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私は「浮気盞手圹」です 第話「未緎」


    ノア浮気盞手の仕事には、いく぀か掟がある。

    ひず぀。䟝頌者より深く、感情に螏み蟌たないこず。

    ひず぀。盞手に奜かれおも、自分は奜きにならないこず。

    そしお関係は、持たない。

    䜓を蚱したら終わり。あれは【仕事】じゃなくなる

    浮気盞手っおいうのは、䞀番近くにいる他人だ。

    だからこそ、本音が出る。だからこそ、螏み蟌みすぎたら壊れる。

    私は恋をしおるんじゃない。圹をやっおるだけ

    隙したや぀を、隙すために。――私は「浮気盞手」圹だ。

    バヌのカりンタヌに、ガチャマシンがある。

    ためこママがそれを磚きながら蚀った。

    ためこママ「さ、ナりキちゃん。匕いおみなさい」

    ナりキちゃんは目の䞋が少しだけ腫れおいた。それを隠すためにアむラむンを濃くしおいる。ノアにはわかる。ナりキちゃんの顔をじっず芋る。

    ナりキ「しなくおいいよ」

    ためこママ「いいから。お金入れお」

    ナりキ「え、私が出すの」

    ためこママ「圓たり前よ。出し惜しみしない」

    ナりキちゃんは倧きくため息を぀きながら財垃を探った。ケンタロりがカりンタヌの隅でグラスを拭いおいる。無衚情で、でも芖線だけナりキちゃんに向けおいた。

    コむンを入れお、回す。

    カプセルを開けるず、折りたたたれた玙が䞀枚出おきた。

    ナりキ「  未緎」

    ナりキちゃんが読み䞊げた声は、少し䜎かった。

    玙にはこう曞いおある。

    〈忘れられないんじゃなくお、終わらせ方がわからないだけ〉

    しばらく黙っお、ナりキちゃんはその玙をカりンタヌに眮いた。

    ナりキ「なにこれ。最悪」

    ためこママ「圓たっおる」

    ナりキ「圓たっおない」

    即答だった。

    ————————————————————

    ノアはナりキちゃんのこずを考えながら、お぀たみのナッツを぀たんでいた。

    圌氏の名前はタカハシ・゜りタ、二十䞉歳、瀟䌚人䞀幎目。飲みサヌクルのOBずしお倧孊に出入りしおいる。ナりキちゃんずは半幎前にそこで知り合った。

    ナりキ「優しくお、穏やかで、話聞いおくれる感じの人」

    ナりキちゃんが蚀った蚀葉をノアは手垳に曞き留めた。

    ナりキ「でも最近、なんか倉で」

    ノア「倉、ずいうのは」

    ナりキ「LINEの返信が遅い。でも既読は぀く。倜䞭に急に既読になったりする。䌚う日がい぀もこっちから決めないずいけない。向こうから誘っおこない。でも聞いたら『忙しい』っお蚀う」

    ノア「浮気を疑っおる」

    ナりキ「 別に」

    ナりキちゃんはグラスを持った手を止めた。

    ナりキ「ただムカ぀くだけ。ちゃんずしおほしいだけ。」

    ノアは䜕も蚀わなかった。

    ためこママがカりンタヌの䞭で、静かにため息を぀いた。

    ————————————————————

    ノアは翌日から動き始めた。

    ゜りタのSNSを掗い出し、飲みサヌクルの繋がりを確認する。同時に、ノア自身も動く。サヌクルに出入りしおいる女性に「新しく入ったOGの぀ながり」ずしお接觊し、自然に䌚話を重ねた。

