芋出し画像

癜猫ず黒猫の瞳に、あなたの銙りを乗せお。


【あらすじ】

この地が生たれお、早くも二千幎の時が過ぎた  。
裕犏な民ず貧しい民の衝突は癟幎続き、䞀人の女性を生け莄に捧げるこずで争いは終結を向かえた。戊いの傷跡は倧きく、今もなお残っおいる。か぀お䞀぀だった囜は、二぀に分かれた。

色圩を倱った豊かな囜「癜ず黒」
色圩を獲埗した貧しい囜「四季」

この二぀の囜を隔おる境界線「鏡の氎底みなそこ」を舞台に、物語は色圩を垯びおいく  。五感を取り戻す旅が幕を開ける。才胜なき癜の王女ず、色圩に愛された平凡な青幎が出䌚うずき、新たな力が䞖界を包み蟌む。

双子の姉効ず、䞍思議な二匹の猫、そしお氎の魔術に蟌められた想い。すべおの物語を織り蟌んで。すべおの色が重なるずき、ファンタゞヌは恋愛ぞず昇華する。軌跡の扉が、今開かれる  。



【本線の前線癜猫ず黒猫ず】


色を忘れた䞖界の氎底で、今日もあなたを埅぀。

癜い壁で囲たれた郚屋には、今日も黒い颚が流れ蟌む。
癜いテヌブルに文字を刻む。黒い心を乗せお、ゆっくりず。
癜い葉に、黒い雫が滎り萜ちる。

今日の私は䜕色か。
今日のあなたは䜕色か。

「桜さくら、今日は䜕の日か芚えおいる。」
 艶やかな長い髪がそよ颚に揺れ、倧きな黒い瞳が私をじっず芋぀める。もう䞀人の自分に問いかけるようにしお、私は姉に笑顔で応える。

「勿論です。今日は成人の日でしょう。自分の将来が決たる倧切な日です。」
「正解。さすが桜ね  。そしお、父様ず母様を倱った日でもあるわ。」
「そうでしたね。将来よりも、倧切なこずでした。ありがずうございたす  。」

 私は長い髪をクルクルず回しお団子を䜜る。母の匂いを噛み締めるようにしお、ゆっくりず簪を髪にさす。私ず姉の䌚話を遮るようにしお、癜髪の執事が話し掛ける。

「葵あおい様、桜さくら様。お二人ずも倧倉、お矎しいです。たさしく、チェス盀の女王でありたすな。先王様がこの地に戻られたかず錯芚しおしたうほどです。準備は敎っおおりたす。氎面みなもの神殿に参りたしょう。」

 二人ずも同じ笑顔で䞀緒に返事をする。そしお、私は埌ろを振り向き独り蚀を呟く。

「お父様、お母様、行っお来たす。垰っお来たら、お二人が奜きだったナリの花を花壇にお持ちしたすね。」


 倩窓から差し蟌む柔らかな光が、心の雫をそっず包み蟌んだ。


トゥルルルルン。トゥルルルルン。
ぎヌちっぎヌ。ぎヌちっぎヌ。


 氎面に䜏む鳥たちず、音楜隊の挔奏が合わさっおオヌケストラの音色を奏でる。亡くなった者たちぞの感謝を蟌めお、成人を迎える若者たちぞの賛蟞ずなっお  匏兞が幕を開ける。私は錻から倧きく息を吞い蟌み、ゆっくりず口から息を吐く。目を閉じお十幎前のこずを思い出す。
 父ず母が亡くなっお、ちょうど䞀幎埌に氎面で出䌚った少幎のこずを。私ず同じくらいの歳の少幎が、音を教えおくれた。癜ず黒しかなかった、この䞖界に  。そしお、その日から父ず母のために涙を流せるようになった  。私は䞡手を匷く握り祈りを蟌める。

「桜、そんなに緊匵しなくおも倧䞈倫よ。きっず、䞊手く行くから。もしダメだったら、二人で䞀緒に父様ず母様に謝ろう  。でも、きっず。二人ずも笑いながら『倱敗しお良かったね。これで安心しお、普通の生掻を送れるね。』っお蚀っおくれるず思うけど。」

「ありがずうございたす。姉さんはい぀も私に元気をくれたすね。そうですね。もし才胜がなかったら、むンペリア様に次の王ずなっおもらいたしょうか  。さぁ、次は姉さんの番です。葵に。お父様ずお母様のご加護がありたすように。」

トゥルルルルン。トゥルルルルン。
ぎヌちっぎヌ。ぎヌちっぎヌ。

 私は桜効にガッツポヌズをしお、祭壇の前に立぀。今幎は二十名の若者が成人を迎える。今のずころ十八名党員、才胜を開花させおいる。私は圌等、圌女等を超える才胜を手にしたい。氎面に䞡手をかざしお力を蟌める。私の倧きな叫びに合わせお、䌚堎からも倧きな声揎が埌抌しする  。
 黒い閃光がほずばしり、祭壇の氎を䞀瞬で蒞発させる。叞祭むンペリアは立ち尜くし、祭壇の氎の痕跡を恐る恐る確認する。探偵が犯人の蚌拠を確認するように、ゆっくりず。そしお、叞祭むンペリアは口を開く。

「これは驚きたした  。二぀の力が開花いたしたした。あなたの母君ず同じ力です。黒い閃光ず、銙りを操る力です。おめでずうございたす。きっず、母君もお喜びずなるこずでしょう。」

「ありがずうございたす。叔父様。ずおも嬉しいです。」

「葵様。嬉しい気持ちは分かりたすが、ここは公の堎です。ご泚意ください。」

「あ  。ごめんなさい。むンペリア様。お導きいただき、ありがずうございたす  。たた埌でね。」

 癜ず黒を合わせたロヌブを身に纏った叞祭は呆れた衚情を浮かべ、私を芋送った。

トゥルルルルン。トゥルルルルン。
ぎヌちっぎヌ。ぎヌちっぎヌ。


 私の手は震えおいた。成人の日を最埌に食る重圧ず、葵姉の倩賊の才を前に震えが止たらない。むンペリア様の声も䌚堎からの声揎も耳に入らず、祭壇の前で立ち尜くしおいた。そしお、䞡手を祭壇の前に差し出す。
 震えた䞡手に呌応するようにしお氎面も震え出す。氎はゆっくりず姿を倉えおいく  。癜い四角ず黒い盎線ずなっお  。

「桜様。もう倧䞈倫ですよ。お疲れ様でした。手を䞋ろしお、肩の力を抜いおください。」
「むンペリア様。お導きいただき、ありがずうございたした。私の才は劂䜕でしょうか。」

「玙ずペンです。誠に残念ですが、この才では王䜍は継げたせん。公文曞の官職、もしくは職人ずしおの道を遞ぶこずになりたしょう。」
「そうですか  。私には才が䜕もないず思っおおりたした。いただけたこずに感謝いたしたす。」

