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    <title>日曜</title>
    <description>つくりごと、ほんとうのこと、そのあわい</description>
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    <lastBuildDate>Thu, 08 Oct 2026 12:31:26 +0900</lastBuildDate>
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      <title>打ち込む杭</title>
      <description><![CDATA[<p name="5CAD3BF1-5AE6-40B5-9835-402A54277238" id="5CAD3BF1-5AE6-40B5-9835-402A54277238">　溺れて水の中でもがくように手を動かして、男の背中を掴もうとするとガリ、という感触があり爪が伸びていたことにようやく気付く。<br>あー爪切りしないと、爪切り、早く、あれどこしまったっけ、と意識が別の方向に向かっている間に、男が私の首筋に顔をうずめて苦しそうに喘ぐ。それどころじゃない私は早く爪切り。爪切りを。<br>　私の反応が鈍くなったことに気付いたのか、男はベッドサイドから電気マッサージ器を取り出そうとして上半身を伸ばし、その黒っぽい周りに毛の生えた乳首が私の目の前にきて、男の乳首って気持ちよくなるためだけの器官だよな、そんなのずるくないか。女には少女のうちに陰核を切り取られる慣習だってこの世界に確かに存在してるのに。女は何も考えないで気持ちよくなることなんて許されない、女は性的衝動を持つことを許されない、子を産むための器官を備え付けることしか許さない、結婚するまで処女でいろ、その気持ちよくなるためだけの器官の喪失ではじめて一人前と見做されるのだと。処女のことを「清らか」と最初に形容した人間を私は軽蔑する。男は今手に持っているばかでかいそれのスイッチを入れようとして、電池が切れていることがわかると、クソッと短く吐き捨てて床に放り投げた。用無しになったそれは床に鈍い音を立てて落ちた。白けるなあ、早く終わってほしい。つまんねえセックスしかしない男とは一秒も一緒にいたくない。<br><br>　私は実家が嫌いで金はないけどまともに働けないクズで身体も売れない弱虫だったので、てきとうな飲み屋に行っては近付いてくる男に飲み代を払ってもらって、家に泊まるかホテル代を出させて寝て朝方大学に行くみたいな生活をずっと続けていた。家族がいない時間帯に実家に必要な荷物や着替えを取りに行く。セックスすればただで家に泊まらせてもらって家に帰らなくて済むなんてらくちんだなあと思っていた。そういう生活をすることでしか心を保てなかった。実家でおとなしくしていると死にたくなる。<br>　全部つまんない、不感症になっちゃったかも、と思っていたころ、その時に会った男が急に首を絞めてきた。苦しかった。それが気持ちよかった。自分で驚くほど、私は喘いでいた。　それからはハードな海外のBDSMモノでしか自分を慰められなくなった。女が四肢を組まれた鉄パイプで拘束されて動けないでいる姿。ケインや乗馬鞭やパドルで内股や尻や乳房を血が滲むまで叩かれる姿。ラテックスで圧迫されて呼吸すること以外の行動を制限されている姿。縄で縛られて宙から逆さに吊るされている姿。<br>　自分のことが信じられなかった。自分の預かりうる範疇から知らない間に自分が外に溢れ出てしまっていた。自分で自分の欲望を制御できなかった。それはとどまることを知らず、私は何をしていてもすこし暇な時間があるとポルノ動画を流すようになった。怖かった。<br>　ジェンダー論ではじめてフェミニズムの本を読んだ時、後ろめたい気持ちになった。抑圧されている女を救ってくれる本のはずなのに、読んでも全然せいせいしなかった。それどころか、私はここで批判されるそのままの形で生を送っていた。胸を張って生きられない。私が読むべき本ではないのかもしれないとすら思った。<br>　私は今は自立して働いて金を稼ぐ女じゃないから、性を提供することと引き換えに男に従属して生きるしかできない。だが、寄る辺のない私が、男から無遠慮に肉体を貪られることと、その行為に身を削られていることと、男の抱擁で束の間でも安らぎを得ることは、自分の中では矛盾せずにあるのだった。そんなに簡単に善悪は白黒付けられるものじゃないよなといびきをかいている男を横目にシャワーを浴びに行く。<br>　私以外の女の子が傷付きませんように。幸福の中にただあることができますように。不当な扱いを受けませんように。涙を流すことがありませんように。私は祈る。私以外の女の子がただ笑って生きていくことができるように。傷付くのは私だけでいい。ビッチのカバンは重いとあのラッパーは言っていた。そうだよ、知性は重いから。<br>　シャワーを上がると部屋備え付けのコンビニボックスのカップラーメンを取り出して、ケトルでお湯を沸かす。<br>　私のバッグの中に入っている鈍器みたいに分厚い本で、この男の頭を殴りつけたらどんな音がするだろう。重みで今にも底が抜けそうなバッグに手を伸ばす。金属製のブランドロゴが鈍く暗闇で光る。これもいつか一回やらせた男に買ってもらったものだっけ。<br>　女の身体は柔らかくて中は熱くてとろとろしていて包みこまれて、さぞや気持ちがいいのでしょうね。私にペニスがあったらよかったのに。ペニスがあったら自分の好きに振る舞うこともできたかもしれない。疲れたら女を抱きしめて、女の口に含ませて、女の中に押し入って、満足してそのまま煙草を吸っていびきをかいて昼まで寝られたかもしれない。<br>　男のいびきが一際大きく響く。たまらなく愉快な気持ちになる。ケトルから蒸気が強く噴き出している。壁面の水槽の魚は泳ぐことを忘れたように、ただ、動かない。<br><br><br>***<br><br><br>　てきとうなマッチングアプリで出会ったその男は、編集者をしているのだと言った。とりあえずで乾杯したその生ビールを飲みくだしながら、男は「男らしさとは何かとか、男の生きづらさとか、男の語る恋愛の話を集めている人の著書がもうすぐ出る」と話した。へえええ、すごいですねえ、興味ありますと私は返した。そのような本を編集した男でも、性的同意とかそういうものもなんとなく流して、この後なあなあにホテルに流れ込むのはわかっている。私たちの使っているマッチングアプリは最初からそういう目的で使っている人しかほぼいないのだから、という暗黙の了解を前提にして、このてきとうな店のてきとうな消化試合みたいな飲みが終わるのをこの男は今か今かと待ち望んでいるのだ。じゃあその本を読んでも何も身になることなく、男には男の辛さがあるから、それを女に癒してほしいって結局ケアを女に外注するわけだ。男の痛みねえ、全然興味ないなあ悪いけど。<br>　薄いハイボールは飲んでも飲んでも酔わないので、いい加減いやになってきたところで、「そろそろ行きますか？」と男が上げた親指を背後のドアに向けた。<br><br>　ホテルに流れ込むのかと思えば、意外にも男は私を自分の家に招き入れた。<br>　シャワーを浴びて歯磨きをしたあとでベッドルームに入ると、ニット帽をとった男がこちらを振り返った。頭髪が薄くなっているのがわかった。<br>「ライカちゃんは、なんでおれとマッチングしてくれたの？　その、若くてきれいなのにさ。もっとかっこいいやつなんていくらでもいるでしょ」<br>「あーまあねー、でも顔で見てるわけじゃないから」とぼんやりと返事をして、喜ぶわけでもないのだから、男の前で本心を素直に言う機会など、今後もうないのかもしれないな、とすこし思った。<br>「そうなの？　でもおれなんて冴えないおっさんだしさあ」<br>　すこしでも若い女に認められていると思えるような言葉が欲しいのだろう。私はすこし考えて言葉を続ける。<br>「私も読書が好きでよく読んでて。編集者ってプロフィールに書いてあったから興味を持って、お仕事の話とか、本の話とか、聞いてみたかったから」<br>　そうなんだ、と男が表情をゆるませる。もちろんセックスを目前にして本の話をする気などさらさらないだろうし、私もない。だが、この女はただセックスをするためだけに不特定多数の男と会っているのではない、おれに興味を持ってくれたからたまたまおれとセックスをしているのだ、おれはただのヤリマンとセックスをしているのではない、という言い訳を、すこし社会性を持ち合わせている男性はいつでも必要としている。<br>「いつでも来て読んでいっていいよ！」と男が背後にある大きな本棚を指差したので、んーありがとー、と私はなんとなく答える。<br>「えーと、それでさ……いきなりなんだけど」<br>　男がベッドサイドにあるシェルフの下段の引き戸をすすすと開けて、そこそこの大きさのボックスを取り出した。<br>「おもちゃとか好き？　おれ中年であんまり持久力とか自信なくてさ。こうしていろいろ集めてみたんだけど」<br>　男は蓋を開けて中身を私に見せる。<br>「人によって好みがあるからさ。これがいいだのこれは嫌いだの、この素材は気に入らないだの。君が嫌なものは使いたくないから、好きに選んで」<br>　へえ、と私は言いながら箱の中を眺めて、一つひとつどんなものなのか確認し始める。無数のバイブやディルド。ローター。その中でも、控えめな色と大きさのものに私は目を付けた。<br>　ペニスを模して作られているバイブやディルドほど太くはなく、場所によってふくらみやへこんだ部分があり、不思議な流線型をしている。<br>「これ、何？」<br>「ああ、それはね……」男は気まずそうに頭を掻いた。<br>「エネマグラ。聞いたことある？」<br>　聞いたことはある。これがその実物だったのか。<br>「初めて見た」<br>　男の前立腺を刺激するために使われるという代物。不思議な形に膨らんでいる部分が、ちょうど前立腺の場所を刺激するのだろう。<br>「これ、自分で使ってるの？」<br>「そう聞かれると恥ずかしいけど……自分一人でする時に使ってるよ。ただのオナニーだと物足りなくてね。あ、ちゃんと使った後きちんと洗ってるから心配しないでね！」<br>「ふーん……」<br>　しげしげと手に握ったそれを私は眺め、形を確かめるように何度か触った。<br>「これ、使ってみたいな」<br>「え、でも女性に使ってもただの棒みたいな感じだと思うよ？　前立腺ないし」<br>「私に使うんじゃなくてさ。ちょっとやってみたい」<br>「え？　おれに？　うーん……そういうつもりで今日会ったんじゃなかったんだけどな……」<br>「おねがいおねがい。たぶんこの後機会もないだろうし、一回責める側も試してみたいの。はじめてだから」<br>　はじめて、という言葉に男がピクリと反応して、うーんと悩むそぶりを見せてから、私の様子をちらっと窺う。私が口だけではなさそうなことを認めると「女の子に責められるのはおれもはじめてなんだけど」と口ごもりながら、いいよ、と言った。<br>「じゃあ、おれもシャワーのついでにちょっと準備してくるから、てきとうにくつろいでて」<br><br>　アナルセックスは準備に手間がかかる。私は携帯でその手順を検索して、その一連の行為の大まかな流れに目を通した。<br>　まず、お湯をお尻の穴から入れて直腸をきれいにする。シャワーヘッドを外したノズルでもいいし、ぬるいお湯を入れたシリンジでもいいし、トイレのウォシュレットでも、洗浄できればなんでもいい。それから、ローションを使って、穴をほぐしていく。こわばっているので、まずは入り口の周りをマッサージしてから、少しずつ指を入れて徐々にほぐしていく。ペニスが入るくらいの大きさまで穴が広がったらいよいよセックスだが、いきなり挿入というわけにはいかない。痛みを感じるかもしれないし、肛門が切れてしまう可能性もあるから、一気にではなく、ゆっくり、じっくり相手の様子を見ながら入れていくこと。<br>　膣は勝手に身体が潤滑液を出してくれるし、伸縮性があるから、前戯に時間をかけなくても性急に事に及ぶことができる。受け入れるための性なのだということをここでもまざまざと見せつけられている気がして、げんなりする。<br>　女性、というか膣相手のセックスよりも丁重に扱うように書かれていて、女相手のセックスでこんなに丁寧にレクチャーを受けることはあるのだろうかと思った。<br>　とはいえ、トラブルを招くことは本意ではないので、ここは私もやはり手順に則ってするべきだろう。すこし面倒になってきたが、致し方ない。私が頭の中でイメトレをしている間に、男が戻ってきて私の横に腰を下ろした。<br>「じゃあ、始めていこうか」<br><br>「ええと、すこしさっき自分でほぐしてはきたんだけど、はじめにほぐさなきゃいけなくて。手間がかかるんだ」<br>「うん。ちょっと読んだ」<br>「え？　読んだの？　ノリノリだね」<br>「最初に読んどいたほうが安全だから」<br>「それもそうか。それじゃあ事前にきれいにしてあるのはもう知ってると思うけど、男のケツの穴に指を入れるの抵抗あるよね？」<br>「うーん……」<br>　私はどこを見るでもなく視線を泳がせた。腹を決めなくてはいけない。<br>「いや……やる。ちゃんと知っておきたいし」<br>　おお、と男が感心したように言って、指サックのようなコンドームを渡してきた。<br>「これ、指用のコンドーム。はめてみて」<br>　指用のコンドームがあることも知らなかった。確かに素手で触るのは抵抗があるし、私は爪がすこし伸びているから、傷付けてしまうかもしれない。説明を読んだウェブサイトに添付されていた動画ではゴム手袋を着用していて仰々しいなあと思ったけど、指に被せるだけだと気軽で、なんとなく心理的な負担も軽くなるかもしれない。男の尻の穴を解しているとたしかに最初の抵抗がなくなり柔らかくなってきて、男のセックスにはこんなにケアが必要なのに女は勝手に濡れると思われて一も二もなく乱暴に入れられることもあるのとは大違いだと思った。そして私は自分の「男根」を男に入れた。<br><br>　それは征服欲だった。嗜虐欲だった。<br>　男を自分の力で組み敷いて、その男の内側に入り込んで、暴いて、好きに責め立てて、今私の下で這いつくばっている男は、私の手によって情けない声を上げてよがっているのだ。この、尻を高く持ち上げながらも上半身はベッドにだらりと力なく預けてその口からは涎を垂らしているこの男は、私の前では完全に無力だ。<br>ぞくぞくと背筋を粟立つような快感が昇って弾けた。<br>　女だとか男だとか、そういった性別に自分が規定されることを何もかも手放して、本来受け入れる側とされている女である私が男を辱め、本来責め立てる側とされている男がなす術なくベッドで私を受け入れている。女のか弱さや優しさなど、男の強さやリードする力など、この場では何も必要とされない。このことは私には大いなる解放のように見えた。<br>　私もペニスを持てる。<br>　BDSMで痛めつけられている女の子たちを見て私は興奮していたのではない。きっと、女を手中に収めて主導権を完全に握っている男に自分を重ね合わせて、私は興奮していたのだ。私は女の子に自分のこの暴力的な性欲が向かなかったことに、深く安堵した。男の薄い尻を鷲掴みにして、乱暴に突きまくりたい。自分よりも圧倒的に力がある男を、自分の手で屈服させたい。ペニスを持てるというだけでこんなにも万能感が溢れるなんて。<br>　なぜペニスを持っているだけでこんなに暴力的になれるのかがやっとわかった。というより、男の行うセックスというものは暴力的にならざるを得ない行為なのだ。<br>　疲れ果てて行為後即座に寝た男を横目に、私は自分の股間に突き立ったシリコン製の棒をしごいてみた。何も気持ちよくないし何の液体も出てこなかったが、それがむしろ不思議なほど、この棒は私によく似合っていた。<br><br></p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/nc67027f42ecb'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 29 Sep 2026 15:32:35 +0900</pubDate>
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      <title>蟷螂</title>