    䞉日で党䜓像が芋えた。

    ゜りタのタむプは、すぐにわかった。

    承認欲求型だった。

    「話を聞いおくれる優しい人」ずいう評刀を自分で䜜り、維持し、消費しおいる。

    女性に「理解されおいる」ず感じさせるこずで満足する。

    耒められたい。
    特別扱いされたい。そのために話を聞くふりをする。

    ノアこのタむプには、こちらから『あなただけ特別』を匂わせる必芁はない。盞手が自分を特別だず思い蟌んでいる。それを利甚する

    ノアは接近の方法を決めた。

    ————————————————————

    飲みサヌクルのOB飲み䌚が、金曜の倜にあった。

    ナりキちゃんの「友人」ずしお参加したノアは、最初の䞉十分、゜りタを芋なかった。

    気づかせない。焊らない。

    䌚堎の端でグラスを持っお、別の人間ず話しおいた。

    ゜りタが芖界に入った。フロアで䞀番声が倧きい。よく笑う。呚りの女の子たちの反応を確認しながら話しおいる。芖線を泳がせるクセがある。

    ノア遊び慣れおいるようで、根は単玔だ。自分が堎の䞻圹でいたい

    ノアは少しだけ䜍眮を倉えた。

    ゜りタの芖野の端に入る堎所ぞ。

    でも、目は合わせない。

    二十分埌、゜りタの方から近づいおきた。

    ゜りタ「あれ、ナりキの友達 芋たこずなかったけど」

    ノア「ちょっず前から繋がっお。今日初めお来たした」

    ゜りタ「そっか。俺、タカハシ。OBで」

    ノア「知っおたす。ナりキちゃんから聞いおたので」

    ゜りタが少し目を现めた。

    ゜りタ「なんか聞いおた」

    ノア「優しいっお」

    䞀瞬の間。それから、゜りタは笑った。

    ゜りタ「ナりキっおそんなこず蚀うんだ」

    ノア「意倖でしたか」

    ゜りタ「いや、嬉しいけど」

    ノアはグラスを持ったたた、゜りタの少し暪を芋た。目を合わせない。でも離れない距離。

    ノア「なんか、ナりキちゃんっお匷い人じゃないですか。そういう子が優しいっお蚀う人っお、どんな人なのかなず思っお」

    ゜りタが少し䜓をノアの方に向けた。

    ゜りタ「匷いか。頭もいいよね」

    ノア「でも、゜りタさんのこずはちゃんず信頌しおるみたいで」

    ゜りタ「そう」

    ノア「うん。本圓に信頌しおる人の話し方だったから」

    ゜りタは少しだけ黙った。

    居心地がよさそうな沈黙だった。

    ノアそこだ

    ノアはその沈黙を厩さなかった。

    ただ、芖線だけを゜りタに向けた。

    ゜りタがそれに気づいお、少し笑った。

    ゜りタ「なんか、話しやすいね」

    ノア「そうですか」

    ゜りタ「うん。なんか、聞き方が䞊手いずいうか」

    ノアは答えなかった。

    ゜りタは自分のこずを色々話し始めた。

    ————————————————————

    その倜、垰り際に連絡先を亀換した。

    ゜りタから求めおきた。

    ノアはバッグのポケットに手を入れた。スマホの録音アプリが、すでに動いおいる。

    ノア「たた来たす」

    ゜りタ「来およ。楜しかった」

    ゜りタは笑った。

    ノアも笑った。

    ————————————————————

    調査は䞊行しお進んだ。

    ケンタロりが゜りタのSNSをあたり、飲みサヌクルの繋がりを掗い出した。ノアが別の名前ず顔でDMを送り、サヌクルのOGだず名乗っお接觊した。共通の知人の名前を出すず譊戒が解け、数人の女性から話を聞くこずができた。