「桜  。いえ、桜様。䜕があろうずも、私はあなたの味方です。遠慮なく、い぀でも頌っおください。」

 芋䞊げた空は雲䞀぀なく、真っ癜な空だった。


 葵姉の囜王即䜍を芋届け、私は神殿を埌にした。そしお、氎面に咲くナリを䞡手いっぱいに摘み、黒い土が぀いた手をずっず芋぀めおいた  。


朝露をたっぷりず含んだ仮の葉に。
癜緑びゃくろくず名前を぀けお。
苔ず光が合わさる瞬間に色圩を芋る。

芋䞊げた空ず笹を混ぜお、癜緑が季節を運ぶ。
願いを蟌めた緑の先ず、癜い銀河の茝きに想いを寄せお。

届かないず知り぀぀も。今日も私は色圩を送る。
この地に散った人々の想いを乗せお。


「さすが、泰心たいしん。色の調合䞊手いね。僕も君みたいな栌奜良いスキルほしかったな。」

 ルネサンス期の絵画のような端正な顔が、爜やかな笑顔で私に話し掛ける。黒い県鏡を軜く持ち䞊げお、私は呆れた口調で芪友に応える。

「䜕を蚀っおいるんだ。色を調合するだけで、絵描きのスキルはないんだぞ。凄く地味で、䞀人では䜕も出来ないスキルさ。錬䞹れんたんの音楜スキルの方がよっぜど玠晎らしいよ。䞀人で独立しお仕事できるし、䜕より人々を幞せにする重芁なスキルだろう。」

「さすが、我が芪友。ちょっぎり自信いただきたした。感謝、感謝。でも、建物のペンキ塗りも倧事な仕事だよ。もし、癜ず黒しかない䞖界だったら息詰たるだろう。この囜が色圩豊かなのは、君のようなペンキ職人が沢山いるからさ。僕が幞せを運ぶ職業なら、君は幞せの空間を䜜る職業ずいったずころかな。」

 アクア・マリンの瞳が茝きを増しおいく。空ず降り泚ぐ匷い日差しを吞収しお、海の色が䞀面を芆い尜くす。この囜の女性たちを魅了する瞳ず声に、私も吞い寄せられそうになる。そしお、圌はさらに蚀葉を重ねる。

「実は明日、氎面の神殿の匏兞で挔奏するこずになったよ。僕を含めお癟人が参加を蚱された。かの有名なむンペリア叞祭からお声が掛かったのさ。『癜ず黒の囜』に行くのは初めおだから興奮するよ。もし興味あれば、泰心も䞀緒に来るかい。君のスキルを応甚すれば、こっそり䟵入するこずも容易だろう。」

「癜ず黒しかない䞖界なんかに興味はないね。叞祭にも興味ないし。昚幎の成人の日でお䞖話になったずき、確かに凄そうな人だずは思ったけど。それだけさ。あず、俺のスキルはそんな倉なこずに絶察䜿いたくない。」

「あぁ嫌だ嫌だ。『四季の囜』の人々っお本圓にドラむだよね。なぜ、そんなにも他人に興味ないかな。泰心、あの囜には絶䞖の矎女がいるのだよ。」

「たたその話か、䜕床も聞いたよ。錬䞹も倉わらないな。小孊生の頃に䌚った少女のこずだろう。氎面の神殿に䞍法䟵入しお  子どもじゃなかったら俺たちは死刑だったんだぞ。」

「あの時はごめんね。若気の至りっおダツさ。今床は倧䞈倫、正匏なオファヌだから  。それでは、お土産話を楜しみに埅っおいおくれたたえ。」

 錬䞹はクリヌム゜ヌダのような爜やか笑顔で私に別れを告げ、癜ず黒の囜に向けお出発した。私は圌ずの話を終え、やれやれず独り蚀ず蚀いながらペンキ塗りの䜜業に戻る。

 先ほどたで茝いおいた鮮やかな緑のグラデヌションは  よもぎ饅頭柄に倉貌を遂げおいた。誰もいない壁に向かっお、私は独り蚀をブツブツ話す。

「誰だ。せっかく癜緑びゃくろくを調合したのに、色圩が台無しだ。たた最初から塗り盎しか。今日は残業決定だな  。」

にゃヌ。にゃヌ。

甘い声を䞊げながら犯人は、汚い肉球で壁をペタペタず觊っおいる。私ず目の合った黒猫は、路地裏に逃げお行った。

にゃヌ。にゃヌ。

 私を呌ぶ声にむラむラし、私は仕事を投げ出しお黒猫の远跡を開始する。䞭䞖むタリアを圷圿ずさせる石造りの街䞊みを、右、巊、右、巊  ずリズミカルに走り抜ける。颚になった気分で颯爜ず。石の壁に肩がぶ぀かりながらも黒猫から目を離さない。䞉階建おのアパヌトず宿を繋ぐ円圢のアヌチを抜ける。私はさらに加速し、商店街に差し掛かる。

「おぉ、泰心。仕事終わったのなら、これから䞀緒に飲もうぜ。」
「泰心殿。今日こそはチェスで勝たせおいただきたすぞ。」
「あらあら、泰心さん。盞倉わらずお元気だね。今日もおかず持っお行くかい。」
「泚文しおいた野菜届いたよ。あれ、泰心さん、買わないの  。」
「泰心、今日、プラモデルの塗装手䌝っおくれるんじゃないの  。」


「皆さん、ごめんなさヌい。今日はなんか厳しそうですヌ。」
 私は銎染みの顔たちに倧声で謝眪䌚芋をしながら路地裏を走り抜けお行く。巊、巊、右、右、䞊、䞋  。リズムが倉わっおも気にしない。黒猫だけを芋぀め、党力で駆け抜ける。
 海が黄昏の空に反射し、ノェルサむナ・ブルヌの色圩に茝く。海岞線を芋぀めながら䜓力の限界を感じる。远い぀かない。少しず぀距離が開いおいく  。

「仕方がない。誰もいないし、あれを䜿うか。」


 私は独り蚀に合わせおポケットの䞭から小瓶を取り出す。小瓶の蓋を開封し、䞡手に氎をかける。芪指、人差し指、䞭指、薬指、小指の順番に指先が色圩を垯びおいく。ブロン、シャンパヌニュ、オヌル、ゎヌルド、オヌロ・ノェネツィアヌノ、黄金のグラデヌションが指先に広がる。そしお、黄金の色圩を䞡足に塗る  。足に萜雷の力が宿る。
 アプリコットずビスクで圩られたクッキヌ柄の石畳を芋぀め、そしお前を向き黒猫を芖界に捉える。右足に力を入れ、石畳を匷く蹎る。オレンゞ色ずベヌゞュ色の砂粒がサラサラず音を立おお広がっおいく。私は黒猫ずの距離を䞀瞬で詰める。
 犯人を捕たえた  そう思いながら黒猫を䞡手で掎もうずする  刹那、埮かに声が聞こえる。

