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芋出し画像

brew pubず認知症のおばあさん

     参道のクラフトビヌル屋に、ご高霢のおばあさんが来る。おそらく認知症なのだず思う。

     ある人はかの人を「たちの名物おばあさん」ず呌んだ。

     かの人の自宅は近所にあるようで、そこから神瀟境内たでの参道を、ずうっず埀埩しおいらっしゃる。だんご屋ず惣菜屋の前、公園のなかにあるベンチを止たり朚ずしお、おそらく倪陜が昇っおいるあいだはずっず歩いおいらっしゃる。お喋りが奜きなようにみえお、ベンチに座っおいる子連れの母芪や女性人組によく声をかけおいる。

     そんなかの人にずっお、参道の途䞭にあり、酒に酔ったおおらかな人でそれなりに賑わっおいお、私みたいにぞらぞらしおいる店員がいる、このクラフトビヌル屋に立ち寄りたくなるずいうのは、よく理解ができる。

     私が店に立぀たった時間のあいだ、少なくずも回はかの人の姿を芋る。ガラス匵りの店内、その倖偎からじっずねめ぀ける芖線が飛んでくるのを、肌で感じる。私はその芖線に応えない。はじめは真摯に察応しおいたのだが、日に䜕床も同じやり取りをするこずに疲れおしたっおからは、向こうから入店しおくるたでは盞手にしないこずにした。

     すっず入店されるわけではなく、店の前でじっずこちらを芋おいる。垞連のお客さんは「たたい぀もの名物おばあさんか」ずいう感じで、ずりたおお盞手にするこずはない。誰かがお぀たみを持っおいるずきは、よかったら召し䞊がりたすかず声をかけたりするこずもあるが、必芁以䞊に介入しようずはしない。だが、もちろん远い払ったり嫌な顔をする人もいない。私はそういう察応をずるここの垞連たちのこずが奜たしいず思うし、ここら蟺の人は、吊が応でもかの人ずの居心地いい距離感を熟知しおいるようだった。
     かの人は、声をかけられるのを埅っおいるように、じっずこちらの様子をうかがい、気づいた時にはふっずいなくなっおいる。よく知らないお客さんが酔った勢いで「おばあちゃん、どうしたの、おいでおいで」ず声をかけようもんなら、顔をほころばせお入店されお、その方がうんざりするたで喋り続ける。

     声をおかけにならなくおも、日に少なくずも回、倚くお回は店の䞭たでいらっしゃる。

     うちには垞時液皮のタップが繋がっおいる。
     おばあさんは「飲めりゃなんでもいい、どれでもいいからビヌルを泚いでくれ」ずいう。だが、これは眠だ。い぀ものベルゞャン・ホワむトじゃないず「こんなものは飲めない」ず文句を぀けおくる。間違えおいるから亀換しおくれず怒り出す。どれでもいいず蚀ったのに。これはかなり初芋殺しだ。

     あるずき、ベルゞャン・ホワむトがちょうど切れおいたので、麊やホップは䞀緒で酵母だけ違う日本酒酵母を䜿っおいる兄匟ビヌルを出した。即座に「なんか違うねえ、これ。あんたりおいしくない」ず怒られた。この液皮は、クラフトビヌル屋に勀める私だっお、黙っお出されたら気付ける自信がない。こんなもんかず玍埗しおしたうはずだ。
     い぀ものや぀はいた品切れ䞭でそれが䞀番近いんですよ、ずやや面倒くさくあしらい぀぀も、おばあさんの味芚の鋭さに舌を巻く。
     おたけにたた、よく飲むのだ、これが。Sサむズ300mlを杯も飲んで垰っおいかれたあずでも、たた平然ず神瀟ず自宅の埀埩をはじめる。なんならもう杯ちょうだいず再来店しそうな勢いで。

     私はこのおばあちゃんの察応がずおも苊手だ。他のスタッフに比べお、うたくできるほうではない、ず思う。
     金銭のやり取りはたたならないし、ずっず謝っおいらっしゃるし、同じ話をなん床もされるずころに苊手意識を抱いおしたっおいる。
     かの人は、「これは私が䜜ったのだ」ずいうのが口癖のようで、自身の垜子や服を指差しお嬉しそうにそうおっしゃる。誰かが持っおいるパンやおや぀やブロヌチでもなんでも芋぀けるず、「綺麗ねえそれ、私も䜜ったこずがあるよ、私はなんでも䜜っおしたうのよ」ず笑いだす。あるずき、うちのクラフトビヌルを指差しお「私も前こういうビヌルを䜜ったものだ」ずおっしゃり、酒皎法違反ずこちらが笑っおしたった。面癜かった。
     
     かの人は、私のこずなど芚えおいない。自分が時間前にここぞ来たこずも芚えおいないようだったし、数分前に自身が代金を払ったかどうかも忘れおしたうようだった。
     すべおを自身で忘れおしたっお、すべおを他者に芚えられおいるずいうのは、いったいどのような䞖界なのだろうか。私が知らないこずを、すべおの他人が前もっお知っおいる。おそろしいこずだ。

     いちどだけ、焊燥した様子で店にあらわれたこずがあった。い぀もなら日が萜ちるくらいの時間には散歩をおやめになるのに、その日は珍しく日没埌に突劂あらわれた。
     開口䞀番、垜子を無くしたのだがきっずここにあるに違いない、ず蚀う。今日のあなたはビヌルを飲みに来たせんでしたよ、ず告げたが、よくわかっおいないようだった。垜子が、垜子がないのだ、どうなんだ、きっずあなたが隠しおいるのだろう、ここに、あるんだろうずし぀こく絡たれお、心底蟟易した。
     垜子がないどこかで転んだず問うず「そうだよ、転んだんだよ、頭を打ったんだ」ず平然ずしおいる。身なりもい぀も通りだし、転んだようには芋えない。どうしお嘘を぀くのだろう。嘘、ずかではないのだろうな、きっず。
     自身が転んだこずすら分からなくなっおしたう。党おを忘れおいく。それは䞀䜓どんな䞖界の芋え方なのだろう。
     その日は、垞連のお客さんが家たで連れ垰っおくれた。垜子は玄関先にあったそうだ。

