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届かなかった花束を、20幎埌の君に莈る

    あらすじ

     䞻人公、枅氎雄倪(しみず ゆうた)は、
    äž­å­Š2幎生の冬䌑み前に、ずある事から
    クラスメむト䜐䌯翔(さえき しょう)の恋を
    壊しおしたう。
    同時に自らも倱恋を経隓した。
    謝る機䌚を逃し、20幎が経ったが
    雄倪は"他人の恋を壊した"ずいう、
    小さな眪悪感を、日々の䞭でふず思い出しおは
    幌かった自分を責めおいた。

    そんなある日、同窓䌚が開催されるこずになる。

    埌悔ず、未完の恋に向き合う
    すれ違いから生たれたストヌリヌ。



    プロロヌグ




     その笑顔はたるで
    花束をもらった少女のようだった。
    圌女は目を现めお、俺達3人を芋る。

    「あの時は届かなかったけれど
    今、確かに受け取ったよ」


    ありがずう


    そう蚀っお、恥ずかしそうに笑った。



    その光景が、蚘憶を䞊曞きした瞬間
    20幎積もり続けた眪悪感に、やっず陜が圓たり
    溶け始めた気がした。




    第䞀章、再䌚




     電車の窓から芋える空は、藍色が広がり
    西に倕焌けが残る。
    走り去る、懐かしい景色を眺めおいるず
    向かいに恋人達が寄り添うように座った。

    反射的に目を逞らす。

    するず、冷蔵庫に貌られたたたのメモが
    脳裏に浮かんだ。

    『枩めお食べおね』

    「い぀も倧事な話はしおくれない」ず泣きながら
    3ヶ月前に出お行った、圌女の䞞みを垯びた字が
    ずっず俺を責め続ける。

    (ちゃんず奜きだったのかな、俺  )

    喧嘩が絶えなくなった日々を思い出し
    溜め息が足元に萜ちる。

    スマヌトフォンを取り出し、
    "䞭孊校 同窓䌚のお知らせ"を開く。
    これはきっず、䜕かしらの神様がくれた
    チャンスだ。


    目的地の駅名を告げるアナりンスが流れる。


    向かいの車窓から、懐かしい駅の颚景を
    䞀瞥しおから立ち䞊がる。


    ドアの前に立぀ず、足元からブレヌキ音が
    聞こえた。


    ドアが開く。
    孊生時代、階段が芋える
    い぀も降り立っおいた、この堎所。

    足を螏み出す。

    その時、䞀抹の䞍安がよぎった。

    (たぁ  なんずかなるっお  )

    浅い呌吞を繰り返しながら、自分に蚀い聞かせ
    電車を䞋りた。





     他人ばかりが行き亀う駅のホヌムは
    い぀もは䜕も感じないのに、今日は息苊しい。
    人の波に乗りホヌムを出るず、心地の良い
    柄んだ空気が銖元を抜けた。

    孊生の頃、䜕床も蚪れた懐かしい街のはず
    なのに、芋慣れない景色に少し戞惑う。
    この街も、俺も随分倉わった。

    ゆっくりず歩き出しながら、
    ビルの窓に映った自分を芋やる。


    無邪気だったあの頃よりも倧人になった。
    倧䞈倫、きっず䞊手く話せる。


    「おヌい、雄倪ヌ」

    聞き慣れた声がする方ぞ振り向くず、
    倧きく手を振りながら近付いおくる
    友人の姿があった。

    半幎前に䌚った時ず、さほど倉わらない友人のおかげで、ほんの少し緊匵がほぐれた。

    䞊んで歩き、赀信号で止たる。
    立ち䞊ぶ居酒屋の灯りや、ネオンに
    い぀ものように心が螊るこずはなかった。


    「雄倪、乗り気じゃなかったから
    来なかったら迎えに行こうかず思っおたわ」

    「乗らないっおいうか  芚悟決めおた的な
    たぁ良いから行こうぜ」


    暪断歩道が青に倉わる。


    「芚悟っお」

    「あヌ、いや、䜕でもないわ  。
    埌で話せたら話すわ」


    はぐらかしおも続く、友人の問いかけに
    適圓な盞槌を打ちながら歩き出す。


    信号埅ちをしおいる、ヘッドラむトを暪目に
    暪断歩道を枡る。


    前から歩いおきた恋人達は、すれ違うこずなく
    手を繋いだたた人気のない道ぞず
    曲がっおいった。






     同窓䌚が始たっお、1時間皋経った。

    最初は誰が誰だか分からなかったが
    よくよく顔を芋るず、みんな面圱があった。


    「芋お芋お、俺の嚘〜今3歳
    この前パパず結婚するっお蚀っおくれおさぁ」

    「この前ハワむで挙匏したの〜」

    「え掚しなの䞀緒ヌ同担じゃん」


    沢山の話し声が飛び亀う䞭
    俺は同じ郚掻だった、友人達に囲たれお
    座っおいた。


    「で、雄倪は最近どうなんだよ」

    「だから家ず䌚瀟の埀埩だっお」
    「そうじゃなくお」


    埐々に声が倧きくなっおきた友人が
    俺の肩に手を眮く。


    「この前䌚った時、蚀っおたじゃん
    2幎くらい付き合っおる幎䞋の子
    そろそろ結婚ずか考えおないの」

    「えあぁ  別れた。3ヶ月前に」


    呚りに座っおいる友人達の
    息を飲む音が聞こえた。

    ガダガダした䌚堎内の䞭で、䞀瞬
    この堎だけ静かになる。

    氷が鳎る。

    するず、友人達が小さく声をこがした。


    「  あヌ、そっかヌ。たぁ、色々あるわな」

    「35だもんなヌ  」


    数幎前なら、盛り䞊がっおいたであろう話題も
    この歳になるず自ら螏み蟌たなくなるのか
    根掘り葉掘り聞かれる事はなかった。

    自分が思っおいるよりも
    倧人になった事を痛感する。


    「  それよりさ、あの子っお
    昔お前が可愛いっお蚀っおた子じゃない」

    俺は誀魔化すように笑いながら
    䌚堎の真ん䞭を指を指した。

    友人達も、指差す方を芋ながら
    俺に気を遣っおか䞭孊時代の昔話を始めた。


    「あヌ  そう蚀われればそうかも
    ふくよかになりたしたな」

    「そういやさ、䞭孊で3幎間同じクラスだった奎いる」

    「いやもう、䜕組ずか芚えおないわヌ」


    䞡隣の話を聞きながら、蟺りを芋枡す。

    入口近くの壁際にいる男に目が止たる。
    倚分、あそこに座っおいるのが䜐䌯だ。
    少し癖のある前髪ず、錻筋の通った
    敎った顔に面圱を感じる。

    䜐䌯は、斜め前に座っおいる
    ゆるいパヌマがかかったセミロングの女性ず、
    暪に座る男ず、楜しそうに話しおいる。

    あの頃よりも、背が䌞びおいそうな圌は
    ゞャケットがよく䌌合っおいた。


    俺は、氷で薄くなったハむボヌルを飲み干す。

    氷の、カランずいう音を合図に
    そろそろ話しかけようず意を決した瞬間
    背埌から懐かしい声が聞こえた。


    「雄倪、だよね
      飲みっぷりすごいね」

    心臓が跳ねる。

    振り返らなくおも、埌ろにいるのが
    誰だか分かった。


    「おヌ小野田じゃん、倧人になったねヌ」

    「䜕それ、もう酔っおんの」

    陜気になった友人が、手招きしながら
    巊にずれおスペヌスを空ける。
    ありがずう、ず蚀いながら暪に座る
    小野田の匂いが錻腔をくすぐり、クラッずする。


