
🦸♂️妊娠8ヶ月、土下座事件
妊娠8ヶ月で、私は3人に囲まれていた。
そして、何度も土下座をしていた。
——どうして、こんなことになったんだろう。
きっかけは、遠征コントマンの一言だった。
「一緒に会社をやろう」
そこから始まったこの会社は、資金繰りの悪化で早くも立ち行かなくなっていた。
内定していた社員Aには内定取り消し。
社員Bには条件変更。
そして遠征コントマン自身も、社員から無報酬の役員へ。
それでも、立て直すしかなかった。
私はそう思っていた。
この方針は、遠征コントマンと話し合って決めたものだった。
——そのはずだった。
開店予定の店舗に、4人が集まった。
私と、遠征コントマン、内定社員A、社員B。
遠征コントマンは言った。
「Aさんの精神面を考えると、“内定取り消しと、俺の解雇”って形にしよう。Aさんを落ち着かせて外に出たあと、俺は戻ってくるから。」
Aには持病があり、不安定な面があると聞いていた。
私はそれに同意し、その段取りで進めることにした。
正直、心臓が飛び出そうなくらい緊張していた。
「Aさん、内定は取り消しになります。遠征コントマンさんは解雇です。ごめんなさい。」
言葉は正確には覚えていない。
ただ、そう伝えた。
Aはあっさりと「わかりました」と言い、帰ろうとした。
遠征コントマンも一緒に外へ出ていった。
店舗には、私とBが残った。
何を話せばいいのかわからなかった。
条件が変わる可能性を伝えると、Bは「一旦考えます」と言って帰っていった。
当然だと思う。
給与がどうなるかもわからない状態で、即答できるはずがない。
遠征コントマンは、なかなか戻ってこなかった。
LINEには「Aさんが落ち着かなくて」とだけ送られてきた。
——そりゃそうだ。
入社日に内定取り消しなんて、普通じゃない。
私は一人で、誰もいない店舗で作業をしていた。
このあと、自分がどんな状況に置かれるのかも知らずに。
しばらくして、遠征コントマンから連絡が来た。
「今から戻りますね」
そして戻ってきた。
AとBを連れて。
その瞬間、空気が変わった。
気づけば、構図は「私 対 3人」になっていた。
遠征コントマンが口を開いた。
「思ったんですけど、報酬がないって、どうやって生活すればいいんですか?対価がなければ、協力できません」
——は?
言い出したのは、あなたじゃなかったか。
資金はすべて、私が出している。
役員報酬も、形式上は出していることにしているだけで、私は受け取っていない。
貯金を切り崩して、無報酬でやっている。
それでも私は、AとBには払いたいと思っていた。
Aは入社前から善意で手伝ってくれていたし、その分の対価は当然だと思った。
でも、遠征コントマンには違和感しかなかった。
経営に関わる立場の人間が、資金が尽きかけている状況で「報酬をくれ」と言う。
理解できなかった。
「時間はお金と同じですよね。私はそれだけ時間を使いました。社長はどうですか?」
頭が真っ白になった。
何を言われているのか、うまく処理できなかった。
気づけば、私だけが責められていた。
遠征コントマンはAとBに向かって言った。
「守ってあげられなくてごめん」
その言葉で、完全に流れが決まった。
AとBは、遠征コントマンの側に立った。
「遠征コントマンさんに払われないなら、私たちもいりません」
理解できなかった。
どうして、そんな結論になるのか。
3人から責められる。
逃げ場はなかった。
私は、
妊娠8ヶ月の身体で、
何度も土下座をした。
帰り道のことは、「ある事件」のこと以外はあまり覚えていない。
終電はもうなくて、別の路線でなんとか近くまで戻った。
そこから、駐車場までの道を、泣きながら歩いた。
この数日、まともに食事も取れていなかった。
その日も、何も食べる気がしなかった。
翌日。
妊婦健診で「切迫早産」と診断された。
自宅安静。
そして、里帰り出産のため、できるだけ早く実家に戻るようにと言われた。
私のせいで、お腹にいる息子を
危険にさらしてしまった。
母親失格だ。
遠征コントマンの一言で始まった、この会社。
まるで壮大なコントのようだと思った。
でも、
笑える場面は一つもなかった。
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