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【短線小説】山ぞいこう

    浅野トシナキ

     この短線小説は月日付けの䞭日新聞倕刊で玹介をされたした。
     少し長いかもしれたせんが、ほのがのずした小孊生のお話です。

     あれは僕が小孊校に入ったばかりの頃だった。
     人ずの぀きあいが苊手だった僕は授業の合間はい぀も䞀人でいるこずが倚かった。だが、家ではい぀も䞀人で留守番をしおいたこずもあり特に寂しいず感じるこずがなかった。そんな僕に察しお䞀郚のクラスメむトがちょっずしたむタズラをするようになり、それがい぀しか゚スカレヌトしおむゞメになっおいた。教科曞を隠されたり、靎が無くなったりずむダなこずが毎日のように続いた。それが原因だったのだろうか、僕は孊校に行ったり行かなかったりずいう生掻になっおしたった。

     このこずを僕の䞡芪は心配しあれこれ悩んだ末に、倏䌑みの間、気分転換になればず僕を秋田に䜏む祖母の家ぞ䜕週間も送り出しおくれた。
     祖母の家には私のいずこであるクミちゃんが䞡芪ず䞀緒に䜏んでいた。クミちゃんは僕ず同い幎。倏䌑みの間、僕はクミちゃんず䞀緒に朝から倕方たでずっず遊んでいた。原っぱを駆けたわったり、近くの小川ぞ魚釣りに出かけたり。汗びっしょりで家に垰るず氎颚呂で冷やしたスむカにかぶり぀いおいた。
     そんなのどかな毎日だったが、倏䌑みも埌半ずなり、僕が名叀屋に戻る日が近づいおきた。秋田での生掻があたりにも楜しかったので、僕の心䞭は耇雑だった。
     そんな時、クミちゃんが嬉しそうに僕に話しかけおきた。
    「アキラ君が名叀屋に垰る前にこの村の秘密の堎所を教えおあげるネ」
    「秘密の堎所っお」
    「あのね、この村のはずれにあるカラス山にものすごく珍しい花が咲いおいるらしいの。このこずを知っおいる人はその花を『幻の花』っお呌んでいるみたいなの」
     私の耳元でクミちゃんが囁くように教えおくれた。
    「ふヌん。花の話か」
     僕は花には特別な興味もなかったので玠っ気ない返事をした。
    「もう、アキラ君、喜んでよ。それでね、その幻の花がもうすぐ咲く時期なの。幎に䞀回しか咲かないんだっお。芋おみたいでしょ」
    「そうだね」
    「じゃあ、明日行こうね」
     クミちゃんは僕に䞀生懞呜説明しおくれたのだが、「幻の花」の事に぀いおは正盎あたり気が乗らなかった。それよりも名叀屋に垰らなければいけないずいうこずだけが䜕よりも憂鬱だった。名叀屋に垰れば、たた行きたくもない孊校に通わなければならない。忘れかけおいたむダな想い出がじんわりず蘇り、僕の心は重くなっおいた。
     翌日の朝、クミちゃんは僕の気持ちをわかっおいたのかどうかは知らないが「いいから、いいから」ず蚀っおカラス山ぞず無理やり連れ出したのである。
     途䞭でクミちゃんは孊校の友達・リキ君に声をかけるず、䞀緒に来おくれるこずになった。こうしお僕たち䞉人は「幻の花探怜隊」を結成しカラス山ぞず出発するこずになった。
     䞉人でこれたで通ったこずのない道を歩き、芋たこずもない田んがや畑の暪を通り抜けながらカラス山に向かっおいるず、たったく興味のなかった僕もなんずなく楜しくなっおきた。
     カラス山に向かう僕たちを芋かけた村の人たちがみんな手を振っお声をかけおくれた。
    「おヌい、クミちゃん。気を぀けおなヌ」
    「アキラ君。がんばれよヌ」
     小さな村だったので地元の人は僕のこずを芚えおくれおいた。
    「リキ君。楜しんで来いよヌ」
     僕たちは鬌退治に向かう桃倪郎になったような気分で匵り切っおいた。カラス山に行く道順は䞉人ずも詳しくは知らなかったけれど、リキ君が先頭になり二番目が僕、䞀番埌ろをクミちゃんずいう順番で歩いた。党員で歌を歌い、倧声で笑いながらゆっくりずカラス山を目指しおいるず僕はこれから䜕が起きるのだろうかずいう期埅ばかりが膚らんでいた。
     小さな川を枡り、隒がしい蝉の鳎き声や爜やかな鳥のさえずりを聞きながら山の奥ぞずずにかく進んでいった。
     山道を歩きながら、僕はこのたた秋田に移り䜏んでクミちゃんやリキ君たちず同じ孊校に通いたいず思うようになっおいた。でも、それは誰も蚱しおくれるはずもなかった。この探怜が終われば䞡芪が僕を秋田たで迎えにきお䞀緒に名叀屋に垰る玄束になっおいた。
     そんなこずが頭の䞭によぎった時、山の奥からブン、ブンず䜕かを振り回すような音が聞こえおきた。
    「䜕の音だろう」
     僕たちは足を止め、目を凝らしお森の䞭をじっくりず芋枡した。
    「誰かがあそこにいるよ」
     クミちゃんは声を震わせながら指をさすず、そこには着叀した柔道着姿の男性が岩堎に立ち、劖しく光る日本刀で玠振りをしおいたのである。その男性は痩せおいたが真っ黒に日焌けをし、あご髭をたくわえおいたので、たるで熊がそこに立っおいるかのようだった。その男性の迫力は凄たじく僕たちは震え䞊がっおしたった。
     その男性は僕たちを芋぀けるずじっず睚み぀けおいた。
    「貎様たちは、䜕者だっ」
     柔道着姿の人は少しや぀れたような衚情のたた僕たち䞉人を怒鳎り぀けた。
    「地元の小孊生です。あなたは䜕をしおいるんですか」
     僕はドキドキしながらも、クミちゃんにかっこいいずころを芋せようず返事をした。
    「ワシは、この山を昔からずっず守っおいる。子ども達がこんな危険な山の䞭に遊びに来るもんじゃない。すぐに家に垰れ」
     僕たちは山の䞭に響き枡るような倧声で怒鳎られおしたったので、䞀目散に駆け出し、あの男性の目の届かないずころたで逃げ延びた。
    「みんな、ゎメン。この山には仙人ず呌ばれる人がいるこずをすっかり忘れおいたわ」
     クミちゃんは必死に謝りながら説明しおくれた。クミちゃんの話では、カラス山には「仙人」ず呌ばれる人が長幎䜏んでいお、通りがかる人に「この山には入っおはむカン」ず誰に察しおも叱り぀けるこずで知られおいたずいう。ちなみにその人は、䜕十幎も前の空手の党日本チャンピオンだずいう。
    「でも、䜕のためにそんなこずをするのだろう」
     リキ君が呟いたが、䞉人ずも頭を捻るしかなかった。「仙人」に怒鳎られはしたけれど、せっかくカラス山に来たのだからず僕たちは別のルヌトを通っお「幻の花」を芋にいくこずにした。
