われる中心は、もっと根本的です。

    人を動機づける人になるには、まず人に対して誠実な関心を持つ必要があります。

    ここでいう誠実な関心とは、相手を操作するための関心ではありません。
    相手に好かれるための演技でもありません。
    相手から何かを引き出すためのテクニックでもありません。

    その人は何を大切にしているのか。
    何に不安を感じているのか。
    どんな経験をしてきたのか。
    どんな場面で力を発揮するのか。
    何をされると心を閉ざすのか。

    こうしたことを、本気で知ろうとする姿勢です。

    つねに誠実であれ

    第十三章では、人間関係の古典的な考え方として、デイル・カーネギーの人を動かすが参照されます。

    ここで重要なのは、人を動かすという言葉を、人を思い通りに操作する意味で読まないことです。

    本記事で大切にしたいのは、人の力を引き出すためには、まず誠実な関係が必要だという点です。

    人は、自分に関心を持っていない人の言葉には動かされません。
    自分を利用しようとしている人の言葉にも動かされません。
    表面的に褒めているだけの人の言葉にも、どこかで違和感を持ちます。

    逆に、自分のことを本当に見ようとしている人には、少しずつ心を開きます。

    リーダーが人を動機づけるとき、最初に必要なのは、相手を動かす技術ではありません。
    相手を一人の人間として見る姿勢です。

    誠実さは、きれいな言葉ではなく行動に出る

    誠実であるとは、単に正直に話すことだけではありません。

    相手の話を最後まで聞く。
    分からないことを分からないと言う。
    相手の貢献を認める。
    自分の間違いを認める。
    都合の悪い情報を隠さない。
    相手を利用するために褒めない。
    自分の都合だけで支援を押しつけない。

    こうした行動の積み重ねが、誠実さになります。

    リーダーがどれほど立派なビジョンを語っても、日常の行動が不誠実なら、人は信頼しません。

    たとえば、会議では自由に意見を言ってほしいと言いながら、実際には反対意見を不機嫌に扱う。
    挑戦を歓迎すると言いながら、失敗した人を責める。
    チームを大切にすると言いながら、疲弊しているメンバーを見ない。
    成長を支援すると言いながら、自分の都合で仕事を押しつける。

    このような矛盾は、すぐに伝わります。

    誠実さは、言葉ではなく、関係の中で確認されるものです。

    自分の中にはサバイバル規則がある

    第十三章で重要な概念が、サバイバル規則です。

    サバイバル規則とは、人が生き延びるために身につけてきた内側のルールです。

    たとえば、次のようなものがあります。

    • 人には常に誠実でなければならない

    • 人から尊重されなければならない

    • 感謝されなければ、自分の努力には意味がない

    • 失敗してはいけない

    • 怒ってはいけない

    • いつも役に立たなければならない

    • 人に迷惑をかけてはいけない

    • 自分で全部できなければならない

    • 弱さを見せてはいけない

    こうした規則は、ある時期には自分を守ってくれたかもしれません。

    たとえば、厳しい環境で育った人にとって、失敗してはいけないという規則は、自分を守るために必要だったかもしれません。
    周囲から認められにくかった人にとって、常に役に立たなければならないという規則は、居場所を作る手段だったかもしれません。

    しかし、リーダーになると、これらの規則が邪魔になることがあります。

    サバイバル規則は、人間関係を硬くする

    たとえば、リーダーが自分の中に、いつも完璧でなければならないという規則を持っているとします。

    すると、失敗を認めにくくなります。
    分からないことを隠します。
    メンバーの前で弱さを見せられません。
    自分の判断ミスを他人のせいにしたくなります。

    その結果、チームも失敗を隠すようになります。

    また、リーダーが人には必ず感謝されなければならないという規則を持っているとします。

    すると、助けを断られると傷つきます。
    相手が感謝しないと怒ります。
    自分の支援が相手のためだったのか、自分の承認のためだったのか分からなくなります。

    このように、サバイバル規則は、無意識のうちに人間関係を硬くします。

    技術リーダーは、自分の規則を知らなければなりません。
    なぜなら、その規則が、チームへの関わり方に大きな影響を与えるからです。

    メタ規則が、変化を妨げる

    サバイバル規則よりさらに厄介なのが、メタ規則です。

    メタ規則とは、自分の規則は正しいという規則です。

    たとえば、自分はいつも人を助けなければならないという規則を持っている人がいます。
    さらに、その規則は絶対に正しいと信じているとします。

    すると、助けないという選択ができません。
    助けを求められていなくても介入します。
    助けを断られると怒ります。
    相手が自分で試す機会を奪っていることに気づけません。

    このとき問題なのは、助けたいという気持ちそのものではありません。
    助けなければならないという硬直した規則と、それは正しいというメタ規則です。

    リーダーが成長するには、自分のメタ規則を見直す必要があります。

    自分のルールは本当に絶対なのか。
    そのルールは、今の状況でも役に立っているのか。
    そのルールが、相手の成長を妨げていないか。
    別の選択肢を持つことはできないか。

