
私の職歴日記|ガスの検針は一人で気楽に働くはずが、毎日がサバイバルだった
コールセンターは最高の職場だった。
毎日笑って、毎日忙しくて、最高の仲間がいた。
でも、人生は「楽しい」だけでは進まない。
子どもが大きくなるにつれて、部活動、習い事、食費…。
「あれ?子どもって、成長すると出費額も一緒に成長するんだ。」
そんな現実を前に、私は転職を考え始めた。
その時、ママ友が言った。
「ガスの検針、やってみない?」
決められた日に決められた家を回るだけ。
休みも多いし、歩くから健康的。
頑張れば給料も増える。
……そんな、うまい話ある?
実際に面接へ行くと、
ほぼ採用が決まっているような雰囲気だった。
担当エリアのシフト表を渡される。
「あなたの担当はこれです。」
とシフト表を渡される。
私は思わず二度見した。
「えっ……出勤日数、これだけですか?」
さらに給料も前職とほぼ変わらない。
「本当に?」
思わず二回確認した。
世の中って、こんな仕事もあるんだ。
そう思った。
……甘かった。
最初に渡されたのは、地図。
「3か月もやれば覚えるから。」
先輩たちは笑って言う。
いやいや。
途中で右か左か、迷いまくるんですが。
気づけば私は、地図をぐるぐる回しながら
立ち尽くしていた。
でも、不思議なことに、本当に3か月で覚えた。
先輩たちが言っていたことは正しかった。
慣れてくると、あっという間にその日の仕事が終わり、午後は自宅でのんびり。
午前中ウォーキングに行ってきた、
みたいな感覚だった。
しかし、ラクなことばかりではない、
新人検針員への最初の刺客。
それは犬である。
一軒目。
「ウーー…ワンワンワン!」
歯を剥き出しにして、今にも飛びかかってきそうな感じ。
すると、隣の家からも
「ウーー ワンワンワン!」
さらにあっちの方でも、
「ワンワンワン!」
絶対に情報共有してる。
「怪しいやつ来たぞー!」
「今そっち向かったぞー!」
町内の犬ネットワーク、おそるべし。
慣れてくると、
「ここまでは吠えない。」
「ここから先は危険。」
犬のテリトリーが分かるようになった。
でも、本当に怖かったのは犬じゃない。
蜂だった。
ある日突然、
「ブーーーン。」
嫌な音がした。
見上げると、蜂。
しかも一匹じゃない。
「……終わった。」
人生で初めて、本気でそう思った。
幸いなんとか無事に逃げ切れたけれど、
それ以来、小さな蜂の巣でも敏感になった。
見つけたらお客様に報告。
会社へ連絡。
すると現れる。
自称・ハニーハンター。
蜂の巣ジェット片手に現場へ向かい、
駆除してくれる。
なんとも頼もしい。
そして、恐怖の夏。
これが本当に地獄だった。
炎天下を歩き続ける。
配布するチラシは尋常じゃない重さ。
そこへ飲み物も追加。
身長2センチくらい縮んだんじゃないか。
肩ちぎれる…
「まぁ、大丈夫でしょ。」
そう思っていた新人の私は、
飲み物を持たずに仕事をして、
完全に熱中症寸前。
顔を真っ赤にして検針していると、
一軒のお宅のお客様が声をかけてくれた。
「お茶飲んで!」
氷が入った冷たいお茶だった。
一杯飲み終わると、
「もう一杯飲んでいきな。」
その言葉が、どれだけうれしかったことか。
他のお宅でも、お茶をもらったり、お菓子をいただいたり。
体力的には正直きつかった。
草をかき分けたり、
よじ登ったり、
飛び降りたり。
「検針」というより「軽いアスレチック」だった。
でも、一人で黙々と仕事ができる気楽さは、
私には合っていた。
今振り返ると、いい仕事だったなと思う。
……とはいえ。
もし今も続けていたら。
犬でも蜂でもなく、
今度は熊を警戒しながら歩くことになる。
そう考えると、
いいタイミングで卒業したのかもしれない。
私は家庭の事情で、実家へ帰ることになり、
8年続いた検針員を辞めることになる。
実はこの時ダブルワークをしていたので、
その話は次回。