「なかなか筋がいい。耒矎に面癜いものを芋せおやろう。」

倧爆発ず共に、私は意識を倱った  。


 薄墚の霧を掻き分けお、ゆっくりず進んでいく。身の䞈の䞉倍を超す黒い針葉暹が呚囲を取り囲み、私以倖の蚪問者の䟵入を拒んでいるようにも芋える。氎面の神殿の匏兞成人の日での挔奏を終えた私は、むンペリア叞祭に挚拶した埌、垰囜たでの僅かな時間を思い出の地で過ごしおいた。勿論、「鏡の氎底みなそこ」に立ち入る蚱可は貰っおいる。

 霧を超えた先に、玔癜の倧きな湖が広がる。この湖、通称「鏡の氎底」は、癜ず黒の囜、四季の囜を結ぶ境界線でもある。

 私はこの地で圌女に出䌚った。艶のある癜い髪ず倧きな癜い瞳、あの時の絶䞖の矎女が目の前にいる。ナリの花を手にした圌女の茝きはあの頃ず倉わらない。私は䞀目で確信し、爜やかな笑顔ず声で話し掛ける。

「ナリの花がお䌌合いですね。」

「どちら様でしょうか。ここぞの立ち入りは、原則ずしお犁止されおいたすが。」

「倱瀌いたしたした。私の名前は錬䞹れんたんず申したす。むンペリア叞祭から蚱可を埗おおりたす。この通り、蚌明曞もございたす。」

「確かに、むンペリア様が発行した蚌明曞ですね  。倱瀌したした。私の名前は桜さくらず蚀いたす。この囜の王宀の者です。」

 穏やか癜い瞳は私を芋぀めた埌、少し萜ち着かない衚情を芋せた。圌女の緊匵をほぐすために、私はポケットから小瓶を取り出しお蓋を開封する。䞭に入っおいる氎の半分を飲み、残りの半分で䞡手を掗う。私は頭の䞭でクラリネットを想像し、目を閉じお楜噚を吹くポヌズをずる。
 光が私を包み、音を生み出す。忘れた時を思い出すようにしお、モヌツァルトのクラリネット協奏曲が湖に響き枡る  。圌女の頬を䌝う雫が、あの日の蚘憶を呌び芚たす  。

「玠敵な音楜ですね  ごめんなさい。なぜか涙が出おしたいたした。あなたずは初めお䌚った気がしたせん。その  どこかでお䌚いしたこずありたすか。」

 矎しい癜い玠肌が薄墚の色に倉化しおいく。圌女は突然、私の手を握る  柔らかくお枩かい。私が口を開こうずした瞬間、背埌から声が聞こえた。圌女は急いで手を離す  。

「桜様。ここにいたしたか、探したしたよ。」

「むンペリア様。申し蚳ありたせん。父ず母の花壇にナリを食りたくお  。」

「なるほど。それは倧切な甚事ですね。錬䞹さんずはお知り合いですか。」

「どうでしょうか  。少し懐かしさを感じたすが  。」

 圌女は癜い湖の氎を䞡手いっぱいに掬い䞊げる。そしお、優しく息を吹きかける。おがろげな光ず共に、氎が癜い玙ぞず倉化した。圌女は癜い玙を私に差し出した。私は䜕も考えずに玠盎に受け取る。

「錬䞹様。今日はお䌚いできお、倧倉嬉しかったです。もっずあなたのこずを知りたいです。その玙をあなたに差し䞊げたす。その玙に文字を曞くず私に盎接䌝わりたす。私の曞いた文章は、その玙に印字されたすので気になったら芗いおみおください  。たたお䌚いできる日を楜しみにしおいたす。」

 圌女の笑顔は、あの頃の少女のたただった。癜い玙を倧切に懐に入れ、私は癜ず黒の囜を埌にした。

癜い玙から歯車を回す音が埮かに聞こえる  。



ボロ、ロンロンロン。ボロ、ロンロンロン。

カチャチャチャヌ。カチャチャチャヌ。

ボロロンロン。ボロロンロン。


 花や怍物、貝殻の暡様が䞀面に広がる。玔癜の宮殿を圩る暡様が生を垯び、蚪問者を歓迎しおいるようにも芋える。私はマスカットの甘い銙りを肌で感じながら、ゆっくりず玅茶を䞀口飲む。埌から来る匷烈な苊味もじっくりず味わう。やがお苊味は消え、オレンゞの甘い銙りが珟れる。二぀の甘い銙りが亀互に重なり、新たな銙りが広がっおいく。人生を暡した玅茶は飲む床に茝きを増す。私は桜効を芋぀める。

「桜さくら、久し振りね。元気そうで良かったわ。このダヌゞリンティヌの味わいはどう。」

「姉さん、お久しぶりです。お元気そうで䜕よりです。ちょっず苊手かもしれたせん。苊味しか感じたせん。」

 私はテヌブルの䞊にあるグラスを取り、その䞭の氎を芪指ず人差し指に぀ける。スプヌンを぀たみ、桜のティヌカップを少しかき混ぜる。そしお、改めお桜にティヌカップを差し出す。

「姉さん、凄いです。今床は甘い銙りを感じたした。砂糖を入れおないのに  䞍思議です。甘い銙りず苊味が調和しお玠敵な玅茶になりたした。奜きな玅茶です。」

「それは良かった。ずころで  。昚日、氎面の神殿で『四季の囜』の男ず䌚ったず聞いたけど、本圓なの。」

「はい。名前は錬䞹ず蚀いたす。玠敵な音楜を奏でる男性でした。優しくお、どこか懐かしい感じがしたした。」

「もしかしお  ずっず探しおいた少幎だずか。小孊生の頃に䌚った四季の囜の  。桜、ちょっず乙女すぎないかな。」

「倧䞈倫です。そんなこずは考えおいたせん。あの時の圌に感謝はしおいたすが、私はもう倧人ですから。もう少し珟実を芋おいたすよ。進路は姉さんの秘曞を遞びたしたし  。ただ、錬䞹さんのこずは気になるので、たず文通をしようかず思いたす。」

 成人の日を終えおから、桜の瞳の茝きは日増しに匷くなっおいる。王女の頃ずは比范できないほどに衚情も豊かになった。私は才胜のない効を初めお劬たしく思った。四季の囜の文化に觊れれば、私もさらに匷くなれるだろうか。そんな劄想をしながら腕を組み、目を぀ぶる。
 ダヌゞリンティヌの銙りが錻から口ぞず䌝う。䜕かが足りない。私は芚悟を決め、目を開く。

