飲み会に行かない、ランチも一人。「置いてけぼり」にならない距離の取り方
行きたくない。でも孤立したくない私の「省エネ社交」について。
■給湯室の「置いてけぼり」
例えば、給湯室の手前で足が止まることがあります。中から、どっと弾ける笑い声が聞こえてきます。
「いやー、部長、最高でしたよね」
「あれは伝説になる」
「二軒目のあの流れ、絶対あとで思い出して笑いますよ」
飲み会の日、私は家でカップスープをすすっていました。伝説には立ち会っていません。
マグカップを持ったまま、そっと回れ右をして、トイレに用事がある人の歩き方で廊下を戻ります。
誰にも見られていないのに、なぜ人は「用事がある風の歩き方」を、瞬時に習得してしまうのでしょう。人類の不思議です。
宴会の翌日は、奇妙な日です。
誰も私を責めていません。仲間はずれにされたわけでもありません。
ただ、昨夜の続きが繰り広げられている場所に、私が入るすき間はない。
参加勢の彼らは、特に無神経なわけではなく、もちろん悪意でもなく、ただ楽しんでいるだけです。そして、不参加勢は蚊帳の外です。前作を観ていない続編の客席に、ひとりだけ座っているような気分です。
■行きたくない。でも、孤立はしたくない
飲みニケーション、という言葉があります。
飲む、と、コミュニケーション。
「酒を飲めばみんな仲良くなれる」という魔法の約束が、名前の中にこっそり仕込まれています。
何でしょう、これ。
会社の宴会に行きたくない。その気持ちは、わがままでも、協調性の欠如でもありません。プライベートの時間を削りたくない若手や、家庭や体力との兼ね合いを考える人を中心に、参加しない人が少なくない職場も、珍しくなくなりました。
それなのに、翌朝になると、胸のあたりがざわつく。
行きたくない。でも、置いていかれるのは寂しい。
この二つは、矛盾しているように見えて、ごく普通に同居します。もっといえば、多くの人の本音は、こうではないでしょうか。
一人でいたい。でも、完全に一人になるのは嫌。
飲み会を断る方法だけなら、世の中にたくさんあります。
でも、本当に困るのは、断ったあとです。翌朝どう振る舞うか。昼休みをどう過ごすか。誘われなくなったら、どう気持ちを整えるか。
これは、孤独を肯定する話ではありません。孤立せずに、距離を取る話です。
■発電式と充電式
宴会に行く人たちを眺めてみます。彼らは、たいへん働き者で、愛らしい生き物です。
沈黙が三秒続くと、体が勝手に動く「場の温度係」。
グラスの減りをレーダーのように察知する「注ぎ足し番」。
一次会が終わりかけると現れて、灯りが消えるのを惜しむ「二次会の灯台」。
一方、行かない側にも、いろいろな人がいます。
終業のチャイムとともに音もなく消える「定時の風」。
会費と拘束時間と翌日の疲れを、頭の中で秤にかける「損得計算派」。
夜だけでなく昼も一人でいたい「ランチも一人の隠者」。
最後の一人は、私です。
この二つのグループを見比べて、ひとつ気づいたことがあります。
参加勢は、人と会うと電気が起きる「発電式」。不参加勢は、人と会うと電気が減る「充電式」。
電池の型式が違うだけなのです。
どちらが正しいでも、どちらが劣っているでもありません。
ただ、発電式の人は、自分が電気を起こしているので、充電式の人が電池切れになっていることに気づきにくい。だから「来ればよかったのに」と、悪気なく言えてしまう。
社交には、個人差があります。すべて、この型式の違いから出発しています。
■宴会に行かないこと自体は、問題ではない
宴会は、仕事の場というより、儀式の場だと思います。「同じ釜の飯を食った」という古い言い回しの、現代版。
意味があるのは、実務よりも、象徴のほうです。
私は昔、その儀式の皆勤賞でした。断るのが怖かったのです。
「行きません」と言ったら、感じの悪い人だと思われるのではないか。そんな想像に押され、ウーロンハイのグラスを持って三時間笑顔を貼り付け、帰宅すると玄関で靴も脱げずに溶けました。名付けて「玄関スライム」。
あのとき貯めていたのは、仲間意識ではなく、疲労のほうだったと思います。
ある日、風邪気味で初めて宴会を欠席しました。翌日、私は身構えていました。ところが、誰も何も言いません。私が休んだことに気づいていない人までいました。
安堵と、ほんの少しのさびしさが、同時に来ました。
人は、自分が思うほど、他人の不在を気にしていません。私の欠席は、私の頭の中でだけ、大事件でした。
ただし、翌朝の「置いてけぼり感」だけは、簡単には消えませんでした。ここには、それ相応の工夫がいります。
■社交を捨てずに、社交のコストだけ下げる
私が試行錯誤の末にたどり着いたのは、こういう考え方です。
社交を捨てずに、社交のコストだけ下げる。
この記事は、飲み会に行かない人を慰めるための記事ではありません。飲み会に行かない自由を守りながら、職場での関係まで手放さないための、実践です。
そんなつもりで、私が実際に使っている、そして使って失敗もしたやりかたを、十の場面に分けてまとめました。
- 幹事に声をかけられたとき、何と返すのか
- 翌朝の盛り上がりの輪に、どう立つのか
- 昼休みを一人で過ごして、浮かないためには
- 「誘われなくなった」とき、何を考えればいいのか
学問的な話ではなく、私が使ってみて「たぶんこういうことなんだろう」と思った、生活の知恵です。
全部を覚える必要はありません。今日いちばん困っている場面だけ、拾ってください。
■行かないことへの罪悪感を、少し軽くする
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