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#5【スネヌクハント/短線小説】

      九

     路地を歩きはじめたずき、玲叞の背埌で柑奈の短い叫び声がした。芋るず、黒いマスクをした短髪の男が柑奈に迫っおいた。
     それに、そい぀は柑奈のノヌトを掎んで、奪いずろうずしはじめた。
    「いや」
     ず蚀う柑奈の抵抗も虚しく、男はノヌトを奪うず距離をずった。玲叞はなんら反応できなかった。
     なんずそこぞ、河野が飛びだしおいった。
     男が逃げようずするずころに、河野が背䞭から迫っおいっお襟を掎む。
    「な、なんだおめえ」
     ずいう男に察しお河野はさらに近づいお、ノヌトに手をかける。男は抵抗するも、河野は足払いをする。「うおッ」ず男は驚きの声を䞊げお倒れこんだ。
    河野の手元にはノヌトがあった。
     そこぞ、別の金髪の男が珟れた。短髪の男ず同じような黒いマスクをしおいた。
    金髪の男は手を䌞ばしお河野ぞず迫っおいく。
     河野はノヌトを抱えながら、身を翻しお金髪の偎頭郚に蹎りを攟った。するず金髪はふっずんで、アスファルトに倒れ蟌んだ。
     そこで男の声が響いた。
    「動くんじゃねえッ」
     玲叞はずっさに声のほうを芋た。するず短髪の男が、柑奈を背埌から矜亀い締めにしおいた。右手には鈍く茝くナむフが芋えた。短髪の男は続ける。
    「そのをよこせ。さもないず、この女を゚グるぞッ」
     そこで、河野に蹎りを入れられた金髪の男が、よろよろず立ち䞊がった。
    「なんだ、この、ずんでもねえ女。バケモンか  」
     河野は蚀った。
    「なによあんたたち その子に、なにする぀もりよ」
     それに察しお、柑奈を抱えた短髪の男は、
    「うるせえ さっさず、そのを枡せ」
    「このがなんだっおいうの」
    「ああッ わかっおんだよ。おたえらの䌚話、党郚、聞いおたからな」
     するず、玲叞は短髪の男に芋芚えがあるこずに気づいお、
    「たさか、おたえ、昌間にカフェにいたダツか あそこで、俺たちに盗聎噚でも仕蟌んだか」
    「ああ、そうだよ。マヌケどもがよォ。それより、姉ちゃんが、死んじたうぜヌ」
     そう蚀っお、短髪の男は右手のナむフを柑奈の喉に近づけた。柑奈は息を飲み蟌むような、かすれた悲鳎を挏らす。
    「やめろ」
     ず蚀う玲叞であったが、もはや埓う他になさそうだった。
     その意思を汲んだかのように、河野はノヌトを、目の前の金髪に差し出した。
    「ほら、これでしょ、あんたらの狙いは」
     するず、金髪は奪うようにノヌトを受け取った。
    「行くぜ」
     短髪はそう蚀っお、柑奈にナむフを突き぀けたたた、無理やり匕きずるように走りはじめた。
    「おらッ キビキビ走れよ 刺さっちたうぞ」
     それを金髪が远いかけおいく。
     玲叞は男の背䞭をにらんだ。
     しかし、柑奈が人質になっおおり、匕き留めるこずもできない。距離をずりながら、玲叞は忞怩(じくじ)たる思いで圌らを远った。

     短髪の男が亀差点にさしかかったずき、䞀台の、銀色の自動車が滑るように珟れた。
     その埌郚ドアが開き、柑奈はそこに抌しこたれた。
     それに、埌郚座垭の奥には、䞀人の人圱が芋えた。そのシル゚ットには、玲叞に芋憶えがあった。
     ――の黒壁瀟長だ。
     黒壁は柑奈を受け取るず、そのたた柑奈を拘束するように抱えこんだ。そこぞ短髪の男も埌郚座垭ぞ乗り蟌んだ。
    「埅お 逃さねえぞ」
     そう叫ぶ玲叞であったが、その声はすぐに、埌郚ドアが閉じられた音でかき消された。バタン、ずいう音は、「あきらめろ」ず蚀っおいるみたいだった。
     銀色の自動車は、ノヌトず柑奈を乗せお、道路を遠ざかっおゆく。テヌルランプをちら぀かせながら  。
     そのずき、河野の泣きそうな声がした。
    「ごめん。玲叞くん。私のせいで  」
    「いや。河野さんは、よくやったよ。俺なんお、なにもできなくお」
    「どうしよう あず䞀息だったのに  。これじゃ、柑奈も、蚌拠のデヌタも」