「䞀週間、ここを留守にするわ。四季の囜に行っおくる。桜、公務の代理をお願いね。」

「姉さん、それは良くないず思いたす。䞀歩間違えれば戊争になりたす。たず、私の才で四季の囜ず文通しおはいかがでしょうか。」

「倧䞈倫。䜕ずかなるわ。実際に芋ないず分からないこずもあるから  。あず、叔父様には蚀っおおいお。頌んだわよ。」


 私は掌に氎を぀ける。床にそっず觊れお力を蟌める。行っおきたすの声ず共に黒い閃光が、癜い壁を䞀瞬で黒く染め䞊げる。黒い閃光が消えるタむミング合わせお、私は四季の囜ぞず向かった。



錬䞹様

お身䜓の調子は劂䜕でしょうか。
二぀の囜を行き来する際、身䜓的負荷が倧きく掛かるず聞きたした。
お元気であるこずを祈っおおりたす。

先日は楜しい音楜を聞かせおいただき、ありがずうございたした。
成人の日で倱敗をしおしたい、私は萜ち蟌んでいたした。
あなたの音楜を聞いお目が芚め、迷いが突然消えたした。
自分の才を愛するこずができそうです。

音楜が奜きになったので、クラリネットを賌入したした。
楜噚はこれたでに觊った事はありたせん。
オススメの緎習法などがあれば、教えおいただけたせんか。

癜ず黒の囜
王の秘曞 桜 より


「私はどうしたらいいのだ。」

 病院内に倧きな声が響き枡る  。小麊肌の、恰幅の良い男性看護垫が病宀の扉を勢いよく開けお、私に怒鳎る。包垯グルグル巻きでミむラ状態の私は、ベッドから䜓を起こす。空気察しお、ひずたず、ご銳走さたのポヌズで謝眪する。
 圌は倧きな声を出した匵本人に目もくれず、私に十分ほどの説教をした。远い打ちを掛けるように、なぜか芪友は私を睚み぀けおいる。私は人生の䞍条理を噛み締めながら、小さな声でやれやれず呟いた。

「錬䞹、さっきも蚀ったけど。良い機䌚だから、文章を曞く緎習すればいいだろう。王女様は、倉な文章曞いおも気にしないず思うよ。楜噚は仲良くなるための口実だから、そんなに身構えなくおも倧䞈倫  。ずいうわけで、早く垰っおくれ。䞀週間は絶察安静の身分なので。もうこれ以䞊のトラブルは埡免こうむりたい。」

「泰心たいしん、そんな冷たいこず蚀わないで  。私たち、芪友ですよね。䜕でもしたすから、泰心様お願いしたすヌ。」

「では、今すぐに。付き合っおいる女性ず別れお、王女様ず䞋手くそな文章で文通しなさい。自分のスキルを悪甚するからこんなこずになるんだよ。もっず誠実に生きられないものかね。」

 芪友に説教をしながら私自身もスキルを悪甚したこずを埌悔しおいた。高々、黒猫䞀匹になぜあんなにも腹を立おたのか分からなかった。そしお、爆発的の瞬間に聞こえた䞍思議な声ず、自分に降りかかった犁止の魔術が頭から離れない。そんな私の気持ちをサラッず払うようにしお、錬䞹は私を芋぀める。

「分かりたした。別れたす。あず、今日から誠実に生きたすので、泰心様お願いしたすヌ  。」

「本圓だな。䞀人残らず。付き合っおいる女性党員だぞ。王女様に䞀途でいられるのか。」

「勿論でありたすヌ。私はあなた様の埓順なる僕です。どうか、よろしくお願い申し䞊げたすヌ。」

 錬䞹は私に敬瀌のポヌズを取り、倧きな声で誓いを立おる。私はため息を挏らし、泣く泣く了承した。端正な顔立ち、甘い声、玠盎な性栌、そしお、人たらしの才胜ず音楜スキル。神はこの男をどこに導きたいのだろうか  。
 クリヌム゜ヌダのような爜やかな笑顔に勝おる者なし。錬䞹は䞊機嫌で私の病宀を埌にした。そしお、私は顔も分からない王女ずの文通を開始する。怪我が完治するたでの期間限定だが  。


桜 様

早速、お手玙を曞いおくださり、ありがずうございたす。
身䜓を心配しおいただけたこずに感激しおいたす。

私もあの時のこずを思い出しおいたした。
アラバスタヌ調のフワフワの絚毯に座るあなたを芋お、蚀葉を倱いたした。
癜ナリの花のような玔粋な瞳は、今も私を離したせん。
蚀葉を連ねるのは苊手で、埗意の音楜で気持ちを衚しおみたした。
気に入っおいただけたようで倧倉嬉しいです。

クラリネットの扱いは難しいです。
たずはカスタネットでリズムを緎習しおは劂䜕でしょうか。
次にお䌚いする時に、盎接クラリネットを教えお差し䞊げたす。

桜様もお身䜓ご自愛ください。


四季の囜
宮廷音楜家 錬䞹 より



「桜様。本日はい぀になく䞊機嫌ですね。䜕か良い事がありたしたか。」

 葵姉が癜い宮殿を離れお、早くも䞀週間の時が流れた。この癜い宮殿は、四季の囜では「ロココ調」ず蚀われおおり、人ず自然の調和共生を象城する建築様匏である。遠くから芋るずただの癜い壁、近くで芋るず貝殻や怍物が顔を芗かせる。矛盟を取り蟌む䞍思議な建築物。
 錬䞹様ずの文通もちょうど䞀週間を迎えた。手玙を毎日曞いおいる。色圩豊かな文章衚珟に心が螊り、たた手玙を曞いおしたう。最近は、文章よりもこの目で盎接色圩を感じたいず思うようになった。私は戞惑いながら、むンペリアを芋぀める。

「むンペリア様。ごめんなさい。倉な顔しおいたかしら。最近、癜が癜に芋えなくお  。この王宀の壁は、四季の囜ではアラバスタヌ調ずいう色らしいです。知っおいたしたか。」

「はい。存じおおりたす。先王から䌺いたした。桜様の母君は、四季の囜の出身ずいうこずもあり、倧倉お詳しかったのです。二぀の囜を隔おる鏡の氎底湖の氎に特殊な力を䞎えたのも先王でした。癜ず黒の囜では才胜ず、四季の囜ではスキルず呌ばれおおりたす。私のような鏡の氎底を守護する存圚、いわゆる『魔術垫』たちは魔術ず呌んでいたす。」

「なるほど。魔術垫ずなれば、二぀の囜を自由に移動できるようになるのですか。」

「はい。魔術垫の䜿呜は戊争を回避するこずにありたすから、こために蚪れお情報収集を行っおいたす。ずはいえ、魔術垫は癟名にも満たないので、日々の業務に骚が折れたす。たさか、桜様。魔術垫になりたいのですか  。」

「そうね。ちょっず興味あるかもです。ただ、私の才胜では厳しいず分かっおいたす。確か、魔術垫になるためには最䜎でも二぀の才胜を持たないずダメだずか。むンペリア様は、その䞭でも五指に入るず蚀われおいたすが本圓ですか。」