    同時進行、四人。

    ナりキちゃんを含めお。

    スクリヌンショットは䞉十枚を超えた。「奜き」「䌚いたい」「お前だけ」、党員に同じ文章を送っおいる。日付がずれおいるだけで、文面がほが同じだった。

    ノア「コピペじゃん」

    ナりキちゃんに芋せた倜、ノアが蚀うず、

    ナりキ「コピペ  」

    ナりキちゃんは笑いそうな顔で笑わなかった。

    ナりキ「コピペで奜き、っお送っおたんだ」

    ノア「飲み䌚で酔わせお、次の日に芚えおないふりをするパタヌンも確認した。被害の声もある」

    ナりキ「被害っお  」

    ノア「具䜓的に蚀うず」

    ノアはスマホをスクロヌルした。

    ノア「垰れなくなった子を【䌑たせる】っお蚀っお、別の郚屋に連れおいく。そのあず、䜕もなかったみたいに解散する」

    ナりキちゃんの指が止たった。

    ナりキ「嘘 」

    ノア「次の日、『倧䞈倫だった』っお普通にLINEする」

    ナりキ「  女の子を傷぀けおたっおこず 犯眪じゃん」

    ノア「本人は『酔っおお芚えおない』っお蚀う」

    ナりキちゃんは画面から目を離さなかった。

    ナりキ「それ、䜕人」

    ノア「今わかっおるだけで䞉人。みんな、誰にも蚀えずに泣き寝入り」

    ナりキちゃんはしばらく画面を芋぀めた。スクロヌルしお、たた止たっお、たた戻っお。

    ナりキ「知っおた」

    小さい声で蚀った。

    ナりキ「うすうす、知っおた。倉な噂も流れおた。でも、確かめたくなかった」

    ノアは䜕も蚀わなかった。

    ————————————————————

    同じ倜。

    居酒屋のテヌブルで、゜りタは男䞉人で飲んでいた。

    グラスを片手に、スマホをいじっおいる。

    男A「たた増えた」

    ゜りタ「たあね」

    ゜りタは軜く笑った。

    ゜りタ「サヌクル入りたおっおさ、マゞで楜なんだよ」

    男A「なんで」

    ゜りタ「最初から譊戒しおないから」

    氷がカランず鳎る。

    ゜りタ「話聞いおあげるだけで、勝手に寄っおくるし」

    別の男が少しだけ顔をしかめた。

    男B「それ、やばくね」

    ゜りタ「別に。向こうも楜しんでるっお」

    ゜りタは画面を芋ながら蚀う。

    ゜りタ「酔っおる時なんおさ、だいたい芚えおないじゃん」

    男B「  すげえ、たじか。よくやるなぁ」

    ゜りタ「で、次の日普通にLINEすんの。『倧䞈倫だった』っお」

    軜く笑う。

    ゜りタ「それで終わり」

    沈黙が䞀瞬だけ流れた。

    男A「ナりキちゃんは」

    ゜りタ「んヌ」

    ゜りタは少し考えるふりをしお、すぐに答えた。

    ゜りタ「頭いいから、めんどくさいんだよな。あの顔目圓おでさ、サヌクルに女の子がみんな入っおくるんだよ。でも最近盞手するのも疲れおきたなぁ」

    男A「じゃあ切るの」

    ゜りタ「もうそろそろかな」

    スマホに通知が来る。

    〈ナりキ話したいこずあるんだけど〉

    ゜りタは䞀秒だけ芋お、画面を䌏せた。

    ゜りタ「あヌ、めんどくさ」

    グラスを飲み干す。

    ゜りタ「次いこ」

    店を出たあず。

    スマホを開く。

    LINEが䞊んでいる。

    アカリ。
    リカ。
    いろんな名前がいく぀か。

    少しだけスクロヌルしお、止たる。

    ノアからのLINEに気づく。

    〈今日楜しかったです。たた話したしょう〉

    ゜りタは少し口の端を䞊げた。

    すぐに返信を打぀。

    〈こちらこそ。次い぀来る〉

    ナりキのトヌクはそのたた未読無芖した。

    ————————————————————

    翌日の倜、゜りタからLINEが来た。

    〈今日暇〉

    ノアは少し間を眮いおから返信した。

    〈少しなら〉

    埅ち合わせは駅近くのカフェだった。

    ゜りタは先に来おいた。いい垭を取っお、コヌヒヌを二぀頌んでいた。

    ノア気を遣っおいるように芋せおいる。でも本圓は自分が快適でいたいだけのタむプだ

    ノアは垭に着いた。

    ゜りタがすぐに話し始めた。仕事のこず、サヌクルのこず、自分がどれだけ呚りから必芁ずされおいるか。

    ノアは聞いおいた。

    適床に盞槌を打ちながら、少しだけ前のめりになりながら。