      <description><![CDATA[<p name="911B1551-9A84-4EF4-B1B3-60F91F067B41" id="911B1551-9A84-4EF4-B1B3-60F91F067B41">　僕を見た瞬間、彼女はすっと目を細めてすこし見上げるように首を傾げた。唇の線上で切り揃えられた黒髪がするりと後ろに流れ、白い首筋と、そこにある小さなほくろと、貝殻のような耳が顕わになった。耳朶のピアスの小さなダイヤモンドが、真上にあるシャンデリアの光をまっすぐに受けて反射し、僕の目を貫いた。<br>　あいだになんの言葉も交わされずとも、彼女が僕を誘っていることを確かに感じた。彼女の深い色の瞳に欲情を湛えた火が灯ったのがわかった。互いに欲望を抱きあっていることが、互いの瞳を見るだけで通じ合っていた。この人は今夜僕と帰るのだ、と確信めいた何かを感じた。<br>「紺野くん、この度は受賞おめでとう。素晴らしかった」<br>　彼女の傍らにいる檀文彦が僕に腕を伸ばし、握手を求めてきたので、僕はそれを握り返した。本を読まない人でも誰でも名を知っているような大作家だが、そんな人と握手を交わすなど普段なら恐縮するだろうに、僕の頭は彼女ではちきれんばかりで、彼のことを気にかける余裕もなかった。<br>「勿体ないお言葉です。ありがとうございます」<br>「家内もあなたの作品がいっとうよかったと興奮して話していました」と檀野が彼女を紹介し、はにかむように彼女が小さく微笑んだ。<br>「家内の百合絵です。いずれまたお会いする機会もあるでしょう」<br>　檀が紹介すると彼女は一歩前に出て、軽く会釈をした。<br>　僕は「どうも」と言いながら彼女の手をゆるく握り、さりげなく中指を彼女の手首の内側にすべらせて、するりとなめらかな肌を撫でた。<br>　彼女はほかの人にはわからない程度に身体を少し震わせ、顎をくっと上向かせた。上下の合わさっていた唇がすこし開いた。僕たちは数秒のあいだ視線を交わし合い、その手をほどいた。<br>　他の作家たちと永遠のような終わらない挨拶を交わし、受賞パーティーというのはいったいいつまで続くのだろうかとげんなりした。僕は努めてそれを表に出さないようにしながら、彼女を盗み見た。彼女は少しだけオードブルをつまんでワインを飲む以外には何も口にしていないようだった。彼女が席を立ち、化粧室に向かったのを横目で確認し、僕もその場を失礼して、後から向かった。<br>　彼女が化粧室から出てくる間に、僕は手帳の一ページを切り取って自分の連絡先を書き付けていた。化粧室からゆったりと出てきた彼女を視界に捉え、周りに誰もいないことを確認してから、落ち着いた足取りで近付いた。彼女のほうも僕に気付き、互いに歩み寄る時間が永遠のように思えた。彼女の香水をすぐ近くに感じるほどの距離にまでくると、僕は彼女の手に折りたたんだ紙片を握らせた。<br>　「気付いていたのね。あなたならわかってくれると思っていたの」<br>　彼女は可笑しそうにくつくつと笑い、僕の指先にその細い指を絡ませた。指切りのようにゆるく僕たちのあいだで何かが交わされた。<br>「ではのちほど」<br>　彼女はそう言い、微笑みを残して、会場に戻っていった。僕はしばしその場で立ち尽くし、口が煙草を欲していることに気付いて、喫煙所に向かった。<br><br>　彼女から電話が来て、タクシー乗り場に向かうと、すでに彼女は車内で待っていた。夫は他の作家連中と二次会に行くと彼女はいい、僕も疲れが出たのでと誘いを断って早めにパーティーを辞去していた。ホテルに行くこともできたが、僕はより自分に近い場所に彼女を招きたかったので、自室に彼女を呼ぶことにした。それでも構わないかと彼女に訊ねると、彼女は肯いた。運転手に自宅の住所を告げると、僕は車のシートに深く身体を沈み込ませ、慣れない社交をしたことへの疲労を感じた。<br>「お疲れ様でした」と彼女は僕に微笑んだ。<br>「いえ、僕のための祝いの席なのですから、有り難がらなければ駄目なのです。本来は」<br>　僕は彼女の手元を見た。それなりに年季の入っているのであろう指輪が光っていた。僕は溜息をついて、「こんなことは普段はしないんです、僕は」と小さく言い訳をいうように呟いた。<br>「……セックスはお嫌いでは？」と彼女が突然僕に訊ねた。<br>「なぜそう思うんです？」<br>「あなたの小説はとても潔癖に見えたので」<br>　確かにそう見えるかもしれない、と僕は自分の小説を書く時の文体を思い出した。神経質なほど執拗な筆致にもかかわらず人間味がなく無機質だと評されがちで、僕は自分の書いた小説は不評なのだとばかり思っていたから、今回の受賞は意外だった。<br>「ですが僕はあなたの誘いに乗りましたよ」<br>「そうですね。結果的には」彼女は笑った。<br>「あなたの小説を読んだとき、これまで抱いたことのない感情を抱きました」<br>　彼女はそういいながら脚を組み、彼女の靴の先が僕の脛にかすかに触れた。<br>「小説を読んだだけなのに、あなたのことがすべてわかったような気になってしまったんです」と彼女はいった。<br>「それなら、充分でしょう。僕もひとの書いた小説はそのひと以上に人物を雄弁に語ると思っています。もちろん自我を徹底的に出さないように書いている作家もいますが、エッセイでもないのに不思議なことです。あなたが読み取ったことだけで、僕について知ることはそれ以上必要ないでしょう」僕は答えた。本心だった。<br>「はじめから……はじめて私を見たときから、こうなることはわかっていましたか」<br>　彼女は僕と視線を合わせて訊ねた。どく、と心臓が脈打つのを感じ、僕は視線を外した。<br>「初めての経験でしたが、そうです。あなたはどうだったんですか」<br>　彼女はすこし沈黙してから、身体を僕のほうに近付けた。街灯の明かりが彼女の目に映り、一瞬、その瞳は腹を空かせた獣のそれのように見えた。彼女は僕をまっすぐ見た。<br>「正確には、あなたの小説を読んだ時から、こうなるだろうと思っていました」<br>「……まさか」<br>　僕は軽く笑った。窓の外に視線をやると、街並みが自宅近くのものになっていて、彼女がたしかに自分の家に来るのだという実感が刻々と押し寄せていた。<br>「私はあの小説を読んだ時から、あなたと寝ることになる、と確信を持っていたのです。意外ですか？」<br>　彼女に目をやると、ふたたび彼女はその静かに射抜くような瞳で僕を見つめた。<br>「言葉だけでなく、あなたに近付きたかった。そして触れたかった」<br>　彼女はそう言った。僕は恐れのようなひややかな興奮を感じ、汗がひとすじ背中を伝い落ちた。彼女はただ目を細めて微笑んで、こちらを見ていた。その空恐ろしいような瞳から視線を外せなかった。<br>「もうすぐ着きますが、どちらで停車しましょうか？」と運転手がこちらを見ずに訊ねた。<br>「そこで停めてください」と僕はいい、気が急いて乱暴にタクシー代を払うと、釣り銭も受け取らずに車を降り、彼女の手を引いて家に招き入れた。<br><br>　玄関を開け鍵を閉めると、僕は靴を足だけで脱ぎながら乱暴に片手でネクタイをはずし、シャツのボタンをふたつ開けた。彼女は愉快そうに目だけで僕の部屋をぐるりと見渡した。<br>「大邸宅に住んでおられるでしょうから、僕の部屋など狭くてさぞや物珍しいでしょう」と僕が自嘲ぎみに言うと、彼女は「おうちに招かれるのは珍しいことです」と悪戯そうに笑った。<br>　手を洗っている彼女に「何か飲みますか」と訊ねると、「ではお水を」と振り返らず彼女は答えた。彼女をソファに案内して、僕は冷蔵庫からワインとミネラルウォーターを取り、一応彼女の分もワインを注ぎ、水のグラスとワイングラスを彼女の前に置いた。彼女は水ではなく迷わずワインをとった。ひと口ワインを飲むと、つつ、とひとすじ口の端から溢れた。彼女はそれを指で掬い、指ごと口に入れて吸いとった。<br>　僕はするりと彼女の細い腰に手を回して、脊椎の窪みをなぞった。彼女の誘惑する表情は幾通りも数えきれないほどあって、今までパーティーの会場やタクシーの車内や部屋で見たそのどれもが大仰だったり押し付けがましいものでないのに、たまらなく色気を放ち扇情的なのだった。その顔の角度や視線の寄越し方やすこし開いた口やどこを見ているかを、僕はつぶさに観察した。<br>「……不思議ですね。あなたのことを何も知らないのに、こんなにも魅かれている」<br>　ぐっと彼女を引き寄せると、僕の身体の内側に驚くほど素直に彼女が収まった。彼女の顔が僕の首元に来た。<br>「近付いてみたかったんでしょう」<br>　そう言いながら彼女を抱き寄せて、そのつややかな黒髪に鼻をうずめた。ジャスミンの香りがして、僕はその深い香りでも彼女が全身で僕を誘っていることを感じるのだった。<br>　彼女は僕の太腿に手を置き、すこしずつ上になぞらせていき、僕の腰に手を置いた。その硬さを確かめるように、腰骨の張り出した部分に指を掛けて、内側に滑らせて止めた。ぞわりと触れられたところから背中にかけての肌が粟立つ。彼女の視線が、唾を飲んで上下する僕の喉仏を捉えた。<br>「ふれた」<br>　そう呟き、彼女は腰骨からまた手を上にすべらせて、胸の上に置いた。僕の首筋に顔をうずめ、鎖骨に繋がるへこみに鼻をすり寄せた。<br>「あたたかい」<br>　彼女は囁くようにいい、僕は彼女の首の後ろから頭にかけてをもう片方の手で支え、顕わになった首筋に唇を落として、口付けながら上に向かっていった。彼女の身体が震えた。はく、と酸素を求めて彼女の口がわずかに喘いだ。その小さな頭を両手で軽く掴むと、彼女の耳介に軽く歯を立てた。<br>「あ」と彼女が小さく叫び、僕の胸元に置いていた手が掴まる先を求め、シャツを強く握って皺が寄る。彼女の顔を見ると、目は潤み、息は上がり、眉根はもどかしそうに寄せられていた。<br>　彼女は何も言わず僕を弱い力で引き寄せたので、僕は自分の唇を彼女の唇に合わせた。だらりと彼女の腕が垂れ下がり、その指に僕は自分の指を絡ませた。彼女の手は冷えていた。身体の全ての部分が触れ合うように、一体になりたいと乞うように、僕の熱が移るように、僕は彼女の身体をいっそうこちらに引き寄せた。やわらかい彼女の唇は、僕の唇とさらに深く合わさろうとして幾度も角度を変え、開いたその口に舌をそっと入れると、彼女の舌が招くように絡ませて引き寄せた。僕がそれを吸うと、呻き、背をのけぞらせた。背中が弧を描き、胸元が突き出され、僕はドレスの深く開いたV字の間からわずかにはだけたどこまでも白い胸元に口を寄せ、肌を吸った。胸元に赤く痕がつき、彼女は堪らないといった様子で僕の頭を掻き抱いた。<br>「僕のものになればいい。あなたに噛みついて、痕を付けて、中に出して、あなたを孕ませて、僕のものにする」僕は喘ぎながら吐き捨てるように彼女に言った。そう言われても、彼女は平然としてうすく笑ったままでいた。僕の脅し文句もまるで堪えていないようだった。<br>「じゃあ、私があなたのものになるまで何度も愛してください」<br>　彼女の呟く「愛して」という言葉は奇妙に感じられた。「愛」をひとが語るときの熱のような、血が通った温度のようなものが一切感じられず、不自然に聞こえた。<br>「僕の言っている意味がわかっているんですか？」<br>　彼女はふふ、と笑った。<br>「あなたのことは全部わかったと言ったでしょう。あなたに言われるようなことが怖かったら、私は初めからここに来ていませんよ」<br>　彼女は僕の頬に手を添えて、近付き、口付けた。彼女の頬は上気していたが、その手は変わらずあたたまらず、ひやりとした感触を残した。僕の額から汗が垂れ、彼女の頬に落ちた。彼女はそれを指で掬いとり、ちゅ、と音を立てて吸うと、「しょっぱい」と呟いた。<br>　僕は彼女のドレスの後ろのジッパーを下げ、裾から手を差し入れてたくしあげた。彼女の脚が顕わになり、薄いスリップの滑らかさが手に触れ、頭がくらくらとした。近寄りがたいような蠱惑的な美しさが僕にはおそろしく、裸にすることさえ躊躇われた。ついに一糸纏わぬ姿になった彼女はこの世のものと思えぬ、例えようもないほどの美しさで、僕は彼女を放したくなくて何度も何度も交わった。溺れる、と思った。彼女の声は僕の耳に甘く残り、興奮のままに僕は彼女の身体に噛みつき、吸い、痕を付け、射精した。<br>　けれども何度それを繰り返しても満たされず、それどころかどんどんと僕の渇望は高まっていった。彼女が満たされているのか不安で、僕のものになどなりそうもないことが不安で、すこし目を離したら僕の前から永遠にいなくなりそうなことが不安で、僕は彼女を引き留めるように何度もかき抱いて彼女の肌の吸いつくようなやわさを感じた。こんなにも僕と融け合うようにしっくりとくる肌なのだから、彼女は僕といるべきなのだと思いながら、彼女を貫いた。<br><br><br>「愛してくださいというのは、どちらの意味ですか」<br>　行為が終わったあと僕は彼女に訊ねた。<br>「僕とはただセックスがしたいのか、愛情を向けられたいのか、どちらなんですか」<br>　彼女はすこしだけ考えるような素振りを見せた。<br>「あなたが思うほうでいいですよ。セックスだけの関係がほしいならそうすればいいし、愛情を私に向けることであなたが満たされるなら、そうすればいい」<br>「あなたはどうなんです。愛しているなどといったらあなたはぼくに興味を失くして、いなくなってしまうでしょう」<br>　僕は彼女の物いいに彼女の意志が介在していないことに不安を感じた。彼女は僕に好意といったものを持っていないのだろうか。どういうつもりで僕に近付いてきたのだろう。<br>「不思議な人ですね」と彼女は笑った。<br>「ふつうなら、愛しているというよりも、ぼくのものにしたいとか、孕ませたいというほうが、相手が離れていくと思いませんか」<br>「……いや、あなたは独占欲を向けられるより、愛情を向けられたほうが相手が手に入ったと思って興味を失うような人だろう」<br>　なぜか確信があったので僕はそう答えた。彼女は不思議そうに僕を見つめて、「どうでしょう」と言いながら僕の髪を撫でた。<br>「ファムファタルとはあなたのような人のことをいうんでしょうね」<br>　僕は、汗ばんで痕がいくつも散った彼女の胸元に顔をうずめ、彼女に撫ぜられる感覚に集中した。きもちよさと安心感が全身に広がり、やわらかい彼女の身体は僕を包み込んだ。<br>「あなたがオムファタルなのではないですか？」彼女は問いかけた。<br>「僕が？」<br>「あなたは魅力的です。私があなたを一目見て、あなたが欲しいと思ったのも、あなたがそれに気付いたのも、あなたが魅力的だからです」<br>　そうではない、と僕は思った。強烈に魅力的なのははじめから彼女のほうだけで、僕は彼女の誘惑に絡め取られるように、その思惑通りに彼女に誘われて今ここに彼女といるのだ。僕は何も答えなかった。<br>「私はただここにいるだけなのです。ただここに存在しているだけでーーあなたがたは私に懸想するのです。私をあなたがたの理想の夢を投影できる女としてーー私は私の欲望に忠実なだけで、あなたがたにとって私は真っ白な理想のキャンバスであるという事実を、また自分の都合の良いように使っているのです。私は男性が自分に欲望を抱いていることに快感を覚えます。あなたがたは私に夢中になる。私はただ自分の欲望のままあなたがたを貪る。それだけ」<br>　僕は背中にひんやりとした恐ろしさと情欲を感じた。それはタクシーで初めて彼女を長く見つめた時に感じたものと同じ感情だった。<br>「あなたのいう、僕だけのものにしたい、というような独占欲は、私にはわかりません。私は自分が多くのひとに欲されるほど喜びを感じます。愛するひとをひとりにしなくてはいけないという理由も、わからない。私は多くの魅力的な男性を愛したいし、愛されたいのです。それは生涯ひとりを愛して愛され続けるということより、ずっと私の胸を高鳴らせるのです」<br><br>　彼女は明け方僕の家から帰っていったようだったが、洗面台にピアスを忘れていっていた。それを彼女に返してしまえば僕と彼女の関係は終わってしまうような気がして、彼女に言わずに、僕はピアスを冷蔵庫の中に隠した。冷蔵庫を開けるたびに、きらきらとダイヤモンドが光を反射して、僕は会って彼女を今すぐに抱きしめたくなった。彼女もピアスのことを知ってか知らずか、僕に訊ねなかった。<br>　それから何度連絡が来て、彼女を部屋に招き入れたかわからない。彼女と交わる度に、これ以上の快楽はないと何度も思った。