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「先生からのプレゼントです。ようこそ」

    ウラルスクに、マラト・ビセングリエフ氏率いるオーケストラへの招聘で初めて赴任した日のことを、今でもよく覚えています。

    空港まで迎えに来ていただき、そのままチュレネヴァ通りへ向かいました。そしてオフィスに着くと、当時のコンサートマスターだったアイヌーラさんが、新しいヴァイオリンケースを抱えて現れました。

    「先生からのプレゼントです。ようこそ。」

    そう言って、私に手渡してくれたのです。

    その時、マラト本人はまだウラルスクにいませんでした。
    けれど彼が戻ってきた後、さらに驚くことが待っていました。

    彼は自分の所有する“イタリア製”の楽器の一本を私に貸してくださり、私は結婚して日本へ渡る日まで、その楽器を弾かせていただいていました。

    でも今日は、まずそのケースの話をしたいと思います。

    ソ連時代に育った子どもにとって、美しいヴァイオリン用品というのは、ほとんど選択肢がありませんでした。

    最初のケースは、白い縁取りのついた柔らかな合皮製の、ごく普通のケース。
    その後、古いケース付きのヴァイオリンを買ってもらいました。硬いタイプで、しかも夢のように美しいヴァイオリン型のケースでした。少し傷んではいましたが、そのフォルムが本当に大好きでした。

    音楽学校時代には、学校の備品の楽器と一緒に、また一般的なケースを使っていました。

    そして音楽院時代。
    私は人生で初めて、自分専用の「外国製」のケースを手に入れました。

    友人から中古で譲ってもらったもので、100ドル。
    当時の私にとっては大きな買い物でした。でも軽くて、美しくて、内側には上品なベルベットの内装が施されていて、本当に嬉しかったのを覚えています。

    2004年の終わり、私はそのケースを持ってウラルスクへ向かいました。

    だからこそ、到着したばかりの私に、新品のケースを何の見返りもなく贈ってくださった時、本当に胸を打たれました。

    現代的で、軽くて、収納力もあって。
    でも何より嬉しかったのは、「誰かが、自分を歓迎してくれている」という気持ちでした。

    新しい街に来たばかりで、不安もあり、まだ自分の居場所を探していた時期でした。
    そんな中で、理由もなく、ただ相手の人生を少し心地よくしようとしてくれる人がいる。

    そのさりげない行為の中に、音楽家への敬意や、人としての温かさ、そして
    「あなたを待っていました」
    というメッセージが込められていた気がします。

    もちろん、マラトのオーケストラに入れた時点で、自分は幸運だと感じていました。
    でもあの瞬間、その感覚が心の中で確かなものになったのです。

    あの日から始まった温かな空気に、私は最後にオーケストラを離れる日まで、ずっと包まれていた気がします。

    そのケースは、その後20年以上、私と一緒に世界中を旅しました。

    当然かなり傷みましたし、長い年月を感じさせます。
    それでも外側は、驚くほど綺麗なままです。

    2005年には、同僚で友人だったオーリャが、故郷トルクメニスタンのお土産として、小さな編み込みのブーツ型キーホルダーをくれました。
    私はそれをケースにつけ、それから20年間、世界中を一緒に旅しました。

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    同じ年に名古屋で手に入れたキーホルダーも、ずっとそこにぶら下がっていました。

    そして最近、私はついにそのブーツを外し、キーホルダーも取り外しました。

    新しいケースへ付け替えるために。

    長年、人生を共に歩いてきた相棒と別れる時が来たのです。

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    もちろん捨てるわけではありません。
    ただ、静かに引退させるだけです。

    もしかしたら、これから別のヴァイオリンたちを守ってくれるかもしれません。

    そして今はただ、ケースの中に、
    人生の大きな一時代の “sweet memories” を静かにしまっているような気がします。

    その物語は、かつてウラルスクで、
    「先生からのプレゼントです。ようこそ。」
    という、たった一言と、小さな優しさから始まりました。

    今になって思うのです。

    まだ何も証明していない若い演奏家に対して、
    最初からこんなふうに気を配り、敬意を持って迎えてくれるということは、
    実はとても稀で、貴重なことだったのだと。

    心から感謝しています。

    @アシェル🎻

     
     
    プロヴァイオリニスト🎻|カザフスタン出身・鹿児島在住 日本で暮らして気づいたこと、音楽、人、文化について書いています。 ヴァイオリンレッスン|鹿児島・オンライン

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