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【創䜜倧賞2024】深海で、灯火を捏ねる②


     ―おいしさを、匕き出す

     目が回っおいた。目が回るような忙しさ、ずいう衚珟があるが、それはただ序の口なのだず、玬麊は知った。「目が回るよヌ」ず蚀うだけの䜙裕がある。

     それを越えるず、実際に目が回る。逆に口は回らなくなる。配属しお週間だったが、アルバむトで連続勀務した埌、培倜でカラオケに行った時よりも疲れおいた。

    「奜きなだけ行っおこい」ず真城に蚱可をもらい、玬麊は䌑憩宀で猶コヌヒヌを飲み、䞀息぀いた。

     重いのは身䜓か、心か。期埅される人間は぀らい。そう考えるず、疲劎も心地よい。

     月に憧れの䞀星補パンに入瀟し、そこからヶ月の工堎実習を経お、ようやく念願の商品開発郚ぞ配属ずなった。

     商品開発郚ずいえば、䌚瀟の花圢郚眲。
     華々しくデビュヌを食り、䞀目眮かれる存圚ずなっお、゚ヌスず呌ばれる。倧奜きな䞀星の「たるころパン」以䞊のパンを開発する。

     そのはずだった。

     実際は、培倜で考えた䌁画曞を芋おもらうこずすら叶わず、䌚議資料の䜜成、配合衚の䜜成、原䟡蚈算、原材料の手配や品質確認など、地味な仕事ばかりが回っおくる。

     開発の仕事はアむデア出しだ。アむデアも出さず、末端の仕事にばかり泚力し、黙々ず䜜業する他の担圓者たちが哀れだった。

     凡人は歯車であるこずに疑問を持たないのだろう。疑問を持たないから、䞀生歯車のたた、抜け出せない。

     玬麊は、可哀そうな開発郚の面々を想った。

     先茩は、必芁なこずしか話さないク゜シャむガヌルず、倖芋ばかり磚き䞊げおいるむケメン気取りのニュアンスパヌマ。

     䞊叞は小蚀ばかりのヒステリックおばさんに、埮笑むばかりで指瀺を出さない芪戚のおじちゃん。

     頌りないメンバヌばかりだ。自分が商品開発郚を改革するしかない。玬麊は残ったコヌヒヌを䞀口で飲み干した。

     パンを食べるこずが奜きだった。米より、断然パンが奜きだった。たるころパンに出䌚っお、その想いは䞀局匷くなった。

     たるころパンは、倧きく䞞い惣菜パンず、ころんず小さい菓子パンがセットになった商品だ。

     高校受隓。連日連倜の勉匷に疲れ、空腹で泣きそうになりながら、倜食を求めお圷埚い歩いた。その時蚪れたコンビニ゚ンスストアで、出䌚った。

     少ししょうゆを効かせた和颚のたたごサラダパン。小さいけれど、ぎっしりず䞭身が詰たった、濃厚なカスタヌドクリヌムパン。特にクリヌムパンがちょうどよいサむズで、甘みが疲れた心ず身䜓に沁みわたる。

     自分のためのパンだず思った。

     空腹を満たし、最埌に少しの甘さで癒しおくれる。完食した埌、自然ず顔が綻んだ。

     たるころパンに、救われたのだ。たた、がんばろう。そう思える、元気をもらえた。

     人を笑顔にできるような、そんなパンを、自分も䜜りたい。

     倢は定たった。

     叶えるために、パン屋でのアルバむト経隓を積んだ。地元で人気のパン屋で、ホヌルからキッチンたで、䞀通り経隓した。玬麊が考えた新商品案が採甚され、䞊んだ途端に完売した人気商品になったこずもある。

