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君は、普通じゃない。

    「今日のあの子の服、なんか…色々すごかったね(笑)」

    大学3年生の授業終わり。
    たまたま聞いてしまった陰口。

    「すごかった」はきっと感心でも尊敬でもない。
    国語が苦手な私でもそれだけは何となくわかる。

    私は昔から可愛い服が大好きだった。
    フリルやリボンがついていて、ピンクで、女の子らしい服。
    だけど私の母親は厳しかった。
    女の子らしい服装を嫌い、いつも私にズボンを履かせて、地味な色の服を着せた。
    「この服欲しい」とピンクのスカートを持っていっても絶対に買ってもらえることはなかった。

    その反動か。
    大学生になり、ある程度自由になって着る服を自分で選べるようになってから、もう止まらなかった。
    フリフリの可愛い服をフリマサイトで買い漁り、毎日着た。
    「ゆめかわいい」「ロリータ」と呼ばれるようなジャンルが大好きだった。
    その中でもクラシック系のお姫様のようなデザインの服を取り扱っているブランドにハマった。
    だけど田舎のイオンには、私の好きなブランドの店がない。
    だから長期休みには新幹線で大阪に行って、好きなブランドの店で可愛い服を爆買いした。
    爆買いといっても、常に金欠な普通の大学生。
    ファミレスのバイトを週MAXで入っても、稼げるのはせいぜい月7,8万。
    そのお金を握りしめて大阪に向かう。
    この時間は私の生きがいだった。

    私は毎日パステル色の明るい服を着て、ミニスカと高いヒールを履いた。
    この格好で30分自転車を漕いで大学に通った。
    田舎の大学だったからか、私のような服装をしている人は誰1人いない。
    それでも周りを気にしたことなんか一度もなかった。
    ずっとしてみたかった女の子らしい可愛い格好。
    毎日服を選ぶ時間が楽しくて幸せだった。

    その日はブラウンのクラシックなジャンパースカートスカートにフリルのブラウスを着て大学に行った。
    いつもより少し派手かな?とほんのちょっと不安になった。

    夕方の講義が終わって帰ろうとしたとき。

    「あの子の服見た?なんか…色々すごかったね(笑)」

    私のことだ。
    一瞬で悟った。
    頭が真っ白になった。

    これまで人の目なんか気にしたこと無かった。
    けど、みんな私の服、変だと思ってたの?

    次の日から私は可愛い服を着るのをやめた。
    無難で目立たないトップスにズボンを履いた。
    大丈夫、きっとこれで私は「普通」なはず。

    だけどなんだろう。
    「みんなと同じ」「普通」になれたはずなのに。
    ミニスカをやめてズボンを履いたら「そういう格好もいいじゃん!」と褒めてくれる友達もいたけど。
    普通になればなるほど、私はどんどん元気がなくなっていく。
    どこにお出かけしても、美味しいものを食べても、なんとなくテンションが上がらなかった。

    朝、鏡の前に立つ時間が短くなった。
    前は「今日はどのリボンにしよう」「このブラウスにはこの靴下かな」って、ワクワクしながら悩んでいたのに。

    今は適当に手に取った服を着るだけ。
    鏡を見ても、「うん、変じゃないな」と確認するだけ。

    変じゃない。
    浮いてない。
    誰にも何も言われない。

    …なのに、全然楽しくなかった。

    クローゼットの奥には、好きだった服たちが並んでいた。
    フリルのブラウス。
    レースのついたスカート。
    何度も大阪まで行って買ったお気に入り。

    見ないようにしていたのに、ある日どうしても目に入った。

    その中に、一番好きだったブラウンのジャンパースカートがあった。

    大学で陰口を聞いた、あの日の服。

    しばらく眺めていた。
    胸の奥がぎゅっとなった。

    怖かった。
    また変だと思われるかもしれない。
    笑われるかもしれない。

    でも同時に思った。

    …私、この服ほんとは今でも着たい。

    誰かに褒められたいわけじゃない。
    目立ちたいわけでもない。

    ただ、好きだった。

    この服を着て鏡を見る自分が好きだった。
    「可愛いな」って思える時間が好きだった。
    大学までの30分、自転車をこぎながら風でスカートが揺れるのが好きだった。

    だから次の休みの日。
    私は久しぶりにその服を着た。

    大阪へ向かう新幹線の中。
    少しだけ手が震えていた。

    周りの人に見られてる気がした。
    「年相応じゃない」と思われるかもしれない。
    「イタい」って思われるかもしれない。

    それでも。

    梅田のショーウィンドウに映った自分を見た瞬間。

    あ、私、やっぱりこれが好きだ。

    って、自然に笑っていた。

    不思議だった。

    誰かに認められたわけでもない。
    褒められたわけでもない。

    でも、自分で自分を「いいじゃん」って思えた。

    たったそれだけで、心がふっと軽くなった。

    あのとき大学で聞いた「なんか…色々すごかったね(笑)」は、たぶん本当に私のことだったと思う。

    でも今なら思う。

    そりゃそうだよね。

    だって私は、みんなと同じ格好じゃなかった。
    田舎の大学で、ひとりだけ浮いてたかもしれない。
    そんな君はきっと「普通」じゃない。

    でも、あの頃の私はちゃんと自分の「好き」を着てた。
    誰かの正解じゃなくて、私の正解を。

    30代になった今でも、私はフリルの服を着る。

    「もうその歳で?」と思う人もいるかもしれない。
    似合うとか、似合わないとか。
    年相応とか、そうじゃないとか。

    色んな声はある。

    でも。

    好きなものを好きって言えること。
    着たい服を着て、鏡の前で少し嬉しくなれること。

    それって、年齢よりずっと大事だった。

    あの大学生の私に言ってあげたい。

    大丈夫。
    可愛い服、やめなくていいよ。

    誰かの「なんか変」で、
    自分の「大好き」を手放さなくていい。

    あなたが心からときめく服を着て、
    今日も堂々と歩いていい。

    だって人生は、
    自分の「好き」を何回でも取り戻していいんだから。

     
     

    あさ

     
     
    小学生の先生からアイドルになりました¦2児の母

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