
なぜか仲良くなったおじさんとの不憫で奇妙なご縁の話。
私は、数日前からそわそわしている。
前職でお世話になったのにめちゃくちゃ不義理を働いてしまったおじさんに「会いたいです」と連絡してしまったからである。
このおじさんは、契約社員として造園会社に入ってきた。
現場では足袋を履き、でかい声で物申すので一見「めんどくさそうな職人」なのだが、実は複数の国家資格を持ち、訓練学校で教員ができるほどの圧倒的なスキルの持ち主だった。
造園の仕事をする前は20年以上大企業で働いていたからか、マナーもしっかりしていて、通勤時はいつもピシッとスーツを着ている。
周りの社員や職人がなんとなくで作業をしているのを見て、「この除草作業はやっても無駄!意味がない!あとは剪定が下手すぎる!」など不満を持ちながらも、なぜか私とは仲良くしてくれた。
例えば、機嫌がコロコロ変わって私が苦戦していた現場のちょっと上の先輩や、きっちりやるのが正義!で要領の悪いだるいおっさんの愚痴を聞いてくれた。
焼き鳥屋さんに連れて行ってくれたこともあったし、グラスに塩をつけてお酒を提供してくれるバーにも連れて行ってくれたことがある。その時のおじさんは、バーの店員さんが「おっ」と思うようなスマートな佇まいであった。
おじさんの言い方は基本的にはぶっきらぼうだし、ちょっと時代に合わない発言もあるけど、そこには優しさがあった。
私が仕事のストレスでどうにかなりそうだった時、おじさんは「地元の島のお店に行かないか?」と誘ってくれた。
「関西からわざわざ四国に行って、さらに船で島に渡るって遠いなー」と思ったが、結果的に行ってよかった。
そこはおじさんの訓練学校の教え子(私より少し上くらいの女性)のお店だった。
なんの話をしたか覚えてないくらいにたわいもない話をして、充実感もあった。
あの時、砂浜で見た瀬戸内海の穏やかなさざなみと夕陽の美しさは忘れられない。
非日常な雰囲気で日々の疲れが取れて、本当に元気になった。そして夜にご馳走してくれたうなぎがめちゃくちゃ美味しかった。
おじさんも過去に精神的に病んだときがあったらしく、ボロボロの私をみて励まそうとしてくれたらしい。
そんな特大の優しさがあるのに、帰りのバスでは私との間にピシャリとカーテンを閉められていたような気がする。
爆睡してたんかもしれへんけど、余韻が欲しい。このおじさんはそういう雑い(マイペースなのか?)ところもある。
しかし、その後、私はメンタルを崩して仕事を辞めた。おじさんは「残念だ、残念だ」と惜しんでくれていた。
そんな温かいおじさんに、今思えば人生最大級のやらかしをしてしまったことがある。
おじさんが立て替えていたお金を会社から預かったままで、退職してしまったのだ。
おじさんの社用携帯から「いつ会えるのか?」とメッセージで聞かれ続けて、面倒くさいなーと思いながら、やっと私が会う気になったのが3ヶ月後。
軽い気持ちでお金を持ってカフェに行くと、おじさんが待っていた。ヘラヘラして席につくと、おじさんの顔が変わった。
「お金はすぐに返さないといかん!信頼をなくす!社会人としてなっていない!あなたは精神的な病が治ったと言ってるけど治っていないと思う!」
本気のトーンでしっかりと怒られた。
家で夫に「また精神的に病みそう、この病になると一生治らないと聞くが、私はもう戻らないのか?」「怖すぎてもう会いたくないな」と泣きついた。
おじさん、少し言い過ぎである。
けれどもお金の件に関してはおじさんが100%正しい。1万円を超える大金だったのもあり申し訳ない気持ちでいっぱいである。
もちろん、いくらであってもすぐに返さなければならない。恥ずかしながら、お金に関してはちょっとだらしないところがあったので反省した。
大人になると、なかなか怒ってくれる人も減るので、本当に優しい。そしてありがたい。
それ以降、お金のやりとりを友人との間でする時はおじさんの顔が浮かび、「すぐ払う!!!」と言い聞かせて、今すぐ払うようにしている。
ちなみに、私がおじさんの連絡を無視していた期間、おじさんは不憫な目にあっていた。
やっとの思いで、「社員」になれたが年功序列のルールが厳しくて「平社員として」だった(本人は係長以上を希望)し、担当していた公園の横の川でおじいさんの遺体を発見し、丸一日警察で事情聴取を受けたらしい。
