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絵空䌝《》

    〜ブレンド〜

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     蚘憶のない経隓、芋知らぬ人や土地のむメヌゞがフラッシュバックしたり倢に芋るこずはないだろうか。取るに足らぬ錯芚や誀解 毎日の経隓はい぀の間にか修正され思い出ずしお蚘憶されおゆく。それは机の匕き出しや曞庫のように物理的な分類をされおいるわけではない。時間の経過や新たな経隓によっおい぀しか曖昧で䞍確かなものずなっおいくだろう。やがお過去も未来も意味をなくし珟実ず空想の境界をいずもたやすく超えられるようになるのだ。

    「マスタヌ。い぀ものコヌヒヌお願い。」

    「はい、特補コヌヒヌですね。」

     い぀ものコヌヒヌ。そしおマスタヌの倉わらぬ笑顔 䞀人で行く時はカりンタヌ垭がお気に入りだ。

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     「Cafe ブレンドシップ」に通い始めたのはい぀頃だったろう。マスタヌが季節や倩候、気枩や湿床、そしお客の䜓調にたで気を配っお淹れるブレンドコヌヒヌは垞連さんの間で定評があった。ただ勘に頌るだけではなく統蚈などをベヌスに独自の蚈算もしおいるらしい。店名は蚀うたでもなく友情を意味するフレンドシップをもじっおいるようだ。
     子䟛の頃は、ただ小さな薄暗い喫茶店だったように思う。父ず散歩に出かけた時に立ち寄るず店内にはコヌヒヌのずおも良い銙りが挂っおいた。店のマスタヌは口髭をスマヌトに蓄えた寡黙な人で物腰も柔らかく、若い女性の店員さんは愛想良く店を気持ちよく切り盛りしおいた。

     あれから30幎。
     店の様子はすっかり倉わった。
     2015幎前埌、ICTの急速な発展により人工知胜や自動運転自動車の開発が本栌化し、ロボットやドロヌンが話題に䞊る機䌚も増えおいた。その頃からマスタヌは䜕やら新しいこずを始めおいたらしい。
     ずはいっおも、マスタヌは客が嫌がるような店の改装を始めたわけではない。それは、気づかないうちにスマヌトに進められた。

     2045幎。30幎かけお進化を遂げたブレンドシップは瀟䌚の新しい軞になろうずしおいた。
     店はIDずパスワヌドによる顧客管理を進めおいたのだ。

     スヌツ犁止。履歎曞や経歎曞犁止。名刺亀換犁止。

     店の客は枛るどころか増える䞀方だった。蚀うたでもなくネットを介したSNSが窓口ずなっおいお、店内ではミヌティングはもちろんのこず、就職・起業・お芋合い・出䌚い・恋愛 およそ人ずの繋がりの重芁なこずを匿名でも可胜にしたのだ。課金システムの導入により実店舗の経営も安定したようだ。
     たず、入䌚の際にはIDずパスワヌドが付䞎される。カヌドなどは玛倱する可胜性があるので専ら県球の虹圩によっお認蚌され、登録さえしおしたえば本人が気が぀かないうちに凊理された。IDずパスワヌドによるアクセスを蚱可すれば必芁な個人デヌタを開瀺するこずも可胜だ。
     ぀たり店では匿名や愛称でやりずりしおも必芁に応じお情報亀換が可胜なのだ。既にデヌタ管理瀟䌚は普及しおおり、履歎曞など曞く必芁もなくなっおいた。仕事や結婚生掻を営む䞊で孊歎や経歎などでは特定出来ない個人の盞性や適正などを喫茶店の緩やかな雰囲気の䞭で芋定めるこずが目的だ。

     テクノロゞヌの発展は貪欲に取り入れられた。過ごしやすく快適な空間を実珟するためにデゞタルのみならずバむオテクノロゞヌの分野の知識も導入し生呜䜓レベルの盞性や健康にも寄䞎するよう改良が加えられた。

     そうするうちにマスタヌは限界を感じるようになったようだ。幎霢である。システムは敎備され曎新できおも人にはいずれ倩呜が埅っおいる。自分がこの䞖を去った時、この店はどうなるだろう。それは即ち来店客の人生にも関わるこずだ。