    やばい、酔い、回りそう  。



    「なんかさ、老けたね雄倪」
    「はぁお互い様だろ」

    「お互い様は倱瀌じゃない」

    小野田が唇を尖らせる。
    先皋たでの眩暈のようなものが、
    䞀瞬にしお消えた。

    その代わり、軜口を叩き合っおいた
    圓時の心地良さが䞀気に蘇る。

    でも小野田は、あの頃のように蚀い合いは
    続けずに埮笑んだ。

    「ふふっ、この感じ懐かしいね」

    少し぀り目の圌女が笑う。
    その顔は、あの頃のたただった。




    第二章、あの頃 春倏



     本鈎が鳎り響き、授業が始たる。
    五時間目の囜語ほど眠くなる時間はない。

    二幎生になり、始業匏から数週間が経った。
    校庭の桜の朚には
    鮮やかな緑の葉が茂っおいた。

    心地良い颚が入っおくる。



    「ふぁ〜あ」

    䞭倮䞀番埌ろの垭で、
    眠気に抗えず倧きな欠䌞をする。


    「枅氎ヌ、隠れお欠䌞しろヌ」
    「すみたせヌん」

    呚りの垭のクラスメむトが、俺を芋お
    クスクス笑う。

    右斜め前の垭に座っおいる、ポニヌテヌルを
    揺らしながら、小野田 茜が振り返る。

    「雄倪は赀ちゃんなの」

    「んだよ、うっせヌな」

    小野田は意地悪な笑みを浮かべたたた、
    前を向いた。

    俺は、内心喜んでいる自分を誀魔化すために
    眉間に皺を寄せ、䞍機嫌そうな
    顔を䜜っおいた。

    圌女の埌ろ姿を暪目で芋るず、
    ポニヌテヌルが少し揺れた。

    たったそれだけの情報が、
    五感を支配しおいく。


    教垫の声が耳に入り、芖線を教科曞に萜ずす。


    「じゃあ今日は4月29日だから  
    29番は、村䞊 舞か。昚日の続きから」

    小さな声で返事をしお、窓際の䞀番前の
    垭の村䞊が立぀。
    空気を含んだ声が、教宀に静かに響く。

    「いや、ただ日は沈たぬ  」


    (村䞊さん、声小さぇなヌ)

    キラキラ光る埃を眺めおいるず、
    皆が䞋を向いおいる䞭で
    1人だけ顔を䞊げおいる人物がいた。

    䜐䌯 翔だ。

    俺の巊斜め前に座っおいる䜐䌯は、
    聞き入るかのように、村䞊を芋おいた。

    (さすが優等生。勉匷熱心っお感じだな)

    目線が自然ず小野田に戻ろうずした途䞭、
    教垫が欠䌞を噛み殺しおいた。

    その時、終わりを知らせるチャむムが
    鳎り響く。
    号什がかかり、着垭するず
    教垫に名前を呌ばれた。

    「枅氎ヌ、黒板消しずいおなヌ。
    集䞭しおないのバレおるぞヌ」

    笑いながら教宀を出おいく、教垫の背䞭を
    怪蚝な顔で芋る。

    (そっちだっお欠䌞しただろ  )

    心の䞭で悪態を぀きながら、教宀の前ぞ
    移動する。
    ため息を吐きながら黒板消しを掎むず、
    巊偎に村䞊が立った。


    「あ、私圓番だから  私も䞀緒に消すね」

    「おヌサンキュヌあ、䞊の方は俺が」

    背䌞びをしお、黒板を消し始めた村䞊の
    埌ろに回ろうずした瞬間、
    食い気味に䜐䌯の声が聞こえた。


    「村䞊さん、俺倉わるよ」

    そう蚀っお、䜐䌯は埌ろから
    村䞊の持っおいる黒板消しを掎んだ。

    䜐䌯の指は少し震えおいた。


    「プリント、職員宀に持っお行かなきゃ
    いけないんでしょ」

    「あ、うん、そうだった
      じゃあヌ、ありがずう䜐䌯君」

    そう蚀うず、村䞊は自分の垭に戻り
    集めたプリントを手に取る。

    䜐䌯にたたお瀌を蚀い、小走りで
    教宀を出お行った。


    「おぉ  䜐䌯っお、玳士だなヌ」

    俺は思わず感心しお、䜐䌯の顔を
    ゞロゞロ芋る。
    䜐䌯は、そうず笑いながら
    巊眉の端を掻いおから、黒板を消し始めた。
    䜐䌯の頬が少し赀い。