「はい。その通りです。魔術垫にためにはいく぀かの条件を満たした䞊で、二名以䞊の魔術垫からの掚薊が必芁ずなりたす。私自身、五指に入るほどの力量があるずは思いたせんが、火、氎、土、颚、雷の基本元玠を操るこずを埗意ずしおおりたす。制玄の倚い職業ですから、あたりお勧めはいたしたせん。」

 私はむンペリアをじっず芋぀める。パヌル・ホワむトの瞳は、窓から差し蟌む䞀条の光を吞収しお茝きを増しおいく  。むンペリアの頬から癜い雫が滎り萜ちる。私に背を向け、むンペリアは少し考える。頭をかきながら呆れた声で蚀葉を重ねた。

「はい。分かりたした。どうしおも、四季の囜に枡りたいず  。双子揃っお奜奇心の匷さは母芪譲りですね。葵様の倖出を蚱可したしたので、公平に桜様の願いも叶えたしょう。」

「さすが、むンペリア様。お母様が䞀番信頌しおいた魔術垫様ですわ。いえ、倩才魔道士様。」

「分かりたしたから萜ち着いおください  。ただし、条件を぀けたす。葵様は珟圚、王の立堎にありたす。王ずの玄束を砎れば重たい凊分が䞋りたす。぀たり、秘曞の仕事を投げ出しお、四季の囜に遊びに行っおいるこずを王に悟られるわけにはいきたせん。そこで、二぀の誓玄をあなた様に䞎えたす。䞀぀は『滞圚期間は䞀日のみ』、もう䞀぀は『猫』に化けるこずです。ちなみに、滞圚時間を超過した堎合は䞀生猫の姿のたたです。いかがでしょうか。」

 私は二぀返事で了承する。むンペリアの瞳はブラック・ダむダモンドの茝きを攟ち、黒い霧が郚屋党䜓を芆い尜くす。ポケットから小瓶を取り出し、氎を私に振りかける  。私の䜓は少しず぀小さくなり、フワフワ、もこもこに倉化しおいく。蚀葉が話せない  。

「あなた様は本圓に運がいいです。昔、我が垫匠から貰った『倉身の氎』が、あず䞀本だけ残っおおりたした。これたでの感謝を蟌めお差し䞊げたしょう  。可愛い癜猫よ、楜しんで来おください。」


にゃヌ。ず、私は返事をしお黒い霧の導きのたた、鏡の氎底を枡り四季の囜ぞず入る。蚀葉が話せなくおも、あなたをきっず探し出す  。

アラバスタヌ調の毛䞊みに、现やかな祝犏を。


【本線の埌線四季圩は誰に埮笑む】


暪長の䞀枚のキャンバスに、䞊から順に色を乗せおいく。

䞊段にはパステルの癜、黄、オレンゞを瞞暡様に䞊べお。
䞭段にはパステルの氎色を。少し癜を倚めに溶かしお。
䞊段ずの境目は、濃い玫ではっきりず。

䞋段にはパステルの緑ず茶を、やっぱり瞞暡様に䞊べお。
虹ではない  。今床は少しず぀黒を混ぜおいく。
焊らないで、筆先をポンポンさせお色を重ねおいくだけ。
癜は溶かしお、黒は添えるだけ  。

そろそろ、終わりが芋えおきた。頑匵っお  。

レンガ色のカップに、バニラのアむスクリヌムを山盛りに入れお。
二぀のカップを䞡手に持っお。
恋するあなたに右手を差し、私の分は巊手に。

倕日の柔らかな光が、二぀のカップに生を䞎える。



 私は病宀に食られた䞀枚の絵を芋おいる。クロヌド・モネの絵画「ゞノェルニヌの積みわら 倕日」は、その埌に登堎する積みわらシリヌズ連䜜の先駆けずなった䜜品で、二十五枚の歎史的絵画の原点でもある。私の人生を決めた䜜品の䞀぀だ。
 そしお、人生を決めたもう䞀぀は、この䜜品の裏にある。この絵画の構図絵の茪郭、配眮をそのたたしお、色圩だけを倉曎した絵画「ゞノェルニヌの積みわら 癜霜」である。倏の終わりの倕方ず、冬の始めの朝方、盞反する二぀の絵はチェス盀を圩る癜ず黒の女王のように鮮やかだ。時間を操る究極の魔術のような  二枚で䞀察の軌跡を生む䜜品。

「そういえば、昔  。黄金の瞳をした少女に、同じ話をしお笑われたんだ。䜕を蚀っおるか、党分からないっお  。もし、い぀か䌚えたら預かっおいるもの返さなくおは。」

 誰もいない病宀で、私は独り蚀をもらす。包垯をゆっくりず倖しながらあの時の堎面を思い出す。右手を芋぀め、グッず力匷く握る  。现やかな幞せを奪う音が、窓の方から聞こえおくる。

にゃヌ。ゎロゎロ。
ゎロゎロ。にゃヌ。

「たたアむツか。今床こそ、容赊しないからな。」

 私は急いで身支床を敎える。癜い玙ず、桜王女ずの文通の蚘録を懐にしたい、窓から勢いよく倖に出る。小麊肌の看護垫に別れを告げお、病院を埌にした。

 朝日が昇り、この間の事件珟堎をゆっくりず照らしおいく。海岞は宝石のように茝き、ブル・カヌプリの色圩に倉化する。爆心地は、アプリコットずビスクで圩られたクッキヌ柄の石畳で舗装されおいる  。
 おかしい  。この囜に修埩の魔術を䜿える人はいない。たった䞀週間で元通りになるはずはない  。私は混乱しおいた。倢を芋おいるのか、それずも近くに魔術垫がいるのか。分からない  。

にゃヌ。ゎロゎロ。
ゎロゎロ。にゃヌ。

 オヌロ・ノェネツィアヌノの瞳が私を芋぀める。黄金色の䞭でも最も奜きな色が、珟圚最も嫌いな黒い毛䞊みを守護しおいる。私はため息を぀き、二回戊目の負けを認める。黒猫に背を向けお、家に垰るこずを遞択する。

にゃヌ。ゎロゎロ。
ゎロゎロ。にゃヌ。

「もうこれで䞉回目だぞ、いい加枛に  。」

 私が振り向くず、黒猫の毛䞊みは鮮やかなカスティリアン・レッドに倉化しおいく。赀猫ず呌べばいいのだろうか。そんな悩みを眮き去るように、毛䞊みは次々ず倉化しおいく。虹色の配色を持぀猫  。いや、そんなはずはない。私は倧声を䞊げる。

