
コ・ラムとぴーちゃん 第10話|背中を踏んでお通りください
正式タイトル:
半世紀メンタル拷問人生で精神攻撃が効かない私、異世界ではラスボスキラーでした
シリーズ名:
コ・ラムとぴーちゃん
前回のあらすじ
怪物を倒した直後、村人はラムを恐れ、ババ様は「青翼の鬼子母神」の伝承を口にする。ラムは否定しつつも、残った青い核をぴーちゃんが浄化して飲み込み、胸の奥で“初代ぴーちゃん”の声と記憶が一瞬よみがえる。痛みと切なさを抱えたまま、ババ様に促され、黒い結晶と伝承の真相を聞くため二人は村へ向かう。
前回
コ・ラムとぴーちゃん 第9話| 青翼の鬼子母神

村へ向かう道すがら、わたしはずっと村人たちの「鬼子母神様」呼びを訂正し続けていた。
「だからわたしは鬼子母神じゃなくて、ただの旅人で」
「ですが、そのお肩には青き小鳥が……」
「いるけど! いるけど、だからって即・鬼子母神認定しないで!?」
「しかも赤き実の火を」
「投げましたけど! あれは成り行きで!」
先頭を歩くババ様は、杖をつきながらふむふむと頷いているだけで、訂正する気はまるでない。
ぴーちゃんはわたしの肩で、まだ少しけだるそうにしつつも、時々「ママ、がんばってるでしゅ。ぴーちゃん、どんなママもだいしゅきでしゅう」とキラキラした目で励ましてくる。
いや、そこは一緒に説明してほしい。
やがて森を抜けると、小さな村が見えてきた。
木と土でできた家々。低い石垣。畑。煙を吐くかまど。
のどかで、素朴で、どこにでもありそうな村――の、はずだった。
「……えっ」
村の入口に差しかかった瞬間、わたしは立ち止まった。
人が、いた。
村人、全員いた。
老若男女が道の両脇にずらりと並び――いや、並んでいるというか、全員が地面に五体投地していた。
ぺたり。
ぺたり。
ぺたり。
見渡す限り、ひれ伏す背中、背中、背中。
しかも村の中心へ続く道は、なぜか人間の背中でまっすぐ一本の“道”になっている。
「…………なにこれ」
先頭にいた初老の男が、顔だけ上げて、震える声で言った。
「青翼の鬼子母様……! このような、むさくるしく卑小なる村へお越しいただき、まことに恐悦至極……!」
「いや、立って?」
「お御足が汚れますゆえ、どうぞ我らの背を踏み、長老の家までお進みください!」
「立って!!!」
わたしの声が村中に響いた。
だが誰ひとり立たない。
むしろ、もっと深く額を地面に押しつけ始めた。なんで!?
「いやいやいや、やめてちょうだい! そんなことしないから! 普通に地面を歩きますから、わたし!」
すると別の村人が、ほとんど泣きそうな顔で言った。
「しかし、鬼子母様の伝承にございますれば……」
「なんの伝承!?」
「その昔、青き小鳥に危害を加えようとした愚か者どもを、怒り狂った鬼子母様が背中を踏みつけて歩き、踏まれた者は七日七晩うわごとを言いながら改心したと……」
「どんな伝承なのよ!!」
ババ様が、しみじみとした声で補足した。
「以来、この村では『青翼の鬼子母がお越しになった際は、背を道にしてお通しするべし』という習わしが残っておる」
「残しちゃだめでしょ、そんな習わし!」
「由緒あるものですぞ」
「由緒があってもダメなもんはダメなのよ!」
わたしは額を押さえた。
なんなの、この村。真面目な顔で変なこと言うのやめてほしい。
そのとき、肩の上のぴーちゃんが、きゅるんと首をかしげた。
「ママ」
「なに」
「みなさんが、ママに踏んづけてほしいと望んでいるなら、踏んづけてあげるのも親切でしゅ」
わたしはゆっくり振り返った。
「ぴーちゃん?」
「だって、せっかく並んでくれたでしゅ」
「並んでくれたじゃないのよ」
「しかも、みんなちょっと嬉しそうでしゅ。ママにとても踏まれたがっているでしゅ!」
「嬉しそうに見えたとしても踏まないの!!」
前列の若者が、顔を上げてうっすら頬を染めた。
「鬼子母様に背をお使いいただけるなら、末代までの栄誉。本望です……」
「ほら見ろでしゅ」
「誰か止めて!」
だめだ。この村、よくわからない信仰が熟成しすぎている。
わたしはひとつ大きく息を吸った。
「みなさん、よく聞いてください」
村人たちがびくりと肩を震わせる。
なんでわたしの一挙手一投足でそんなに緊張するのか。
「わたしは、あなたたちの背中を踏みません」
「……な、なぜ」
「なぜって、痛いでしょうが。あと、わたしが気持ち悪い」
「しかし……」
「しかしじゃないの。あと、鬼子母神でもない。旅人。ラムです。ラム」
「ラム……」
「そう。ラム。普通に呼んでいいです」
「ら、ラム様……」
「“様”もいらない」
「ラム鬼子母様……」
「混ぜるな」
後ろの方で、くすっと笑った子どもの声がした。
見ると、小さな女の子が、お母さんの袖の影から半分だけ顔を出して、わたしとぴーちゃんを見ている。
ぴーちゃんはその子に気づくと、ちょこんと羽を上げた。
「ちいさい子でしゅ」
「うん、ちいさい子だね」
女の子は、少し迷ってから、か細い声で言った。
「……鬼子母さま、こわくないの?」
その場の空気が、少しだけ止まった。
わたしはしゃがみこんで、目線をその子に合わせた。
ぴーちゃんもわたしの肩から腕へ降りて、女の子の方をのぞきこんでいる。
「うーん、怒るとちょっとこわいかも」
わたしは正直に言った。
「でも、か弱いものをいじめるやつにだけ、です」
それから、にっこり笑う。
「あなたには、こわくしないよ」
女の子はきょとんとしたあと、ちょっとだけ笑った。
その瞬間、張りつめていた空気が、ほんの少しやわらいだ。
わたしは立ち上がって、改めて村人たちを見回す。
「だから、みんな立って。わたしは普通に歩く。背中は踏まない。これは決定です」
沈黙のあと、ババ様が杖で地面をこん、と鳴らした。
「鬼子母……こほん。ラム殿のお言葉じゃ。皆、立ちなさい」
しぶしぶ、というより名残惜しそうに、村人たちがもぞもぞ起き上がる。
なんか変な空気だけど、とりあえず人の背中ロードを歩かずに済んだ。よかった。
「では、長老の家までご案内いたします」
「お願いします」
村人たちが左右に分かれ、やっと普通の道が現れる。
わたしは胸をなで下ろした。
そのとき、ぴーちゃんがわたしの耳元でこそっと言った。
「ママ、ほんとはちょっとだけ踏んでみたかったでしゅか?」
「思ってない」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「ざんねんでしゅ」
「そこ、残念がるところじゃないのよ」
わたしは肩をすくめて、ようやく村の中へ足を踏み入れた。
歩道ではまだ何人かの村人が、時折わたしの顔をチラ見しながら、踏んでもらいたそうに五体投地していた。
いや、ほんとにどういう文化なの、この村。
次回
コ・ラムとぴーちゃん 第11話|ババ様が知る、ほんとうの伝承
制作メモ
本作は、作者が構想・本文を執筆し、AIを壁打ち・査読・ネーミング・ビジュアル制作補助として活用しています。最終的な内容と表現の責任は作者にあります。
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