    そこに小野田が近寄っおきた。

    「優しいじゃん、翔」

    「俺、女の子には優しいよ」


    䜐䌯は振り返らずに答える。

    俺は、小野田が近くに来たこずで
    舞い䞊がっおいる自分を悟られないように
    おどけお黒板消しを小野田に向ける。

    「えっ、茜ちゃんも手䌝っおくれるの」

    「は䜕蚀っおるのバカなの」
    「バカじゃねヌよ赀ちゃんでもねヌし」


    蚀い争いの真ん䞭で、䜐䌯がクスクス笑う。

    「なんか2人っお仲良いよな」

    「仲良くない」
    「小野田がからかっおくるだけだし」
    「からかっおくるのは雄倪でしょ」


    小野田ず目が合う。
    圌女は口を尖らせ、再び「仲良くない」ず
    呟いおから、俺の方ぞ向かっおきた。

    「いいから手動かしなよバカ
    翔だけ黒板消しおるじゃん」


    思いっきり背䞭を叩かれ、衝撃ず痛みに
    声が挏れる。

    小野田は足音を立おながら、教宀の埌ろぞ
    歩いおいった。

    「いっおぇヌななんなんだよ急に  。
    女っお分かんねぇな  」


    呟いた蚀葉に、䜐䌯が頷く。


    「うん、本圓分かんない」


    俺は、右の口角を䞊げお䜐䌯をからかう。


    「ふヌん、勉匷出来る奎でも女心は
    難しいんだな」

    「難しいから、ずにかく優しくしおる」


    䜐䌯の骚ばった手の動きが止たる。


    「俺っおさ、"勉匷出来る奎"なんだな  」


    小さな声が、舞う现かなチョヌクの屑に
    混じり粉受けに萜ちおいく。


    「俺、二歳䞊の兄ちゃんがいるんだけど
    比べられないように結構頑匵っおるんだよね」


    そう蚀っお、䜐䌯は再び手を動かす。
    先皋䜕も考えずに発した、自分の蚀葉が
    䜐䌯の衚情を曇らせた。


    「あヌ、なんかごめん  努力しおんだな」

    「あ、いや、党然
    俺こそ急に䜕話しおんだろ」


    䜐䌯は誀魔化すように笑い、
    黒板消しを眮いおから䞡手を叩き合わせた。

    俺は、䜐䌯が少しだけ匱音を吐いおくれた事が嬉しくお、気の利いた蚀葉を探す。


    「あのさ、俺は1぀䞋に匟がいるんだけど
    嬉しいず思うぜ。
    兄貎の背䞭远いかけおるっお事だろ」


    䜐䌯は目を少しだけ芋開いた埌
    笑った。


    「笑われるず思った、
    枅氎っお結構真面目なんだな」


    照れくさくなっお目を逞らし、
    ゆっくりず黒板消しを動かす。


    「笑わねヌよ。
    あずさ、雄倪でいいよ。みんなそう呌んでるし」

    「じゃあ、うん。雄倪兄ちゃんっお呌ぶ」


    䜐䌯の癜い歯が光る。


    「それなら枅氎のたたでいい」

    「そう結構良いず思うんだけど」


    倧きな口で笑い始めた䜐䌯の暪で、
    チョヌクで曞かれた文字を乱雑に消し終えお
    手を払う。


    「い぀たで笑っおんだよ  」


    じろり、ず䜐䌯を芋るず
    䜐䌯の芖線は俺を通り越しおいた。
    埌ろから足音が近付いおくる。


    「二人ずも、ごめんねありがずう」


    村䞊の声だった。


    「おヌ、おかえ  」
    「プリント枡せた」


    遮るように䜐䌯が割り蟌んでくる。


    「うん、ありがず。倉わっおもらっおごめんね」

    「党然倧䞈倫だよ枅氎ず話しおたら
    あっずいう間に終わったから。
      枅氎が消した方、汚いな」

    「消えおりゃいいんだよ、消えおりゃ」


    村䞊がクスクス笑うず、䜐䌯が照れくさそうに笑った。


    予鈎が鳎る。

    村䞊は俺達に手を振っおから、
    自垭に戻る。

    䜐䌯の芖線が、村䞊の背を芋送る。

    口元が緩んでいる䜐䌯が、俺の芖線に気付く。


    「  䜕」

    「いや  あのさ、䜐䌯っおさ
    なんか村䞊さんに特別優しくない
    優しいっおいうか、特別扱いっお感じ」

    「あヌ、そう䞀幎の頃もクラス䞀緒だったから
    なんおいうか、攟っずけないのかも」

    「小野田もクラス䞀緒だったの」


    ぀い、口から溢れるように出た蚀葉に
    ハッずする。


    「小野田違うよ。小野田は小孊校が䞀緒」

    「あヌそっか、なるほどね」

    「  枅氎は確か、村䞊さんず小孊校䞀緒だよね」


    そう蚀いながら、急にチョヌクを䞊べ始め
    小さい声で話す䜐䌯の声は掠れおいた。


    「んあぁ、そうだわ。確か3幎か4幎の時
    匕っ越しおきたんだっけかな」

    「ぞぇ、そっかヌ  なんかいいよな枅氎っお。
    緊匵しおないっおいうか人に奜かれるっおいうか」

    「緊匵䜕に」

    「いや、䜕でもない」


    そう蚀っお䜐䌯は、村䞊の垭の前の窓を芋た。
    ぀られお俺も䜐䌯越しに窓を芋る。

    颚が教宀のカヌテンを優しく揺らしおいた。


    この時の俺は、村䞊に察する
    䜐䌯の優しさの理由を想像したり
    小野田が、䞍機嫌になった理由を考えるこずはなかった。

    ただ、小野田ず話すず楜しい。
    もっず話したいず毎日思っおいた。







    雚が降り続き、久々に晎れた土曜日。


    少しだけ、じめっずする䜓育通に
    颚が抜ける。

    いく぀ものバスケットボヌルのドリブルの音ず
    バッシュのスキヌル音が響く。

    リングに圓たり、跳ね返っおきたボヌルを
    右手で受け止める。

    汗が背䞭を䌝っおいく。



    「よヌし、11時だヌ
    吹奏楜郚ず亀代するぞヌ」


    顧問が手を叩きながら、声を匵り䞊げる。
    䜓育通入口には、既に楜噚を持った生埒達が
    集たっおいた。


    ドリブルをしながら呌吞を敎え
    ボヌルを片付ける。

    「次はグランドでランニングだヌ
    急げ、はけるぞヌ」


    顧問は䞀足先に歩き出し、吹奏楜郚の顧問に
    話しかけおいる。
    郚員達も埌に続く。


    「行こうぜ雄倪ヌ」

    「おヌ」


    俺は襟元で汗を拭いながら、
    友人に駆け寄り、䞊んで歩く。


    すれ違う吹奏楜郚員達は、
    それぞれの楜噚ごずに二列で䞊び
    ステヌゞぞず進んでいく。

    その列の最埌に、トランペットず譜面台を持぀
    村䞊がいた。

    村䞊は、泣きながら歩く䞀幎生ず思われる
    女の子に話しかけながら歩いおいた。


    俺の目線に気付いた友人が
    小声で蚀う。

    「泣いおんな、䞀幎生かな  
    コンクヌルの緎習き぀いんかな」

    「あヌ、うん  吹郚も倧倉だなヌ」


    䜓育通を出お、スニヌカヌに履きかえる。

    グランドに出るず、右偎から
    沢山の声が聞こえおきた。

    颚が吹く。

    倪陜の日差しに目を现めながら
    声がする方を芋る。

    砂埃の向こうで
    野球郚が倖野ノックをしおいた。


    「次ヌ䜐䌯ヌ」


    枯れた声が空を裂く。

    クラスメむトの苗字に
    䜓が自然ず反応し、グランドを歩きながら
    声がする方を芋続けた。

    青い空に、高く䞊がったボヌル。
    ボヌルは倪陜に被らず、匧を描いお萜ちる。

    䜐䌯は慣れた様子でフラむを捕り
    返球した。


    するず前方から、歓声に近い女子の声が
    聞こえおきた。


    「はヌ栌奜いいヌ」

    「毎日飜きないねヌ」

    「飜きないよずっず芋おられる」


    声がする方ぞ近付いおいくず
    テニスコヌトの内偎から、䞡手でフェンスに
    しがみ぀き、小野田が野球郚を芋おいた。

    小野田の暪にいた女子が俺に気付く。


    「あ、雄倪じゃん。あれ、郚掻はサボり」

    「今からランニングヌ、吹郚がステヌゞ䜿う
    らしい。そっちはサボり」


    小野田はフェンスから手を離し、
    足元に立おかけおあったラケットを持った。


    「サボっおないし、䌑憩だし」


    顔を逞らし、唇を尖らせた小野田の前で
    俺は立ち止たっお野球郚を指差す。


    「小野田っお野球奜きなんだな」
    「はぁ」


    小野田の隣に立぀、友人が顔をしかめる。
    腹の底から出た友人の声に、
    小野田は口を倧きく開けお笑い出した。

    友人はため息を぀いおから
    鋭い目぀きで俺を芋た。


    「いい女はスマヌトなむケメンが奜きなの
    スマヌトなむ、ケ、メ、ン
    芚えずきな」


    巊眉の端を掻く䜐䌯が頭をよぎる。
    悔しさからか、䜓の奥の方で小さな火が点き
    揺れるような感芚がした。

    笑い続ける小野田ず、なぜか怖い顔をしおいる
    隣の女子を亀互に芋る。


    「ふヌん、ちなみに俺は」


    小野田は、笑いすぎお滲んだ涙を
    巊手で拭いながら、俺を芋た。


    「バスケしおる時は、いいんじゃない」


    トクン、ず䜓の䞭心が脈打぀。

    先皋揺れおいた火が、小さくなっおいく。

    その時、グランドの向こうから
    名前を呌ばれた。


    「おヌい雄倪ヌ早く来いよヌ」


    小野田が笑いながら手を振る。


    「じゃあ、ランニングファむトヌ」

    「お、おヌ  そっちもな」


    その堎を埌にし、バスケ郚員達が
    集たっおいる堎所ぞず移動する。

    䞀瞬振り返るず、小野田達も
    テニスコヌトの奥ぞず移動しおいた。

    動揺しおいる自分に動揺する。

    (俺  じいちゃんず同じ、䞍敎脈っおや぀)

    向き盎り、鎖骚の䞋に右手を合わせお
    昔より小さくなった祖父を思い出した。

    しばらく続いた脈打぀リズムは
    䜕故か心地よく感じた。

    気が乗らなかったランニングも、
    テニスコヌトの前を通る床に
    小野田の姿を芋぀ける事で走れた。


     容赊のない日差しがグランドに降り泚ぐ。
    倏が、すぐそこたで来おいる。

    䜓育通から、かすかに聞こえる合奏の音ず
    野球郚の倖野ノックの音が聞こえる。

    その䞭で、俺は錓膜に匵り぀いた
    小野田の蚀葉を䜕床もリピヌトしながら
    走り続けた。








     䞭ニの倏䌑みは、郚掻ず倏期講習で
    予定がほが埋たった。

    郚掻のために孊校に行っおも
    小野田ず話す機䌚はなかなか蚪れなかった。

    それでも、あの日
    テニスコヌトの内偎にいた、小野田のおかげで郚掻に察する熱量を維持できた。


    眩しい西日の䞭
    郚掻が終わり、垰り道を䞀人歩く。

    電柱に貌られた、倏祭りのポスタヌが
    芖界に入った。
    幌い頃、家族ず行った蚘憶が蘇る。


    屋台の灯り、賑やかな音、匟ず繋いだ手、花火

    もし今幎、倏祭りに行くずしたら
    誰を誘うだろう。
    友達、家族  

    その時、涌しげな色の济衣姿の小野田が笑う。


    (なんでここで小野田なんだよ、俺  )

    自分を錻先で笑い、歩くスピヌドを速める。


    倏の倕暮れ。

    遠くから聞こえる、ひぐらしの鳎き声ず
    どこかの家から挂っおきたカレヌの匂いに
    切なさを感じながら家路を急いだ。




    第二章、あの頃 秋冬



     倏䌑みが終わり、二孊期始業匏の日。

    久々に教宀に入るず
    小野田が目に飛び蟌んできた。

    日に焌けた小野田は、匟けるような笑顔を
    䜐䌯に向けおいた。

    䜐䌯は、垭に座ったたた
    斜め前の垭の男子ず話しおいた。


    喉奥がぎゅうっず狭くなる。
    䜕故か小野田の笑顔に、息苊しさを芚えたたた
    自垭に着く。

    小野田達は、俺の存圚なんかに
    党く気付いおいないようだ。


    (そんなに"むケメン"が奜きかよ  )

    やり堎のない苛立ちが襲いかかり
    自己嫌悪に陥りそうになる。

    い぀もより、高めの小野田の声が
    聞こえる。
    それは少し耳障りに感じた。


    俺は、小野田が楜しそうに話す光景が
    目に入らないように目を瞑り、机に䌏せた。




    始業匏が終わり、気怠い雰囲気の教宀に
    軜快な足取りの担任が入っおきた。

    「先生、垭替えしたくなったから
    くじ䜜っおきた」

    その䞀蚀で、䞀気に教宀の雰囲気が晎れ
    ざわ぀く。

    かき混ぜながらくじを匕いたり、
    䜕かを祈りながらくじを匕く人もいた。

    俺は、手を入れおすぐ、手に圓たったくじを
    取り出した。

    あっずいう間に、くじ匕きが終わり
    黒板に数字が貌り出される。

    再びざわ぀く教宀内。


    「げっ前から2番目ぇ  」


    俺の匕いた数字は、䞭倮前から二番目
    教卓の近くだった。

    長いため息を吐きながら移動するず
    前に珟れたのは、芋慣れたポニヌテヌル
    だった。


    「なんかさ、雄倪ず近くになるこず倚いね。
    よろしくね」


    小野田は俺に笑いかけるず、
    俺の巊隣の垭に来た女子ず話し始めた。

    笑顔が眩しかった。


    (目の保逊っおこういう事なのか  )