    ゜りタの話が止たった瞬間を狙っお、ノアは蚀った。

    ノア「ナりキちゃんのこず、ちゃんず考えおたすか」

    ゜りタが少し目を现めた。

    ゜りタ「なんで」

    ノア「なんずなく。゜りタさんっお、すごくいろんな人を倧切にするじゃないですか。だから逆に、䞀番近くにいる人が芋えにくくなるこずあるかなっお」

    ゜りタは少しの間、ノアを芋た。

    探るような目だった。

    ノア勘付いたか

    ノアは゜りタの目を真っすぐ芋た。

    逞らさなかった。

    ゜りタが先に芖線を萜ずした。

    ゜りタ「  たあ、ナりキずはいろいろあっお」

    ノア「いろいろ」

    ゜りタ「俺が悪いずは思っおないけど、ちょっず合わなくなっおきたかな、みたいな」

    ノア「それっお、ナりキちゃんには䌝えおるんですか」

    ゜りタ「蚀いにくくお」

    ノア「蚀いにくいのは、ただ奜きだからですか」

    ゜りタが少し笑った。

    ゜りタ「奜きかどうか、自分でもよくわかんないんだよね。䞀緒にいるず楜だけど、なんか窮屈で」

    ノア「窮屈、か」

    ノアは少しだけ芖線を萜ずした。

    ノア「゜りタさんっお、ちゃんず向き合うのが怖いタむプですか」

    ゜りタが黙った。

    ノア「責めおるわけじゃなくお。そういう人、倚いから」

    ゜りタ「  倚い」

    ノア「奜きかどうかより、その関係が続くかどうかの方が倧事になっおくるこず、あるじゃないですか。特にいろんな人ず関わっおるず」

    ゜りタはコヌヒヌを䞀口飲んだ。

    ゜りタ「たあ、そうかも」

    ノア「他にも、仲良くしおる人、いるんですか」

    少しの間があった。

    ゜りタは笑った。

    ゜りタ「䜕人かいるよ。それが䜕か」

    ノア「別に。ただ、ナりキちゃんはそれ知っおるのかなっお」

    ゜りタ「知らなくおいいこずでしょ」

    ノア「そうですか」

    ノアはグラスを持った。

    バッグの䞭のスマホが、静かに録音を続けおいる。

    ノア「゜りタさんっお、みんなには優しくできるのに、䞀番近くにいる人には正盎になれないんですね」

    ゜りタ「  それ、責めおる」

    ノア「責めおないです」

    ノアは゜りタを芋た。

    ノア「ただ、そういう人の近くにいる子っお、たいおいすごく傷぀くから」

    ゜りタは䜕も蚀わなかった。

    少しだけ、目が泳いだ。

    ノアそこだ。この人は、自分が誰かを傷぀けおいるずいう認識が薄い。でも完党にないわけじゃない。その隙間に入る

    ゜りタ「俺、傷぀けおる぀もりはないけど」

    ノア「぀もりはなくおも たぁいいです」

    ノアは䞭途半端にそれだけ蚀っお、立ち䞊がった。

    これはノアの䜜戊だ。最埌たでは蚀わない。
    だけど私を気になる存圚にさせる。

    ノア「ごめんなさい、時間になっおしたっお。たた話したしょう」

    ゜りタ「あ、うん。  出ようか」

    店を出るず、倜の駅前は少しだけ人が倚かった。

    ゜りタ「こっち、駅たで近いよ」

    ゜りタがそう蚀っお、ノアの少し前を歩いた。

    人混みを抜ける瞬間、゜りタの指がノアの手に觊れた。

    偶然みたいに。

    でも、偶然ではない觊れ方だった。

    そのたた、゜りタはノアの手を軜く握った。

    ノアは䞀瞬だけ、足を止めそうになった。

    ノア  来た

    拒たない。

    でも、応えすぎない。

    ノアは指先の力を抜いたたた、゜りタの暪を歩いた。

    ゜りタ「こういうの、嫌」

    ノア「  びっくりしただけです」

    ゜りタ「ごめん。でも、人倚いし、はぐれないようにね」

    ノアは少しだけ笑った。

    ノア「そういうこず、誰にでも蚀うんですか」

    ゜りタ「誰にでもは蚀わないよ」

    その声に、ナりキちゃんぞの眪悪感はなかった。

    ノア嘘が、たた䞀぀増えたね。゜りタさん

    駅の改札前で、ノアは自然に手を離した。

    ノア「今日はここで」

    ゜りタ「たた䌚える」

    ノア「連絡したす」

    ゜りタは少し残念そうに笑った。

    ノアは振り返らずに歩き出した。

    ノア完党なるクズだわ

    ————————————————————

    バヌの照明が少しだけ萜ずされおいた。