僕が何度彼女の中に射精しても、彼女は永遠に孕まなかった。彼女の平らな下腹を撫でて愛おしく口付け、お願いだから妊娠してくれ、そして僕との子を産んで僕と結婚してくれと願った。無論無駄な行いだった。彼女は僕の子を妊娠することなど望んでおらず、しかし僕はそれを認めず、彼女を僕だけの人にするという浅ましい望みを諦めきれず、彼女との関係をずるずると続けた。<br><br>「ああ、紺野君。久しぶりだね。妻の遊びに付き合ってくれてありがとう。今の彼女の相手は君なんだな」<br>　扉を開けた檀文彦は何の衒いもなくそう言い放ち、彼にとってこのようなことは珍しいことでもなんでもないのだと僕は思い知った。<br>　勿論予想していたことだった。だが僕が彼女の唯一ではなくーーつまり彼女の運命の人が僕だったのではなく、彼女にとっては取り替え可能な一時の欲望を向ける相手でしかなかったのだということは、僕を深く落ち込ませた。<br>　彼女からとある高級なホテルの一室に来てほしいと連絡が来た時、僕は事態をよく飲み込めていなかった。「私の主人も同席していいかしら」と電話口で冗談のように軽い口調で訊ねる彼女の願いを、僕はなぜか断ることができなかった。<br>　檀は照明を落とした部屋の隅にある居心地の良さそうな長椅子に寝そべり脚を組み、肘をついて頭をもたせかけていた。彼が涼しい表情の下で僕たちの交わりを観察しながら股間を膨らませているのかと思うと、思わず吐き気がした。<br>　彼女の身体は変わらず素晴らしかった。そのあたたかくとろけるようなぬかるみを僕は何度も突き刺し、僕はいつしか第三者に見られているということも忘れて彼女との行為に没頭した。彼女の僕を見る視線は優しかった。慈愛で包むように僕に微笑みかけ、柔らかく抱きしめて撫で、僕を何度も射精に導いた。<br>　僕がシャワーを浴び、服を身に着けて煙草を吸っていると、彼女がすり寄ってきて後ろから僕をゆるく抱きしめて、耳元で囁いた。<br>「紺野さん、ありがとう。私たちはしばらく部屋に残るわ」<br>　彼女が、僕のことをはじめて名前で呼んだ。ふたりでいた時の、甘い雰囲気が含まれているようなあなたという呼び方は、きっとここにはそぐわないと彼女は判断したのだろう。それは僕には苦しいことだった。彼女といるのに、あいだにあるはずの親密さを、彼女からも僕からも感じ取れないことの悲しさが、僕を切りつけていた。<br>「はじめからこれが目的だったんですか？　夫との遊びに僕を巻き込むことが？」<br>「そうではないわ。私はあなたを食べてみたかったのよ。それはただの純粋な欲求であり捕食だわ。今回のことだって主人が望んで彼のためにしたことではないの。あくまで私のためにしたことなのよ。私が主人に見せたかったの。私があなたの身体に全身で耽るところを彼に指一本触れさせずに見せているのはーーたまらないほどの快感なの。私があなたに愛されているところを、彼に観察させたかったのよ」<br><br>　僕が部屋を出ようとして玄関で靴に足を差し込もうとしたとき、ベッドルームから彼女のくすくすと笑う声が聞こえてきた。<br>　僕は自分の卑しい好奇心を抑えられず、そっと音を立てずに忍び寄って、部屋を盗み見た。彼女は檀に跨がって腰を振りながら笑っていた。鬼女のような顔だった。檀は恍惚とした顔でだらりと身体を弛緩させ、彼女を見上げて、涎を垂らしていた。その緩み切った顔を、彼女と交わっているあいだ僕もしていたのだろうかと思うと吐き気を抑えきれなくなり、化粧室に駆け込んだ。便座まで間に合わずに洗面台にぶちまけて、何度かえずくと、行為の前に飲んだワインがそのまま紫色の吐瀉物となって排水口に流れていった。僕はそれを茫然としながら見ていた。<br><br>　出版社経由で檀百合絵から茶封筒が届き、その中には刊行されたばかりの彼女の処女作が入っていた。彼女からの言付けは何もなく、「あなたの本を読んだだけであなたのすべてがわかったような気がした」という彼女の言葉を思い出した。<br>　それは彼女の妄想をそのまま形にしたような、純文学と言うのさえ憚られるような自慰行為的な官能小説でしかなかった。だがそこに書いてあることは、名前は変えられているにせよ、紛れもなく現実に存在したことなのだった。僕を主人公として彼女と夫との歪な関係をそのまま描いたその作品は、彼女が僕自身を体験したのかと思うほど、恐ろしいほどに僕の思った通りの感情を克明に描いていた。<br>　読み終わり本を閉じると、表紙に描かれた雌の蟷螂の視線が僕を射抜いた。僕はあっと小さく叫び、本を取り落とした。数年間冷蔵庫の中に置いたままになっていた、彼女が僕の部屋に忘れていったダイヤモンドのピアスを、僕は躊躇うことなく屑籠に捨てた。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/nd02e583e8c7b'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 18 Jul 2026 13:23:01 +0900</pubDate>
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      <title>ぱっぱらぱらっぱ</title>
      <description><![CDATA[<p name="3E48D3C0-8F1F-4410-BFD3-2FFDEB4D1A87" id="3E48D3C0-8F1F-4410-BFD3-2FFDEB4D1A87">「で、なんでここに入ってきたの？　奇行系？　幻覚系？　幻聴系？」<br>「えー。どっちだろう。わかんないけど。奇行かな。強いていうなら」<br>「あーそうなんだ。めっちゃ普通そうなのにね。ここに入ってくるようなひとに見えないもん。全然」<br>「そうなのかな。あんまり覚えてないんだよね。なんか気付いたらあの部屋にいたし」<br>「あー隔離室ね」<br>「そうそう、隔離室に入れられてるなんてことも知らないわけこっちは。知らない場所にいたら混乱するじゃん。めちゃくちゃドア叩いてひと呼んでも壁叩いても誰も来ないしさ。」</p><p name="017EB4FF-1EBA-402C-8D82-09286D20FE64" id="017EB4FF-1EBA-402C-8D82-09286D20FE64">***</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n6e409aee596b'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 18 Jul 2026 11:07:08 +0900</pubDate>
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      <title>狐火でもんすとれいしょん　　前編</title>
      <description><![CDATA[<p name="B40F08BB-4A97-4389-BF9B-74A4405F0401" id="B40F08BB-4A97-4389-BF9B-74A4405F0401">※この作品には性暴力・性的被害に関する描写が含まれています。<br>過去の経験を想起し、強い苦痛やフラッシュバックを引き起こす可能性があります。心身の不調を感じた場合は、すぐに読むのを中断してください。<br>ご自身の安全と健康を最優先に、無理のない範囲でご覧ください。<br></p><h3 name="049CA075-A812-4E3C-A387-C2BCFD74FD29" id="049CA075-A812-4E3C-A387-C2BCFD74FD29">1. ことの次第</h3><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n41eff9942ff5'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 26 Jun 2026 22:28:22 +0900</pubDate>
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      <title>2024年12月のある日の日記</title>
      <description><![CDATA[<p name="E239853B-53BE-406B-B564-FF8FBFB0A86C" id="E239853B-53BE-406B-B564-FF8FBFB0A86C">　週6で10時間働いて今日も習慣で朝早くに目が覚めてもっと寝たいけど洗濯して干して2回目回したらスイッチ切れて昏倒して眠り続けてたら干せなくてうんざりして起きて眉毛だけ描いて疲れた身体とケツをぶっ叩いて死ぬほど嫌いな渋谷に行ってマジでライブじゃなかったら絶対行かないよこんな汚くて臭くてうるさくて人が多くてまっすぐ歩けなくて酔っ払いに絡まれてうざいし。でライブ観て救われたけどクソ疲れた身体で風呂をやっつけてこなせなかった皿洗いと服畳みやって生活ってこんなんですかそうですか？そんで明日も朝早くから出勤だからあんま寝る時間ないし、でもやりたかったクイックルはやっぱできなかった。こんなもののために生まれてきたんじゃないよなあ？鬼束ちひろかよ。もっと大変な人もいるんだよってのは一番嫌いな言葉でそんなずっと上しか見ないから自分の不幸に慣れて死んだ目で一日一日をただ過ごすハメになる。はたらけどはたらけどなお我暮らし楽にならざりぢつと手を見る状態なのは3週連続でクソ高いライブチケット代を払ったからで、いやそれを選択したのは自分だしライブは命の前借りだからいいんだよ。先にライブの予定でも入れてなきゃ生きる目的も見失うからさ。その時自分がどうなってるかわかんないけどな。はあ石川啄木かよ。こんな時も借り物の言葉しか出て来ないんだからなおうんざりするよ。労働人生！はーい。オッケーでーす。ちっとも楽にならん。なんなんだよ。配偶者がいることで助かる部分はあるけどそれでも豊かな人生を送ってるように見える人間を羨むばかりだよ。自分に手をかけてやったりする気力もないしライブ以外の趣味もほぼできなくなった。余裕をくれ。くれっつって自動的にもらえるもんじゃないんだけどさ。資本主義の手の平でコロコロ転がされてるよなあ。請求書と必要経費をペイするために追い立てられてるってわけ。それで何が残るんだろうな。I sold my soul for the second time / ‘cause the man don’t pay me / I begged my landlord for some more time / He said “Son, the bills are waiting”ってオアシス先生も歌っとりますわ。<br><br>eastern youthのライブを今年も一年の締めくくりに聴きに行った。拳を突き上げることも一緒に歌うこともできず、ただまっすぐ見ていることしかできなかった。去年吉野さんが「一緒に歌ってもいいし、黙って見ててもいい。おまえはおまえなんだから、人に合わせたり流される必要はない。おまえはいたいようにいればいい」みたいなことを言っていた記憶があって、あと「ロックでひとつになんてなる必要はない、音楽でひとりになれ。「みんな」なんて呪文に括られてたまるか」と。そう。棒立ちだったのは真剣に一対一でいて響く声を聞いていたから。揺れたり思い思いに叫んだり会話している人たちのあいだで、おまえはひとりでしかない。吉野さんは、おまえはおまえでしかなく今を生きているんだぜってことを本気で叫んでくれる。泥臭く毎日を生きろ。おまえは永遠に孤独、その孤独を抱き誰にも自分を明け渡すなと忘れかけても大声で伝えてくれる。涙が出ても明日は来るんだぜという言葉の重みと突き放し方が全く他の人と違う。<br>本当に苦しくて苦しくて何回ももういいだろうと思った一年だったけどなぜか生き延びてまた12月にeastern youthを見た。私は一生変わらず私だし永遠に一人のままだった。それでよかった。吉野さんの声は枯れていた。それでも吉野さんは全身全霊で叫び飛び跳ねていた。私はボロ雑巾のままで全身全霊で何も取り繕わずに生きられるだろうか。溢れる涙は拭わない。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/ne5a7ccec9662'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 01 May 2026 01:42:58 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/arsenic/n/ne5a7ccec9662</link>
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      <title>繭、あるいは</title>
      <description><![CDATA[<p name="755a9bd4-68a4-457e-8250-ae64dc4650c5" id="755a9bd4-68a4-457e-8250-ae64dc4650c5">ふたりであの夜訪れたバーは、ずいぶん前に閉じてしまった。あなたがそのことに言い及ぶ文章を見つけても、うす暗くとろんとした空気の、あの繭のような、洞窟のような、子宮のようなちいさな場所が世界から消えてしまったことが適切だと思えず、わたしはそのことを考えるのを拒んでいた。</p><p name="CCCBF672-F9DD-447D-A102-8EE91FDB1410" id="CCCBF672-F9DD-447D-A102-8EE91FDB1410">わたしたちは山形で再会した。<br>あなたにとっては生まれ育った土地。わたしにとっては大学生の、心細くも自由な時間を過ごした地。南の果てで出会ったあなたと不思議な形で共有することになったゆかりの地で再会したことを、密やかに祝福したかった。<br>山形市でいっとう古くからあるバーを見つけだしてあなたを誘い、重たいドアを開けた。あの夜の選択は正しかった。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/nb86f1545d4a5'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 20 Apr 2026 10:04:52 +0900</pubDate>
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    <item>
      <title>思うここにはいないひと</title>