「お前。もしや、魔術垫だなヌ。」

猫が笑っおいる気がした。にゃヌの甘い鳎き声ず共に、毛䞊み癜ぞず倉化する。最埌の远跡劇が幕を開けた  。



 手玙に曞かれおいたアクア・マリンの海は、想像した景色ず少し違っおいた。いや、この蚀葉で衚珟できない繊现な衚珟の青色をアクア・マリンず呌ぶのだろう。私はこの景色を䞀日䞭芋おいたいず思った。私の頬を撫でる氎も、この色のように茝いおいるのだろうか。
 私は、錬䞹様が毎日のように蚪れるずいう商店街を目指した。私の䜏む囜ずは違っお、建物や人々の服装を芋るず少し質玠な印象を受ける。ただ、様々な色があるこずで銙りや味、人々の枩かさを肌で感じるこずができる。店の前で立ち話をする人、昌寝をする人、食事をする人、喧嘩をする人  この囜は掻気で満ちおいる。
 先ほど通り過ぎた青幎は、黒猫を捕たえただろうか。

「葵さん。ちょっず埅っおよ。さっきの女性は違うのさ。」
「錬䞹。䜕が違うずいうの。あなたっお本圓に最䜎。」

「だから、さっきの女性は元カノで。䞀週間前に別れたよ。今は君に䞀途さ。い぀もみたいに、オシャレなカフェで䞀緒に玅茶飲もうよ。」
「本圓かしら。出䌚った時は、私ず桜効を間違えるし  。しかも、桜ずは文通もしおいるのでしょう。」

「倧䞈倫、でありたすヌ。私は文章を曞くのが苊手なので、我が芪友に任せおありたすヌ。」

「私っお、なんでこうも男性芋る目ないのかな  。やっぱり、叔父様むンペリアを狙うか  。あなたはこれたで䌚った男性の䞭で、断トツで最䞋䜍よ。もう顔も芋たくないわ。」


 男女の痎話喧嘩だ。どこか聞き芚えのある声がする。私は建物の陰に身を朜め、成り行きを芋守っおいた。思わず発した姉さんずいう蚀葉は、にゃヌに倉わる。私は冷静さを取り戻し、二人の䌚話に耳を柄たせた。詳现は䞍明だが、錬䞹様が姉さんの逆鱗に觊れたようだ。

 ダヌゞリンティヌの銙りはい぀しか消え、黒い皲劻の柱が錬䞹様を盎撃する。賑やかだった商店街は䞀瞬にしお凍り぀いた。そしお、姉さんは口を開く。

「桜効に免じお、最小限の力にしおあげたわ。感謝しなさい。」

 黒い霧が商店街を取り囲む。姉さんの姿を芋倱った。私は急いで錬䞹様のもずに向かい、にゃヌにゃヌず鳎きながら傷口をなめる。錬䞹はペロペロず起き䞊がり、独り蚀をもらす。

「恐ろしい女だった  姿も顔も桜ず䞀緒なのに  。なんだ、この汚らしい猫は。私に觊るな、汚いぞ。」

私は十メヌトルほど突き飛ばされた。壁に頭を打ち付け、真っ盎ぐに歩けない。

それ以䞊に、汚いず蚀われたこずが蟛かった  。

奜きな人から蚀われた蚀葉を受け止めおきれない  。

早くこの地を去りたい  。

私は足を匕きずり、鏡の氎底を目指す。

どこからか、男性の声が聞こえた  。

「やれやれ。呆気ない幕匕きだな。䞉回戊は俺の勝ちか。お前から聞きたいこずが沢山あるんだ。ただ死ぬなよ。」


 枩かい  。お父様ずお母様を思い出す。汚い毛䞊みで、血だらけで、才胜もなくお  それでもこんな私をあなたは抱いおくれる。服に血ず泥の臭いが぀いおも、ギュッずしおくれる  枩かい。あなたの心臓の音が聞こえる。懐かしい音が、忘れおいた音が聞こえる。顔の芋えないあなたに感謝を䌝えたい  意識が消えおいく  。


ボロ、ロンロンロン。ボロ、ロンロンロン。

カチャチャチャヌ。カチャチャチャヌ。

ボロロンロン。ボロロンロン。


 䞍思議な音が聞こえる。目を開けるず、私は倧きな四角いテヌブルの䞊に寝おいた。朚の朚目をなぞりながら、自分の生を確認する。ミむラず間違えるほどに、私の䜓は包垯でグルグル巻きにされおいる。䞀生猫の姿であろうずも埌悔はない。呜が助かったこずに、私は感謝の祈りを捧げた。

 私は錻をヒクヒクさせる。ミルクの甘い銙りず、嗅いだこずのない芳醇な銙りが挂っおいた。机の䞊には光るお皿ず倧量の本、メモ垳、そしお癜い玙が眮いおある。あず、癜いカップに入った黒い氎も気になる  癜い颚が黒い氎を守護しおいた。突っ䌏しお眠っおいる圌を起こさないようしお、ゆっくりず近づく。癜い玙には、私の字が印字されおいる。錬䞹に枡したはずの手玙を、なぜ圌が持っおいるのだろうか。
 私の思考を遮るようにしお、圌は突然起き䞊がり私に話し掛ける。

「良かった。治ったみたいだな  。どうだ恐れ入ったか、必殺『ミむラ返し』だぞ。いくら毛䞊みを倉えようず、お前の瞳は特城的過ぎる。䞀発で分かったよ。オヌロ・ノェネツィアヌノの瞳  䜕床芋おも鮮やかだ。個人的には、今のフロスト・グレむの毛䞊みが䞀番奜きだけど。䜕も知らない人が芋るず、汚らしい灰色に芋えるだろうな。しかし、冬の季節、もしくは匷い日差しがあるず鮮やかな癜銀の色に倉化する。矛盟を抱えた魅力的な色圩。」

 圌は私の䜓を優しく觊っおいく。頭、銖、背䞭、腹  尻、脇、銖  胞  。枩かい手が私を包み蟌んで、これたでに感じたこずない䞖界に私を連れお行く。もっずほしい  私はご耒矎ほしさに甘い声を出す。

にゃヌ。キュッキュッ。
にゃヌ。キュッキュッ。

 アクア・マリンの瞳ず、オヌロ・ノェネツィアヌノの瞳がゆっくりず重なる。忘れた時を思い出すように。そしお、私は至犏の時を迎える  。

「なにか違う気がしおきたな。お前、本圓に黒猫の魔術垫なのか  。性栌が党然違う気がする。でも、その瞳は  。」


ボロ、ロンロンロン。ボロ、ロンロンロン。

カチャチャチャヌ。カチャチャチャヌ。

ボロロンロン。ボロロンロン。



「残念だ。わしの芋蟌み違いだったかな。」

 癜い閃光ず共に、癜猫の瞳ず同じ瞳を持぀黒猫が突然珟れた。艶のあるサラサラずした黒の裏偎に、時折芋せるミッドナむト・ブルヌの茝きがなんずも鮮やかだ。

 癜猫が甘い銙りを挂わせ私の頬をペロペロ舐める。私は珟実に垰還し、蚀葉を発する。

「猫が喋っおいる。ずいうか、やはり魔術垫だったか  。぀たり、癜猫はただの猫か  。」

「泰心たいしんず蚀ったな。色々誀りがあるぞ。たず、わしは黒猫ではない。」

 柔らかい癜い閃光が私の郚屋を芆う。光が消えるず同時に、机の䞊に足を組む女性の姿が芋えた。ブロンのショヌトヘアに、ミッドナむト・ブルヌのワンピヌスを身に぀けた私ず同じ歳くらいの女性が笑っおいる。圌女はさらに蚀葉を重ねる。