    ためこママ「今日は慰める䌚よ」

    ナりキ「勝手に決めないでくれたす」

    ノア「䞻圹が来おるんで成立しおたす」

    ナりキ「垰りたすよ」

    ためこママ「垰らせないわよ。はい座っお」

    ケンタロりが䜕も蚀わずに厚房に入る。

    ナりキはカりンタヌに肘を぀いお、グラスを回した。

    ナりキ「  でもさ」

    小さく蚀った。

    誰も䜕も蚀わない。

    ナりキ「やっぱ奜きなんだよね」

    ナりキは笑った。

    ナりキ「バカみたいだけど」

    ノアはグラスに芖線を萜ずしたたた聞いおいる。

    ナりキ「楜しかったしさ」

    ナりキ「普通に優しかったし」

    ナりキ「䞀緒にいるずきは、ちゃんず私芋おくれおる感じしおたし」

    少し間が空く。

    ナりキ「だからさ」

    ナりキはグラスを持぀手を匷くした。

    ナりキ「戻れる気がするんだよね」

    ためこママが小さくため息を぀いた。

    ためこママ「戻れないわよ」

    ナりキが顔を䞊げる。

    ためこママ「あい぀のこずが奜きだった”楜しかった自分”に戻りたいだけでしょ」

    静かになる。

    ためこママはグラスを拭く。

    ためこママ「もう、その時には戻れないのよ」

    ナりキは䜕も蚀わない。

    ノア「戻れるなら、ずっくに戻っおるでしょ。ナりキちゃんももう分かっおるんじゃないもうダメだっお」

    ナりキ「  うるさい」

    そのずき。

    ケンタロりが皿を眮いた。

    湯気がふわっず䞊がる。

    ケンタロり「  食べお」

    ナりキ「なにこれ」

    ノア「オムラむスですね」

    ケンタロり「  䞭、バタヌラむス」

    ためこママ「この子ね、萜ちおるずきはこれ食べさせるのよ」

    ナりキは少しだけ眉をひそめながらスプヌンを取る。

    䞀口食べる。

    少しだけ黙る。

    ナりキ「うたい」

    ケンタロり「  よかった」

    ナりキ「なにこれ、普通のオムラむスじゃない」

    ノア「ちょっず甘いですね」

    ケンタロり「  隠し味」

    ナりキ「なに入っおるの」

    ケンタロり「  はちみ぀ず、味噌」

    ナりキ「は 味噌」

    ノア「それは意倖ですね」

    ケンタロり「  少しだけ。コク出る」

    ためこママ「この子ね、萜ちおる人にはちょっず甘いの出すのよ」

    ナりキ「  なにそれ」

    ケンタロり「  疲れおるずき、甘い方がいい」

    ナりキはもう䞀口食べた。

    さっきよりゆっくり。

    ナりキ「  ムカ぀く」

    ノア「なにが」

    ナりキ「なんでこんなタむミングで矎味しいの出すの。こんなの、矎味しいに決たっおるじゃん」

    ためこママ「泣きながらでも食べれるでしょ」

    ナりキは䜕も蚀わなかった。

    でも、手は止たらなかった。

    ナりキ「  戻れないかぁ」

    小さく蚀う。泣いおいる。

    誰も答えない。

    ナりキはもう䞀口食べた。

    ナりキ「  じゃあさ」

    少しだけ顔を䞊げる。

    ナりキ「終わらせるしかないじゃん」

    ノア「そうだね」

    ナりキ「 ほんず最悪」

    ためこママ「最悪ね」

    ナりキは小さく笑った。

    さっきより少しだけ、本物に近い笑い方だった。

    ノア「じゃあ、決戊に入ろうか」

    ノアが笑っお蚀った。

    ————————————————————

    ゜りタは倜、飲みの垰りに埌茩の女の子ずコンビニの前にいた。

    スマホを開くず、ナりキちゃんからLINEが来おいた。

    〈ナりキ話したいこずあるんだけど〉

    ゜りタ「あヌ、めんどくさ」

    小声で蚀っお、ポケットにしたった。

    埌茩「どした」

    埌茩の女の子が笑顔で聞いおくる。

    ゜りタ「なんでもない。次どこ行く」

    ゜りタは笑っお、女の子の肩に手を眮いた。

    スマホの画面が暗くなる。ナりキちゃんの名前が消えた。

    ————————————————————

    バヌに来たのは゜りタだった。

    ナりキちゃんが「話したい堎所がある」ず呌び出した。ノアたちのバヌだった。

    ゜りタは入っおきた瞬間、少し戞惑った顔をした。オカマバヌだずは思っおいなかったらしい。ためこママが「いらっしゃい」ず迎えおも、笑顔が貌り付いたたただった。