      <description><![CDATA[<p name="7B8CAE40-7F3E-4C7B-99D3-0BBB5B5242EE" id="7B8CAE40-7F3E-4C7B-99D3-0BBB5B5242EE"><br>　甘えないで。いつだって優しくして助けてもらえると思わないでよ。友達ならいつでもぬるま湯みたいに気持ちいい環境を提供してくれると思わないで。<br>　目の前の沙都子のもの言いが、これまでの、いつだってふうわりと包み込むように何も否定せず、布団のように私を慮ってくれていた彼女と同じひとに見えず、私は思わず彼女を凝視した。<br>「弱音や愚痴を吐きたいのはわかったよ。でも自分が今クソみたいな環境で変わらない日常に飽き飽きしていてそれでもそれを変えようとするような努力を何もしないのに消えたいとかいなくなりたいとか聞かされる身にもなってくれない？　本当はやろうと思えばやったらできるんでしょ？　行動に移すのがだるくてうじうじ動いてないだけじゃん。なんでやらないの？」<br>　息継ぎもせずひと息にそう言い切って、沙都子はようやく深く深く息を吸い込んで吐いた。<br>「正直羨ましいよ。自分は楽に結婚できて仕事もせずに、求められることだってほとんどなくて、食費だって家賃だって光熱費だって出してもらえてるんじゃん。守られてて恵まれてて、なのに自分は恨み言みたいにそうやって苦しい苦しい言っててさ。なんなの？　自分が果たすべき義務みたいなもの何にもしてないのに、それなのに住む場所も食べるものもあって、何が不満なの？」<br>　私は沙都子に視線を合わせていられず、机の上の二人分のマグカップの飲みものの残りが少ないことを確認して、唾を飲み込んだ。<br>「消えたいのに理由なんかないよ。ただ私はうまく生きることができなくて、まともに働くこともできなくて、世界の形に自分を合わせることもできない甘ったれで、責任感もなくて、人間が怖くて、集団行動を取れなくて、頭も悪くて、だから仕事もしたくなくて、仕事に行ってないことがわかると当たり前だけどものすごく怒られるから仕事を休みすぎてクビになったことも言えなくて、生活費は出してもらってるくせに家や夫のために何かしようとも思えないし、家事も大嫌いで、せめて何かしようと思って立ち上がってもついベッドに戻ってしまって天井とスマホばかり見てて、自分の何かが他とは違うと思っても病院に行くのも億劫で、二回目を予約したきりキャンセルの電話も入れずぶっちぎってそれっきりで、図書館では返却期限が遅れたことで司書の人に咎められてそれだけで唯一の世界との繋がりを拒絶されたような気分になって落ち込んで、家にいたら万が一何かあって夫が家に帰ってきた時に私が仕事に行ってないことがばれるから公園で本を読んで時間を潰すことしかできないリストラされたおっさんみたいな生活をしてて、自分の身なりにも気を遣えなくて、新しい服や下着なんてもうずいぶん買ってなくて着古しは色褪せて毛玉だらけでぺらぺらになってて、風呂に入ることも億劫で二日三日風呂に入らないなんてザラで、そんなやる気もなくどす黒いオーラを放ってる私と顔を合わせたくないのか夫は仕事の後は遅くまでパチンコに行ってて、私も顔を合わせたくないから先に寝たふりしていつの間にか寝てて、起きたら夫は仕事に行ってて一言も話してなくて、でも性処理はさせられてて、机の上にかろうじて洗って干した洗濯物は取り込まれて畳まれないまま山になってて、床には髪の毛や埃が散らばってるけど掃除機をかけるのも億劫で、のろのろ皿洗いして、夫は帰ってくるのかこないのかわかんないからおいしくもない夕食を作るのもとうの昔にやめて、なんかの動画見てたら時間が過ぎて一日が終わって、そんなんばっかだよ。そうだよ何もしたくない甘ったれなんだよ。生きる資格もないのに何もしなくて、何もできないから死にたくて、それだけだよ。買いかぶりすぎだよ。私はやったらできるのにやってない人とかじゃなくて、本当に怠惰でなんにもできないクズなんだよ。自分を認められるような行動も取ることができなくて、ただ時間が流れるのをそのまま見ていることしかできないんだよ。死んでないから生きてるだけだよ。なんの取り柄もないしあなたの時間を奪ってるだけだよ。今まで会ってくれていてありがとう」<br>　全部聞いていたのかはわからないが、私がひととおり言い終わって口を噤んだのを確認すると、「わかってるよそんなこと」と沙都子は言って二人分の代金を置いて出て行った。最後に言った、「わかってる」がどういう意味のわかってるなのかはわからなかった。特に意味もなかったのかもしれない。二人分の代金を置いたのは私がろくに働いていなくてお金がないことはわかりきっているからだった。<br>　私が『遊ぶ金も気力もなくて会いにいけないんだよ』と返信すると、そんなの私が払うしこうしてあたしが誘わないと家から出ないんだから出てこいよと何かと理由をつけて連れ出してくれていたのはいつも彼女だった。私は彼女に対して自分から一度だって何かしたことがあっただろうか。<br>　自分からは連絡しないくせに、誘われるとのこのこついていって彼女の前に座ってぼうっとして彼女の話を聞いているだけで、打てば響くわけでもない面白い話をするわけでもない私を、どうして気にして何度も連れ出してくれていたのかずっと不思議だった。目をかけてせめて自分だけが外界との接点になっていれば、何か変化するかもと思っていたのかもしれない。それでも無為に日々を過ごしている私が無性に腹立たしかったのだろう。もしくはそれも楽観的なものの見方で、どうしようもない私とたまに会うことで、こいつと私は違うと安心するために会っていたのかもしれない。<br>　だが、そんな沙都子の限界もついに訪れて、この友情と思しき不安定な関係は、今日ふっつりと、永遠に終わったのだった。話し終わりまで座っていてくれたのも、何も言わずに距離を置いて音信不通になっていなくなるのではなくて、最後捨て台詞でも私と会い続けることが無理になった理由を教えてくれたことすらも、せめてもの彼女の優しさなのかもしれないと思った。だいたい、去っていく人は何も言わず、黙って離れていくだけだ。だから最後に、捨て台詞でもなんでも、私に会いに来て、言いたいことをぶつけてから去っていった沙都子は、人にきちんと伝えてくれる労力を厭わない、優しい人だ。今まで彼女にきちんと向き合わず、ろくに知ろうともせず、ぼんやりと接することしかできなかったことを悔やんだ。<br>　去っていく沙都子の向かう出口は私の後方にあったが、振り向いて彼女の後ろ姿を見ることはできなかった。私の横をすりぬけていくときいつもの沙都子の香水が香って、はじめてもうこの香りが近くに来てくれることはないのだと私に現実感を呼び起こさせた。その香りは廃盤になってしまったから、大量に買い占めて、なくなるまで使っているんだ、もう買えないんだと沙都子は悲しそうに言っていた。私にはそこまで気に入って自分の香りにしようとするほど思い入れのある香水などなかったし、その話を聞いたときもなんとなく聞き流してしまっていた。<br>　異星人の話を聞いているように、自分にはわからないどこかの日々の話を聞きながら、私はばかみたいにいつもただ彼女の前にいるだけだった。ひとの話に共感することができなくて、それどころか誰かの話に共感したこともないくらいひとと関わることも少なくて、ひととの会話に何を求められているのかも判然としなくて、ぼんやりと頷いて飲みものをすすったりしていて、それしかできなかった。<br>　沙都子。元からぼんやりしていた彼女の輪郭はより一層ぼやけて、彼女がどんなひとだったのか、何がきっかけで仲良くなったのか、それすら思い出せなかった。沙都子。頭の中で彼女の名前を呼ぶ。そんな名前だった。ざらざらとした舌ざわりが残るような気がして、残り少ないコーヒーを飲み下した。それでも足りなくて水を飲もうとしたが、グラスは空だった。<br>　彼女のよくわからない話にも、友達のことならと興味を持とうとしていれば、これまでのように関係は続いたのだろうか。意味もなく生き延びてしまった日を積み重ね続けて、その合間に時折入り込んでは知らない話を聞かせて、私の死にたい日を緩慢に延期させた沙都子。何週も遅れてぼんやりと私が何かどうでもいい返事をするのを辛抱強く待っていてくれていた沙都子。期待しても意味はないとわかっていても、何かを私に期待してくれていた沙都子。目を閉じて彼女の顔を思い出そうとしてみるが、頭の中のその顔ははっきりと表情を作らなかった。<br>　ひとときちんと接していないと、こんなにもひとを覚えていることすらしない。私がひとに期待しないのは、執着したりしないのは、誰が来ても誰が去ってもぼんやりとただそれを受け入れているのは、自分のことしか考えないで、誰にも興味がなくて、何もかもがどうでもよかったからだろうか。</p><p name="be1a4584-83aa-45fb-ae8d-1679e86a7d6e" id="be1a4584-83aa-45fb-ae8d-1679e86a7d6e">*</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n7ca89b3ee0e9'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 17 Apr 2026 22:19:36 +0900</pubDate>
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      <title>幸福は暴力的な土砂降り</title>
      <description><![CDATA[<p name="ad970fe4-4e52-4027-8865-d18086ab7536" id="ad970fe4-4e52-4027-8865-d18086ab7536">　男が台所で夕飯を作っている。私はそれを後ろからそろそろと抱きしめ、その熱を感じ、彼が今存在して、生きていて、だからこそ夕飯を作っている、ということを確認する。このひとがほんとうに存在するのか、ほんものなのか、現実なのか、わからなくなってしまうのだ。なぜ彼はここにいるのだろう。なぜ彼はここで夕飯を作っているのだろう。なぜ私はここにいるのだろう。なぜ私はここに彼と一緒にいるのだろう。なぜ。<br>「どうしたの？」と彼が尋ねる。私はそれに答えない。どうもしない。ただよくわからないだけなのだ。<br>　毎日、折に触れて思い出したように彼に触れる。感触がある。熱さを確かめる。実在する。なぜ彼の体温は感じるのに、こんなにも自分の身体はあたたまらないのだろう。「どうしたの？」とふたたび尋ねる、彼のうすいTシャツごしに感じる張りのある肌や、かたくもやわらかい筋肉の感じ、柔軟剤の香りを、ちょうど肩甲骨のあいだにうずめた顔全体で感じとりつつ、その中にありながら、苦しい、死にたい、苦しい、死にたい、さびしい、とそれだけが頭の中に響いた。寒いのならば服を一枚羽織ればいいのに、それだけのこともできず、それどころか肌をより近くに感じたくて、わざと着古しのうすいTシャツ一枚だけで、やわらかい熱を感じていた。あたたかい、死にたい、苦しい、さびしい。涙が滲んできて、より強く顔をうずめて、歯を食いしばった。水分はたちまちTシャツに吸い取られ、わずかな湿り気くらいの濡れが残った。私は呼吸を整えると、「鼻水出た」と言いながらその場を離れて、鼻をかむ。<br>　触れ合っていてもまるで私の感情は彼に伝わらず、すこし泣いていたことすら彼は気付かない。よかった、と私は心底思う。彼の鈍感さに、まるでわかっていないところに辟易することはごく稀にあっても、私の感情に同調せず、ただなんでもないような感じでそこに存在しているだけで、彼自身は私の問題とは関係なくただそこにいて、そのことにいつも救われるような思いがした。私の感情を敏感に感じ取ったり、下手にそれに共感したり、まともにそのことに一緒に考え込んだり、一緒に沈んでしまうような人ではだめだ。この苦しみは理由もなくそこにあるものだから、真正面から解明しようとすること自体、間違っている。そういう人でないから、私はまたなんでもないような顔に戻って彼の近くにいることができる。彼が部屋でイヤホンを付けて何かを見ているあいだも、私は声を押し殺してトイレで、もしくは浴槽の中でひとしきり泣いて、またなんでもないような顔で部屋に戻ることができるし、何も聞かれずに済む。<br>　彼が私が何を考えているのか、どういう状態なのか、何か問題があったら言ってほしいと思っていることは知っている。たとえ気にかけてみたとしても何も言わないから、それに歯がゆく思い、怒りを抱いていることを知っている。けれども、私は何も言わない。そうした自分の底の底にいつも押し込めている感情を人に話して共有することをしたいと思わないから、今日もぎゅうぎゅうとそれを押し潰して圧縮して、自分の頭の中のたんすの中に押し込めて、抑えつけながらしまって、一日一日をやり過ごす。</p><p name="3bb0276e-19a7-46f9-b503-846a4f04bf08" id="3bb0276e-19a7-46f9-b503-846a4f04bf08">　私が今、苦しいと感じるのに、自分がいる場所から動きだすことができずいるのは、まさに今、この苦しみそのものが私を縛り付け、自分の希薄である存在を鋭く痛みをもって立ち上がらせるからに他ならない。喜びも、楽しさも、やり甲斐でもだめなのだ。それらの快い感情は、一瞬で私をすり抜けてしまう。<br>　幸福には抗えない。疑ってはいけない。幸福は否応なく私に「見なさい」というように、瞬間降りしきる。私を享受しなさい。今、この瞬間、これを幸福だと感じなさい。横っ面を張られるように、私は幸福のほうに顔を向けさせられ、無理矢理ねじ伏せるように幸福は一本勝ちし、私はKOされる。これが幸福というものなのですか。感じのよいものですね。抗わないでただしばらく幸福が降ってくるのを待っていると、次第にそれは止む。私はそれをいつしか忘れる。このような幸福がどのように降ってきたかを完全に忘れ去る。あんなことがあって嬉しかった、あの時楽しかった、そのすべてを私は忘却してしまい、それらはすべて彼方に取り残される。この、手ざわりのない、私以外すべてが私の周りを回って進んでいくこの日常の中で、ただ苦しみを引き受けて、つらい、死にたい、と歯を食いしばっていることでしか、自分が存在していることを実感することができない。つらく苦しく死にたい、これに横になったまま目を閉じていることで抗い、また私はどういうわけか生存し、一日が引き伸ばされていく。今私がこんなにも苦しみを感じているということは、私がいま生きて、存在しているからこそなのであると。<br>　なんのために生きているのか、なんのために生きて、生きるうえでのもろもろを粛々ととりおこなっていかなくてはならないのか、どうして私は生き永らえなくてはならないのか、私は、人の背中で、トイレで、浴槽で、布団の中で、椅子の上で、ぼんやりと考える。その苦しみ全てを、私は馬鹿正直に全て受け入れ、苦しい、苦しい、と思う。苦しみは波のように寄せては帰り、またやってくる。また苦しいと思い、私はそれに抗う。<br>　感覚にありありとした実感がないから、私は忘れてしまう。ただ存在するだけで、一日一日が過ぎ去っていることがよくわからない。ただただ存在しているだけなのに、そこに日割りで金がかかっていることが、よくわからない。ただいるだけなのに、なぜ空腹になって、喉が渇き、排泄するのか、わからない。目の前で起きていることなのに遠くから眺めていることのように感じる。苦しみだけを、なぜか近しく感じる。<br>　なぜ私は人の形をとっているのだろう。私は自分を、その辺を漂っている埃のかけらか何かのように感じる。これは自虐ではなく事実としてそうだ。したいことも思い浮かばない。外に出たいとも思わない。誰かに会いたいとも思わない。それなのに、なぜか家には他者がいて、その生活を円滑に回さなくてはいけないらしく、のろのろと立ち上がり家事を行わなくてはならない。金を稼がなくてはならない。わからない。実感がない。なにもかもが遠い。彼がどことなく諦めたような顔をしてそこに座って何かを見ている。埃に何を言っても、何を示しても、響く様子がないのだから当たり前だ。何を言っても、よくわからない、という顔で、その人型の埃は押し黙っている。わからないから、何も返答できないでいる。部屋の隅の埃はだまってすこしずつ堆積してゆく。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n3f426cb2f8b5'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 06 Apr 2026 18:02:29 +0900</pubDate>
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      <title>おととい来てください</title>