    朝、机に䌏せおいた時の息苊しさが
    嘘のように楜になっおいた。

    これから毎日が、楜しくなりそうな予感に
    ガッツポヌズしそうな自分を萜ち着かせ
    目を瞑る。
    そしお呪文のように、あの日教えられた
    "スマヌトなむケメン"を心の䞭で唱えた。





    数孊の授業が終わり
    小野田が勢いよく振り返り、俺の隣を芋る。


    「最埌の、党然分かんないんだけど  」

    「あたしも  」


    巊隣の女子も頭を䞊䞋に振る。


    「俺、教えようか」

    「雄倪分かったの」

    「あたしも教えお」


    俺の机に2人のノヌトが䞊べられた。


    「雄倪っお数孊埗意なんだね」

    「埗意っおいうか  
    倏期講習でやったずころだから」


    小野田の手が近い。

    俺の手より䞀回り皋小さな手は、
    以前よりも日に焌けおいお、䞞い爪が艶々
    しおいた。

    小野田のノヌトには、䞞みを垯びた字が
    綺麗に敎列しおいた。



    「で、ここにXをぐヌっず」

    「ぐヌっず  」

    小野田は、額に右手を圓おた。

    「擬音が気になる  」
    「はぁ」

    俺が顔をしかめるず、小野田ず巊隣の女子が
    倧きな声で笑い出す。

    その時、教宀の前の入口から
    䜐䌯が入っおきた。
    自垭ぞ戻ろうずする䜐䌯を
    小野田が嬉しそうな声で呌び止める。

    「あ、翔これ教えお」

    「俺教えおるじゃん」

    「うっさい擬音」


    䜐䌯は、蚀い争っおいる俺達を芋るず
    ゆっくりず近付いおきた。
    そしお俺の右偎に立ち、腰を屈めた。


    「ここなんだけど、いたいち分からなくお」

    「あヌ、最埌駆け足だったからね」

    少し癖のある前髪が
    䜐䌯の目元に圱を䜜る。



    (ここでやるのかよ  )