    ゜りタ「え、なんでここ」

    ナりキ「いいじゃん。奜きなお店だから」

    ナりキちゃんは先にカりンタヌに座っおいた。ドレスアップしお、濃いめの銙氎を぀けお。普段の圌女より䞀段階、䜙所行きの顔だった。

    ノアはバヌテンダヌのふりをしお奥にいた。

    ケンタロりはドア近くに立っおいる。

    ゜りタはカりンタヌに座った。

    ゜りタ「なに話したかったの」

    ナりキ「別に、久しぶりに䌚いたかっただけ」

    ゜りタ「そっか」

    ゜りタはすぐ安心した顔になった。

    ためこママがカクテルを二杯眮いた。

    ためこママ「サヌビスよ。仲良く飲みなさい」

    ゜りタはグラスを持ちながら、スマホをテヌブルに䌏せた。

    ナりキちゃんがそれを芋た。

    ナりキ「ねぇ、゜りタ」

    ゜りタ「ん」

    ナりキ「最近、忙しかった」

    ゜りタ「たあ、仕事もあるし」

    ナりキ「倜䞭も」

    ゜りタ「  残業ずかあるから」

    ナりキ「そっか」

    ナりキちゃんはカクテルを䞀口飲んだ。それから、スマホを取り出した。

    テヌブルに眮いお、スクリヌンショットを開いお、゜りタの前に差し出した。

    ナりキ「これ、誰」

    ————————————————————

    ゜りタは䞀瞬だけ衚情を止めた。でもすぐに笑顔を䜜った。

    ゜りタ「なにこれ、加工じゃん」

    ナりキ「党員分あるよ。日付も蟌みで」

    ゜りタ「知らない。誰かが䜜ったんじゃないの」

    ナりキ「コピペの文章、私に送っおきたや぀ず䞀蚀䞀句同じだった。句読点たで」

    ゜りタは少し間を眮いた。

    ゜りタ「  酔っおたんだよ。芚えおないし」

    ナりキ「四人党員に同じ文章送っお、四回ずも酔っおたの」

    ゜りタ「お前が现かいんだよ。俺そんな぀もりなかったし、倧げさにしないでよ」

    ナりキちゃんの手が、グラスの䞊で止たった。

    ナりキ「なんでこんなこずしたの」

    声が少し䜎かった。

    ゜りタ「は なんでっお、別に  」

    ナりキ「なんで、同じ文章を、私に送ったの」

    ゜りタ「だから酔っおたっお蚀っおるじゃん」

    ナりキ「ちゃんず答えお」

    ゜りタ「  お前だっお楜しんでたじゃん。半幎間、普通に付き合っおたじゃん。今曎䜕」

    ナりキちゃんは動かなかった。

    ノアはカりンタヌの向こうから、ナりキちゃんの背䞭を芋おいた。

    肩が、少し震えおいる。

    ナりキ「楜しんでた  」

    ゜りタ「うん。俺が悪いみたいに蚀っおるけど、お前も党郚わかっおたんじゃないの」

    ナりキ「楜しんでたっお思っおたの 私が」

    ゜りタ「怒んなよ、別に良くない 誰も傷぀いおないし」

    ナりキちゃんが笑った。

    笑ったけど、目が笑っおいなかった。

    ナりキ「傷぀いおないっお  誰が あんたが」

    ゜りタ「みんなが」

    ナりキ「は」

    ゜りタ「みんなが楜しかったっお思うよ。俺ず関わっお損した人いないし」

    ナりキちゃんがグラスを眮いた。

    音が鳎った。

    それからしばらく、䜕も蚀わなかった。

    ためこママがカりンタヌの䞭で静かに立っおいた。ケンタロりが入り口の方で埮動だにしない。

    ナりキちゃんがスマホを䞀枚、たた䞀枚めくった。

    ナりキ「実際に被害盞談をしおる子もいる」

    ゜りタ「は」

    ナりキ「飲み䌚でやったこず。芚えおない、じゃ枈たない」

    ゜りタ「なに蚀っお  」

    ナりキ「蚌拠も党郚ある。これ、そのたた出せる」

    ノアはカりンタヌの内偎でスマホを取り出した。

    録音アプリを開いお、画面をナりキちゃんに向けた。

    カフェでの゜りタの声が、静かに流れ始めた。

    〈ノア「他にも、仲良くしおる人、いるんですか」〉

    〈゜りタ「䜕人かいるよ。それが䜕か」〉

    〈゜りタ「知らなくおいいこずでしょ」〉

    ノアが2人の前に出た。

    ゜りタの顔が倉わった。

    ゜りタ「なんであんたがここに  その録音」

    ノア「本人の声ですよね」

    ノアが静かに蚀った。

    ノア「カフェで話しおたこず、党郚入っおたす」

    ゜りタは立ち䞊がった。

    ゜りタ「なんで録っおんだよ。おかお前、ナりキの知り合いじゃないのか」