      <description><![CDATA[<p name="47A0A661-1B66-49CA-AC45-C783E33F1BEB" id="47A0A661-1B66-49CA-AC45-C783E33F1BEB">私の身体のサイクルに抗い難く刻み込まれているバッドハビットがまたもやってきてしばらく経った。数ヶ月おきに世界の何もかもから距離を取りたくなる。人生の全てに興味を持てなくなり、生きている上での楽しさを何も感じられなくなり、何もかもが無意味に思えて、動けなくなる。身体が動かないので、仕方なく眠り続ける。生きていようとするためのエネルギーが枯渇しているので、布団から抜け出すことさえ難しい。高すぎる電気代の節約のために、どうしても我慢できない時以外暖房をつけないでいるので、寒くてさらに布団から出られなくなる悪循環。せめて冬のいいところを考えながら、布団をさらに手繰り寄せて少しも空気が入り込まないように身を縮こまらせる。<br><br>冬のいいところはクリスプのように枯葉がかりかりになって、降り積もった上を踏みしめながら歩くのが楽しいところ。早朝の透明な空気が頬に沁みて自分も透き通ったような気持ちになれるところ。寒さで誰も街にいない夜。私が外に出て行かなくても、冬のいいところは外にきちんとある。大丈夫。<br><br>チャイムが鳴る。もちろん居留守を使う。二度目のチャイムが鳴り、ドアの前からいなくなった気配がする。瞼の中に緞帳が降りるように、重い眠りが落ちてくる。私が眠りに落ちるのではなくて、眠りのほうから勝手にやってくるので、私は抵抗せず素直にその重みに身を委ねる。</p><p name="81e5ff41-f6db-4481-8e72-34bffa5ecd14" id="81e5ff41-f6db-4481-8e72-34bffa5ecd14">ポケットの中には十粒の豆が入っている。起き上がると二粒。もう片方のポケットに移動させる。洗濯を回して干す。二粒。皿洗い。三粒。もう残り三粒しかない。積み重なっているテクストを追う。一番上に「連絡をください」の文字を見かけ、他のテクストに目を通す余裕がなくなる。四粒。もう足りない。私はベッドに逆戻りし、目を閉じる。もう他のことはできない。何を考える余裕もない。一日一日がただ終わっていく。それをやり過ごすことしかできない。緩慢な日々が布団の重みの上にのしかかっていく。<br><br>何か問われてもその返答を考えて口に出すのも億劫で、私が黙っている間に相手は先に行ってしまう。無視するな何か答えろとその人は一方的に怒っている。私がまたその返答を考えていると箸を机に叩きつけて出ていってしまった。詰問には不慣れだが、一人で眠るのには慣れている。<br><br>私以外の人たちの生きている時間と自分の過ごす時間の速さの恐ろしいほどの違いに思いを馳せる。<br>私が何もしていない間、誰かはひらりひらりと瞬くような速さで何かをしたり何かになったりする。私は布団の中にいる。一番安全で何も起こらない空間。ただ逃げていれば、何も起こらない。一人で眠り続けていたい。何も考えられない。何もできない。眠りが落ちてくる。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n0932a62941ef'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 28 Jan 2026 22:02:53 +0900</pubDate>
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      <title>茫漠としたかなしみ</title>
      <description><![CDATA[<p name="D30EABE5-34AF-4905-8ACB-39F144243A73" id="D30EABE5-34AF-4905-8ACB-39F144243A73">「所詮人と人とは永遠に理解し合えないからね」<br>私がそう言うと彼は即座に否定した。<br>「そんなことない、話し合えば絶対に分かり合えるはずだ」<br>あなたが永遠にそう思い続けていられるならいいね、と私は頭の中で返した。<br><br><br>「私たちは衛星だからさ」<br>あなたはそう言いかけて、後に続ける言葉を思いあぐねている様子で、アイスティーの氷をストローでなんとなくつつきながら言った。<br>「永遠に交わることはないけれど……別の軌道で回りながら、一定の距離を保ちながら、それでも私はあなたを見守っているから。あなたが私を見守ってくれているように。そうやって決して交わることのない道の向こうで手を振り合っているから、私たちは良好な関係を築き続けていることができるんだと思う」<br>そうだね、と私は頷く。<br>「近すぎる距離にいたらいつかそれは破綻するよ。目を背け続けられなくなったら、それは終わる。私たちは一生孤独でなければいけないよ」<br>その言葉は、ともすれば密かな呪いの言葉なのかもしれなかった。だが私はその言葉に深く頷きながら、私たちは永遠に孤独な生き物なのだ、一人では生きていられないのに、他者と関わりあうことを諦めることはできないのに、それでも私たちは永遠に淋しさを抱えながら生きていくのだ、そのように生きていくしかできないのだ、と自分を縛った。<br><br><br>「あなたがわからない」<br>悲痛な声を彼は最後に絞り出した。<br>「そうだね、私にだって私が一番わからないんだから」<br>そう私は返し、彼は私を自分が成長させてあげていると驕っていただろう、まともな人間にしてあげられたと思っていただろう、ざまあみろと何もかもをぶち壊したあとに内心ではほくそ笑んでいた。<br>「どうしてそうなの？　自分が一番自分のことを本当は分かっているはずなのに？　こんなことをするような人だとは思っていなかった」<br>あなたは最初から私を見誤って、期待と願望を投影したその「わたし」を愛していたんだよ。あなたははじめから、私のことなどまったく見ていなかった。見えていなかったんだよ。<br><br><br>「あなたはずっと自分が逃げられると思った先にいつも行っていたんだね」<br>「え？」<br>「あなたは能動的にこの人と共にありたいと選択してきたのではなくて、受動的にその時々ではずみで出会った人たちに求められるならそばにいて、しばらくしたら離れることを繰り返してきたと言ったでしょう」<br>「そうだね」<br>「恋愛ではなかったかもしれない、私は誰のこともほんとうには好きではなかったのかもしれないと言っていたけど、あなたがその時々で出会った人たちを何をするでもなく癒しながら、すこしの諦念を持って、それでもわかりあえない、孤独だ、と思ったまま、それでもその時持てるだけの慈しみを注いできたことは、私には紛れもなく愛だと思うよ」<br>そうなのだろうか、と私はぼんやりとしたままの頭を持ち上げていることに精一杯で、その言葉を受け止めることができずにいた。<br>「私には抱えきれなかったよ、それでも」<br>「あなたは見返りを求めないから、与えられるだけ与える人だから」<br>「私には永遠に何も受け取れないということ？」<br>「もしかしたらそうなのかもしれないね。でもあなたにはそういう生き方しかできないんでしょう」<br>望みを失うというのはこういうことなのだろうかと私は思う。<br>「誰とも繋がれないということ？」<br>「それでもあなたは愛を他者に注ぎ続けることをやめられない」<br>「なぜ」<br>「逃げた先は少しのあいだの仮の定宿になるかもしれない。けれどもそこはあなたの永遠の居場所ではない。あなたは宿賃として愛を注いでいる」<br>「……永遠に？」<br>あなたは何も答えない。黙ったまま私を見つめている。<br>目の前の、像を結んだ彼女は、本当に実在しているものなのかと、私は僅かに焦りを抱きはじめる。<br>「ずっとずっと淋しかったね」<br>私はその手に触れられない。ほんものだと確かめたいのに、どうしてもその手に触ることができない。<br>「そうだね……」<br>あなたの目線を受け止めながら、私は飲まれることのないまま氷が溶け、二層になったアイスコーヒーをぼんやりと見つめる。<br>この人をひとりにしてはいけないとか、今この人のそばにいなかったら誰が他にそばにいられるのだろうと寄り添ってきたその人たちは、ほんとうに救われていたのだろうか。永遠に私を理解することはなく、理解できないと自分が被害者のような顔をして、愛を欲しいだけ私から奪い去って、いつか離れていったあの人たちは。私はあなたのありのままのすべてを受け入れたいと願ったのに、私のことはありのままでは受け入れられず、自分の形に変えようとして失敗して、絶望して去っていったあの人たちは。<br><br><br>淋しかったね、と私はなんとか微笑みの形にしようと唇を歪める。<br>あなたは言う。<br>この世には風の民と土の民のふた通りがいる。<br>土の民はある土地に居着き、その場に定まって、そこに根付いた暮らしをつづけ生活を営む。<br>風の民は様々な場所を転々とし、放浪しながらその土地土地で過ごし、また別の地を目指してゆく。土の民は住み着いた場所に愛着を見出すが、風の民は移り変わる景色に親しみを覚える。<br>ひとところに長く住むと、まだ見ぬ景色を求めて、またふらりと新しい地に向かうのだと。それが風の民であるわたしなのだと。<br>わたしたちは、いつでも、ここではないどこかを探している。それは永遠に変わることがない。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n0d699fa867be'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 25 Sep 2025 20:55:35 +0900</pubDate>
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      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから 15</title>
      <description><![CDATA[<p name="1FD7FDFB-7DF0-497D-A45B-BC6D116F97C5" id="1FD7FDFB-7DF0-497D-A45B-BC6D116F97C5">『りえさん、今日ひまですか？　飲みたいんですけど』<br>　アラブからのLINEはいつも唐突だ。まあそれは私たちもそうなのだけど。<br>『今晩ちょーひま』と返すと秒で『じゃあ渋谷で』と返信が来て、今日はメキシカンでタコス食べよーっと、とるんるんしながらデニムとピチTにいそいそと着替える。萌黄ちゃんは今日も家にいない。慎一郎さんに会うためにチェリービークに開店から張っているのだろう。連絡するか迷って、ふーんだ、帰ってきた時に誰もいなくてさみしい気持ちになれ！　とちょっと意地悪な気持ちになって、盛大にキイイイと音を立てながら勢いよくドアを開け、私は夜の街に繰り出す。</p><p name="5909D057-409D-4E6F-A743-E9BF3DCB5DA2" id="5909D057-409D-4E6F-A743-E9BF3DCB5DA2">「それで、あのー、最近ビデオ通話で話してるんすけど、もうめっちゃかわいいんですよ。ミリちゃんっていうんですけど」<br>「あー」<br>　どいつもこいつも恋愛モードだ。浮かれてていいなーと思いながら私は目の前にたくさん並んでいるタコスを眺めてうっとりする。<br>　プルドポークを使ったカルニータス。カットステーキのカルネアサダ。ケバブみたいなポークにパイナップルが載ったタコスアルパストール。牛肉のシチューを使ったビリアタコス。エビのタコス。魚のタコス。<br>「あの、りえさん、聞いてます？」<br>「聞いてる聞いてる」もしゃもしゃタコスを食べながら、幸福な気持ちでアラブの話を聞き流す。<br>「これだけ何回も画面で話していて、だいぶ仲良くなってきたと思うんです。でも、ミリちゃんは絶対におれに会ってくれないんですよ」<br>「まーふつうに友達として話すのは楽しいけど脈なしってことっしょ。さっさと諦めて無駄押しするのやめな。その子も迷惑だよ」<br>　アラブがしおしおと項垂れ、目の前にあるタコスを適当に手に取りわしわしと食べ始める。<br>「でも……友達としてなら、これからも一緒に話していられるんですよね」<br>「がっつり拒否されてるわけじゃないなら、そうなんじゃん？」<br>「そうか……」<br>「友達は大事だよ。それだけ話が盛り上がってるなら付き合いたいとか高望みしないで、その友情を大事にしなよ」<br>「そーすね……」<br>　おなかがいっぱいになってきた。萌黄ちゃんがこの場にいないことを後悔し始め、私はLINEで萌黄ちゃんを召集する。<br>『タコス食いに来ない？』<br>『タコス⁉︎ なんでそんな楽しそうなイベント誘ってくれないの〜⁉︎ いまいく』<br>「萌黄ちゃん来るって」<br>「そうっすか。よかった……この量、二人じゃ捌けないっすよ」<br>「調子に乗りすぎた」<br>「そういえば、ミリちゃんはなんか変なことを言ってたな」<br>「変なこと？」<br>「アラブくんは、私が女の子に見えるんだねって。でも見た目完全に女の子だったから、え？　って思って……どういうことなんですか？」<br>「それ……」<br>「え？」<br>「なんて答えたの？」<br>「女の子だと思ってずっと話してたよって」<br>「それでその子はなんて？」<br>「そうなんだねって言ってました」<br>「それだけ？」<br>「それだけです」<br>「ふーん……」<br>「え、どういうことですか？」<br>「あらゆる可能性を考えろってことだよ。世界には男と女の二種類しかいないわけじゃない」<br>「え？」<br>「あんたはもっと世界のことを知るべきだ」<br>　突然店の扉が開いて、息を切らしながら萌黄ちゃんが入ってきた。<br>「タコスまだある⁉︎」<br>「あるある。いっぱい食べて」<br>「やったー！！！　タコス最高」<br>　萌黄ちゃんは急いで手をおしぼりで拭くやいなや、もりもりとタコスを食べ始める。<br>「アラブの恋バナ聞いてた」<br>「あ、そうなん？　どんな感じ？」<br>「ちょっとねえ」<br>「うーん？」<br>　萌黄ちゃんは一連の話をアラブから聞き直して、あー、と納得したような顔になった。<br>「アラブ、相手が自分に説明してくれるまで、無駄なこと何も言うんじゃないよ。相手から拒絶されてないなら、これからも何も言わずに、今まで通りアニメとかマンガの話で楽しい時間を過ごすんだよ」<br>「わ、わかりました」<br>　それだけなら大得意なので、とアラブはちょっと元気を持ち直し、またタコスを口に運び始める。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/ncf1168bffe57'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 13 Sep 2025 19:30:24 +0900</pubDate>
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      <title>薄暗い閨</title>
      <description><![CDATA[<p name="f94c993b-11b8-4aa7-b40a-569ef8253e1a" id="f94c993b-11b8-4aa7-b40a-569ef8253e1a">　溺れて水の中でもがくように手を動かして、男の背中を掴もうとするとガリ、という感触があり爪が伸びていたことにようやく気付く。<br>　あー爪切りしないと、爪切り、早く、あれどこしまったっけ、と意識が別の方向に向かっているあいだに男が私の首筋に顔をうずめて苦しそうに喘ぐ。それどころじゃない私は早く爪切り。爪切りを。<br><br>　私の反応が鈍くなったことに気付いたのか、男はベッドサイドから電気マッサージ器を取り出そうとして上半身を伸ばし、その乳首が目の前にきて、男の乳首って気持ちよくなるためだけの器官だよな、そんなのずるくない？　女には少女のうちに陰核を切り取られる慣習だってこの世界には存在してるのに。女は何も考えないで気持ちよくなることなんて許されない、女は性的衝動を持つことを許されない、子を産むための器官を備え付けることしか許さない、結婚するまで処女でいろ、その気持ちよくなるためだけの器官の喪失ではじめて一人前と見做されるのだと。処女のことを「清らか」と最初に形容した人間を私は軽蔑する。<br>　男は今手に持っているばかでかいそれのスイッチを入れようとして、充電が切れていることがわかると「クソッ」と短く吐き捨てて床に放り投げた。用無しになったそれは床に鈍い音を立てて落ちた。<br>　白けるなあ、早く終わってほしい。つまんねえセックスしかしない男とは一秒も一緒にいたくない。<br>　<br>　私は実家が嫌いで金はないけどまともに働けないクズで身体も売れない弱虫だったので、飲み屋に行っては近付いてくる男についていって飲み代を払ってもらって、家に泊まるかホテル代も出させて寝るみたいな生活をずっと続けていた。家族がいない間に実家に必要な荷物や着替えを取りに行く。セックスすればただで家に泊まらせてもらって家に帰らなくて済むなんて楽だなあと思っていた。そういう生活をすることでしか心を保てなかった。実家でおとなしくしていると死にたくなるから。<br>　全部つまんない、不感症になっちゃったかも、と思っていたころ、その時に会った男が急に首を絞めてきた。苦しかった。気持ちよかった。自分で驚くほど、私は喘いでいた。それからハードな海外のＢＤＳＭモノでしか自分を慰められなくなった。女が四肢を縄や組まれた鉄パイプで拘束されて動けないでいる姿。ケインや乗馬鞭やパドルで内股や尻や乳房を血が滲むまで叩かれる姿。<br>　自分のことが信じられなかった。自分の預かりうる範疇から知らない間に自分が外に出てしまっていた。怖かった。</p><p name="f36fb91f-ec9d-4d52-9a0e-4fc22264c6ad" id="f36fb91f-ec9d-4d52-9a0e-4fc22264c6ad">　女の身体は柔らかくて中は熱くてとろとろしていて包みこまれて、さぞや気持ちがいいのでしょうね。<br>　私にペニスがあったらよかったのに。ペニスがあったら自分の好きに振る舞うこともできたかもしれない。疲れたら女を抱きしめて、女の口に含ませて、女の中に押し入って、満足してそのまま煙草を吸っていびきをかいて昼まで寝られたかもしれない。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n9fd5a8b50c97'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 11 Sep 2025 01:36:48 +0900</pubDate>