「ずいうわけだ。それから、名は『ミモザ』ずいう。わしは魔術垫ではない  『魔導士』だ。さお、次は貎様の番だぞ。泰心よ、なぜ平凡な男がこんなに倧量の魔術曞を持っおいるのだ。残念だが、わしは隙せんぞ。䞀芋するず絵画や建築の本だが、魔術を䞊塗りしおいるな。あず、わしず初めおあったずきに䜿った魔術は䜿甚を犁止ずされおいる。なぜ、叀代魔術を扱えるのだ。」

 ミモザの鋭い瞳に心臓を捕たれ、私は息ができなかった。頭痛ず悪寒、倊怠感が私を襲う。ミモザは机の䞊に眮いおある、建築家フランク・ロむド・ラむトのデッサン集に手を觊れる。本の䞭に、新たに光るペヌゞが差し蟌たれる。本のタむトルも光る字で新たに加わる。少し読みにくいが、「火の魔術を構成する基本色に぀いお」ず読める。私は恐る恐る口を開く。

「犁止魔術を䜿甚したこずは謝眪いたしたす。確かに、分かっおいお䜿甚したした。どんな眰でも受ける所存です。しかし、なぜ叀代魔術を䜿えるのかはお答えできたせん。死の間際であろうず、この力は誰にも枡さない。」

「困るな、泰心よ。その力は匷倧だ。貎様のような平凡な才の者には扱えない力だ。わしは、その力がほしい蚳ではない。癜ず黒の囜、四季の囜の均衡を厩す力だず考えおいる。封印するか、消滅させたいね。」

「いいですよ。死を受け入れたす。この力は私のものではありたせん。倧切な人から預かった、いずれその人に返す力です。ただ死にたくないですが、誰かに取られるくらいなら死を遞びたす。」

 私は目を぀ぶっお䞡手を匷く握る。痛みなく䞀瞬でこの䞖を去るこずを願っおいた。

 誰かが私を匷く抱きしめる  。柔らかい。私の胞にマシュマロのような柔らかな感觊が広がる。ベルガモットの銙りが私を包み蟌む。甘い銙りに誘われお、私は思わず目を開ける。
 ミッドナむト・ブルヌのワンピヌスが芋える  。そこから、倧きな谷間が芋える  。䞡手は動かない。心臓が今にも飛び出しそうだ。ミモザの瞳に吞い寄せられる。私の舌にベルガモット銙りが絡み぀き、私を玅茶に染めおいく。頭が真っ癜になり、ミモザの最んだ瞳がさらにほしくなる。

「はい。ここたで。真面目な顔しお、貎様は意倖に積極的なのだな。わしの奜みのタむプだから、続きしおもいいけど  。契玄が先か。」

「え  。どんな契玄ですか。」

「わしの匟子ずなれ。魔術の制埡の仕方教えおやる。あず、わしは魔術垫じゃないから、貎様を凊眰する立堎にないわ  。わしは魔導士。」

「ミモザ。魔導士ず魔術垫は䜕が違うのですか。」

「良い質問だな。魔導士は『魔術を䜜る者』で、魔術垫は『魔導士が䜜った魔術を䜿う者、あずは䞀般人に魔術の片鱗を䞎える者』かな。぀たり、絵の具を䜜る者が『魔導士』で、絵かきが『魔術垫』だ。話の続きは埌。契玄は寝宀でしようか  。」

 私はミモザに手を匕かれ、フラフラず歩き出す。ベルガモットの銙りが郚屋䞀面に広がるのを感じる。甘い銙りに察抗するように、甘い声が響き枡る。癜猫が鳎いおいる。

にゃヌ。キュッキュッ。
にゃヌ。キュッキュッ。


「そうであった。そなたの存圚を忘れおいた。」


 ミモザは小瓶を取り出し、癜猫にたっぷりず氎をかける  。癜い霧が広がり、郚屋を包み蟌む。霧が消え、少しず぀人の圱が芋えおくる。ミモザず同じくらいの背ず、同じくらいの歳の女性の姿が芋える。
 フロスト・グレむの長い髪が鏡の氎底のように穏やかに流れる。すぅヌず指を抜ける艶のある髪。二重の倧きな瞳に、オヌロ・ノェネツィアヌノの光が差し蟌む。ミモザにも匕けを取らない矎しい顔立ち、ルネサンスの画家ラファ゚ロの絵画「小怅子の聖母マリア」を思い出す。

 圌女は私を芋぀めおいた。そしお、私も。

 癜い霧が完党に消え、圌女の癜い玠肌が珟れる  。现い手足に、ブロンズ像のような匕き締たった肉䜓矎ず、小さな尻ず  少し小さい  。

圌女の悲鳎ず共に、私は気を倱った。



 四季の囜の基本的なルヌルは私の囜ず倉わらない。民が貧しいこず、色の皮類が豊富であるこずを陀けば同じ䞖界だ。魔術を䜿わなくおも、銙りや味を楜しめる䞖界は魅力的だ。その代わりに食材や料理を䞀瞬で生み、空を飛ぶなどの生掻の効率を䞊げるような魔術は殆ど存圚しない。

 あず、私の囜には存圚しない職業も沢山ある。特に、ペンキ塗りずいう職業には驚かされた。色の぀いた砂粒を組み合わせお、蚀葉では衚珟し難い色を䜜り出しおいく。街の人々はそれを「色圩しきさい」ず呌んでいる。色ず色圩の違いは未だに分からない。ただ、人の心を倉えおいくような䞍思議な力を感じる。

 私はミモザず契玄し、癜ず黒の囜、四季の囜、鏡の氎底境界線の歎史ず文化を教えおもらった。気が぀けば、本圓の双子のように、本圓の芪嚘のように䌚話をしおいた。䞖界に䞀人しかいないず蚀われる存圚は、ずおも魅力的だ。ミモザから玅茶ず珈琲、野菜スヌプの䜜り方も教わった。気が぀けば、たた朝を迎えおいた  。


「泰心様、ごめんさない。思わず、眮いおあった本で叩いおしたいたした。」

「いえ。こちらこそ。目を぀ぶれたはずなのに、閉じなくお申し蚳ありたせんでした。ミモザに匕き続き、癜猫たで人だったずは思いたせんでしたよ。倉身に関するものは、犁止魔術であったず蚘憶しおいたす。たさか、あなたも『魔導士』ですか。」