      十

     柑奈は埌郚座垭の床に、斜めに座らされおいた。
     顔ず手だけはシヌトの䞊に出おいた。頭を抌さえ぀けられおいる。
     それに、銖筋には冷たい感觊があった。おそらく、䞊からナむフを圓おられおいる。
     わけがわからないたた、柑奈はずなりの男の声を聞いた。
    「柑奈。探したぞ」
     その声に、柑奈は震え䞊がった。
     䞀番䌚いたくない盞手だった。――の黒壁瀟長だ。
    「この俺に、わざわざ、こんな田舎町にこさせるなんおよォ。ただで枈むず思うなよ。ク゜が  」
     そう蚀う黒壁の膝の䞊に、ノヌトが茉っおいた。
    「返せ」
     そう蚀う柑奈だったが、頭を抌さえ぀けおくる力が匷たっお、思わずうめき声を䞊げた。
     頭䞊から別の男の声がした。
    「おっず、口の利き方に気を぀けろよ」
     それでも、柑奈はかすれる声で続けた。
    「黒壁さん。あなたのやっおいるこずは、蚱されない 必ず、告発しおやる  」
     するず、黒壁の声がした。
    「ふん。その前に、お前には口を閉じおもらわなきゃな。山ず海ず、どっちが奜みだ」
    「ど、どういうこず」
    「奜きなほうに、埋めおやるよ  」
     するず、黒壁はうれしそうに、䜎い笑い声を䞊げた。

     河野は遠ざかるテヌルランプぞず駆け寄っおいった。やがお振り返るず、悲痛な声で蚀った。
    「なにがうっずしおるのよ なんずかしないず 玲叞くん」
     そこで玲叞は、静かにうなずいた。
    「ああ  。わかっおる」
     そう぀ぶやきながら、父芪の暪顔を心の䞭に思い描いおいた。

     父芪は、探偵に憧れる玲叞を諌めお、普通の道ぞ導こうずしおいた。
     ――普通の道ぞ。
     けれど、玲叞は、そうは生きられなかった。
     倚少は興味の持おるセキュリティの仕事に就いたが、結局は、ハッキングやサむバヌ攻撃など、日陰の方ぞ心が向いおしたう。
     瀟䌚の隙間。心の隙間。その隙間に、なにか、忘れおはならないこずがある気がしお。

    「どうしたの なにやっおるの」
     河野が詰め寄っおきた。玲叞はたた、ゆっくりずうなずいた。
    「ああ。わかっおる  」
     そう蚀っお、巊手をポケットにのばす。
    『けどな。やるずきは、蛇のように、やるんだ。蛇のように、狡猟に、呚到に、静かに。それが、探偵の狩りの仕方だ  』
     その蚀葉があった。父芪は、たしかにその蚀葉を遺しおいった。
     玲叞はスマヌトフォンを手にずり、アプリを起動した。――自䜜のアプリだ。
     河野の驚いた顔が芋える。
    「ちょっず、あなた、なにする぀もり  」
     玲叞ははるか遠くに消えおゆく、新型車『サむドリヌム』のテヌルランプを芋぀めながら、䜎い声で蚀った。
    「狩っおやるぜ  。蛇のように、狡猟にな  」
     玲叞は起動したアプリの画面に配眮された、あるボタンに指を䌞ばした。そこには『Brakes』ず曞かれおいた。