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      <title>エンジョイユアセーフティドライビング</title>
      <description><![CDATA[<p name="2E69730D-DB12-418B-A38E-127E69D7B8F6" id="2E69730D-DB12-418B-A38E-127E69D7B8F6">車を走らせるあいだ、どんな話をしたか、そもそも話などろくにしていなかったのかも思い出せない。<br>およそ半年振りに会うその人は、以前までは最も近しい人だったのに、今は最も遠い人になってしまった。その顔も自分の見知ったものとはまるで違うものに見え、記憶の中の顔を必死に思い出す。<br>頭の中はうるさいのに、ひとつも言葉は出てこない。<br>私たちは破局を迎えた。<br>それにもかかわらず、今は同じ車にふたりだけで旅先に向かっている。車は淡々と目的地まで走ってゆく。<br><br>「貸し切りだ」<br>「こんなことあるのね」<br>「珍しい」<br>「静かすぎて、却って不気味にも思うけれど」<br>旅館は貸切だった。鯉が泳ぐ池の真ん中を渡す橋を進むと、その先に部屋がある。<br>「本当にふたりきりなのね」<br>「そうだね、話をするにはいい環境だよ」<br>この人は私と話すことを躊躇うことはあったとしても恐れたことは一度もないのだろう。私がいつからか自分の本心を見せずに、何も起こっていないように見せ続けていたのとは対照的に。<br>「そうね」<br>このようなそれまでの穏やかに見える積み重ねが、何もかもを見えなくさせていき、私たちは別れたのだ。<br>「酒でも買いに行こうか」<br>ああ、本当に、ふたりきりで、誰も立ち入らずに話をするためだけの、空間なのだここは。<br><br>逃げ出したくなる。<br><br><br><br>顔を逸らす私を見て、「……おれが買ってこようか」とそれに気付いたのか気付いていないのか彼が言う。<br>「私が……」と言いかけて、もう二年以上運転していないことに気付く。彼と暮らしていた頃は毎日車に乗っていたのに、もう乗り方をまるで覚えていない。<br>「いいから。日本酒？ワイン？ビール？」<br>「日本酒。辛すぎないの……ああ、やっぱりワインも飲みたい」<br>「うん。やっと目を合わせたな」<br>彼が笑った。ように見えた。<br>荷物を部屋に置き、鍵だけ持って部屋を出ていくと、私だけ後に残されてしまった。<br><br>ほっとしているのだろうか。<br>煙草を取り出し、深く溜息をついて、火を点けた。<br>煙草を吸うのも久しぶりだ。この男と暮らしていた頃は毎日吸っていたのに。<br>何もかも変わってしまった。私はほとんど別人のようになって、彼と暮らしていた頃は自分がどのような人だったのかも思い出せない。彼もまた、変わったのだろう。<br>なぜ私はここにいるのだろう。<br><br><br><br>マンゴーが届いた。<br>何も注文していないのに大きい箱が届き、何事かと宛名を見ると彼だった。久しぶりに彼の字を見た。沖縄から東京へ。立派に色付いたマンゴーが六つ。<br>「別れてもマンゴーを贈ってくれるあの人」<br>思わず呟いた声も、降りしきる雨にかき消される。<br>手紙も何もない。私が向こうを離れてから、別れを告げるまでは、二週に一度手紙を交わしあっていた。一年半。<br><br>『マンゴーをありがとう』<br>贈られた手前、お礼を言わなくてはならない。<br>そう送ると、もうすぐ彼の誕生日だったことに気付く。<br>『もうすぐお誕生日ですね。おめでとう』<br>ほどなくして返信が届く。<br>『今年も誕生日旅行に一緒に行きたかったよ。また一つ歳を重ねてしまいます。ありがとう』<br><br><br></p><p name="B5DE195C-46FD-4923-99FB-7835A30224D9" id="B5DE195C-46FD-4923-99FB-7835A30224D9">戸が開く音が聞こえ、はっとして振り返ると、彼が両手にたくさんの酒の入った袋を下げ、こちらに向かってくる。<br>ビニール袋から彼の常飲酒と私の常飲酒が大量に見える。<br>「待って、それを全部飲むつもり？」<br>「飲むだろう？」<br>「冗談でしょう？」<br>彼は笑った。<br>「あなたも最後には飲み干すに決まってる。足りなくなるよ」<br>はたしてそれは本当だった。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n1726f15c010b'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 08 Sep 2025 03:04:18 +0900</pubDate>
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      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから 14</title>
      <description><![CDATA[<p name="bcd95f01-461c-4a5d-945f-cdca6e570ac9" id="bcd95f01-461c-4a5d-945f-cdca6e570ac9">　萌黄ちゃんと慎一郎さんは、横浜までパンケーキを食べにいくのだという。パンケーキかあ……と私がぼんやり言うと、萌黄ちゃんが白地にうすいピンクのピンストライプの涼しげなワンピースに合わせるヒールを選びながら、「リコッタパンケーキだよ！」と訂正してくる。ブランチが有名なそのお店は、世界一の朝食を出すと名高いお店らしい。朝ごはんなんてほとんど食べないのにね、と私は心の中で呟く。<br>　萌黄ちゃんは大きな姿見の前で今日のコーディネートのファイナルチェックをして、「やっぱりこれもかぶってこーっと」と言いながら縁がゆるやかに下がるエレガントな形のハットを頭に載せて、「完璧！」とくるりと回ってびしっとポーズを決めた。<br>「おみやげ楽しみにしててねー♡」と投げキッスをしながら萌黄ちゃんは慌ただしく家を出ていって、後にぽつんと残された私は、今日なにしよ、ネトフリに面白そうなやつあったっけ、とソファにごろりと寝っ転がってスマホをスクロールする。<br>　結局インスタを見て時間が溶けて、あーもう、と反動を付けて起き上がり、私もアボカドトースト作ろ、とレシピを探し始めた。冷蔵庫の中のアボカドはしわしわになっていて、食べられないということはないだろうけど、世界一というほどの見栄えにはならないだろう。なんとなく白けた気分になったが、もう自己流でいいや、と玉ねぎとトマトとコリアンダーをだだだだだだと猛然と微塵切りしていく。いつだか、「料理してると、無心になって頭の中のもやもやも忘れられる気がしない？」と言ったら、「えー、全然わかんない」と萌黄ちゃんに返されたのを思い出した。<br>　アボカドをスプーンの背で潰して、ライムを親の仇を取るようにぎゅうううと絞り、塩をパッパして手早く全部を混ぜていく。「海外ドラマでポテチ入れて食べるボウルじゃん！」と二人で盛り上がって買った赤いばかでかいボウルに、トルティーヤチップスをがさがさ入れて、その色違いで大小買った青・黄色・オレンジ・緑の中から青色を選んで、できあがったワカモレを盛り付け、「りえ特製ワカモレチップスお待ち〜ぃ」と、カウンターにサーブして、誰にともなくギャルピ。アボカドトーストからワカモレに大変化。<br>　さみしー、と思いながらぐるりと辺りを見回すと二人の思い出が詰まったものばかりでこの部屋が構成されていることに気付く。このボウルたちだけじゃなく、冷蔵庫も二人で家電ショップを回りながらああでもないこうでもない言いながら選んだものだし、そこに貼ってあるマグネットは二人で旅行に行くたびに記念に買う各地のマグネットがたくさん、ダイニングテーブルは二人でIKEAで買って明らかに説明が足りないトリセツをパスしあいながら苦労して組み立てたものだし、ソファは萌黄ちゃんがずっと夢見てきてストリッパーとしての周年記念でご褒美としてついに買ったリーンロゼ、観葉植物は二人それぞれが思い立った時に「家族が増えたよ〜」と連れ帰ってきたかわいこちゃんたちがたくさん、二人で作りに行った天然石入りのキャンドルや、萌黄ちゃんが無心モードに入る時にいつも作るビーズのアクセがボックスの中に大量にじゃらじゃらしていたり、その他にも無数のものにさまざま二人の思い出が詰まっている。<br>　自分の本棚に置かれているクロエの香水に目が留まった。これは、私がギャルを始めようとして試行錯誤している時に貯めたお小遣いをはたいて頑張って買ったもので、なんとなくあの頃の記憶を思い出すと、名残惜しくて捨てられなかったのだ。<br>　引っ越しの日、萌黄ちゃんがこのクロエの香水を私の荷物の中から見つけて、「懐かしい」と言った。<br>「これ、ママも使ってた。うちもこの匂いすき。だけど、使うとママのこと思い出しちゃうから、なんか使えなかった」<br>　使ってもいい？　と尋ねてくるので、いいよと答えると、ベイビーピンクのリボンのついた香水を、首元にぷしゅっと吹きかけて、「あはは！　そうそう、この匂い」と笑った。<br>「ママがね」萌黄ちゃんは不意に俯いて話し出した。<br>「ママが、明け方に店を閉めて帰ってきて、そのままうちの部屋に入ってくるの。それで、うちの顔を見ながら、お祈りをするの。うちの布団の横で、膝をついて、手を組んで。それからうちの顔にキスして、それから毎晩眠ってた」<br><br>　なんとなく私は寂しくなって、「パンケーキおいしかった？」と萌黄ちゃんにLINEする。返信は、萌黄ちゃんが「今から帰るよ〜！」と電車の中から送ってくるまでしばらく返ってこなかった。</p><p name="e4d03cbd-feba-4ba1-a2a0-f938384c5c2f" id="e4d03cbd-feba-4ba1-a2a0-f938384c5c2f"><br>「それでね！　リコッタパンケーキとアボカドトーストシェアして、なんかもうちょっと食べたいかもってなってスクランブルエッグも追加して、おなかいっぱいになったから周りお散歩して。横浜って久しぶりに行ったけど綺麗だね！　海のそばをずーっと歩いていける公園があるんだよ。それで慎一郎さんがミニブーケも持ってきてくれて、ねえブーケ入れる専用のバッグがあるって知ってた！？　めちゃくちゃかわいいの、これも遅くなっちゃったけど慎一郎さんが誕生日プレゼントにってくれて、もうハッピーすぎる一日だったよ！　次はディナーの約束もしちゃったよ〜、もうどうしよ！　マジでドキドキする！」<br>　ワカモレチップスを調子に乗って食べすぎて若干気持ち悪くなった私は、ソファに横たわりながらぼんやり萌黄ちゃんがはしゃいでいる声を聞いていた。よかったねえと返事して、おなかをさすりながら早速ダイニングの花瓶に活けられたミニブーケに視線をやる。うすい水色が爽やかなそのミニブーケは、二人の爽やかなデートの素晴らしい出だしを表しているようだった。<br>「このまま付き合えちゃったりして〜」萌黄ちゃんがニチャ笑顔を浮かべながら冷蔵庫からワインを持ってきて、キュポン！と栓を抜いて、「お祝いだー！」と景気よくグラスに注いでいく。<br>「あー、私の分はいいよ、ちょっと食べすぎちゃって気持ち悪い」<br>「まじ！？　ベスティーのグッドニュースをお祝いしてくれないのかー」そう言う萌黄ちゃんは全然残念そうではなく、白ワインにミントを沈めてオレンジジュースで割って氷を浮かべると、ごきゅごきゅと喉を鳴らしながら飲み干していった。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n3cf9161712af'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 31 Aug 2025 09:38:00 +0900</pubDate>
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      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから 13</title>
      <description><![CDATA[<p name="1a1ff0d9-24a5-4c09-a4c1-47d3bccc956f" id="1a1ff0d9-24a5-4c09-a4c1-47d3bccc956f">　思うように踊れなくなりほとほと困り果てていた頃、萌黄ちゃんはありとあらゆるカルチャーを吸い、自分を取り戻そうとがむしゃらに動き始めていた。瀬名さんに連れられて過激なBDSMショーに行ったり、一ヶ月間尼寺に修行しに行ったり、ピースボートに乗って世界一周に行ったし、どこかよくわからない日本各地の山奥で開催されているレイヴに行くことはしょっちゅうだった。中でもとりわけ萌黄ちゃんの心に響いたのが他でもない、ストリップショーだったらしい。<br>　私は、これで自分の身体が欲望されることをようやく受け入れられるかもしれない。萌黄ちゃんは自分が主体的に客の前で脱ぐということに突破口を見出して、その扉を叩いた。元ダンサーということもあり、ストリップ嬢としての素質は大いにあった。萌黄ちゃん自身も脱いで自分の身体を見せること自体に躊躇いはなく、情熱的に踊り脱ぐことを楽しんでいた。外国ルーツという目新しさもあり、あれよあれよと萌黄ちゃんは看板ストリップ嬢としてのステップを駆け上がり始めた。<br>　今では劇場に必要不可欠なメンバーとして受け入れられていることを考えると、萌黄ちゃんがようやく自分が自分でいられる場所を見つけられたことを、内心心配はしながらも、ほんとうに良かったと思う。</p><p name="08c53d89-e389-45a5-a12e-c1c5b1e66789" id="08c53d89-e389-45a5-a12e-c1c5b1e66789"><br></p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n6d8a23d4ab61'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 08 Jun 2025 11:28:50 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/arsenic/n/n6d8a23d4ab61</link>
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      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから 12</title>