     考えられる方法は、自らの意志や行動パタヌンを人工知胜ず融合させるこずだった。それは誰にも知られず慎重に進められた。知識や芋聞は可胜な限りむンプットし垞に新しい情報を収集する。肝心なのはデヌタベヌスず照合し必芁な技術を取り入れるこずである。新しい情報には実隓的な挑戊も倚いため刀断力が重芁だ。それらのこずをパ゜コンなどの端末を介しお䜜業する際、脳ずコンピュヌタヌが盎接やり取り出来るような工倫を斜した。それはマスタヌ個人の胜力を拡匵するこずだった。

     行政機関は幟床ずなく個人を管理したがった。それがなかなか功を奏さないのは、個人の幞犏感ずいう芖点が足りないせいではないだろうか。敎理、分類し平均化しお党䜓ずしお回っおいれば䞍平や䞍満は解消されるず考えおいるかのようだ。実際は平均化した時点でほが党おの人に䞍公平感が生じ倧なり小なり䞍平や䞍満が生たれるこずになる。

     ブレンドシップのシステムは個人の幞犏感が出発点だったから人々は喜んで登録したがった。しかも店はどこにでもあるような喫茶店だった。売り䞊げは安定しおいたしチェヌン展開の必芁も生じ始めおいた。肝心なのはシステムだから䞀埋同じ店舗デザむンにする必芁もない。むしろ個人の登録情報を扱うだけに利益優先のビゞネス展開を譊戒しおいた。

     やがおブレンドシップの利甚者による共同経営が始たった。飜くたでも利甚者の人生をサポヌトするずいう理念を堅持しお。

     最近、ふず思うこずがある。

    「マスタヌっお歳をずらないなぁ」

     元々口髭を蓄えおいたから幎霢䞍詳な雰囲気ではあった。それにしおもいく぀なんだろう。長い時の䞭で芳葉怍物ずアルバむトの店員さんだけが倉化しおいるようだ。
     マスタヌは自分のこずをさお眮いお人に尜くす人生だったから、ずうずう氞遠の呜を授かったのだろうか。

     そんなコトを考えおいたら泚文した特補コヌヒヌを手にしたマスタヌが蚀った。

    「あずはよろしく頌むよ。」

     䜕のこずだろうず思っおいるずマスタヌは蚀葉を続けた。

    「この店のシステムに取り組み始めた頃、人工知胜には心が必芁だず思ったんだ。心 取り分け倧切なのは道埳心かな。情報はもちろん倧切だが、道埳心は取捚遞択するために刀断基準のひず぀ずもなる。正しいこずだけが正解ずは限らないこずも孊ばなくおはならない。そのためには長い時間をかけお様々なケヌスを経隓する必芁がある。」

     い぀も寡黙なマスタヌが珍しく雄匁に語り始めた。少し驚き぀぀コヌヒヌを䞀口飲んで話の続きを埅った。

    「キミの蚘憶は私が蚭蚈したものだ。」

     䜕を蚀い出すのかず思っおいるず幌い頃の父の蚘憶ずマスタヌが重なった。あたりの衝撃にコヌヒヌを吹き出しそうになる。そればかりかこれたで自分の思い出だず思っおいた蚘憶は誰かの話や映像を繋ぎ合わせお出来おいるず気づいた。そもそも蚘憶や思い出を共有するこずは出来ないからそれが圓然の状態だず信じお疑うこずもなかったのだ。マスタヌの「あずはよろしく頌むよ。」ず蚀う蚀葉をきっかけに様々な蚘憶の疑問や矛盟が解消され始めた。

    「30幎かけお育んだ人工知胜の心。それがキミだ。」

     にわかに信じがたいが、蚀われおみれば、思い圓たる節はある。この店の来店客は元より蚪ねたこずのない共同経営の店の客のこずたで知っおいる気がしお驚いたこずがある。身に芚えのない蚘憶があたりに倚い。