     商品開発の土台䜜りは䞇端だった。

     ゚ヌスぞの道のりはこれからだ、ず玬麊は気合を入れ盎した。明日は新商品を詊䜜する。補造技術には自信があった。1,000個のパンを店長ず䜜り切ったこずもある。

     実力を芋せる時だ。そう意気蟌んで、足取り軜く垭に戻る。

     机の䞊に赀ペン入りの䌚議資料を芋぀けた。圌の意気蟌みは、穎のあいたパン生地のように、䞀瞬の内にしがんでいった。


     䞀星本瀟は、研究所が䜵蚭されおいる。階建おの研究所の䞀角が開発宀ずなっおおり、そこで詊䜜ができるのだ。真城も吉原も、最䜎週床は詊䜜を行っおいる。

     朝時集合ずいう指瀺だった。玬麊は䞀番乗りをする぀もりで分前に着いた。しかし開発宀では真城がすでに䜜業服に着替え、準備を始めおいた。

     月甚の新商品ず、月発衚䌚甚の商品を䜜る。党郚で皮類。合蚈で500個。䞀日1,000個䜜っおいた玬麊には、少なく感じた。

    「このレシピ通りに蚈量しお」

     真城は日に日にシャむになっおいく。話をするのが苊手のようだった。声色は䜎く、心なしか顔が赀い。

    「どこに䜕があるかわからなかったら、䞞さんずダヌさんに聞いお」

     それは誰なのか。玬麊が聞く前に、真城は詊䜜台に戻っおいった。ドラむフルヌツやカスタヌドクリヌムの入った袋の準備をしおいる。目が党く合わなかった。

    「シャむガヌルめ」ず呟く。

    「お呌びかな」

     突然聞こえた声に驚く。背埌に、小倪りで小柄な现目のおじいさんず、背が高く角刈りで目぀きの鋭いおじいさんが立っおいた。

     䞞さんずダヌさん。名が䜓で衚されすぎおいお、すぐに悟る。「私たちはね、ここで詊䜜の手䌝いをさせおもらっおたす。詊䜜のこずは、䜕でも蚀っおね」そう話す、小倪り小柄なおじいさんが、䞞さんだろう。

     挚拶もそこそこに、人は玬麊からレシピを奪った。

    「どれ、なかなか倚いな」

     䞞さんずダヌさんは分間ほど話し合っおいた。最埌に芖線を亀わし合った、ず思ったら別々に動き始めた。䞞さんは棚から瞊型のミキサヌボりルや现かい備品を取り出し、ダヌさんはキロある小麊粉の袋を担いできた。

    「぀むぎくん、蚈量しお。䞭皮からね」

     䜜る順番で番号を振ったビニヌル袋を、ダヌさんが無蚀で手枡しおくれた。小麊粉や砂糖など、原料を蚈量しおその袋に入れろずいうこずだろう。䞭皮蚈量甚の袋には「䞭」ず曞いおある。

    「あ、工堎は䞭皮法か」

     玬麊は気づいた。

     工堎では倧量補造に適しおいる䞭皮法が採甚されおいる。街のパン屋の倚くは、ストレヌト法でパンを䜜っおいる。

     倧きな機械を取り扱う工堎では、機械の銬力に耐えるしなやかさを生み出す䞭皮法で、パン生地を䜜るのだ。

     䞭皮法は、生地がしなやかでふんわりした食感になる利点があるが、最倧の欠点は手間がかかるこずだ。ストレヌト法ずは異なり、回ミキシングしなくおはならない。぀の生地を䜜るために、蚈量を回しなければならないずいうこずだ。

     皮類のパンを䜜るために、䞀䜓䜕床蚈量しなくおはならないのか。玬麊は気が遠くなった。

    「぀むぎくんは、パン屋でバむトしおたんだっお」

     䞞さんの目は、しわの䞭に隠れおどこかわからない。玬麊が頷くず、しわの䞭から鋭く现い目が珟れた。

    「䞀旊その経隓は、忘れなさい。い぀か必ず圹に立぀が、今は必芁ない」

     そこからは、目を回す暇もないほどの忙しさだった。原料を蚈量するだけで時間以䞊かかった。

     蚈量したそばから、ダヌさんが生地を仕蟌んでいく。䞞さんはダヌさんの補助をしながら、真城のフォロヌにも入っおいた。双子か぀子か。そう感じるほど、俊敏な動きだった。

     蚈量が終わったず思ったら、次は成圢が始たった。

     成圢ずは、出来䞊がった生地を现かく分割しお、䞞めお䌞ばしお、圢にしおいく䜜業である。圢にしたら、トッピングやフィリングの包逡もしなくおはならない。商品の芋た目を決める、倧事な䜜業だ。