      <description><![CDATA[<p name="77b7e833-4cc1-4e50-8320-d26fdfac9b6b" id="77b7e833-4cc1-4e50-8320-d26fdfac9b6b">　私とギャルの出会いは中3だった。その頃私は親に言われるままに進学校に入るために猛勉強していて、それなりになんでもできて模試でも合格圏内に普通に入って、でもこれって何のためにやってんだっけと自分の存在意義とか行動の意味とかが何もわからなくなっていた。<br>　ある日、私はいつものように夜10時まで塾で勉強してきた帰り、いつもと違う繁華街を通って帰ろうと思い立った。何より暇で退屈だった。日常に飽き飽きしていたから、少しの刺激が欲しかったのだ。繁華街に夜中に近付くことは固く禁止されていたから、それが初めての私の親への反抗だった。<br>　初めて行く原宿は、なんかもうすごかった。あの時の感情は言語化できない。それだけの衝撃だった。いろんな人がいる。今まで見たことのないような色とりどりで様々なデザインの服。みんながなんだか浮かれていた。<br>　人生、楽しんでるんだろうなと思った。自分のしたいこと、できてるんだろうな。私のしたいことって結局、なんだったんだろう？<br>　私は初めての原宿に少し疲れて、コンビニに入ってポカリと見たことないグミを買った。そもそもお小遣いも微々たるものだったし、元々このお小遣いは頑張ったご褒美の漫画を買うためにもらったもので、あまり無駄遣いはできなかった。でも、無駄遣いがなんなんだろう、たまにしょうもないけどきらきらしたものにお金を使うくらい、悪いことじゃないんじゃないかとも思っていた。<br><br>　ドンキに行こう。私は顔を上げて、お母さんが心の底からその存在を嫌っているドンキに入ることを決めた。お母さんは休みの日は蚤の市とかファーマーズマーケットとかに行く。そしてその極北にあるようなドンキが視界に入るだけで嫌な顔をする。なにしろドンキのビニール袋が目に入っただけで目を背けるのだ。<br>　でも、私は同い年くらいの女の子たちがドンキに行くことを知っていた。そこでかわいいキャラもののグッズとか、コスメとかを買うのだと。よし、行ってみよう。<br>　私は初めて、安いつけまつ毛を買った。買って帰ってから、つけまつ毛には専用ののりがいるのだということも初めて知った。コスメ売り場にいたギャルたちはわいわいしていて、どのコスメにするかああでもないこうでもないと真剣に、でもこの上なく楽しそうにしていた。<br>　試行錯誤して付けたつけまで、目が一気に大きくなり、音を立てるくらいまつ毛が強調されるのは楽しかった。私もあんな風になりたい。あんな女の子たちみたいになりたい。私は塾終わりにドンキ通いを続け、少しずつコスメを買い揃えた。ギャル雑誌も買った。擦り切れるくらい読み込んで、なんとかメイクの仕方を習得して、初めて自分に施したフルメイクは、自分を高揚させるのにこれ以上のものはないと思えた。<br>　そして、私は高校に落ちた。結局すべり止めの一個下のランクの高校に入った。お母さんは落胆していた。お父さんは最初からそんなのどうでもよさそうだった。私は次は服を買いたいと考えていた。うちの家族はみんな初めからバラバラだったのだ。<br></p><p name="e7367cdf-6eb9-433d-a6e5-201724815a86" id="e7367cdf-6eb9-433d-a6e5-201724815a86">　ギャルっていうのは武装であり美学だ。自分の思う一番のかわいいと派手を掛け合わせて、毎日自分の最高を模索しながら、その最高を更新し続ける達成感で自分の心が強くなれる。<br>　大人になって全盛期のギャルファッションからは足が離れたけど、それでもギャルマインドが自分にインストールされてるから、私は自分のことを好きでいられるし、最高だと思い込むことができる。気持ちを強く持っているために、ギャルでいることは私に必要だったし、あの日ギャルに出会ったことは必然だったのだ。<br>　ギャルになったことで出会いの幅は格段に広くなったし、行ったことのない場所もたくさん出入りするようになり、私の脳内で広がる勉強の知識だけで前が見えない鬱蒼とした森が、世界として開けて、見えている景色は鮮やかになった。あの時から、私の人生が楽しくなったのだと胸を張って言える。<br>　ギャルは死なない。私の中のギャルは、一生死ぬことがない。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n1972b45feb52'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 07 Jun 2025 20:27:54 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/arsenic/n/n1972b45feb52</link>
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    <item>
      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから 11</title>
      <description><![CDATA[<p name="129fd709-ba74-4d6c-b843-166de30c2995" id="129fd709-ba74-4d6c-b843-166de30c2995">　オーロラ色に光るピタピタのボディスーツ、上から下までタトゥーまみれの身体、蛍光グリーンのバズカット、レーザーライトが当たるたびに歯にきらめくトゥースジェム。瀬名さんはDJをしながら絶好調で身体を揺らしている。<br>「ブチ上げろーーーーーーーーーーー！！！」<br>　瀬名さんのハスキーな煽りに、私たちの盛り上がりは最高潮になって、耐えきれないというように悲鳴のような歓声を上げる。周りには気を許せる楽しい仲間たちだけ。このまま一生踊っていたいのに、これが年に一回のパーティーなんて信じられない。<br>「萌黄、ハッピーバースデー！！！」<br>　場にいる全員が、12時になった瞬間グラスをぶつけ合わせる。<br>「今日も最高だよ瀬名！！」萌黄ちゃんはパーティー仕様のベイビーブルーのウィッグを被った頭をぶん回す。<br>「まじでありがとう、みんな大好き！！」<br>　萌黄ちゃんの絶叫に、みんなは一際大きな歓声を上げる。ここにいるみんなが萌黄ちゃんを祝福するためだけの日。そんな夜は、踊り明かすしか選択肢はない。<br>　DJが終わって、瀬名さんは次のチル系のDJにバトンタッチすると、私たちのいるフロアに降りてきた。<br>「萌黄ー！」<br>　萌黄ちゃんと瀬名さんはビッグハグを交わす。<br>「んもー、今日も最高の女だね」<br>「瀬名〜」二人は存分にいちゃついてから、うちらってなんで別れたんだっけまじで？　と爆笑し合って頬にキスしあう。<br>「瀬名ってほんとにボディスーツ似合う。毎日着なよ」<br>「胸取ってるおかげさま、オツカレサマ〜」<br>「まじノンバイナリーDIVAすぎ。勝てない！！！」<br>「ま、うちに勝てる女なんてママしかいねーから」瀬名さんはチュッと投げキスを私に投げる。<br>「梨枝ならいつでも付き合うから、うちがフリーの間に早く声かけろよ♡」<br>「瀬名さんフリーの時なくね？　爆笑」<br>「ほんとは誰のもんにもなりたくないけど、引くて数多で困っちゃう♡」軽口を叩きながら、瀬名さんが萌黄ちゃんにすり寄る。<br>「もー、なんでレンなんかと付き合っちゃうかな？　あたしにしとけば毎晩月までぶっ飛ばしてあげたのに」<br>「もーまじそれなー。でも瀬名のことはうち、遠くからずっと崇拝してたいの。瀬名はうちのバッド・アス・ゴッデスだから」<br>「仰せのままに、クイーン」<br>瀬名さんはもう一度萌黄ちゃんの頬にキスする。<br>「名残惜しいけどもう行くよ。ずっと一緒にいたらどうにかなっちゃう」<br>「愛してるよ瀬名」と萌黄ちゃんは楽しそうに笑った。<br>「ハッピーバースデイ萌黄。愛してるよ」瀬名さんは萌黄ちゃんにプレゼントを渡して、現パートナーのサラと腕を組んで帰っていった。<br>ひとりまたひとりと萌黄に声をかけて帰っていき、私たちもそろそろ、という話になる。もうじき3時になろうとしていた。<br>「まだチェリービーク開いてるから最後に行こっか」<br>「最後はあそこじゃないと締まんないよね」<br>「お花も見たいしね！」萌黄ちゃんがいたずらっぽく笑いながらリップを塗り直す。</p><p name="0a2da0c1-f82c-48b4-a4b3-4138b80f8883" id="0a2da0c1-f82c-48b4-a4b3-4138b80f8883"><br></p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/nbdb6e74a22e1'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 06 Jun 2025 10:42:24 +0900</pubDate>
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    <item>
      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから ⑩</title>
      <description><![CDATA[<p name="0ca7688e-1530-4ddb-8cdc-719f610c18dd" id="0ca7688e-1530-4ddb-8cdc-719f610c18dd">　久しぶりにアラブから連絡が来たのは最後に会ってから四ヶ月経ってからのことだった。<br>　私たちと会っていないあいだ、どうやらアラブは人付き合いのリハビリをしていたらしい。一人でもさまざまな人と話せるように、老若男女問わず、飲み屋で、病院で、バス停で、まあ主に飲み屋だが、機会があればさりげなく話しかけ、話しかられたら感じよく応じて、会話をしようと試みたのだと言った。<br>「いつの間にそんなことできるようになってたわけ〜！？」<br>「DISCORDって知ってます？」<br>「なにそれ」<br>「SNSのひとつなんですけど、自分の好きなサーバー作れて、趣味とか話題が合う人と繋がれるんですよ。それでそこでチャットしたり」<br>「へえ〜、面白い？」<br>「人と話すハードル低くなった感じで、結構楽しいっす。それで、そこで仲良くなった人とオフ会したりとか。自分の好きなアニメとかマンガの話気軽にできて、それ以外の話題は特に話さなくてもいいから、無理しなくていいのが自分に合ってて。たくさん話してたら、次第に生身の人とも会話できるようになってました」<br>「アラブすごくない？　自分で行動起こしてるじゃん」<br>「もううちらいらなくない！？」<br>　私たちが感心しながらアラブを褒めていると、アラブの身体つきが少し逞しくなっていることに気が付いた。それに、今日はいつものようにはあまり酒を飲んでいない。<br>「てか、今日あんま飲んでないね？」<br>「あ、健康管理するようになったんす」<br>「健康管理〜！？」私と萌黄ちゃんは驚きすぎて絶叫し、萌黄ちゃんは椅子から転げ落ちそうになって慌てて机を掴んだ。<br>「一体どうしちゃったわけアラブ、もう前とは全然違う人じゃん」<br>「ほんとだよ。すごすぎる」<br>「へへ。今筋トレもしてるんすよ。夜ちゃんと眠って朝も起きれるようになりました」<br>　私と萌黄ちゃんは顔を見合わせた。私たちよりちゃんとしてないか？<br>「おれ、梨枝さんと萌黄さんと仲良くなって、よかったです。昔だったら全然違うタイプの人たちだから、絶対近付こうなんて思わなかった。一生仲良くなれないタイプだと思ってたけど、それって自分の出会いも視野も狭めてて。今はいろんな人と話してみたいなと思ってこうして会ったり話したりしてるけど、それも全部の始まりはりえもえさんたちです。ほんと感謝してるっす。あの時、無視しないで付き合ってくれて、ありがとうございます」アラブは私たちに、深々とお辞儀をした。<br>「アラブ……」<br>　萌黄ちゃんが、感じ入ったように胸に手を当てて、ソー・スウィートだよ、と溜息混じりに呟いた。<br>「そんなの、うちらだってありがとうだよ」<br>「よし、今日はうちらの奢りだ！　アラブがステップアップした記念ってことで」<br>「よっしゃ、なんでも食って飲め」<br>　やった〜、とアラブがガッツポーズし、じゃあ一杯だけ、と生を注文した。<br>「それで……相談したいことがあって。実は、好きなアニメで繋がった女の子と、今いい感じなんす」<br>「ちょ、聞いてないけど！？」<br>　アラブは照れた様子で鼻をかく。<br>「その子は、自分はアニメが大好きなんだけど、リアルではそれを隠してるらしくて。でも、初めてこうやってアニメ好きな人と盛り上がれて楽しすぎるって無邪気に話してて、顔も見たことないけど、いい子なんです。今度Zoom飲みしようよって話になってて」<br>「やばいテンション上がってきた」<br>「それで……おれ、あの……」<br>「うんうん」<br>「童貞なんです」<br>　萌黄ちゃんはそんな話かよ！！　せっかくテンション上がってたのに、と煙草を取り出して口に咥えた。<br>「まだZoom飲みの時点で気にすることじゃないでしょ」<br>「いや、でも……多分おれが相談したいのは今想像されてるようなことじゃないですよ」<br>「んん？」<br>「おれ、セックスが怖いんです。ムラムラしてる時って、グワってなって自分が飲み込まれて他に何も考えられなくなるんですよ。オナニーだったらいいんだけど、セックスになったらセーブが効かなくなりそうで、怖いんです」<br>　口をキュッと一瞬強く閉じてから、萌黄ちゃんは煙草を強く灰皿に押し付けて消した。<br>「それに自覚的なら、きっと自分を抑えることもできる。いつも相手の反応を見ていて。自分がすることに嫌じゃないか女の子に確認して。相手の嫌と言うことは絶対にしないで。それだけできたら、きっと大丈夫だから」萌黄ちゃんは下を向きながら言った。<br>「……うん、わかりました」<br>「とにかく、初めての対面のお喋り楽しんでね！」萌黄ちゃんはパッと笑顔を作ると、アラブに自分のバッグからボロボロのお守りを取り出した。<br>「これ、ちょっと汚いんだけど、うまくいくように。かなり、効果あるから。なんて言っても私の念が込められてるからね」<br>「なんすかこれ？」アラブはそれをつまみ上げて笑った。<br>「ありがとう、萌黄さん」<br></p><p name="0cd9ab59-9c2b-47b6-9038-319ef9a81b68" id="0cd9ab59-9c2b-47b6-9038-319ef9a81b68"><br></p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n2464013ded33'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 04 Jun 2025 09:59:47 +0900</pubDate>
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    </item>
    <item>
      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから ⑨</title>
      <description><![CDATA[<p name="067dfacd-8440-4014-84eb-af497e576a17" id="067dfacd-8440-4014-84eb-af497e576a17">⚠️注意⚠️<br>この作品には、一部性暴力の描写が含まれています。 筆者はそれらの行為を断固として許しませんが、ストーリー上でやむを得ず描写がなされています。<br>読者が注意喚起なしのそういった表現によって不意に傷を受けることは、私が最も望まないことです。<br>不快感や不安を感じる方は、無理をなさらず、ご自身と相談のうえ、お読みください。<br></p><p name="370dce11-4a1b-4642-9e2f-128ff9c8c295" id="370dce11-4a1b-4642-9e2f-128ff9c8c295"><br></p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n6d357c928762'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 04 Jun 2025 02:34:28 +0900</pubDate>