    この問いが必要です。

    規則をガイドに変える

    第十三章では、硬直した規則を、より柔軟なガイドに変える考え方が示されます。

    たとえば、いつも全員を助けなければならないという規則があるとします。

    これは、とても苦しい規則です。
    全員を助けることは不可能だからです。
    しかも、相手が求めていない助けをしてしまう危険もあります。

    この規則を、次のように変えることができます。

    私は、できるときには、人を助けることができる。

    この変化は小さいようで大きいです。

    なければならないが、できるに変わります。
    義務が、選択になります。
    強迫が、柔軟なガイドになります。

    リーダーに必要なのは、規則を捨てることではありません。
    規則を、状況に応じて使えるガイドへ変えることです。

    選択の余地を持つことが、成熟につながる

    硬直した規則に縛られていると、人は反応するだけになります。

    助けなければならない。
    怒ってはいけない。
    失敗してはいけない。
    強くなければならない。
    正しくなければならない。

    この状態では、状況に応じた判断ができません。

    しかし、規則をガイドに変えると、選択の余地が生まれます。

    今は助ける。
    今は見守る。
    今は問いを投げる。
    今は直接介入する。
    今は距離を置く。

    リーダーシップでは、この選択の余地が大切です。

    人と仕事の状況は常に変わります。
    いつも同じ正解はありません。
    だから、リーダー自身の内側にも柔軟性が必要です。

    誠実な関心を寄せる

    第十三章の後半では、誠実な関心を寄せることが改めて重要になります。

    人に誠実な関心を持つとは、相手を自分の目的の手段として見るのではなく、相手そのものに関心を持つことです。

    これは、起業家にもコンサルにも非常に重要です。

    起業家が顧客に関心を持つとき、それは単に売るためではありません。
    顧客がどんな生活をしているのか。
    何に困っているのか。
    どんな言葉で問題を語るのか。
    何を面倒だと感じているのか。
    何を諦めているのか。

    これを知ろうとすることが、事業の出発点です。

    コンサルがクライアントに関心を持つとき、それは単に契約を続けるためではありません。
    その組織が何を恐れているのか。
    どんな歴史があるのか。
    誰がどんな痛みを抱えているのか。
    どこに誇りがあるのか。
    何を変えたいのに変えられないのか。

    これを知ろうとすることが、支援の出発点です。

    技術リーダーがメンバーに関心を持つとき、それは単に成果を出させるためではありません。
    その人がどんな力を持っているのか。
    どんな環境で成長するのか。
    どんな関わり方をされると萎縮するのか。
    何を学びたいのか。
    何に誇りを持っているのか。

    これを知ろうとすることが、動機づけの出発点です。

    誠実な関心は、相手への最高の賛辞である

    人は、自分に本当に関心を持ってくれる人に心を開きます。

    自分の話を覚えていてくれる。
    自分の仕事の背景を知ろうとしてくれる。
    自分の不安を軽く扱わない。
    自分の得意なことを見つけてくれる。
    自分の成長を本気で喜んでくれる。

    こうした関心は、言葉以上に相手に伝わります。

    反対に、相手を動かすためだけの関心は、どこかで見抜かれます。

    リーダーが人を動機づけたいなら、相手に関心を持つことから逃げてはいけません。
    人を動かすというより、人を知ることから始めるのです。

    第十三章のまとめ

    人を動機づける力は、自分の規則を見直し、相手に関心を持つところから生まれる

    第十三章の大きなメッセージは、動機づけは表面的な技術ではないということです。

    人に影響を与えるためには、誠実さが必要です。
    そして、自分の内側にあるサバイバル規則を知る必要があります。

    自分は何を当然だと思っているのか。
    何を絶対に守らなければならないと思っているのか。
    どんな場面で相手に過剰反応するのか。
    自分の規則を、相手にも押しつけていないか。

    これを見直さなければ、リーダーは人を動機づけているつもりで、実は自分のルールを押しつけてしまいます。

    リーダーに必要なのは、硬直した規則ではなく、柔軟なガイドです。
    そして、相手を操作する関心ではなく、誠実な関心です。

    力はどこからくるのか

    第十四章では、テーマが動機づけから力へ移ります。

    リーダーシップを考えるとき、力という言葉を避けることはできません。

    人に影響を与えるには、何らかの力が必要です。
    チームを動かすにも、組織を変えるにも、品質を守るにも、力が必要です。

    しかし、力という言葉には危険な響きがあります。

    支配。
    命令。
    権限。
    圧力。
    上下関係。

    こうしたものを思い浮かべる人も多いでしょう。

    第十四章で重要なのは、力を支配としてではなく、関係として捉えることです。

    力は、関係の中から生まれる

    力は、一人の人間が単独で持っている物体のようなものではありません。
    力は、人と人との関係の中で生まれます。

    たとえば、ある人に何かを頼んだとします。
    その人が頼みを聞いてくれるなら、そこには何らかの影響力があります。
    しかし、その人がまったく応じないなら、その関係の中で自分の力は弱いということになります。