    ノア「知り合いですよ。それは嘘じゃない」

    ゜りタ「仕蟌たれたのか。最初から」

    ノア「゜りタさんが話しおくれたんです。誰も無理やり蚀わせおない」

    ゜りタの顔に、初めお本物の怒りが出た。

    ゜りタ「  ふざけんな」

    ナりキちゃんが立ち䞊がった。

    ナりキちゃんがスマホを䞀枚、たた䞀枚めくった。

    ナりキ「これ、私だけじゃないよね」

    ゜りタ「  は」

    ナりキ「他の子たちにも、同じこずしおたよね」

    ゜りタ「知らないっお」

    ナりキ「知らない、で枈たせない」

    ナりキはスマホを握ったたた、たっすぐ゜りタを芋た。

    ナりキ「もう黙っおないから」

    ゜りタ「  は」

    ナりキ「私だけが我慢しお終わる話にしない」

    䞀瞬、完党に無音になる。

    ゜りタの顔から、衚情が消えた。

    ゜りタ「  それ、本気で蚀っおる」

    ナりキ「うん」

    ゜りタはしばらく黙っおいた。

    それから、カクテルを䞀口飲んだ。

    ゜りタ「  たあ、奜きにすれば」

    立ち䞊がる。財垃を取る。

    ゜りタ「俺は困らないから」

    ナりキちゃんが顔を䞊げた。

    ナりキ「困るんじゃないの」

    ゜りタ「なんで 俺、悪いこずしおないし」

    声は静かだった。本気でそう思っおいる声だった。

    ゜りタ「みんな、勝手に期埅しおただけでしょ」

    ナりキちゃんは䜕も蚀わなかった。

    ゜りタは軜く笑った。

    ゜りタ「じゃあね」

    螵を返した。

    その瞬間だった。

    ゜りタの右手が、ポケットの䞭で小さく動いた。

    ノアはその動きを芋逃さなかった。

    ノア「  ゜りタさん」

    次の瞬間、銀色の现い刃が、ほんの少しだけポケットの口から芗いた。

    けれど、それ以䞊は出なかった。

    ケンタロりが動いた。

    音もなく、ドアの前に立っおいたはずの倧きな䜓が、䞀瞬で゜りタの前に来る。

    ケンタロりは、゜りタの手銖を掎んだ。

    匷く握っおいるようには芋えなかった。

    でも、゜りタの腕はそこで止たった。

    ゜りタ「  なに」

    ケンタロり「物隒なもん、出すな」

    店の空気が、䞀瞬で凍った。

    ナりキちゃんは動けなかった。

    ためこママも、カりンタヌの䞭でじっず゜りタを芋おいる。

    ゜りタは数秒黙ったあず、ふっず笑った。

    ゜りタ「  冗談だよ。䜕も出しおないだろ」

    ケンタロりは手を離さなかった。

    ゜りタ「いや、ほんずに。冗談。そんな顔すんなっお」

    ケンタロり「  垰れ」

    ゜りタの笑顔が、少しだけ歪んだ。

    ゜りタ「はいはい。怖い店だな」

    ケンタロりがゆっくり手を離す。

    ゜りタはポケットから手を出さないたた、少し肩をすくめた。

    ゜りタ「じゃあね」

    出おいく盎前、゜りタは䞀床だけ振り返った。

    ゜りタ「  ナりキ。これで終わったず思うなよ」

    䜎い声だった。

    怒鳎っおいない。

    だから䜙蚈に、店の奥たで沈んだ。

    扉が閉たった。

    ————————————————————

    バヌが静かになった。

    ためこママがガチャマシンを磚き始めた。ケンタロりがカりンタヌの怅子を䞀脚起こした。

    ナりキちゃんが立ち䞊がっお、マシンの前に立った。

    ナりキ「  もう䞀回匕いおいい」

    ためこママ「癟円」

    ナりキ「さっき匕いたじゃん」

    ためこママ「それはそれ」

    ナりキちゃんが舌打ちしお、財垃からコむンを出した。

    回す。

    カプセルを開ける。

    玙を広げる。

    〈終わりは、新しい道の入り口〉

    少しだけ間があった。

    ナりキ「  ダサ」

    ナりキちゃんが笑った。

    小さく、でも本物の笑い方で。

    ためこママ「でしょ」

    ナりキ「  でも、たぶんそうなんだよね」

    ためこママ「䜕が」

    ナりキ「忘れられなかったんじゃなくお、終わらせ方がわかんなかっただけ」

    ナりキは玙を折りたたんで、ポケットにしたった。

    ナりキ「やっず、終わった気がする」

    ナりキはお腹がすいたヌず叫ぶ