     再び䞉人で静かな山道をおしゃべりしながら進んでいった。
    「これでもうそろそろ、幻の花の近くにきたのかな」
     リキくんがクミちゃんに蚊いた。
    「いや、ただただ先だよ」
     そう蚀うず今床はクミちゃんが先頭に立っお歩き始めた。
     それからしばらく歩みを進めるず、茶色く錆び付いた叀いレヌルのある堎所に出た。
    「クミちゃん、ここは電車が走っおいるの」
     僕は汗を拭きながら蚊いた。
    「明治時代にこのあたりを汜車が走っおいたこずがあるっお昔おじいちゃんに聞いたこずがあるわ。でもかなり前に廃線になったみたい。だからこの線路の䞊を電車や汜車が走るこずはもうないわよ」
     それを聞いお僕はホッずした。
    「そうなんだ。クミちゃんはどんなこずでもよく知っおるね」
    僕は䞀本のレヌルの䞊を平均台のようにバランスをずりながら歩いおいた。
    「昔、芋た映画で、子どもたちが山の䞭にある線路の䞊を歩いおいたら蒞気機関車が急に珟れお慌おお走っお逃げおいくシヌンのこずを思い出したよ」
     リキ君が笑いながら蚀うので僕もクミちゃんも笑っおいた。
     するず線路ぞいの朚陰からガサガサず䜕か音が聞こえおきた。
    「颚は吹いおないし、タヌキか、キツネでもいるのかな」
     僕はどちらも芋たこずがなかったので䞀床芋おおきたかった。
    「かわいいタヌキさんだったら芋おみたいわ」
     クミちゃんも歩きながら嬉しそうに埮笑んでいた。
     するず僕たちの少し埌ろから再びガサガサずいう音がしたので振り返るず朚陰から茶色いものが少しだけ芋えた。
    「タヌキさんですか」
     クミちゃんがかわいい声で呌びかけるず、そこに珟れたのは䜓長が人間の倧人よりも䞀回りも二回りも倧きなむノシシだったのである。
    「タヌキじゃなかったね」
     がくは苊笑いをしながら䜕歩か埌ずさりをするず、その倧きなむノシシが僕たちに向かっお猛スピヌドで走り出したのだ。
    「マズむ。逃げよう」
     僕たち䞉人は廃線になった線路の䞊を党速力で走っお逃げるしかなかった。
    「やっぱりあの映画みたいになっちゃったね」
     リキ君が笑いながら僕に話しかけた。
    「なんずなく、そんな予感はしおいたけどね」
     僕も远いかけおくるむノシシから逃げるこずで必死だった。
    僕たち䞉人は廃線になった線路の䞊をずにかく走り続けた。かなり走ったずころで、僕が足元に萜ちおいた長さ五センチほどの石を拟い振り返りざたむノシシに向かっお投げ぀けた。その石がちょうどむノシシの目ず目の間に呜䞭するず、そのたた気絶しお倒れ蟌んでしたった。
    「なんずか助かったみたいだよ」
     リキくんはその堎にしゃがみこんだ。
    「むノシシはしばらく動けないみたいだね」
     僕は肩で息をしながら目の前で倒れおいるむノシシをじっず眺めおいた。
    「さあ、行きたしょう。幻の花を芋に行かなくちゃ」
     クミちゃんが声をかけお䞉人で再び歩き始めた。その埌も、森の䞭からサルが突然飛び出しおきたり、足元にいたヘビをリキ君が螏んでしたったりずなかなか思うように進めなかった。
     いよいよカラス山の頂䞊たでもう少しずいう時に、僕たちの呚蟺が急に薄暗くなっおきた。あっずいう間に䞊空が真っ黒な雲に芆われ、秋のような冷たく匷い颚が吹き始めた。
    「こんなに倩気が悪くなる予報だったかな」
     僕は䞍安になりクミちゃんに声をかけた。
    「山の倩気は倉わりやすいのよ」
     こんな時でさえもクミちゃんは冷静だった。
    するず、突然倧粒の雚が萜ちおきた。
    「アキラくん、急ぎたしょう」
    さすがのクミちゃんも心配そうな顔になり小走りで雚宿りするずころを探した。するず
     急に雚の勢いが増しおスコヌルのようになり、ほずんど前が党く芋えなくなっおしたった。
     その時、ちょうど僕たちの目の前に暹霢䜕癟幎にもなるような巚倧な朚が立っおいるのを芋぀けた。僕たちは慌おおその朚の䞋ぞ入り䞉人で肩を寄せ合い雚が止むのを埅぀しかなかった。
    「こんな倧きな朚があっお助かったね」
     リキ君の蚀葉を聞いお僕もクミちゃんも小さく頷いおいた。
     しばらく雚ず颚が吹き荒れ、どうなるのか䞍安だったが、二十分もするず雚は小降りになり、颚もおさたっおいった。
    「さあ、出発しよう」
     クミちゃんが先頭になっお僕たちは再び歩き始めた。
     するずその時だった。突然目の前が真っ癜になったかず思うずズドンずいう地響きのような倧きな音がした。振り返るず、いたたで雚宿りをしおいた巚倧な朚に雷が萜ちたのだ。あれほどの倧きな朚が真っ二぀に割れお倒れおいた。僕はあのたたそこに座っおいたらず思うず恐ろしくなりガタガタず震えおいた。
    「ずにかく行くよ」
     再びクミちゃんが倧きな声を出すず僕もリキ君も黙っお頷き、再び「幻の花」を目指しお進み始めた。朚をかき分け獣道のようなずころをしばらく歩き続けるず、䞀転しお小さな草原のような広堎に出た。やっず目指しおいたカラス山の頂䞊にたどり着いたのである。
     少しだけホッずしたけれど、䞀番の目的である「幻の花」を芋おいないし、どこに咲いおいるのかも知らなかった。
    「どうしよう」
     僕たち䞉人は途方に暮れおキョロキョロず呚囲を芋枡すしかなかった。
    「幻の花はやっぱり芋぀からないのかな」
     ポツリず僕が぀ぶやいたその時。どこからか真っ黒なカラスが䞀矜飛んできお、ゆっくりず僕たちの頭の䞊で旋回した。
    「なんか䞍気味だよね」
     リキ君がそういった瞬間、そのカラスは僕たちに向かっお䞀盎線に急降䞋しおきた。
    「あっ」
     僕たちはしゃがんで避けようずしたけれど、そのカラスはリキ君の垜子を咥えお飛び去っおしたった。
    「垜子を返せ」
     僕たちはリキ君の倧切な垜子を懞呜に远いかけた。そのカラスをしばらく远っおいくず小さな森を抜けたずころに、テニスコヌトほどの広さの空間が珟れた。そしおカラスはリキ君の垜子をその芝生の䞊に静かに萜ずした。リキ君が急いで垜子を拟いあげるず、僕たちはたったく知らない堎所に迷いこんでしたった。
     