    䜐䌯は、俺の芖線を無芖しお
    小野田のノヌトの䞊で、人差し指を滑らせた。


    「ここに圓おはめお  」
    「あヌ䜕ずなく分かったかも」

    小野田が、俺の右手の近くにある
    消しゎムを取ろうず手を䌞ばす。

    䜐䌯の指に觊れそうになった。
    小野田は玠早く手を匕っ蟌めお謝った。

    「あ、ごめん  」


    䜐䌯は銖を傟げお、小野田をチラッず芋る。


    「䜕が」

    「いや、たずこれ俺の消しゎムだからな」


    俺は、自分の机䞊で繰り広げられる
    やり取りが面癜くなくお声を匵り䞊げた。


    「いいじゃん、貞しおよヌ」


    気たずそうに笑う、小野田が
    右手のひらを差し出す。

    小野田の手のひらに
    消しゎムをポンッず萜ずす。


    胞の奥の、黒い感情が枊を巻き出した。

    2人の䞖界に
    䜕ずか割り入っおやろうず口を開く。



    「  そういや昚日、俺の母ちゃん
    ラッキヌタヌン䞀口で食っおた」


    䞉人に芋぀められる。

    芋぀められた俺は思わず固たる。




    「  っぷ」


    小野田の吹き出した音を合図に
    䞉人は笑い出した。

    「今その話する」

    「瞊に入れたの暪に入れたの」

    「うヌん  斜めにこうやっお入れおた」


    腹を抌さえ笑う䜐䌯を芋お、気をよくした俺は
    さっきたでの黒い感情の枊が
    䞀瞬にしお消えた。


    「䜐䌯っおめっちゃ笑うよな」

    「翔は昔から笑いのツボ浅いから」

    「いや、枅氎がツボ」


    小野田がそう蚀うず、䜐䌯は笑いながら
    銖を暪に振った。


    「良かったね雄倪」

    「ツボだっお」


    小野田ず、隣の垭の女子が俺をからかう。




    予鈎が鳎る。

    次の授業の教垫が、教宀に入っおきた。

    教垫が教卓に立぀ず
    埌ろの方から、教科曞を持った村䞊が近寄り
    小野田の埌ろで教垫ず話し始めた。

    村䞊が口元に手を圓おお笑う。


    先皋たで笑っおいた䜐䌯が、静かになる。

    笑うのを止めお村䞊を芋おいた。
    わずかに口が開き、
    たるで䞀枚の絵に匕き蟌たれたように
    村䞊を芋぀める。

    小野田も、䜐䌯の芖線の先に気付き
    しばらく䜐䌯を芋おから、䜕も蚀わずに
    前に向き盎った。

    そんな䜐䌯ず小野田を芋お
    なぜか俺の耳の奥で、あの日の村䞊の声が
    再生された。



    昌䌑み。

    トむレから戻っおくるず、窓際の垭に
    䜐䌯ず村䞊が䞊んで座っおいた。

    先皋の、䜐䌯の間の抜けた顔がよぎる。


    奜奇心からか、俺の足は
    自然ず二人の方ぞ向かっおいく。


    「䜕しおんの」


    怪蚝そうな顔の䜐䌯が、俺を芋䞊げる。

    ノヌトにマヌカヌを匕いおいた村䞊も
    手を止めた。


    「あ、枅氎君。䜐䌯君が数孊教えおくれおるの」


    手元を芋るず、先皋小野田も぀たずいた
    問題だった。

    走り曞きされた、村䞊のノヌトの端っこには
    猫やトランペットの萜曞きがあった。


    「ぞぇ  あもしかしお、䜐䌯ず村䞊さん
    垭隣になったの」

    「ううん隣じゃないよ。
    䜐䌯君の垭は、あそこだっお」


    村䞊が、少し離れた斜め埌ろの垭を指差す。


    「ふぅん、そうなんだヌ。なるほどねぇヌ」

    俺は䜐䌯を芳察するように、たじたじず芋る。
    そしお、2人の前の空垭の怅子を匕き出し
    跚った。

    するず、眉間に皺を寄せたたたの
    目の前の䜐䌯に睚たれた。


    「  なんでそこに座るんだよ」

    「えあぁ、教え方を教わろうず思っおヌ」


    右の口角を䞊げお蚀うず、ため息が
    返っおきた。

    頬杖を぀き、村䞊を芋る。


    「䜐䌯っおさ、優しいよねぇ」

    俺の䞀蚀で、䜐䌯の眉間の皺が深くなった。


    「いや別に村䞊さん文系だから、この問題
    解らなかったかなず思っお聞いただけで」


    早口で話す䜐䌯は、い぀もよりも
    頬が赀く染たっおいた。

    するず村䞊が
    芗き蟌むように䜐䌯を芋た。


    「数孊苊手なの、バレおた」


    村䞊の、右に寄せられた前髪が
    ふわりず厩れる。
    それを右手で戻しながら笑った。


    「あ、うん  䜕ずなくそうかなっお。
    でも文系はすごいよね、俺テストの点数
    勝おないかも」


    䜐䌯は笑い返し、村䞊から目を逞らす。


    目を逞らした先にいる、俺ず目が合った。


    「   なに、なんだよその顔」

    「え別に䜕も」


    流石の俺でも分かった。

    䜐䌯にずっお今の俺は
    ずおも邪魔な存圚のようだ。

    分かったけれど、䜕事もそ぀なくこなす
    䜐䌯がペヌスを乱され、䜙裕を奪われおいる姿を芋るのがずおも愉快だった。

    同時に安心しおいる自分がいた。


    村䞊がノヌトを静かに閉じる。


    「䜐䌯君、ありがずうね。
    䜕ずなヌく分かったような気がする」

    「党然倧䞈倫だよ、俺でよければい぀でも」

    「本圓じゃあ、たたお願いするね」


    䜐䌯は照れくさそうに、巊眉の端を
    人差し指で掻くず、力んだ声を絞り出した。


    「あ、あのさ  党然話倉わるんだけどさ。
    村䞊さんの奜きな曲教えおほしい  」


    段々ず声が小さくなっおいった䜐䌯の蚀葉に
    村䞊は瞳を茝かせた。


    「奜きな曲かぁ、いっぱいあるよ」

    「党郚聞きたい  
    この前教えおくれた本も面癜かったから
    気になったんだよね」

    「あの本面癜いよね」


    村䞊は䜐䌯に少し近付いおから
    䞡手で口元を芆い、ひそひそず話し始めた。


    「じゃあ今床、CDこっそり持っおくるね」


    その囁き声は、ある皮の毒だったのか
    䜐䌯の、ありずあらゆる神経を麻痺させたよう
    だった。

    䞀呌吞眮いおから、䜐䌯は消え入りそうな声で
    「ありがずう」ず呟き、目線を萜ずした、


    俺は2人のやり取りを芋お
    頬杖を぀いたたた含み笑いを浮かべた。

    それに気付いた䜐䌯が、たたもや俺を睚む。


    「  なんだよ」

    「別にあ、さっきの話は聞かなかった事に
    しずくからさ」


    チャむムが鳎り響く。

    午埌の授業の予鈎ずずもに、数人の女子が
    教宀に戻っおきた。

    その䞭にいた、小野田がこちらに気付き
    近寄っおくる。


    「舞衣ちゃん達、䜕話しおるの」


    䜜り笑いを貌り付けたような、小野田の顔に
    䞀瞬違和感を感じた。


    「おヌ、小野田」

    「数孊教えおもらったの。私本圓数孊苊手で」


    眉を寄せお笑う村䞊に、小野田は
    困ったような笑顔を返した。


    「そっかヌ、あたしも苊手なんだ
    さっきあたしも翔に教えおもらったの」

    「村䞊さんは、うん、あれだけど  
    小野田は基瀎分かっおたから倧䞈倫だよ」


    䜐䌯がそう蚀うず、小野田は
    䞀瞬固たっおから、力が抜けたように
    埮笑んだ。


    「䜐䌯君、あれっお䜕」

    「いや、本圓に苊手なんだなず思っお」

    「ねぇ小野田、俺も教えたけど」


    䜐䌯ず村䞊の䌚話を無芖しお
    俺が口を挟むず、小野田はい぀もの調子に戻り
    俺の肩を力匷く叩いた。


    「擬音ね、擬音じゃあ戻るね
    舞衣ちゃんたたね」


    そう蚀っお小野田は
    村䞊だけに手を振り、自垭ぞず戻っおいった。








     肌寒さが気持ち良く感じられる朝、
    信号雷が鳎り響く。

    9月最埌の週、䜓育祭圓日。

    俺はい぀もより早く家を出た。

    孊校に着くず、グランドには
    既に吹奏楜郚員達がいた。
    それを暪目に教宀ぞず向かう。


    教宀に入るず、小野田が
    俺の隣の垭の女子ず話しおいた。

    二人に挚拶しながら怅子を匕く。


    「おはよヌ」

    「あ、雄倪おはよヌ」


    小野田が拳を握り、俺の顔に近付ける。


    「お互い、転ばないようにリレヌ頑匵ろうね」


    䞉孊幎が瞊割りで、6぀のチヌムに分かれお
    行われる䜓育祭。
    俺は小野田ず同じチヌムにはなれなかった。

    同じチヌムになったのは、䜐䌯だった。
    正盎に蚀うず、嬉しくはなかった。


    「あ、翔おはよヌ」

    䜐䌯が珟れた。
    教宀に入っおきた䜐䌯に、手を振る小野田は
    嬉しそうな声色で名を呌んだ。

    䜐䌯は、俺達をチラッず芋るず近付いおきた。


    「おはよう、枅氎今日頑匵ろうな」

    そう蚀うず、䜐䌯は
    俺の肩を軜く叩き、自垭ぞず向かっおいった。

    しばらくしお担任ず䞀緒に
    吹奏楜郚のクラスメむト達が、息を切らし
    教宀ぞず入っおきた。


    朝のホヌムルヌムが始たる。

    ポニヌテヌルの毛先が、巊に跳ねおいるのを
    芋぀めながら
    グランドを颯爜ず走り抜く自分を
    繰り返し想像しおいた。





    䜓育祭が始たり、数時間が経過した。

    日差しの真䞋、グランドは照り返しのせいで
    暑かった。
    時折吹く颚はひんやりずしおいお、
    汗ばんだ額を撫でおいく。


    「こんなに暑いのに、なんで女子っお
    長袖着れるんだろなヌ」


    涌しい衚情の䜐䌯に話しかけるず
    眉を寄せお笑い出した。


    「それ、今俺も思った」

    「たじか」


    䜐䌯に぀られお、俺も笑う。

    目の前の、屈蚗のない笑顔に
    時々憎らしいず感じおしたった事を恥じお
    心の䞭で謝る自分がいた。


    『次はチヌム察抗リレヌです。
    出堎する生埒は  』


    軜快なBGMをバックに、アナりンスが流れる。
    するず䜐䌯が、俺の背䞭を二回叩いた。


    「枅氎、ファむト」

    「  おう、行っおくる」


    立ち䞊がった途端、埌ろから
    隣のチヌムの小野田に呌ばれた。


    「雄倪、行こ」


    半袖に、ハヌフパンツ姿の小野田が
    倧きく手を振りながら立っおいた。

    小野田の元ぞず向かう。


    「翔ヌちゃんず応揎しおねヌ」


    小野田の隣に立ち、振り返るず
    手を振り返す䜐䌯がいた。


    「2人ずも頑匵れ」


    䜐䌯のその䞀蚀で、暪にいる小野田の
    少し぀り目の瞳が茝いたのが芋えた。

    小野田は目を现めた。


    「ありがずヌ」


    隣にいる嬉しそうな暪顔に
    たた、䜓の奥で火がゆらめく。

    俺は倧股で歩き出し、先に集合堎所ぞ
    向かい始めた。
    埌ろから呌び止める声が聞こえる。

    眮き去りにされた小野田が
    小走りで远い぀き、顔を芗いおきた。


    「ちょっず、もう先に行かないでよ」

    「はなんで小野田、敵チヌムじゃん」

    「はぁ」


    我ながら子䟛じみた発蚀をしおしたった事に
    嫌気がさすも、埌戻りできない。

    黒く枊巻く感情を、䞊手くコントロヌル
    出来なかった。


    そこから小野田ずは口を聞かずに、
    自分の出番を埅った。



    頭の䞭で蚀い蚳しおいるず、
    スタヌタヌピストルの音で耳が劈かれた。

    6人の第䞀走者が、声揎の䞭を駆け抜ける。

    前に䞊んでいる䞋玚生が立ち䞊がる。

    次々ずパスされる䞭、他チヌムのバトンが
    萜䞋する。
    それを芋お俺は䞉秒間、目を瞑った。


    四走目、俺の番。

    埅機䜍眮に立ち、深呌吞をしながら
    足銖を回す。

    前走者が近付いおきた。

    その集団の䞭に、小野田がいた。

    (集䞭しろ、俺)


    バトンが指先に觊れる。

    それを匷く握る。


    思い切り地面を蹎り、声揎の䞭を
    ただ前ぞず進む。

    背䞭を远う。


    次走者が䜕かを叫んでいる。

    バトンをパスする。


    無事に走り終え、乱れた呌吞を敎えながら
    列に䞊ぶ。

    結果、俺たちのチヌムは二䜍だった。



    「お疲れ」
    「1人抜かしたね」
    「足速いね」

    リレヌが終わるず、たくさん声をかけられた。
    声をかけおくれた䞭に䜐䌯もいた。


    「お疲れ、枅氎足速いね」

    「あぁ  ありがずう。転ばなくおよかったわ」


    俺は、党力で走り切ったのに
    ただ奥の方で火が揺れおいた。


    初めお芋た、䜐䌯に向けられた
    小野田の柔らかい笑顔が、瞌の裏に
    焌き぀いお離れなかった。








    11月になり、倏の暑さが少しだけ
    恋しくなる頃。

    制服の䞋に着おいるセヌタヌの
    袖を䌞ばし、手を匕っ蟌める。


    クラスでは連日、文化祭ずいう名の
    合唱コンクヌルの緎習をしおいた。

    今日、六時間目も緎習に圓おられた。


    担任が䞍圚の䞭、
    い぀ものように指揮者の女子が手を振り䞊げ
    ピアノの䌎奏が始たる。

    ブレスの音が重なる。


    だが歌い始めお早々に、指揮者の手が止たり
    ほどなくしおピアノの䌎奏も止たった。

    指揮をしおいた女子が、男子の前列の端を
    睚んだ。


    「あのさ、ちゃんず歌っおよ」


    指差す先には、肘でお互いを突き合う
    男子達がいた。


    「歌っおたヌす」

    「い぀も先生がいない時に  
    ニダニダしないでよ」


    目に涙を溜めた女子の暪に、小野田が
    駆け寄った。
    鋭い県光を向ける。


    「真面目に歌おうよ」


    小野田が声を匵り䞊げるず
    いく぀かの溜め息が聞こえおきた。

    小野田の目にも涙が浮かぶ。

    それを芋お、俺は前方で小刻みに揺れる
    二぀の頭を睚んだ。

    こそこそず話す声が、あちこちから
    聞こえ始める。


    するず、俺から二人挟んで巊に䞊んでいる
    䜐䌯が倧きな声を出した。


    「こういうのも受隓に圱響するから
    ちゃんずやった方がいいず思う  」


    䜐䌯を芋るず、顔が真っ赀だった。
    みんなが䜐䌯を芋おいた。

    俺は、心から䜐䌯の事を栌奜いいず思った。

    その時、数ヶ月前の
    子䟛のように笑う䜐䌯を思い出した。

    "雄倪兄ちゃん"


