
高PERでも買えるのか?ARM――半導体設計の覇者を分析する
スマートフォンを使ったことがある人なら、ARMの技術を使ったことがある。世界のスマホの約99%がARM設計のチップを採用している
iPhoneもAndroidも、どちらもだ。
半導体業界では知らない人がいないほどの存在でありながら、投資家の間ではまだ評価が分かれている銘柄でもある。PERは127倍と高水準。「高すぎて買えない」と敬遠する声がある一方、「成長を考えれば今が仕込みどき」という見方もある。
2023年9月にNASDAQへ上場し、足元の株価は$150あたり。バリュ研なりの視点で、ARMの今を冷静に分析していく。
ARMとは何か?
ARM Holdings(ARM)は1990年に英国で創業した半導体設計会社だ。2023年9月にNASDAQに上場し、時価総額は約$167B(約24兆円)。親会社のソフトバンクグループが約90%の株式を保有している。
ARMの特徴は「チップを作らない」点だ。

ARMは自分でチップを作らず、チップの「設計図(アーキテクチャ)」をApple・Qualcomm・NVIDIA・Samsungなどに提供し、ライセンス料とチップ1個ごとのロイヤリティを受け取るビジネスモデルだ。
事業の独自性は「アーキテクチャの支配」にある
ARMの本当の強みは、業界標準としての地位が30年以上かけて形成されてきた点だ。
スマートフォン向けチップでARM以外の選択肢はほぼ存在しない。AppleのM・Aシリーズ、QualcommのSnapdragon、MediaTekのDimensity、すべてARMアーキテクチャが土台だ。半導体エコシステム全体がARMを前提に設計されており、開発ツール・ソフトウェア・人材育成のすべてがARM中心に回っている。これを乗り換えるコストは天文学的に高く、一度採用した企業はほぼ離れられない構造になっている。
AI時代に向けた新たな戦場
ARMはスマートフォン市場でほぼ独占を確立した後、次の成長市場としてデータセンター・AI向けサーバーを狙っている。
従来のデータセンターはIntelのx86アーキテクチャが主流だったが、電力効率の高さを武器にARMベースのサーバー用チップが急速に普及しつつある。AmazonのGraviton、MicrosoftのCobalt、GoogleのAxionはすべてARMアーキテクチャを採用している。AIの学習・推論に大量の電力を消費するデータセンターにとって、電力効率の高いARMは非常に魅力的な選択肢だ。
AI需要が拡大するほど、ARM設計のチップの出荷数が増え、ロイヤリティ収入が増える構造になっている。
ファンダメンタル:成長は本物か
財務:ファブレスモデルの高収益体質
ARMはチップを製造しないため、工場への設備投資が不要だ。この「ファブレス(設計専業)」モデルにより、営業利益率は高水準を維持しやすい。IPO後に調達した資金も潤沢で、財務的な懸念は現時点では低い。
成長率:高い

2026年は+23%、2027〜2028年は30〜53%と加速が見込まれている。これはデータセンター・AI向けロイヤリティ収入の増加が本格化するタイミングと重なる。予想通りに進むかどうかが、バリュエーション判断の核心になる。
バリュエーション:数値だけみると割高は事実、問題は「成長率とPERのバランス」
PER(株価収益率)

2027年PER126倍、2028年でも82倍。S&P500の平均PERが20〜22倍であることを考えると、数値だけみると明らかに割高な水準だ。
ただし、単純にPERだけで判断するのは危険でもある。ARMのビジネスモデルは一度ライセンスを獲得すれば追加コストなしにロイヤリティが入り続ける「高利益率・スケーラブル」な構造だ。成熟した設備投資型企業とは本質的に異なる。
バリュエーションマップでの位置
バリュ研が独自に作成しているバリュエーションマップ(縦軸:2027PER、横軸:2028EPS成長率)でプロットすると、ARMはEPS成長率52.9%に対してPER126倍と、基準線(成長率×2倍)のほぼ上に位置している。
バリュエーションマップってなにかについては実際のバリュエーションマップを作ってみたの記事で解説しています。

これは「妥当なバリュエーション」と評価できる位置だ。ARMはこれまで基準線を大きく上回る割高水準で取引されることが多かった。その意味では、現在の水準はARMにしてはやや割安とも言える。PER単体で見ると高く感じるが、成長率と照らし合わせると納得感のある水準に近づいてきている。
フリーキャッシュフロー倍率とキャッシュフロー倍率

注目したいのが営業キャッシュフローマージン32%という水準だ。売上の3割以上が実際のキャッシュとして会社に残っているということで、ファブレスモデルの高収益体質が数字に表れている。設備投資がほぼ不要なため、FCFマージンも21%と高い。
直近12か月のFCF倍率164倍、CF倍率105倍は確かに高い。ただしPERと同様、この数字だけで判断するのは早計だ。2028年の推定ではFCF倍率81倍・CF倍率53倍まで低下する見通しで、EPS成長率50%超という成長スピードを考えれば、倍率の縮小ペースは決して遅くない。「今の高さ」より「どのスピードで適正水準に近づくか」を見るべき銘柄だ。
見落とせないリスクも整理する
① 高PERゆえの下落リスク
成長期待が少しでも裏切られると、株価の下落幅が大きくなりやすい。PER126倍という水準は、アナリスト予想を上回り続けることを前提に成り立っている。決算でガイダンスが弱ければ、株価が20〜30%下落することも珍しくない。
② ソフトバンクによる売却リスク
ソフトバンクグループが約90%の株式を持っているため、資金調達目的で大量に売却した場合、需給悪化により株価が大きく下がるリスクがある。
③ 特定顧客への依存
売上の一定割合をApple・Qualcommなどの大手数社に依存している。これらの顧客がARMアーキテクチャから独自設計に移行した場合、収益への影響は無視できない。
④ x86との競争激化
Intelがサーバー向けチップで巻き返しを図っており、データセンター市場でのARMシェア拡大が想定通りに進まない可能性がある。
まとめ:成長を信じるかどうかの判断
ARMのバリュエーションを一言で言うと、「成長ストーリーへの先行投資分が株価に乗っている」状態だ。
スマートフォン市場での支配的地位は揺るがない
AI・データセンター向けのロイヤリティ拡大は本物の成長ドライバー
バリュエーションマップ上では基準線付近に位置し、ARMとしては珍しく「妥当〜やや割安」な水準
PERだけ見ると127倍は確かに高い。ただ成長率とセットで評価すると、これまで常に割高だったARMが、初めて「ほぼ適正水準」に近づいているというのが現在地だ。Redditほど明確な割安感はないが、「割高で手が出せない」という状況でもなくなってきた。
バリュ研としては、以前より前向きに見ている銘柄のひとつ。ただし高PERゆえの下落リスクは常にあるため、入るタイミングと分散は慎重に。
バリュ研では今後もARMを含む主要銘柄のバリュエーションマップを定期更新し、個別株分析も順次公開していく予定です。決算や株価変動のたびにバリュエーションマップは変わるので、ぜひフォローしておいていただけると最新情報をお届けできます。
気になる銘柄のリクエストも歓迎です。
データ出典:MarketScreener・TradingViewのアナリスト予想、バリュ研独自計算(2026年4月2日時点)
本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。
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