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    </item>
    <item>
      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから ⑧</title>
      <description><![CDATA[<p name="bafc4718-a3ee-4b3d-aab3-e13b7ec9acec" id="bafc4718-a3ee-4b3d-aab3-e13b7ec9acec">　ビームみたいな無数の照明が、まっすぐフロアに伸びて私たちの目を焼く。その日のDJのミックスは最高で、私はフロアで踊り狂っていたけど、一緒に来ていた友達とはぐれてしまっていた。<br>　困ったな、と思ってLINEで『どこにいる？』と友達に送った瞬間、『りえごめん、今日一人で帰しちゃうかも。超タイプのイケメンに声掛けられた』と返ってきて、なるほどね、と全てを理解する。<br>『了解』と短く返して、ちょっと気分が落ち込み、私はフロアから少し離れてドリンクを取りに行く。<br>「テキーラひとつ」とバーテンダーの人に言うと、ほんとにひとつ？　と聞き返しながら、即座にテキーラがやってきて、私はそれを煽る。ライムをきゅっと齧ると目の奥に光が瞬いて、思考が曖昧になる。<br>「やっぱりもう一杯」と頼んで、二杯目も煽ると、もう全てがどうでもよくなっていた。<br>　身体に重たく響くベースに合わせて身体を揺らしていると、男が近付いてくる。<br>「ひとり？」<br>　今日は私もいっちゃうかー、とぼんやり男を見るが、なんだかあまり顔がわからない。<br>「んー」と顔をもっとよく見ようとして身体を近付ける。男の手が近付いてきて、私のテキーラで濡れた唇に触れてくる。飲んでたの？　と男が笑って、腰に手を回そうとしてくる。<br>「あ！　ねえここにいたのー？」<br>　突然声をかけられて、ぐい、と有無を言わせぬ感じで腕を取って引っ張られる。振り向くと、瞼がラメでキラキラで、見たことないくらいかわいくて、パーフェクトな女の子の顔がすぐ近くにあった。<br>「いこっ」<br>「……うん」<br>　男は残念そうな顔をして萌黄ちゃんと私を交互に見て、後ろから近付いてきたもう一人の男に気が付くと、そそくさとその場から離れた。<br>「萌黄、どこ行ってたんだよ」<br>「あ、レン。あのさ、ちょっとこの子送ってきていい？　エマージェンシー」<br>「ふーん。オッケー。おれも一緒に行こうか？」<br>「大丈夫だよ！　友達まだフロアにいるでしょ」<br>　レンと呼ばれた男が頷いて、その女の子のふわふわ揺れる髪を軽く撫でて、じゃ、と私に言ってからフロアに帰っていった。<br>「……大丈夫だったのに」<br>「とりあえず外出ない？　うちも風当たりたくてさ」</p><p name="c14fd4b1-f1d1-4a4b-bb74-7a259090a151" id="c14fd4b1-f1d1-4a4b-bb74-7a259090a151"><br></p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n3e9826fa9f33'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 04 Jun 2025 01:41:25 +0900</pubDate>
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    </item>
    <item>
      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから ⑦</title>
      <description><![CDATA[<p name="43cc5e73-6ff8-45e5-9e1a-e7d34e260650" id="43cc5e73-6ff8-45e5-9e1a-e7d34e260650">　待ちに待った休みの日がやっと来たことが嬉しくてたまらない様子で、何着ていこっかなーと萌黄ちゃんはクローゼットをひっくり返している。<br>　萌黄ちゃんはとにかく衣装持ちで、でもさ、一緒に共用して着れるし、全然いいよね！　と増え続ける衣装をそのままに、楽しそうにまた服を買う。<br>「こんなに服があるのにさ、なんで今日着ていく服がないわけ？」萌黄ちゃんは衣装の山に埋もれながら、ほとほと困り果てた様子で煙草をふかした。<br>「ねえ、やっぱり今日、私も一緒に行っていい？　仕事の後」<br>　え、と逡巡する素振りを見せてから、うーんと萌黄ちゃんは頭を掻いた。<br>「花屋さんに会うの初めてだしね、梨枝も一緒に来てくれたら心強いかも」<br>　そう言う萌黄ちゃんが、ほんとうは一人で行きたかったことを私はよくわかっている。でも、と私は思う。ごめんね萌黄ちゃん、私はちゃんとその人のことを見極めなきゃいけないんだよ。大丈夫な人か、安全な人か、萌黄ちゃんを大事にしてくれる人か、自分の目で確かめるまで安心できないんだよ。<br>「じゃあ、一緒に来る人特典として、今日着ていく服一緒に選んで」<br>　いいよーと衣装の山の中の萌黄ちゃんを引っ張り出して、一枚一枚吟味していく。今日は半休を取っているから、たっぷり一緒に服を選んであげる時間がある。</p><p name="d1a28de1-e9d9-4338-aff9-c6176e14cc30" id="d1a28de1-e9d9-4338-aff9-c6176e14cc30"><br></p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n83b256f07a16'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 04 Jun 2025 01:33:44 +0900</pubDate>
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    </item>
    <item>
      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから ⑥</title>
      <description><![CDATA[<p name="abf320b0-a5e5-4286-b89b-a1981a04fbf6" id="abf320b0-a5e5-4286-b89b-a1981a04fbf6">　萌黄ちゃんが次のステージで着る衣装の最後のフィッティングをしている。緑色のスパンコールで彩られたその衣装は、萌黄ちゃんのモカ色の肌によく映えて、ほんとうに、ほんとうに綺麗だった。<br>「どうかな？」と萌黄ちゃんが私に聞くので、最高だよ！！！！！　と私は激しく頷いた。<br>　よかったあ、と微笑んでから一転、萌黄ちゃんはニヤッと笑って、かけている音楽に合わせて鮮やかなトゥワークを見せつける。<br>“Yaaaaas, queen!!!” と私が咆哮して、萌黄ちゃんは私の声援に応えるように、踊り狂った。あんたは最高だよ。いつもそう思ってるよ。<br></p><p name="33755e46-f6d3-4794-a18c-e7770b3f8140" id="33755e46-f6d3-4794-a18c-e7770b3f8140"><br></p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/nb623718e63cd'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 03 Jun 2025 21:10:43 +0900</pubDate>
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    <item>
      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから ⑤</title>
      <description><![CDATA[<p name="7a9e9806-72a3-49e2-89f4-955819a5a55f" id="7a9e9806-72a3-49e2-89f4-955819a5a55f">「ねえねえ、そういえばさ」<br>　家に帰り着いた私たちはまだ飲み足りず、秘蔵のワインとチーズを開けて晩酌していた。<br>「おん」<br>「萌黄ちゃん、あの花屋の人と気が合いそうって話してたじゃん。バー行った時に、会ったよ。その人と」<br>「え！」<br>　チベスナ顔からぱっと明るい顔になって、どんな人だったの？　と興味津々で萌黄ちゃんが聞く。<br>「んー、静かだけど、穏やかそうな感じの男の人だったよ。店にいる時に、その人がお花置きに来てたの」<br>「そうだったんだ。梨枝の選んでくれたお花、素敵だったよね。話してみたいなー」<br>　萌黄ちゃんは知りたい知りたいの顔になって、今度休みの日に早い時間に行ったら会えるかな、とそわそわしていた。<br>「開店直後くらいにいつも来るって言ってたから、また会えるかもよ」<br>「へへ、会えるかなあ」<br>「でもそのニチャ笑顔は封印したほうがいいよ」<br>「やべ、出てた？」萌黄ちゃんは口を閉じてわざと顰め面をする。<br>「はーあ、なんか今日は二人とも疲労困憊ちゃんだよねー。早めに寝る？」<br>「そーしよっかー」<br>　私と萌黄ちゃんはおやすみーと言い合って、やっぱり最後まで萌黄ちゃんはニヤニヤしていた。</p><p name="fd2fe1af-0afa-4759-a923-615cc72e0b9a" id="fd2fe1af-0afa-4759-a923-615cc72e0b9a"><br></p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/nf4bc0297ab49'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 03 Jun 2025 20:52:52 +0900</pubDate>
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      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから ④</title>
      <description><![CDATA[<p name="6b98cbe6-c610-4456-8d39-9aed55ccf13f" id="6b98cbe6-c610-4456-8d39-9aed55ccf13f">　久しぶりに一人で飲みに行きたいなと思った。萌黄ちゃんは生理で、『今日は一日死んでるからよろおね』とLINEが来ていたので、ベッドルームに大好物のホットシナモンティーとガルボと湯たんぽを差し入れたら泣きながら喜んでいて、さすがに大げさだろと思ったけど悪い気はしなかった。<br>　一人だと暇なので、今日飲みに行ってきていいー？　と声をかけると、もちろんだよーと声が返ってくる。<br>「あ、まって！」と萌黄ちゃんがベッドから出てきて、ぎゅむ、と私をハグした。<br>「気をつけてねん♫　あ、リップ塗り忘れてるよ」と言い残して布団の国に帰っていった。女友達はまじで助かる。<br></p><p name="dbb2f00a-7da0-4e72-8f51-87dc10afd856" id="dbb2f00a-7da0-4e72-8f51-87dc10afd856"><br>　萌黄ちゃんの行きつけのショットバーは、私もたまに行く店で、いつも萌黄ちゃんの好きな曲がかかっている。<br>　開店直後に入って、馴染みの仲良しのバーテンダーと軽口を叩きながらコスモポリタンを飲んでいると、背の高い男がのっそりと扉を開けて入ってきて、バーテンダーに「今からいい？」と声をかける。<br>「もちろん！　いつもありがとねー、よろしく」とニコニコしながら応えるのを聞いて、男はまた扉を閉めて引っ込んだ。<br>　しばらくしてから、男が色とりどりのさまざまなブーケが入ったバケツを抱えて入ってきた。<br>　バーの一角の無人花屋のスペースに一つずつブーケを並べた後、缶の中のお金を回収し、私のほうにぺこっとお辞儀をして、去っていった。<br>「ねえねえ、今のって」<br>「会ったことなかったっけ？　いつもうちに花置いてくれてる慎一郎さんだよ」<br>「うわー！　そっか、あの人のお花だったんだ」<br>「萌黄にお花買っていってあげたら？」<br>　ニヤッとバーテンダーが笑って、そうする！　と私はブーケたちのほうに駆け寄り、どれにしようかなあとしきりに悩む。<br>「これどうかな？」<br>「いいじゃーん」<br>　それは私の好きなカラーと、萌黄ちゃんが好きなラナンキュラスを中心にしたアレンジメントで、きっと萌黄ちゃんも好きだろうと思った。缶にお金を入れながら、ありがと、と心の中で花屋さんに呟き、私はうきうきしながら家路を急ぐ。</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/nb891f07bc948'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 02 Jun 2025 21:38:40 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/arsenic/n/nb891f07bc948</link>
      <guid>https://note.com/arsenic/n/nb891f07bc948</guid>
    </item>
    <item>
      <title>萌黄ちゃんの尻は軽いから ③</title>
      <description><![CDATA[<p name="067dfacd-8440-4014-84eb-af497e576a17" id="067dfacd-8440-4014-84eb-af497e576a17">⚠️注意⚠️<br>この作品には、一部登場人物が暴力を受けたと想起させる描写が含まれています。 筆者はそれらの行為を断固として許しませんが、ストーリー上でやむを得ず描写がなされています。<br>読者が注意喚起なしのそういった表現によって不意に傷を受けることは、私が最も望まないことです。<br>不快感や不安を感じる方は、無理をなさらず、ご自身と相談のうえ、お読みください。<br><br></p><p name="370dce11-4a1b-4642-9e2f-128ff9c8c295" id="370dce11-4a1b-4642-9e2f-128ff9c8c295"><br>***</p><br/><a href='https://note.com/arsenic/n/n3ea12231a8a8'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2131586/profile_ae8c073f33717eede53618fb90301ec9.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName>日曜</note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 02 Jun 2025 21:30:58 +0900</pubDate>
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