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゚キデンッ④【完】

     ――時は、少し前に遡る。

    「たどか」

     ず、星桜せいおう倧孊長距離陞䞊競技郚監督を務める巻玀倫たきのりおに声をかけられたのは、箱根駅䌝埌の党䜓反省䌚が終わっおからだ。

    「 なんですか、監督」

     巻は六十を過ぎおもなお県光の衰えない、䞀芋するず近づきがたい人物だが、たどかからするず半分「実のおじいちゃん」のようなものだった。尊敬はしおいるけれど、過床にかしこたったりしない、そんな間柄。だからあたりよろしくないのをわかっおいお、たどかは時にため口さえ利く。それもたた、「態床がでかい」ず四幎生から埮劙に疎たれおいる原因の䞀぀だずわかっおいるけれど。

    たあもう、あの人たちは卒業だからいいでしょう

     巻は反省䌚の䌚堎ずなっおいた寮の食堂から最埌の䞀人が出お行くのを埅っお、ようやく話を切り出した。
     長机ず怅子が芏則正しく䞊ぶ食堂は、照明のほずんどが萜ずされおいおかなり暗い。たどかず巻の立っおいる郚分だけ電気が぀いおいるせいで、たるでスポットラむトが圓おられおいるみたいだった。

    「  たどか」
    「はい、なんです」
    「――来幎の指揮暩、おたえにやる」
    「  えっ」

     巻の蚀葉を呑み蟌めず、呆けた顔になったたどかを芋お、巻が眉間に皺を寄せた。

    「なんだ、芁らんのか。折角たった䞀幎だけずはいえ、監督の真䌌事をさせおやろうず思ったのに」

     その、蚀葉に。
     たどかは限界たで目を芋開いお、党力で手を䞊げた。

    「いやいや芁る 芁りたす‌ 超芁りたす‌ お願いだからやらせお䞋さい‌ ――  でも、なんで」

     最埌の䞀蚀を、たどかは呆然ずしお呟いた。
     たどかが将来の監督志望なこずを、巻は入孊前から知っおいる。いや、これは長距離界ではたあたあ有名な話だった。
     たどかず王子川兄匟は、家庭の事情から、スカりトが来おいたにも拘わらず、県䞋䞀の陞䞊匷豪の高校ではなく、ごく普通の高校に進孊した。そこの陞䞊郚にはたずもに指導できる倧人がいなかったので、たどかが䞀生懞呜勉匷しお、監督の代わりを担っおいた。それだけでは別段話題にはならないが、たどかが監督ごっこをしおいたその代だけ、郚員が奜成瞟を連発したので――たどか的には半分は自分の努力、半分は王子川兄匟ずいう逞材ありきだったず思っおいるが――、ちょっずした泚目を集めるこずになったからだ。

     ずいうわけで、たどかが将来監督を熱望しおいるこずは知られおいお、その䞊でたどかはこの䞉幎間、自分のオヌダヌ垌望を䌝えるなどしお、監督になりたい気持ちは本物だずいうアピヌルを続けおいた぀もりだった。
     けれど巻がたどかの意芋を取り入れおくれたこずは䞀床もない。それは圓然のこずである。
     巻は残しおきた実瞟の倧きさから、立堎を確立できおいるが、䜕幎も結果を出せないでいる監督が、ある日突然倧孊偎に銖を切られるのは、別に珍しいこずではない。ある意味でしっかりずしたビゞネスの䞖界であるからこそ䜙蚈に、ちゃんずした監督がいるのに、責任の取れない孊生に口を出させたりしない。
     それなのに、どうしお。
     たどかの探るような芖線を受けた巻は、少し疲れたような口調で蚀った。

    「前々から考えおはいたのだ。おたえのオヌダヌ通りに走らせおみるのも面癜そうだ、ずな。  おたえ、今日の詊合で田䞭ではなく䞀幎の宮野を䜿うようし぀こく蚀っおいただろう。宮野の方が調子がいいから、今幎はハむペヌスになるだろうから、宮野の方が適任だず」
    「はい、蚀いたしたね」

     けれど巻は田䞭を䜿った。その䞀番の理由は、四幎生だから。巻は今幎の䞀区はスロヌペヌスになるず読んでいお、それなら䞍調の田䞭でもなんずか抌し通せるず考えおいた。

    「結果は、おたえの読み通りだ。䞀区は前代未聞のハむペヌス。田䞭はボロボロ  。  最近、星桜は勝おなくなっおきおいるだろう。わかっおいる。悪いのは俺だ。この歳になるずどうしおも情が入る。恩情をかけおしたう」
    「  しょうがないですよ。監督には愛がありたすし」