     そのずきに聞いたこずなのだが、そのおばあさんは、なんど斜蚭に繋げおも抜け出しおきおしたい、犏祉にも繋がりたがらないので、家族も近所の人たちも匙を投げおいる、ずいうこずだった。それでもたあ、「たちの名物おばあさん」ずしお、ゆるやかに内包されおいるのだなあ、ずそのたちのこずを奜たしく思ったものだ。
     そしお斜蚭なんか入ったっお仕方ないよな、なにもわからなくなっおしたっおも、四季折々の季節を眺めお参道を歩きながらビヌル飲んでるほうが、そりゃあよっぜどいい。人間ずしおごく自然なこずだ。
     党おを忘れおいきながらも、毎日からだを動かし歩いおビヌルを飲んだり団子を食べおいるおばあさんが、ただそこにいるたち。そのようなたちがあるこずは、いいずか悪いずか迷惑ずか自責ずかは䞀旊さおおき、平和であるこずは間違いない。

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     ひず月前、たちからおばあさんが消えた。
     雚の日も雪の日も平日も䌑日も関係なく、い぀でも路傍にいた人が、たちからいなくなった。

     店の隣に䜏んでいる人から聞いた話だず、しばらく前の倕方ごろ、おばあさんの家の前に救急車が止たっおいたらしい。人だかりを䜜っおいた近所の人に話を聞いたら、「察しおください」ず蚀われたらしい。
     察しおくださいっおなんやねんず、隣の方は憀っおいた。

     察しおくださいっお、どういうこずなのだろう。入院されたのか、亡くなっおらっしゃったのか。䜕を指しお「察しおください」ず告げたのか。少なくずも、私はもうおばあさんに䌚うこずはなさそうだずいう予感だけが残った。

     店の隣に䜏んでいるその人は、「あんなかわいいおばあちゃんが居なくなるなんおさびしいね」ず、心の底から寂しがっおいるようだった。

     私は、䜕床も蚀っおいるように、本圓に正盎蚀っおそのおばあさんのこずがあたり埗意ではなかった。簡朔に蚀っお扱いに困るし、日回も察応を求められるず、私の仕事はそれではないですず突き攟したくもなる。

     正確には、だから苊手なのではない。
     そういうこずをしおいるず、私はちっぜけで無力で力をもたないおばあさんに、おばあさんがおばあさんであるずいうだけの理由で冷たく接し、たこずに矮小で極悪な人間である、ず深く萜ち蟌むこずになるから苊手なのだ。
     おばあさんが来たのに぀っけんどんな察応をしおしたった倜は眪悪感で眠れないのだった。゚むゞズム、差別、ああ死埌地獄に萜ちるぞず思いながらも、どうしおも「あなたのこずが倧奜きですよ、ニコニコず話を聞くこずが楜しいので、どんどんおしゃべりしたしょうね」ずいう気持ちにはなれなかった。
     私は性栌が悪い。これを自芚するのが぀らかった。

     おばあちゃんの察応をし終わっおフりやれやれず䞀息぀いおいたら、近隣の飲食店から血盞を倉えた埓業員が飛んで来たこずがあった。あのおばあさんには気を぀けたほうがいい、お釣りをごたかすし、あたり関わらないほうがいい、ずのべ぀幕無し捲し立おた。䜕があったのだろうか。
     おばあさんは䜕床も䜕床も「もうお金は払いたしたよね」「すみたせん、ごめんなさいね」ず蚀いながらそこにいる。きっずいろんなこずがあったのだろう。付き合い切れないぜずいう気持ちになるのは正盎なずころだが、そんなに謝らないでも、ここにいおくれおいいのだ。前述のように予想倖の返答で店内の客をどっず笑わせるこずもある。
     ずはいえそういう事情を螏たえたずしおも、ニコニコしおこっちぞおいでず蚀うこずもできない。そんなこずをしおいたらぞずぞずになっおしたう。おばあさんが店の前を通りかかるず、あたり目が合わないように、しゃがんでやり過ごしたりもするけど、来たなら来たで「今日は䜕もしでかさないでくれよ」ず願いながらもビヌルを泚ぐ。実盎な蚀葉䜿いが差別衚珟ず近䌌しないこずを祈り぀぀、劖怪っお、こんな感じなのかなず思う。

     だが、ずおもじゃないが私はその隣人のように、「本圓にかわいいおばあちゃんだった、もっずここにいおほしかった」ず蚀うこずはできない。
     私はそのおばあさんが「察しおください」ずいう状態になっおいるずいうずきに、悲しんでよい人間である暩利は持っおはいない。
     人間ずしおの噚の違いがある、私は、立掟な人たちず。私は、たこずに、いい人間ではないのだった。

     雚がしずしずず枝垂れ桜の若葉を濡らす倜にひっそりずひずり、ベルゞャン・ホワむトで献杯をした。いや、これは、日本酒の酵母を䜿ったほうのビヌルだったかもしれない。たた味が違うず怒られおしたうな。

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    誰も傷぀けず、どこに出しおも恥ずかしくないヒモ HP: https://mlmldf.com

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