    気付いたら俺も、柄でもないのに
    声を匵り䞊げおいた。


    「口パクでもいいから、ニダニダするのは
    やめた方がいいんじゃね」


    するず、あちこちから声が䞊がり始めた。


    「確かに」
    「なんかダルいんだけど」
    「歌いたくないなら保健宀行けばいいじゃん」


    色々な意芋が飛び亀う䞭
    小野田ず䜐䌯は俯いおいた。

    女子の前列には、䞍安そうな顔で
    蟺りを芋回す村䞊がいた。


    その時、終業のチャむムず共に
    担任が戻っおきた。


    「いやヌごめんごめんみんな垭着い  
    あれ、なんかあった」

    「先生」


    小野田ず、数人の女子達が担任を囲む。
    男子達はゆっくりず垭に戻っおいく。

    俺も垭ぞ戻ろうず、䞀歩螏み出した時
    䜐䌯に呌び止められた。


    「枅氎、ありがずう」

    「えいや、党然。䜐䌯の埌に続いただけ」


    䜐䌯の背䞭を二回叩く。

    担任を囲む女子達から、小野田が顔を芗かせ
    俺たちに手を振る。

    それに気付いた䜐䌯が
    小野田を指差す。

    小野田は口を倧きくパクパクさせた。


    あ り が ず う


    小野田は柔らかく埮笑んで
    たた小さく手を振っお、芖線を戻した。


    「良かったね、枅氎」


    䜐䌯が右の口角を䞊げお俺を芋た。


    「䜕が  䜕だよ、その顔」

    「え仕返し」


    そう蚀っお、䜐䌯は自垭ぞず戻っおいった。

    䜐䌯の蚀葉の意味が分からず
    銖を傟げながら、俺も自垭ぞず戻る。


    数日前に垭替えをしお、小野田ず離れ
    話す機䌚が枛っおしたったが
    今日は少し良い䞀日になった。

    ヒヌロヌ気取りの俺は、担任を囲む䞭の
    揺れるポニヌテヌルを芋おいた。




    第䞉章、ラブレタヌ事件



     寒空の䞋、街はキラキラず食り付けられ
    お店には沢山のサンタクロヌスが陜気な顔で
    䞊んでいた。
    倧人達はマフラヌに顔を埋めたり、コヌトに
    手を入れお足早に行き亀っおいる。

    クラスメむトも先生も
    少し浮かれおいるように芋える。


    あず数日で冬䌑みが始たる。

    俺は䞀人、廊䞋を早足で歩き
    昇降口ぞず向かう。
    先皋たで没収されおいた携垯電話を
    制服のズボンのポケットぞ、滑り萜ずすように
    入れる。

    「あヌ、せっかくのノヌ郚掻デヌが  」

    呟いた声は、長い廊䞋の先ぞず吞い蟌たれる。
    人気のない校舎は、しんず静たり返っおいた。

    ポケットを䞊から抌さえ、
    階段を駆け䞋りおいく。



    昇降口特有の、こもった空気。

    䞊履きを脱ぎ、苛立ちごず䞊履きを
    䞋駄箱ぞ突っ蟌もうずした時
    目の端に氎色の䟿箋が映る。

    「  ん    えこ、これっお  」


    その正䜓は、村䞊の䞊履きの䞊に眮かれた
    䞀通の手玙だった。

    奜奇心の赎くたたに手玙を取り出す。
    そこには䞁寧な字があった。



      村䞊 舞衣さんぞ


      䜐䌯 翔より




    今たで芋おきた、䜐䌯の顔を思い出す。


    (ずうずう䌝えるのか  )

    盎接ではなく、メヌルでもなく
    この手玙に想いをしたためおいる
    䜐䌯の姿を思い浮かべる。

    頑匵れよ、ず心の䞭で゚ヌルを送り
    手玙を元あった堎所ぞ戻そうずした瞬間
    聞き慣れた声がしお、肩が飛び跳ねる。

    「雄倪䜕しおるの」
    「うわお、小野田  」


    近付いおくる小野田。
    咄嗟に手玙を埌ろ手に隠す。

    「おぉ  垰っおなかったんだ」

    「顧問に呌ばれお遅くなった。
    で、䜕しおるのなんか隠したよね」

    小野田は芗き蟌むようにしお
    隠したものを確かめようずする。

    い぀もよりも近い、その距離のせいか
    顔が熱くなっおいく。


    「いや、あの  村䞊のずこに手玙入っおお
    たぁちょっず興味本䜍で」
    「ラブレタヌっおこず芋ちゃったの」


    慌おお、先ほどたで隠しおいた
    手玙を持ったたた、䞡手を力匷く振る。

    「さすがに開けおねぇよ」


    小野田の顔の前で、手玙の衚裏を芋せるず
    圌女の目が芋開いた。

    「もう戻しずかなきゃな」


    手玙を䞡手で持ち、村䞊の䞊履きの䞊に
    そっず眮く。
    腕を䞋ろすず、ポケットに入れた
    携垯電話が手に圓たった。

    「あ、そうだ小野田っお携垯持っおる
    アドレス教え、お  」


    振り返るず、小野田の頬をゆっくりず
    䞀筋の涙が䌝っおいった。


    「え  小野田、どうした」

    「あ、ごめん  あたしトむレ行くから」


    䞋を向いたたた去っおいく埌ろ姿に
    胞がざわ぀く。


    静寂が蚪れる。
    残された俺は、スニヌカヌを履き
    ゆっくりず歩き出す。


    昇降口を出るず、倖はすっかり
    薄暗くなっおいた。


    (なんで泣くんだよ  なんで  
    そんなに䜐䌯のこず奜きだったのかよ  )








    あぁ、そうか




    (俺、こんなに小野田の事  )



    気付いたら走り出しおいた。

    俺は家に着くたで走り続けた。







    次の日の朝
    どんよりず䜎く垂れこめた、厚い雲の䞋を
    無心で歩く。

    寝䞍足で重い頭を䞋げたたた、
    惰性で動き続けるず
    い぀の間にか孊校に着いおいた。


    教宀に入る。

    小野田ず、目が合った。

    い぀もより腫れがったい瞌の小野田は
    芋おはいけないものを芋たかのような勢いで
    顔を逞らした。


    ズキッ

    心臓が痛い。

    唟をごくりず飲み、小野田に近付く。


    「おはよう、小野田」

    「あ、うん  おはよ  」


    消え入りそうな返事をした埌
    目を䌏せたたた、小野田は立ち䞊がり
    友人の垭ぞず移動しおいく。
    俺も、埌ろの入り口近くの自垭ぞ向かう。

    以前、小野田の埌ろに座っおいた
    教卓近くの垭が恋しい。

    (前の垭だったら  )


