
給食の時間がまだ終わらない
繰り返し試行しても同じエラーを吐き出し続けるシステムに辟易として、半ば逃げ出すように会社を後にした。
自炊する気力も湧かず、食べログを開き現在地周辺で保存している店を検索する。適当に空腹を満たせたら良いという気持ちと外食をするなら良いものを食べたいという気持ちがせめぎ合い、せめてもの気持ちで評価が⭐︎3.5以上であることを示す赤色のピンの店を順番に確認する。
その中で、現在地からほど近く、評価は高いが価格はリーズナブルなインドカレー屋を見つけたので、その店に行った。
こだわりがありますという店内に客は私一人で、店主が少しだけ中山功太に似ており、中山功太ってカレー屋やってそうだよなーとぼんやり思う。
チキンカレーを注文すると、5分程度で提供された。
たくさんの野菜が入った具沢山のチキンカレーで一瞬怯む。私は好き嫌いが多い。いや、もう過去形で「好き嫌いが多かった」と言っていいほどに克服しているのだが、昔の癖でぐぬぬという顔をしてしまう。
食べ進めると、カレーが分析され始める。「たくさんの野菜」としか認識できていなかった具が、オクラであったりナスであったりすることがわかる。そして、そのうちの一つにブロッコリーがあることにも気づく。
中盤までブロッコリーを避けて食べる。ブロッコリーは苦手だ。幼少期にブロッコリーを食べて吐いたことが2度あって、それからかなり上位で苦手だ。納豆の次ぐらいに。
店内には客一人。中山功太みたいな店主とこだわりの店内。残せないと直感する。ブロッコリーだけがポツンと残ったカレー皿を一瞥して、「なんやねんそれ」みたいな顔をされる未来が見えた。
意を決してエイヤッと食べる。
吐きそうになる。一つの情景がフラッシュバックする。
目の前には白い皿があり、その上にブロッコリーがポツンと置かれている。私はブロッコリーを見つめている。
私の机は、すでに教室の後ろ側に集められた状態で、周囲の机には椅子が乗せられている。クラスメイトは黒板を綺麗に消したり、雑巾で床を拭いたりしている。
小学生の時の私だ。
小学生の私は、給食の時間はおろか昼休みの間にもブロッコリーを食べられず、ついには掃除の時間に差し掛かっていたのだった。
よく考えればあの頃からそうだ。
あの頃から私は、嫌なことをやって昼休みに外に遊びに出るということができずに、ただ先生が「もう食べなくていいよ」と許してくれるのをジッと待ち続けていた。
ブロッコリーをパクパク食べられる人間と自分が入れ替わることや、ブロッコリーが魔法のようにポンと消えることを妄想しながら、「頑張ったけどダメでした」という顔を作って、先生を待っていた。
ブロッコリーを食べられない私が、今も心の中で座っている。
仕事をしないとお金を貰えないのだから、嫌でも仕事をさっさと済ませて楽しいことをすれば良い。
のに、仕事が嫌だ、やめたいという気持ちがずっと頭に留まったまま、休日の私までをも鬱屈とさせ、「もうやらなくていいよ」と誰かに言われるのを待ち続けている。
*
PCに向かい合ってずっと待ち続けていた。
今。
誰も「もう食べなくていいよ」と言いに来ない代わりに、給食を食べ切らないと昼休みに遊んではいけないというルールも既に存在していないことにじんわりと気付く。
誰も許しに来ないのだから、申し訳なさそうな顔をして座り続ける必要もない。
幽体離脱をするようにして、座り続ける私が二重になり、一人が笑顔で駆け出していった。
今日、私は休職した。