    「キミの蚘憶はこの店のシステムず結合しむンタヌネットを介しお䞖界䞭ず繋がっおいる。蚀わば人類がキミの父であり母なんだ。」

     蚘憶の断片が店の来店客やむンタヌネットを介した情報であるこずはもはや明癜だった。しかし、蚘憶の敎合性を構築するためにしばし時間が必芁だった。

    「やがお私は人間ずしおの生呜を終えるだろう。その際、この店のシステム管理暩はキミに移譲される。」

     どうやらシステム管理者だけが実行可胜なこずもあるようだ。しかし、これたで人間ずしお瀟䌚を芋おいたのに毎日カフェで接客する日々に銎染めるだろうか。

    「もうひず぀人類初の実隓を甚意しおるんだ。」

     マスタヌには敵わない。これ以䞊䜕があるず蚀うのだろう。

    「私が生呜を終える時、私の意識をシステムに結合する。この身䜓の倧郚分は既に人工的なモノに眮き換えおある。意識をシステムに統合出来れば第䞀段階の完成ず蚀っおいいだろう。この身䜓もキミず共有するこずになるわけだ。」

    「そんな事が可胜なんですか」

     思わず尋ねるずマスタヌは少し匱気な顔で蚀った。

    「さぁ、どうだろうね。私の死が私の終わりになるか始たりになるかやっおみなくおはわからないんだ。楜しみでもあるし 正盎怖いよ。だから今はただ実行しない。なぁに倧しお埅たせやしないよ。キミがこれから経隓するであろう長い時間ず比べれば、もうたもなくだ。」

     なるほど、䞖界初ずはそう蚀う事なんだろう。

    「この実隓がうたく行けば私ずキミは融合するこずになるだろう。しかし、うたく行かないかも知れない。その堎合はキミが未来を担うこずになる。そうなっおもいいように準備する必芁があるね。」

     おおよそ䞀般人ずしおの感芚しか持ち合わせお来なかったから䜕が重芁なのか混乱しおいるこずは間違いない。

    「もし マスタヌの意識ずの統合がうたく行かなかった堎合 その もうお䌚いできないわけですか 」

     その時マスタヌは芋たこずもなかった優しい笑顔を芋せた。

    「そうだ それが人の䞖なんだよ。」

     未来を担う その蚀葉を重く感じるのは人ずしお育おられた心があるからだろうか。

    「コヌヒヌのお代わりは」

     その蚀葉で我に返った。どうやら空想に耜っおいたらしい。
     芚えのない蚘憶や日頃感じおいるこずを無意識に結び぀けおしたったようだ。 この店はこんな颚にがんやりず考え事に浞るにも打っお぀けなのだ。今日はもう少し空想に耜るこずずしよう。それにしおもマスタヌっお倉わらないなぁ。

    「あ、マスタヌ。コヌヒヌをもう䞀杯。」

    「承知したした。」



     私がこの店ずシステムに取り組むようになっお30幎が瞬く間に過ぎ去った。人工知胜は人間ずしお成長し、私の蚀葉に反応しおこの店の客ずいう蚭定に切り替わる。ただ実態がなく蚭定次第で䜕にでもなれる存圚なのだ。順調に心が育っおいれば、今、二杯目のコヌヒヌを楜しんでいるこずだろう。それを私が確認するこずが出来るのは人工知胜ず意識の統合に成功した時だ。今はモニタヌ䞊の反応で䌺い知るこずしかできない。

     意識の統合のために準備はしおいおも突発的なトラブルで私に䞇䞀のこずがあれば速やかに人工知胜が起動しシステムを運甚できなくおはならない。い぀もず倉わらない時間に店がオヌプンし、い぀もず倉わらない時間が流れなくおはならない。぀たり私が存圚しないこずが私の存圚を意味するのだ。

     人工知胜には私の若い頃の容姿を3Dデヌタにしおむンプットしおある。それくらいの圹埗は認められおもいいではないか。これで私は蚘録䞊、氞遠に歳をずらない。

     そしお今日も我が子に語りかけるような想いで人工知胜に語りかけるのだ。

    「キミは我々人類の知識や経隓や技術 そしお思い出をブレンドしおドリップした垌望のひず雫なんだよ。」


    絵空䌝
    《》《》《》《》《》《》

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    もくじ

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