おじさんは厳しい感じも出しつつも、不運に見舞われ、とほほとなっていることも多い。
そんな大変なことになっているとはつゆ知らず、私はメッセージを未読無視し続けていたのだ。ほんまに不義理がすぎる。
そのやりとりから半年経ち、いきなりおじさんからメッセージが来た。
「7月に〇〇さんと馬刺しを食べにいくけど、来る?」
馬刺しなのは〇〇さんの出身地の名物だからだろう。
誘ってくれて、気にかけてくれてるんだなと思って嬉しかった。
けれども前職の人と会うことの不安や、怒られたことに対するトラウマに勝てる気がしなくて、「前の仕事のこと思い出したら病んでしまいそう」と思い、数日悩んだ末に断ってしまった。
それから1年程経った数日前のこと。
私は夫とちょっと前に生まれた娘と3人で公園に行った。仲のいい先輩がその公園で写真撮りたい!といってくれたからである。
実は、その公園ではおじさんが植栽管理をしている。「いきなり遭遇したらどうしよう」とバクバクしながら公園事務所のトイレに行ったところ、トイレの清掃サインの欄にあの「〇〇さん」の名前を見つけた。
「えっ、〇〇さんがいるってことは、おじさんも今、この近くの現場にいる!?」
もし遭遇してしまったら何を話せばいいのか、〇〇さんには感謝も言えずにいきなり辞めたので何を言われるだろうか。
そう考えると、息も上がるくらい心臓がバクバクした。
結局、受付の若い女の人が見えただけで、〇〇さんの姿もおじさんの姿も見えなかった。
公園にいる時におじさんに連絡するかどうか悩んだが、もし遭遇したとして、私が元気なくなったら家族にも悪いなと思ってやめた。
翌日、決心して「昨日、公園に行きました」とメッセージを送ってみた。
するとまさかの「未配信」。
「え、おじさんは会社を辞めてしまったのか?!それとも、ついに着信拒否されてしまったのか?!それか会社にやりとりがバレた?!
私が辞めてからもあんだけ連絡くれていたのに、そんななんも言わずに消えてしまうことある?!
あーなんと寂しい世の中だ。たまにしか連絡とっていなかったとはいえ、連絡先が消えたらもう一生会えなくなるのか」
と残念な気持ちになった。
まあ諦めるかと思っていたが、スーパーに行ってもずっと悶々としていた。
2、3時間どうするか悩み抜いた末、私はあの四国の島のお店のインスタへ飛び、ダメ元でDMを送った。個人的には結構勇気のいる行動だった。
するとすぐにお返事がきた。
「え!こんなことある?!今日おじさんにも『あなたの連絡先を知らないか?』と聞かれて、インスタのアカウントを教えたところ!これがメールアドレスだから送ってみて!」
なんと言うタイミング!
ご縁を感じずにはいられなかった。
Yahoo!メールなんやほんで。
ハイテンションのまま、メールを送った。
翌日お返事が来た。
待たされたわと思いながらドキドキしながら開封。
「本物なのか?!今、あのお店の子とご飯食べてるよ!出産おめでとう!」
久々のメールにしては短文である。
ガラケー時代のテンションでメールを送ればいいんか?と思いつつ、あんまり何も考えないで「本物です!すごい縁ですね!また会いたいです!」と送ってみた。
どんな返事が来るのか、具体的な日時や場所の話が来るのか?と思いながらドキドキしていた。
すると、来た返事は
「本物か、失礼。
落ち着いたらまた会おう!」
あまりにもあっさりしていたので、拍子抜けしてしまった。
なんか学生時代に気になった子に連絡して、思ったのと違う返事が来て気まずかったのと似たような感覚。
まあおじさんらしい。
実は、この返事はまだ返せていない。
具体的に日時を決めるべきか置いとくべきか悩んでいる。
ちなみに、社用携帯にメッセージが届かなかった理由は、退職でも着拒でもなく「ただ水没したから」だそうだ。
しっかりしてほしいし、着拒を疑って落ち込んだ時間を返してほしい。
もし「今度」があるならば、絶対に馬刺しを食べに行こう!と思った。あるかわからんけど。まあでも、なさそうなら、今度は私から勇気を出して誘ってみようかな。
あんなに怖くて会いたくなかったおじさんなのに、こんなに強いご縁を感じさせられたら、もうこっちから動くしかない気がしてくる。
まあこっちが気合い入れて誘ったとしても、「そうだな。」とかいうあっさりした返事が来るだけな気しかせんけど。