     六十を過ぎおなお、朝から晩たでグラりンドに匵り぀いお指導しおいるのがその䜕よりの蚌明だ。巻は人生を、陞䞊競技に捧げおいる。誰よりも、献身的に。
     真正面から耒められお照れくさかったのか、巻が「ふん」ず錻を鳎らした。

    「  それでな、今日もたた負けお、惚敗しお、ふず思ったんだ。このたたではダメだず。䜕かを根本から倉えねばず。どうすればいいか考えたずきに、おたえの顔が浮かんだ。  おたえももう、来幎で卒業だしな。䞀幎くらい、おたえの奜きにさせおやるのもいいかず思っお」

     いや、違うな、ず、巻が銖を暪に振っお自分の蚀葉を蚂正する。

    「おたえがどんなふうに指揮を執るかを芋ながら、俺ももう䞀回、䞀から勉匷し盎したいず思ったんだ。おたえの読みはずにかく的確で、俺にはできない、柔軟で割り切った刀断も䞋せるからな」
    「監督  」

     そこたで蚀われお、たどかの胞はじんず来た。思ったより自分は高く買われおいたのだ、自分のアピヌルは無駄じゃなかったず知っお、じんわり涙があふれそうにもなった。  ただ泣くのには早いのに。

      泣くのは、倢の䞉冠を達成し終えおからだろ

     たどかは急いで、目元に浮かんだ雫を手で拭った。

    「だからたどか。来幎はおたえの奜きにしろ。緎習メニュヌは倉わらずに俺が組むが、駅䌝のオヌダヌは党郚おたえが組め。おたえが指揮を執っおいるこずが明らかになるず色々面倒なので公にはせんが、俺はおたえのオヌダヌに䞀切口を出さん。責任はもちろん、俺が取る」

     巻が力匷く、たどかの䞡肩を抱いた。觊れおいる郚分から「頑匵れよ」ずいう無蚀の゚ヌルが䌝わっおくる。ああ、なんお枩かくお力匷い励たしなのだろう。

    「はい‌」

     ずたどかは背筋を䌞ばし、腹に力を蟌め、倧きな声で返事した。
     「ん、良い返事だ」ず、巻が優しい顔で笑った。たどかは、懐の倧きい監督に、心からの感謝を捧げた。

    来幎は絶察、監督を嬉し泣きさせおやる  

     そしお盛倧に胎䞊げしおから、この寮を去るのだ。

     話の終わりに、巻がにやりず笑った。

    「でもおたえ、䞉冠は難しいぞ 箱根四連芇に導いた俺でさえ、達成できたこずはない。  それに野茚ノむバラが、史䞊初の二幎連続䞉冠を成し遂げおしたったあずだしな」

     通垞、どこかが䞉冠したあずには、䞉冠は続かない。駅䌝は、それほど甘い競技じゃない。野茚が今日の箱根で史䞊初の二幎連続䞉冠を達成しおしたっお、たどかも正盎、少し、ほんの少しだけ「これはたずいな」ず焊る気持ちを抱いたけれど。
     でも来幎がたどかにずっおのラストチャンスなのだから、はじたっおもいないのに諊めるわけにはいかなかった。

    「わかっおたすよ。だからこそやりがいがあるんじゃないですか。それに、難しくおも達成した倧孊は確かにあるんですから、たったく䞍可胜なこずじゃないですよ」

     ――星桜倧孊䞉冠達成の偉業は、この倜からはじたった。

     䞉冠を達成するためには絶察に萜ずすこずのできない、緊匵に満ちた初戊、究極のスピヌド駅䌝の出雲、勝率六割を超える、党日本の芇者が党力で二冠を阻止しにかかる党日本、そしお誰もが予想しおいなかったダヌクホヌスがぎりぎりたで星桜を远い詰めるこずになる箱根。

     今からちょうど䞀幎埌、すべおの困難を乗り越えお、この堎所で䞉冠達成を喜び合う日が来るこずを、今はただ、誰も知らない倜だった。

     
     
    普段は他の堎所別名矩で小説を曞いおいる、小説家やマンガ原䜜者・゚ッセむストを目指す者。ここは私の日蚘垳。興味のあるこず雑倚に曞きたす。東京ず綺麗なお姉さんに匷く憧れおいたす♡

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