    つまり、力は関係に依存します。

    同じ人でも、ある場面では強い影響力を持ち、別の場面ではほとんど影響力を持たないことがあります。

    技術には詳しいが、経営判断には影響を持たない。
    チーム内では信頼されているが、他部署には通じない。
    顧客には説得力があるが、社内では力が弱い。

    こうしたことはよくあります。

    だから、リーダーは自分がどの関係の中で、どのような力を持っているのかを見なければなりません。

    技術の力は、本当に力になる

    技術リーダーにとって、技術的な知識やスキルは大きな力の源泉です。

    深い専門知識がある。
    複雑な問題を理解できる。
    設計判断ができる。
    バグの原因を見抜ける。
    品質を評価できる。
    新しい技術の可能性を説明できる。

    こうした力は、周囲に影響を与えます。

    人は、技術的に信頼できる人の意見を聞きます。
    困難な問題を解ける人には相談します。
    判断の精度が高い人には、自然と発言力が集まります。

    この意味で、技術力は確かに力です。

    しかし、技術力だけが力ではありません。

    技術力だけに頼ると、力は狭くなる

    技術リーダーが陥りやすい落とし穴は、力の源泉を技術力だけだと思い込むことです。

    自分は詳しいから正しい。
    自分は技術的に優れているから、人は従うべきだ。
    自分の判断が最も合理的だから、他人の意見は重要ではない。

    こうなると、技術力は力であると同時に、人間関係を壊す原因にもなります。

    技術的に正しいことを言っているのに、人がついてこない。
    合理的な提案なのに、組織が動かない。
    品質を守ろうとしているのに、面倒な人だと思われる。

    このようなことが起こるのは、技術力以外の力を軽視しているからです。

    リーダーには、技術の力に加えて、関係の力、信頼の力、組織の力、言葉の力が必要です。

    力は相互的である

    第十四章で重要なのは、力は一方通行ではないということです。

    自分が相手に影響を与えるとき、相手も自分に影響を与えています。

    上司が部下に力を持つ。
    しかし部下も、上司の成果や評判に影響を与えます。

    技術リーダーがチームに力を持つ。
    しかしチームも、リーダーの判断や行動を変えます。

    コンサルがクライアントに影響を与える。
    しかしクライアントの反応や制約も、コンサルの提案を変えます。

    起業家がメンバーを巻き込む。
    しかしメンバーの能力や不安も、創業者の意思決定を左右します。

    この相互性を忘れると、力は支配として使われます。

    有機的なリーダーシップでは、力は関係の中で使われます。
    相手を押さえ込むためではなく、相互に影響しながら変化を起こすために使われます。

    力を保つには、使い方が重要である

    力は、一度手に入れたら永遠に続くものではありません。

    技術力は古くなります。
    信頼は失われることがあります。
    役職は変わります。
    人間関係も変化します。
    過去の実績だけでは通用しない場面もあります。

    だから、リーダーは力を保つために努力し続ける必要があります。

    技術を学び続ける。
    自分の限界を認める。
    他人の貢献を認める。
    関係を大切にする。
    力を自分のためだけに使わない。
    チームや組織の目的のために使う。

    力は、使い方によって増えることもあれば、失われることもあります。

    自分の立場を守るためだけに力を使う人は、やがて信頼を失います。
    人を支配するために力を使う人は、表面的には従われても、内側では抵抗されます。
    他人を助け、チームを守り、よりよい仕事のために力を使う人は、信頼を積み重ねます。

    力を持つことを恐れすぎない

    第五章では、そんなに大きな力はほしくないという言い訳が扱われました。

    確かに、力には責任が伴います。
    力を誤用すれば、人を傷つけることがあります。
    だから力を恐れる気持ちは自然です。

    しかし、力を持たないふりをしても、自分の影響は消えません。

    リーダーは、自分がすでに持っている力に気づく必要があります。

    技術的な発言力。
    経験による説得力。
    チーム内の信頼。
    他部署との関係。
    顧客からの評価。
    情報を持っていることによる影響。

    これらはすべて力です。

    大切なのは、力を否定することではありません。
    力を自覚し、整合的に使うことです。

    第十四章のまとめ

    力は所有物ではなく、関係の中で育つ影響力である

    第十四章の中心メッセージは、力を関係として見ることです。

    力は、肩書きだけから生まれるものではありません。
    技術力だけから生まれるものでもありません。
    一人の中に固定的に存在するものでもありません。

    力は、人と人との関係の中で生まれます。

    技術力は力になります。
    しかし、それだけでは十分ではありません。

    信頼、誠実さ、関心、組織の理解、言葉の使い方、過去の実績、相手との関係。
    これらが重なって、リーダーの力になります。

    そして力は、どう使うかで変わります。

    支配に使えば、信頼を失います。
    自己防衛に使えば、関係を狭めます。
    チームの成長や問題解決に使えば、力はより健全な影響力になります。

    技術リーダーに必要なのは、力を恐れて避けることではありません。
    自分の力の源泉を知り、それを人が力を発揮できる環境づくりに使うことです。

     
     
     
    コンサル研究家 日々企画・報告書を書きながら、伝わる技術・書く技術を研究しています。 英語学習やジャーナリズムも記事にしてます。

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