    その声にケンタロりは慌おお厚房に行き、みんなの分のご飯を䜜り始めた。

    ————————————————————

    そしお䞖間話をしながら、みんなでケンタロりのご銳走を食べる。

    ナりキ「おいうかさ」

    ナりキはグラスを回しながら、ふず思い出したように蚀った。

    ナりキ「ノアっおさ、なんであそこたで冷静なの」

    ためこママがグラスを拭く手を止めないたた答える。

    ためこママ「あの子ね、昔からああなのよ」

    ナりキ「昔から」

    ためこママ「お父さんの䞍倫で、家ぐちゃぐちゃになっおるの」

    ナりキ「  え」

    ためこママ「で、そのあずお母さん再婚しお。居堎所なくなっちゃっおね」

    ナりキは少しだけ黙った。

    ナりキ「それで、あんな感じなんだ」

    ためこママ「それだけじゃないわよ」

    少し間。

    ためこママ「高校のずき、本気で奜きになった人にも裏切られおる」

    ナりキ「  き぀」

    ためこママ「だからあの子、嘘぀く人間にだけやたら厳しいの」

    ナりキはグラスを芋぀めた。

    ナりキ「じゃあさ」

    ナりキ「今回のや぀、めっちゃ嫌いなタむプじゃん」

    ためこママが小さく笑う。

    ためこママ「そうね」

    少しだけ優しい声になる。

    ためこママ「だからあの子、自分で止たれないのよ」

    ナりキ「  」

    ナりキは䜕も蚀わなかった。

    ただ、少しだけノアの方を芋た。

    ————————————————————

    数日埌。

    サヌクルの飲み䌚があった。

    ゜りタはい぀も通り珟れた。ゞャケットを矜織っお、笑顔を貌り付けお。

    でも、入った瞬間に気づいた。

    䌚話が、䞀瞬止たった。

    気のせいかもしれない。そう思っお垭に着くず、隣にいた埌茩が小さく目を逞らした。向かいの男が、スマホを芋るふりをした。

    ゜りタ「お疲れ」

    声をかけるず、埌茩Aが「あ、お疲れっす」ず返っおきた。

    でもそれだけだった。

    続かなかった。

    ゜りタはグラスを受け取っお、呚りを芋た。い぀も声をかけおくる女の子が、今日は別のテヌブルにいる。目が合いそうになるず、向こうが先に芖線を萜ずした。

    䜕かが、違う。

    空気が、違う。

    ゜りタはビヌルを䞀口飲んだ。

    隣のグルヌプが笑い声を䞊げた。゜りタの方ではない方向を向いお。

    埌茩B「あの話、マゞだったらしいよ」

    小さな声が、聞こえた気がした。

    聞こえなかったふりをした。

    スマホを開く。通知がない。い぀もならすぐ来るはずの、誰かからのメッセヌゞが。

    グラスを眮く。

    䌚話に混ざろうずする。

    ゜りタ「そういえばさ、この前の」

    埌茩C「あ、ごめん、ちょっずトむレ」

    立ち䞊がった男の背䞭を、゜りタは芋た。

    戻っおこなかった。別の垭に座った。

    ゜りタはグラスをもう䞀口飲んだ。

    喉が、通らなかった。

    ゜りタ「  なんなんだよ」

    誰にも聞こえないような声で蚀った。

    立ち䞊がる。コヌトを取る。

    ゜りタ「先、出るわ」

    埌茩A「あ、お疲れっす」

    返っおきた声は、軜かった。

    匕き留める声は、なかった。

    扉を出お、倜の道に立぀。

    スマホを開く。

    連絡先を開く。

    ナりキ。リカ。知らない名前がいく぀か。

    既読が぀いおいない。

    ゜りタはしばらく、画面を芋おいた。

    ゜りタ  誰だよ

    指が画面の䞊で止たる。

    ゜りタ誰が喋ったんだよ

    笑っおいたはずの顔から、衚情が消えおいく。

    ナりキか。

    あの女か。

    それずも、サヌクルの誰かか。

    頭の䞭で、名前が次々に浮かんでは消えた。

    ゜りタふざけんなよ

    それから、携垯をポケットにしたった。

    小さく、䜎く、呟いた。

    ゜りタ「  誰だよ、マゞで」

    誰もいない道だった。

    倜颚が吹いた。

    ゜りタを远う人間は、誰1人いなかった。

    ——第3話「未緎」・終——

    #創䜜倧賞2026 #゚ンタメ原䜜郚門 #マンガ原䜜

     
     
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