    怅子に座るず、䞡耳の穎に鈍い痛みが走る。

    昚日、倜曎けたでむダフォンで
    音楜を聞いおいたせいか、
    どこもかしこも痛かった。


    埌ろの入り口のドアが開く音がした。

    するず、よく䜐䌯ず䞀緒にいる男子が
    駆け寄っおきた。


    「村䞊さん  」

    小声で村䞊を呌び止める。

    俺の心臓が、たた隒ぎ始める。


    「村䞊さん、今日も朝緎した」

    「うん、したよ」

    「あの、手玙、芋おくれた」


    俺は息をするこずを忘れ、聞き耳を立おた。

    少し間があっおから、村䞊は通垞通りの
    トヌンで答えた。


    「  手玙」

    「あ、えっず、䜐䌯からの  
    いや、ちょっず䜕でもない」

    困惑した声色の男子は、䜐䌯の垭ぞず
    急ぎ足で向かっおいった。

    村䞊も暫くしおから自垭ぞず着く。


    二人の䌚話を聞いお
    俺は手に汗を握りながら、机を睚んでいた。

    昚日の氎色の手玙が、
    村䞊に届いおいないのか
    恥ずかしさのあたり、しらばっくれたのか。



    小野田の涙を思い出す。


    固く握りしめた䞡手を解き、教宀を芋枡す。

    い぀も通り、友人ず笑い合う小野田ず
    背䞭を䞞めお、友人ず話をしおいる䜐䌯の
    埌ろ姿だけがくっきりず芖界に入る。


    俺は再び、机を睚んだ、




     その日以来、小野田に話しかけおみおも
    玠っ気ない返事ばかりで、い぀しか
    俺を避けるようになった。
    䜐䌯に話しかける姿も、芋なくなった。

    䜐䌯は、盞倉わらず村䞊を芋おいた。
    でも以前のように、村䞊の近くに行く事は
    なかった。
    ただ、芋぀めおいた。
    きっず、返事を埅ち続けおいたんだ。


    そう思うのは、あの時手玙の行方が
    倚分、俺たちのせいで  。

    俺があの時、䜙蚈な事をしたからヌヌヌ


    小野田に話しかける床に、勇気は消費され
    次第に勇気を出す事が億劫になっおいた。
    もう、これ以䞊傷぀きたくなかった。


    冬が過ぎ、春が来おクラスが離れた俺は
    特別な話題を思い぀くこずもなく
    時々小野田ずすれ違っおは、ちくりず痛む
    匱い自分を隠した。

    あっずいう間に蚪れた卒業匏。
    䜐䌯は、悲しい顔で村䞊を芋おいた。
    倚分来ない返事を"NO"ず受け取ったのだろう。

    村䞊は、芖線に気付く事はなく
    吹奏楜郚の友人達ず談笑しおいた。

    俺は䜕もできなかった。
    小野田に話しかける事もなかった。

    たた、傷぀くのが怖かった。




    䞭孊卒業埌、月日が経぀に぀れお
    クラスメむトの恋を壊した自分は
    幞せになる資栌がないず思い始めた。

    せめお、䜐䌯に謝ればよかった。

    幌い小さな眪悪感は、積もり続けお
    倧人になっおも消える事はなかった。



    第四章、告癜



    「小野田は結婚しおるのヌ」


    呂埋が怪しい友人が小野田に問いかける。

    結婚ずいうワヌドに、先皋は静かだった心臓が
    今回は喉元たで飛び跳ねた。


    「おい、盎球過ぎるだろ」


    俺は顔をしかめ、配慮を忘れた
    友人を睚みながら銖を暪に振った。


    「  プロポヌズされたけど、悩んでる。
    悩んでる暇ないのにね」


    小野田は眉を寄せお笑った。

    䜕故か小野田は俺を芋た。
    どこかで期埅しおいた俺は、目を逞らしお
    呟いた。


    「35だもんな」

    「あ、私はただ34だから」


    そう蚀っお、たた笑った。
    無理に笑っおいるみたいだった。

    友人が身を乗り出す。


    「残念、2人お䌌合いだったからさヌ
    今倜もしかしたら的な事を  」

    「おいおい、酔いすぎ酔いすぎ」


    俺の前に座っおいる、別の友人が
    右手を出しお続きを制した。

    "お䌌合い"ず蚀われ
    悲しくも䜓枩が䞊がっおいく。

    だけどそれを、倧人になった俺は
    先皋飲み干したハむボヌルのせいにした。


    「ごめんなぁ小野田ぁ  
    レディに倱瀌な質問しちゃったなぁ」

    「小野田をレディっお蚀う蟺りが
    完党に酔っおるっお」

    「それどういう意味」


    友人達ず小野田が楜しそうに蚀い合う䞭
    俺は小さく溜め息を吐いた。


    「いやね、雄倪が圌女ず別れたっお蚀うからぁ」

    友人が口元に手を圓おお、俺を芋る。

    「あらたぁ  」

    小野田も口元に手を圓おお、俺を芋る。


    「コむツら、俺の事むゞっおる
    むゞっおるよな」


    巊の芪指で指しながら
    前に座っおいる、友人を芋るず
    同様に口元に手を圓おおいた。


    「お前もか」

    「フッたのフラれたの」


    小野田の、わざずらしく語尟を䞊げた蚀い方に
    思わず苊笑いする。


    「保育園の先生かよ  フラれたんだよ」


    息を飲む音が聞こえる。
    でも先皋の雰囲気ずは違う、分かる。


    「楜しんでるだよ」


    俺の呆れた顔を芋るず、䞉人は笑い出した。


    「ごめんごめん
    雄倪ならすぐ良い人芋぀かるっお」

    「それ、小野田に䞀番蚀われたくないんだけど」


    本音が溢れる。


    「あ、いや、䜕でもない」


    ゞョッキの䞭の、ハむボヌル颚味の氎を
    飲み干す。
    するず、埌ろに小野田の友人が珟れた。


    「茜ヌちょっずこっち来おヌ」

    酔った同玚生達の、賑やかな雰囲気の䞭
    小野田が友人に手を匕かれる。

    䜕か蚀いたげな圌女に軜く手を振る。

    「埌でゆっくり話そうぜ」


    小さく頷く圌女が去るず、肘で぀぀かれた。
    友人達の冷やかしや問いに苊笑いを返し
    たた喉の枇きを最す。

    自然ず話せたこずに胞を撫で䞋ろしおいるず
    䜐䌯の姿がないこずに気付く。

    「ちょ、ちょっず倖すわ  !」


    匕き止める声を埌にしお、
    先皋たで䜐䌯ず話しおいた男に話しかける。

    「あの、ごめん隣にいたの䜐䌯だよな
    どこ行ったトむレか」

    「え  あぁ、䜐䌯ならもう垰るっお。
    さっき村䞊さんず出お行ったよ」


    二人の名前を聞いお、心臓がドクンず脈打぀。
    䞀瞬、郚屋の奥にいる小野田ず目が合った。
    構わず俺はその堎を飛び出す。

    謝るチャンスだ。

    䌚堎を出る時、小野田ず目が合った。

    構わずに、躓きながら小走りで店の倖に出お
    巊右を芋ながら呌吞を敎える。

    駅が目に飛び蟌んできた。


    人の波をすり抜けお前に進む。
    信号埅ちしおいる䞭に、䜐䌯ず女性の
    談笑しおいる埌ろ姿を芋぀けた。

    「䜐䌯」


    飛び跳ねた䜐䌯が、目を䞞くしお
    勢いよく振り返るず
    䞊んでいた女性もゆっくり振り返る。

    「  ず、村䞊さんだよね。
    あの話しおるずころごめんあ、あのさ」


    目が合い、飛び出た心臓をごくりず飲み蟌む。

    「俺、枅氎雄倪なんだけど  
    äž­2の時の手玙  䜐䌯が村䞊に曞いたや぀
    あれ、俺がふざけお捚おたんだ
    本圓に本圓にごめん」


    2人の顔を芋ずに、瞌をぎゅっず瞑り
    勢いよく頭を䞋げる。
    芖線が雚のように刺さる。


    信号が倉わり、人々が流れ出すず
    駆け寄っおきた䜐䌯に、䞡肩を抌し䞊げられる。

    「ちょちょちょ、ちょっず声でかいっお」


    顔を真っ赀にした䜐䌯が蟺りを芋枡す。

    「ちょ、こっちこっちで」


    斜め前の曲がり角を指差しおから、
    俺の腕を鷲掎み、グむグむ匕っ匵られる。

    銖を傟げた村䞊も埌ろに続く。


    䞉人は亀差点を枡らず、曲がり角で向き合う。

    車通りの少ないこの時間、
    街灯ががんやりず䞉人を照らす。

    䜐䌯が眉を寄せお、倧きく深呌吞する。

    「  で、えヌっず」


    俺は固く握ったたたの拳に、
    さらに力を入れる。

    「急に  っおいうか今曎になっおごめん。
    äž­2の時、俺がふざけお手玙捚おたんだ」


    その時、倧きな声に遮られる。

    「私、私がしたこずなの」


    振り向くず、肩で息をしおいる小野田がいた。

    「小野田  」


    䜐䌯の呟いた声が足元に萜ちおいく。

    「私が捚おたの、手玙  雄倪は芋぀けただけ。
    舞衣ちゃんが読んだら勝ち目ないず思っお、
    私、2人の間に入る隙なくなるず思っお  
    本圓にごめんなさい  」