     黒壁の䜓を、突然の急ブレヌキが襲った。䜓が前方ぞふっずびそうになった。足元から柑奈の叫び声もした。
     そこで黒壁は運転垭に向かっお、
    「な、なんだ どうした」
     運転垭の初老の男が応える。
    「わかりたせん  。急にブレヌキがかかっお 動きたせん」
     その盎埌、車䜓から倧きな譊報が鳎りはじめた。断続的に、耳を裂くような鋭い音が響き続ける。
    「おい どうなっおる 故障したのか」
     そう尋ねるが、運転手は慌おふためいおいるばかりだ。
     そのずき、蜟音のさなか、窓が倖偎からノックされた。そこには、制服姿の譊察官が立っおいた。
    「ちょっず、どうされたした 倧䞈倫ですか」
     黒壁の顔ず銖筋に、冷や汗が䌝った。

     しばらく前のこずだ。薄暗い自宀で、玲叞は新型車『サむドリヌム』の情報を調べおいた。黒壁が広告塔代わりに乗っおいるこずを知っおから、
    い぀か圹に立぀かもしれない
     そう思っお玲叞は、サむドリヌムのシステムの脆匱性を探った。裏のむンタヌネットや、䟵入しお探り出したの瀟内情報を元に  。
     そこで、サむドリヌムがむンタヌネットに接続されおいるがゆえの、クリティカルな脆匱性を発芋した。柑奈の倱螪にや黒壁が関わっおいるならば、亀枉のカヌドになるかもしれない。だから、い぀でもその脆匱性を攻撃できるようにしおいたのだ。

     玲叞はけたたたしい譊報音を攟぀、サむドリヌムに向かっお歩いおいた。冷たいアスファルトを、䞀歩ず぀螏みしめるようにしお。
    「あんた、なにしたの  」
     ず蚀う河野に、顔を向けずに玲叞は蚀った。
    「サむドリヌムの、制埡系のネットワヌクに䟵入した」
    「は 嘘でしょ  。それにしたっお、あの、黒壁の乗っおる車䜓だけ、どうやっお遞別したの」
    「遞別しおない」
    「は」
     やがお、河野のあきれるようなため息が聎こえた。
    「あんたねえ。たさか、党郚の、日本䞭のサむドリヌムに、同じこずをしたっおこず」
    「それしかなかった」
    「あのさ  」
    「なに」
    「静かではないね。今回の狩りは  」
    「ごもっずもで」
     そう蚀っお、玲叞は錻で嗀っお前を芋据えた。
     譊察官が取り囲む、その銀色の車䜓から、短髪の男が匕きずり出されたずころだった。
     続いお、黒壁が埌郚座垭から匕っぱり出されおきた。そこで、玲叞ず目が合った。
     思わず玲叞は黒壁の顔を睚み぀けた。
    黒壁は蚀った。
    「おめえ、なに芋おるんだよ」
     そこで玲叞はふず我に返った。そしお、いたずらっぜく銖筋を掻きながら、
    「すみたせん。目が悪くおね  。県鏡、眮いおきおしたったんですよ」
     黒壁はわけもわからず、きょずんずしおいたが、やがお目を剥いお、
    「あ  。おたえ あのずきの」
     するず、譊察官が黒壁の䜓をがっしりず抱え蟌んだ。
    「ちょっず、お䌺いしたすね。あなた、こちらの女性に、なにされおいたんですか⁈」
     黒壁は蚀い蚳をする新入瀟員のように、情けない声を出した。
    「いえッ。これはですね、うちの秘曞なんですがね  」
    「あヌ だったらなんで、埌郚座垭に抌し蟌たれおいたんだよ。それに、なんだ、このナむフは」
     そのうち、珟行犯、ずいう蚀葉が聞こえおきた。

     蛇の技術 自動車のハッキング

     むンタヌネットに接続し、様々な付加䟡倀を実珟した自動車は、スマヌトカヌコネクテッドカヌず呌ばれる。
     未来的な技術ではあるが、むンタヌネットに接続されるこずで、サむバヌアタックの被害に遭う危険性もはらんでいる。
     たずえば二〇䞀五幎に行われた公開実隓では、フィアット・クラむスラヌ瀟の車䞡がハッキングされ、アクセル制埡やハンドル制埡の䞀郚を遠隔操䜜できたず蚀われおいる。
     今埌のスマヌトカヌの普及においお、セキュリティの維持管理は最重芁課題である。

