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Photo bycute_violet8353

散文〜金継ぎ〜

    ある人がいた。

    心に深い傷を負った。
    悲しみ、怒り、憎しみ、恐れ、あらゆる負の感情が絶望の波となって心の全てを併呑へいどんした。
    その傷は決して癒える事のない、謂わば致命傷ともなり得た。
    歩く事はおろか、立ち上がる事もできず、やがて暗い泥のような大地に沈んだ。

    「もう駄目だ」
    諦念に支配された瀕死の心は、弱々しく言葉を紡ぎ続けた。

    ——生と死の問答を繰り返しながら幾許いくばくかの時が過ぎた頃、ふと自らの本心に耳を傾けた。

    だから、許した。
    自分を取り巻く全てを、何より自分を。

    重苦しく閉ざされた心に一条の光が差し込んだ。

    癒えない傷は消えずとも、その無惨な裂け目には慎ましやかな黄金色の輝きが宿った。

    そして静かに揺らめく炎のように、ゆっくりと立ち上がって僅かばかり顔を上げた。

    『この傷跡は不屈の証』


    ある人がいた。

    大人と言うにはまだ早いその体は、見知らぬ獣の身勝手な劣情によって甚いたく傷付けられた。

    恐怖と絶望の記憶が心を閉ざした。
    己の殻に固く閉じ籠もった。

    ——ある時、心無い天使は残酷な事実を告げた。
    『命を宿した』と。
    どうするのか、どうしたらいいのか、自分の中に答えはまだなかった。

    「産むという選択肢はない」
    周囲の大多数はそう言った。
    『そうなのかも知れない』と思った。

    「あなたは一人じゃない」
    母がそう言った。
    『一人の体じゃない』という意味なのか……
    産む産まないに関わらず、『周りの人を頼れ』という意味なのか……は、わからない。

    でも、どの意味でもよかった。
    母の意もきっとそうであったのだろう。

    自分の未来への展望、無責任な大多数のエゴと揶揄、それらとは全く無関係な新しい生命。
    勇気と覚悟と愛を継いだ気がした。

    そして、母のような母になる事を選んだ。

    ——それからしばらく後、医師が複雑な表情を浮かべて宣告した。

    「普通分娩はできません」

    体には一筋の消えない傷跡が残った。
    だが、自分にはその傷が黄金色に輝いて見える。

    『この傷跡は私の誇り』


    金継ぎ

    陶器の割れや欠け、ヒビの継ぎ目を漆で接着し、金・銀・真鍮等で装飾する日本の伝統技術。
    単に直すという目的だけでなく、破損箇所の存在を認め、その歴史すら内包し昇華した唯一無二の新たな価値を創造する。
    侘わび寂さびの精神やサステナブル性、芸術品としての価値が高く評価される。
    海外では、そのままKintsugiと書く。
    意味は同じだが、再生の力や不完全の美として哲学的な認識をされる事もある。

     
     
    神社巡りが好き。 神社にお参りして、時間があれば近くの観光地やお店に行くのが小さな楽しみ。 記事に困ったら日常の雑記も。 時々?毒を吐くエッセイのような私の日記帳。

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