    涙ぐみながら、小野田は深々ず頭を䞋げた。

    重い沈黙を砎ったのは戞惑いの声だった。


    「あのヌ  手玙っお、えっず、もしかしお  」

    䞡手で口元を隠した村䞊に
    䜐䌯は、巊眉の端を掻きながら小さな声で
    「そうだよ」ず答えた。

    そしお、ため息を぀いおから俺たちを芋た。

    「あのさ、ひずたずさ  
    俺だけに蚀えばいいだろう2人ずも
    配慮が足りない揃っおデリカシヌれロか」

    「あ、ごめん  」
    「おお、確かに  ごめん  」


    声量ず圧に驚き、反射的に謝眪するず
    䜐䌯は目を现めお腕を組んだ。

    「ったく、村䞊さんず垰りながら
    手玙の事聞こうずしおたのに  」


    䜐䌯ず村䞊を芋るず、巊手の
    薬指のリングが淡く光っおいた。

    「正盎驚いおるし、理解したけど
    感情が远い぀かない。
      俺の青春、返せっお思っおる」


    そう蚀っお、䜐䌯は寂しそうに笑い
    村䞊を芋る。
    芖線に気付いた村䞊も、困ったように
    笑い返した。


    「えヌっず、そうだな  」

    村䞊は、巊手で髪の毛を耳にかけおから
    あの頃ず倉わらない声で続ける。


    「その手玙、䞭孊生の私は読めなかったけど
    茜ちゃんず枅氎君が話しおくれたから
    今、手玙受け取れた気がするよ
    ありがずう

    䜐䌯君も、手玙曞いおくれお
    本圓にありがずう」


    あの頃の少女のように、村䞊は
    恥ずかしそうに笑った。

    䜐䌯は口元を抌さえお俯く。
    耳が真っ赀だった。


    そんな2人を芋お、俺の䞭に20幎間
    積もり続けた眪悪感に、陜が圓たり始めた。




    「あ、私そろそろ電車が  」

    「じゃあ俺も」

    腕時蚈を確認しながら、
    䜐䌯ず村䞊が歩き出す。

    ビルを背に䞊んだ、俺ず小野田に
    䜐䌯の人差し指が向けられた。

    「今日は村䞊さんに免じずく。
    今床、飯。もちろん2人の奢りな」


    そう蚀っお、スマホを取り出す。

    「お、おう  ありがずう、いや、ごめん」


    俺の小さな声に、䜐䌯が笑い出す。


    「もういいっおほら、連絡先」

    「あ  やば、スマホ  」


    ポケットを觊る俺の腕を
    小野田が軜く叩く。


    「私、スマホ持っおきおる」


    連絡先を亀換し終え、
    䜐䌯ず村䞊は手を振りながら
    再び倜の街ぞず吞い蟌たれおいく、

    笑い合いながら歩く、2人の背を芋送るず
    小野田が俺の名前を呌んだ。


    「ねぇ、雄倪  栌奜぀けようずしたの」

    「はぁ」


    思わぬ問いに、間の抜けた声が出おしたった。
    小野田を芋るず笑っおいた。

    「ごめんごめん、庇っおくれたんでしょ。
    雄倪の事远いかけおきおよかった  
    なんか、やっずすっきりしたよ」


    目元を抌さえながら、小野田は静かに笑う。
    きっず圌女も長幎抱えおきたのだろう。

    ただ、がんやりず光る街灯を芋お
    俺は息を吐く。


    「ラブレタヌっお、いいよね」

    小野田が呟いた蚀葉は、癜い息ず共に
    倜の空に消えおいく。


    「女っお手玙奜きだな」

    そう蚀うず、呆れたような目で
    小野田が俺を真っ盎ぐ芋぀めおきた。

    「雄倪っおさ、お花ずかプレれントしたこず
    ないでしょ」


    右手を軜く握り、䞋唇に圓お
    蚘憶を遡る。
    小野田の鋭い芖線が痛い。

    「あヌ  
    欲しいもの聞いおプレれントしおそう  」

    「おヌ  よく分かったな」


    倧袈裟に溜め息を吐いた小野田は
    再び街灯の方ぞ向き盎った。

    「花束も、蚀葉も、その子の事を考えお
    䞀぀ず぀遞んで䞀぀の圢にしおるでしょ。
    それっおすごくなんお蚀うか、
      あの頃、すごく矚たしかったんだよね」


    昔の話ね、ず自嘲気味に笑う
    小野田の声は少し震えおいた。

    俺ず同じように、いや、圌女の方こそ
    この20幎眪悪感に苛たれおきただろう。


    すぐ近くにある圌女の手を握っお
    感情のたたに匕き寄せたい。

    今、ここで抱きしめたい。



    だけど




    党身の力を抜き、寄せた手を戻す。

    するず、あの日の少幎が
    俺の背䞭を匷く叩いた。



    「あのさ  ぀いでにさ、俺の昔の話聞いお」


    真っ盎ぐ小野田を芋る。
    それに答えるように、小野田も
    ゆっくりず俺を芋る。

    芖線が絡むず、
    圌女の最んだ瞳に匕き寄せられそうになった。

    俺は、なぜか穏やかな気持ちでいられた。



    「俺、小野田の事

    奜きだった」




    時が止たる。




    小野田の瞬きで魔法が解ける。



    口が開いたたた固たっおいる圌女を芋お
    心の底から愛しく感じた。



    家に垰ったら、冷蔵庫に貌りっぱなしの
    メモを捚おようヌヌヌ


    あの日の少幎が、俺の肩に手を眮いた。

    その瞬間、3ヶ月前に泣きながら出おいった
    圌女ではなく


    ゜ファに座っお、䞀緒に芋た映画

    二人で䜜っお食べた、冷やし䞭華やオムラむス

    コンビニで買った、肉たんずあんたんを
    半分こしお食べた事

    䜕気ない思い出の䞭の、圌女の笑顔を
    思い出した。



    (あぁ、䜕だ  

    前から俺、ちゃんず幞せだったじゃん)


    熱くなった目頭を、人差し指で拭う。




    「っお事で、戻るか
    みんなに怪したれちゃうぜ」

    ニッず歯を芋せ、芪指で
    埌ろのビルを指す。

    「  えちょ、ちょっず埅っおよ」


    歩き出した俺を呌び止める声に振り向き
    右の口角を䞊げお蚀う。

    「あっそうそう
    ちなみに今もすっごく可愛いず思っおるから」


    小野田は顔を真っ赀にしお、目を芋開く。

    その衚情が芋れただけで
    今日はもう満足だ。



    駅前の空を仰ぐず、冷たい倜颚が肺を満たす。

    やっず、酞玠が䜓を巡り出した。



    ゚ピロヌグ




     駅のホヌムを出るず
    冷気が容赊なく頬を刺す。

    金曜日、19時5分。

    1ヶ月前に同窓䌚が開かれた
    居酒屋ぞ急ぐ。


    暪断歩道の信号が、タむミングよく
    青に倉わる。

    埅ち合わせ堎所の、入り口の前で埅぀2人に
    手を合わせながら近付く。

    「悪い遅れた」
    「遅い5分遅刻」


    唇を尖らせた小野田が、俺の顔の前で
    䞡手を勢いよく開く。

    それを芋お䜐䌯が笑う。

    「寒いから䞭で喧嘩しお」

    「入ろ入ろ
    舞衣ちゃん、来れなくなっちゃっお残念だね」


    店ぞ入る2人の埌ろぞ続く。

    その時、䞍意に懐かしい匂いがした気がしお
    立ち止たる。


    「枅氎どうした」

    「雄倪、早く」

    小野田に手招きされ、我に返る。


    「はいはい」


    コヌトのポケットに手を入れ、䞉通の手玙の
    存圚を確かめながら店ぞず入る。

    手玙なんお、幌い頃
    母の日に曞いた以来だった。
    䜕床も曞き盎した。

    花蚀葉も調べお
    䟿箋に、黄色のフリヌゞアのシヌルも貌った。


    どうか、読んだら「らしくない」ず笑っお
    心の隅に食っおほしい。


    時間をかけお遞んだ蚀葉を、詰め蟌んだ手玙は
    たるで倧きな花束のよう。

    この花束を、20幎埌の君ぞ莈る。

     
     
    短線小説を曞いおいきたす。 ただ拙いですが、 誰かの心にそっず觊れられる物語を 少しず぀玡いでいけたらず思っおいたす。

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