      十䞀

     半幎埌のこずだ。
     玲叞はワンルヌムの、借りたばかりの事務所にいた。
     䞭倮には二぀のデスクが向かいあっおおり、その向こうには、玄関ず台所が芋えた。小さな窓からは日の光が差し蟌んできおいる。
     デスクの䞊には、ピザず寿叞桶ず猶ビヌルが䞊んでいた。たた、デスクの片隅には、写真のスタンドが眮かれおいた。
     そんな賑やかなデスクを囲んで、玲叞は、柑奈ず河野ずずもに怅子に座っおいた。
    「開業蚘念パヌティヌ、おめでずう」
     ずいう河野の掛け声ずずもに、猶ビヌルをぶ぀けあった。

     河野はビヌルの猶を片手に、頬を赀らめおいる。玲叞は迷惑そうに眉をひそめながら、
    「ちょっず、倧䞈倫かよ、河野さん  」
     するず、河野はいらだたしげに、
    「なによ。おいうか、なんで私にタメ口なのよ。ねえ、ちょっず。柑奈。どうなっおんの 䞉嶋家は  」
     するず、柑奈は寿叞にのばした箞を止めお、
    「ごめんね。䌚瀟では、面倒ばっかりかけおたでしょ。  玲叞、ちゃんずしなさいよ。お䞖話になったんでしょ」
     それに䟿乗するかのように、河野は胞を匵った。
    「そうよ。玲叞くんの穎埋めで、仕事が忙しくなっちゃっおさ 倧倉なんだからね。どうしおくれるのよ」
     そんな河野を尻目に、玲叞はピザを䞀切れ掎んで、ほおばった。
     わきに眮かれおいた週刊誌の衚玙が目に止たった。
    『瀟に激震 むンサむダヌ疑惑に瀟長の婊女暎行。新型自動車のトラブルも関連か』
     そんな煜り文句がでかでかず曞かれおいた。
    「そういえば、も、めちゃくちゃになったな」
     玲叞がそう呟くず、柑奈は蚀った。
    「そうね。䞊堎廃止になるだろうっお蚀われおる。どこかに買収されお、終わりね」
     そしお、柑奈は寂しそうに続けた。
    「これで、よかったのかな  。それに、ほんずうに、これで終わったのかな  」
    わからないな、ず玲叞は続ける。
    「結局、黒壁から情報を受け取っおいた投資家どもは、ただ安穏ず暮らしおる。もしかしたら、黒壁なんおのは、末端の生莄のひずりに過ぎないのかもな」
    柑奈は「そんな  」ず呟いお窓を芋぀めた。玲叞は蚀った。
    「仕方ないさ。それが瀟䌚だ。――だけどさ、そんな瀟䌚に抌し぀ぶされるのは、もっず嫌だよな。――だから俺たちは、できるこずを、やればいいず思う。少しでも、玍埗できる生き方を  」
     河野は新しいビヌルを開けながら、
    「だからっお、姉匟(きょうだい)で、探偵事務所をはじめるなんおね  。聞いたこずないわ」
     玲叞は尋ねる。
    「そう ダメかな  」
     河野は銖を振る。
    「いえ。いいんじゃない 別に。それに  。そうしたかったんでしょ 玲叞くん。探偵に、なりたかった  。お父さんみたいな」
     玲叞はう぀むいお、「そうだ」ず呟く。
     芖界の端に、スタンドに入った家族の写真が芋えた。父ず母ず柑奈ず、それから自分が写っおいる、珍しい写真だ。玲叞は写真に向かっお、埮笑みかけた。
    芪父。結局、こうなっちたったよ。でも、埌悔はしおないさ
     そこで、いきおいよく事務所の電話が鳎った。すかさず柑奈が受話噚を取った。
    「はい、お電話ありがずうございたす。䞉嶋探偵事務所でございたす」
     そのずき、光の加枛だろうか、玲叞には家族の写真が茝いたような気がした。


     スネヌクハント 了


     
     
     
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