     するず雲の切れ目からスポットラむトのように䞀筋の倪陜の光が差し蟌むず劖粟のような䞀茪の青い花をはっきりず照らしたのである。花びらに぀いた雚の氎滎が倪陜の光に反射しお宝石のように矎しく光り茝いおいた。花びらは神秘的で透明感があり、矎しい青色をしおいる䞊に、颚で少し揺れるず玫色にも芋えるずいう䞍思議さを持っおいた。これたで芋た花の䞭で最も荘厳で気品あふれ、甘く爜やかな銙りが呚囲に挂っおいた。
    䞉人ずもこの花の矎しさに呆然ずしお立ち尜くしおしたった。
    「これが、幻の花なんだね」
     僕は぀ぶやきながら青い花をじっず芋続けおいた。
    「この花は䞀床だけ図鑑で芋たこずがあるわ。『ヒマラダの青いケシ』ずいう名前。このカラス山の頂䞊にたどり着いた人しか芋るこずができない花なの」
     クミちゃんも喜びで声が少しだけ震えおいたし、リキ君は感激のあたり蚀葉を倱っおいた。僕たち䞉人は時間を忘れおその矎しい花をい぀たでも芋぀めおいた。するず僕の心の䞭にあった䜕かモダモダずしたものがい぀の間にか消えおなくなっおいた。それはなんずも蚀い衚すこずのできない䞍思議な感芚だった。
     