    「分割しお。たずはグラムね」

     真城の頭には、今日䜜る商品の芏栌や段取りが、党お詰たっおいるようだった。䜕をいく぀䜜るか。クリヌムは䜕グラムか。トッピングは䜕グラムでどのように魅せるか。真城が指瀺をし、䞞さんが蚀う通りに瞬時に動く。生地をカットしおいるだけの玬麊が远い぀けない。

    「䜙裕あったら生地を䞞めお。パン屋でバむトしおたなら、できるよね」

     分割した生地は、目的の圢にする前に、䞀床䞞くする。「䞞め」ず呌ばれる䜜業だ。あずの工皋をスムヌズにするためであり、べた぀く生地の衚面を䌞ばしお薄い膜を䜜り、粘着性を少なくしお機械でスムヌズに加工できるようにするためでもある。

    「぀むぎくん。ただ䞞めるだけじゃだめだよ。衚面が滑らかになるように、生地の目が䞀定の倧きさになるよう心掛けなさい。

     ここで䜜った目が、焌き䞊げた時の目になる。目の倧きさや均䞀さは食感ずなる。 

     食感はね、おいしさの䞀皮だから」

     䞞さんの声色は穏やかだが、手は絶え間なく動いおいる。倧したこずないね。黙っお聞いおいる真城の目がそう蚀っおいるようで、玬麊は顔を赀らめた。

     息を぀く間もなく、パンを仕䞊げおいく。「次グラム」「これはレヌズン散らしお」必芁な蚀葉ず、生地がボりルの壁を叩く芏則的な音だけが、響いおいる。焌き䞊げたパンの銙ばしい銙りを感じないほど、党員が集䞭しおいた。

    「あ。このパン、ゞャムじゃなくおフレッシュのいちご挟んだほうが良くないっすか」

     玬麊が叫ぶ。我ながら良いアむデアだず、圌は自分を耒めおいるようだった。

     䜜っおいた商品は、いちごゞャムず濃厚カスタヌドのスむヌツコッペパンだ。ゞャムもおいしいが、いちごをカットしお挟めば、いちご本来の酞味が加わっお味のアクセントになる。芋栄えも良くなるず、玬麊は考えた。

    「絶察その方がいいですよ。おれ、そのぞんのスヌパヌでいちご買っおきたすから。ブラッシュアップさせたしょうよ」

     真城ず䞞さんの手が止たる。こんな状況でもアむデアを出しおしたう、向䞊心しかない自分に感心しおるのだろうず、玬麊は錻を高くした。

    「原䟡が合わない」

     小麊粉粒萜ずしたのかず思う囁きだった。マスクをしおいるので、真城が蚀ったのだず気づくたで時間がかかった。

    「でも、お客さんだっお高くおもおいしいものを食べたいだろうし。倀段䞊げたっおいいじゃないですか」

     真城が、たっすぐ玬麊を芋据えた。

     怒っおいる。
     その時初めお、圌はその事実に気づいた。「簡単に蚀うな、ク゜が」圌女の芖線は、玬麊を貫こうずしおいる。

    「私たちの商品は、䞻にスヌパヌずか量販店なの。ドラッグストアに卞すずきもある。あずはコンビニね。そのなかで番高い䟡栌で販売できるのはコンビニ。平均は円。円ぐらいのものもあるけど、高いほど販売個数は少なくなるから、倀段蚭定は円以䞋にするこずが求められるこずがほずんど」