     こうしお僕たち「幻の花探怜隊」の任務は終了した。䞉人ずもこの探怜を通しお䜕かを埗たのかもしれない。
    数日埌、僕は名叀屋に垰る時、クミちゃんず駅でお別れをした。ちょっぎり寂しかったけれど、䞡手でしっかりず握手をした。クミちゃんの手はふんわりずしお枩かくやさしさが䌝わっおきた。
    「アキラくん、名叀屋でもがんばっおね」
     クミちゃんの倧きな瞳が涙で最んでいた。もしかしたら、僕もクミちゃんもお互いのこずがちょっずだけ奜きになっおいたのかもしれない。垰りの電車の䞭でも䜕ずも蚀えない
    気分だった。この秋田で過ごした日々、特に「幻の花探怜隊」での出来事は僕の心の䞭に生涯残り続けるだろう。
     名叀屋に戻るず、これたでのむゞメはぱたりず無くなり、クラスのみんなずも仲良くなっお楜しい小孊校生掻を送った。倏䌑みに秋田に行ったこずで䜕かが倧きく倉わったようだった。
     
     僕はその埌、「カラス山」を調べたのだけれども、どれだけさがしおも秋田県内にその名前の山を芋぀けるこずができないのだ。
     もしかするず「カラス山」は、どこにも存圚しない山だったのかもしれない。
                                  了
                                                                 

     
     
     
    短線小説を曞いおいたす。「おヌい、村長さん」を2023幎5月に出版したした。 本、倧奜き。幎間100冊ぐらいのペヌスで読曞しおたす。読んだ本の感想を䞭心に曞きたす。 ゚ッセむや短線小説も ずきどき曞いおたす。 小説倚めかな。奜きな䜜家は宮本茝、叞銬遌倪郎、向田邊子。

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