     真城は早口でたくし立おる。

    「スヌパヌずかドラッグストアはもっず䜎い。円のパンなんか売れない。せいぜい円ね。今蚀っおるのは販売䟡栌。卞倀だず、その掛けか掛け、぀たり円皋床。

     原材料費に振り分けられるのは、そのうち高くお割。円ね。あんた、いちご個いくらか知っおるの」

     玬麊は先日スヌパヌに買い物ぞ行った時のこずを思い返した。パックに粒から粒ほど入っおいお、円か円だった。小粒なものでも、粒円ほど。

     いちごだけで、原材料費の半分を食い぀くしおしたう。

    「いちご売りたいなら、いちご蟲家に行けば」ず冬の雚のような蚀葉が頭に降りかかった。

    「原䟡だけじゃない。わたしたちの商品は補造しお数日間、消費期限を満たす芏栌にしなきゃいけない。垞枩でよ。いちごが垞枩で痛たないわけないでしょ。

     䜜ったその日に食べおもらえる街のパン屋さんず䞀緒にしないで」

     真城が手を動かし始めた。連動しおいるのか、䞞さんも同じタむミングで動き出した。

     玬麊だけが、動かない。

     動けなかった。

    「そんな、街のパン屋をバカにしなくおも」

     パン屋でのアルバむトの日々を思い出す。暑くお、重くお、忙しくお、倧倉だった。店長や他のアルバむト仲間がいたから、諊めずにがんばるこずができた。みんな良い人で、䞀生懞呜だった。

     街のパン屋ず䞀星補パンでは、売䞊金額は比べものにはならない。けれど、それは街のパン屋を銬鹿にしおいい理由にはならない。いくら先茩でも、そのような物蚀いに我慢ならなかった。

     真城が肩を萜ずす。「党然䌝わっおないんだけど」ずため息を吐いた。

    「パン屋さんを銬鹿になんお、しおない。私たちに焌き立おのパンは提䟛できないし、街に根づいおいるパン屋さんは、その土地のお客さたのこずを考えお、毎日毎日、パンを焌いおいる。玠晎らしい職業だよ」

     でもね。真城は続ける。

    「街のパン屋さんず、党囜に工堎を持っお倧量補造しおいる私たちパン䌚瀟は、戊うフィヌルドが違うの。私が蚀いたいのは、それを理解しろっおこず」

     真城は手の䞭のパン生地だけを芋おいる。次の生地ができあがる。早く分割しないず。そう思っおも、玬麊は手を動かすこずができない。

    「玬麊くん、街のパン屋さんに就職し盎したら。それか、起業しお自分の䌚瀟䜜っお、奜きなこずしたら。向いおないよ、うちの䌚瀟」

     その倜は悔しくお眠れなかった。

     真城に蚀われた蚀葉が、生地を捏ねる音のように響いた。目の奥が熱くなり、うたく空気を吞えなかった。

     なぜあのようなこずを蚀われなければいけないのか。考えおもわからなかった。

     アむデアをブラッシュアップさせるこずの䜕が悪いのか。

     確かに、フレッシュのいちごを䜿うこずは難しいのだろう。しかし倧事なこずは、より良いものを䜜ろうずいう心構えのはずだ。その心構えを、耒められこそすれ、怒鳎り぀けるのはいかがなものか。

     埌茩の意芋を頭ごなしに吊定する真城の噚の小ささこそ、問題なのではないか。

     圌女の行動の至らなさを考え始めるず、目が冎えおきた。どうせ眠るこずができないのならばず、飛び起きおパ゜コンを起動させる。

     明日、勝朚郚長に意芋曞を提出しよう。

     真城は間違っおいるし、自分の考えは正しいはずだ。

     タむピング音をに、玬麊は明日の決戊に向けお気持ちを高めおいった。


     
     
     

    kanau.fonayi

     
     
    webラむタヌかなう ◆食、ペット分野の執筆が埗意なWebラむタヌ  ペット栄逊管理士の資栌あり ◆お仕事のご䟝頌はこちらから  kanau.fonayi23writing@gmail.com ◆小説も投皿したす。  ゚ッセむ、お仕事小説、SFなど。

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