「いえ。党然。ただの秘曞です。名前は『桜』ず蚀いたす。」

「桜様ですか。玠敵な名前ですね。たさか、王女様ずお䌚いできるずは光栄です。」

 圌は倉なこずを口走る。私はここに来おから䞀蚀も圌に自分を王女ず名乗ったこずはない。なぜ、圌は私のこずを知っおいるのだろうか。アクア・マリンの瞳は茝きを倱い、挙動䞍審の動きを芋せる。私は圌に嫌われないよう、聞いおなかった振りをしお応える。

「名前耒めおいただき、ありがずうございたす。倧倉嬉しいです。母が぀けおくれた倧事な名前です。今は才胜のない、ただの王の秘曞です。桜ずお呌びください。」

「桜、ありがずうございたす。では、私のこずも泰心でお願いしたす。いや、その  。先ほどのこず、ごめんなさい。知っおいれば、あんなこずしなかったのですが  。」

「泰心、敬語もなしで。ミモザずは最初から普通に話しおいるのに、私ずは話せないず  。」

 私は泰心を困らせたくお、睚み぀ける振りをする。圌は䞡手をパヌの状態で巊右に揺らし、謝眪の蚀葉を蚀いながらも私ず目を合わせない。圌の汗の匂いから、本圓に困っおいるこずがよく分かった。酞っぱくお少し嫌な銙りだが、心が萜ち着く。

アクア・マリンの瞳に浮かぶ小舟。
倧海を右に、巊に揺れながら。
倧海を前に、埌ろに進んでいく。

浜の銙りに耳を柄たせ、枊巻き状に進んでいく。

あなたの肌に日焌け止めの塩を塗っお。
私の肌にアタバスタヌを塗っお。

肌ず肌を合わせおいく。䞀回、二回、䞉回ず。
時間を止める魔術の代わりに、䜕床でも  。

私の心に矛盟した、珈琲の銙りを添えお。


 私は頭に突然浮かんだ色圩を、癜い玙にしたためる。この囜の人々が䜿う蚀葉、色圩が少しず぀分かっおきた。楜しくなっおきた私は、さらに秊心を困らせようず質問を重ねる。オヌロ・ノェネツィアヌノの瞳に、さらに力を蟌めお泰心を芋぀めた。

「泰心。さっきの、ごめんなさいの意味が分からなかったから、もう䞀床詳しく聞きたいな。教えおよ。」

「桜。その  。桜が癜猫のずきを思い出したんだ。ミモザず䌚う盎前のこず  。その  色んなずころをペタペタず觊っおしたったず  ごめん。」

 私の肌ず汗が、金朚犀の色圩を垯びおいく。圌に远い打ちを掛けたこずを埌悔しながら、私は自分の䜓をペタペタず觊った。觊られたこずよりも、あのずき考えおいた劄想の方が恥ずかしい  。私ず圌の間を沈黙が支配する。蚀葉に詰たりながら、私は倧䞈倫ず蚀いたかった。しかし、運呜はそれを蚱さない。

「ほぉヌ。い぀の間に仲が良くなったのだ。垫匠を差し眮いお、二人だけの密䌚ずは  。泰心に眰を䞎える。今日は、わしの寝宀で寝なさい。」

「ダメです。ミモザ。それはパワハラずいうのよ。垫匠が匟子をたぶらかすなんお聞いたこずないわ。」

「ほぉヌ。桜。お前もわしの匟子のくせに、垫匠に楯突くずは。たた癜猫に戻しおやろうか。そうすれば、泰心にたた良いこずしおもらえるぞ。」

「もう。ミモザ、最䜎。なんで䞖界で䞀番偉倧な人が、こんな倉態なのよ。」

「ちょっず。桜もミモザも萜ち着いお。䞀旊、お二人ずも深呌吞したしょう  。ずいうか、ミモザっおそんなに偉いのか。」

「そうよ。倉態魔導士だけどね。あのむンペリア様叞祭の垫匠でもあるし。鏡の氎底境界線の王様みたいなものよ。」

「ほぉヌ。むンペリアの小僧も知っおいるのか。益々、お前たちは興味深いな。」

「そうよ。むンペリア様は、私の教育係を務めおいた方よ。姉さんよりも、䞡芪よりも䞀緒にいる時間長かったかも。」

「なるほどね。ずいうこずは。桜ずむンペリア叞祭は付き合ったりしおいたの。」

 泰心は本圓に鈍感だ。いや、倩然なのかもしれない。デリカシヌのない人だけど  。でも、嫌われたくない。私が慎重に蚀葉を遞んでいるず、ミモザが悪魔の笑顔を芋せる。

「泰心、倧䞈倫だ。むンペリアの小僧はわしに倢䞭だよ。なんせ、あや぀を男にしたのは、わしなのだから  。」

「この倖道。尻軜女。どこたで最䜎なのよ。ミモザ、あなたのような人は『魔導士』ではなく『魔女』ずいうのよ。」

「桜、なんだその珍劙な名前は。だが、音の響きは奜きだな。その名前、有り難く䜿わせおもらうぞ。では、遞ばせおやろう。秊心ずむンペリア、どちらがほしい  。」

 私の頭は真っ癜になった。気が぀けば、私は色圩に取り蟌たれおいた。癜ず黒の囜にいたずきには感じなかった感情の枊が芋える。蚀葉ず色が溶け蟌んでいく。私は二人のこずをどう思っおいるのだろうか。よく分からない。ただ、ミモザのようになりたくない。気が぀けば、私は泰心の郚屋を飛び出し、鏡の氎底境界線に向かっおいた  。


スゥヌ。ホペホペ。
スゥヌ。ホペホペ。


 頬を䌝う雫は茝きを倱い無圩色ずなる。氎面に映る双子を芋぀めながら、私は癜ず黒の囜に戻ろうずしおいた。感情の揺らぎに心が抌し぀ぶされそうになる。力なき自分を戒め、四季の囜を、圌を諊めようず思った。

 鏡の氎底を守護する魔術垫は、歳を取らない。契玄したずきの容姿のたた、生きおいかなければならない。死ねない䜓ず共に。偉倧なる力の代償は蚈り知れない。魔術垫は呪われた存圚なのだ。二぀の囜の均衡を保぀ために、己のすべおを生け莄捧げる。しかし、匷靭な肉䜓を持぀魔術垫も死に抗えない。生きる意思、魔術を䜿えなくなったずきに死は蚪れる。

 魔導士はさらに重芁で過酷な職業だ。魔術の源を創る。この䞍思議な氎を創る。魔導士は亡くなった人々の魂を「氎」ぞず倉える。魂を倩空ぞず導く存圚。魔術垫の䞭から䞀名だけが魔導士に遞ばれる。ミモザが二代目、初代は私の母。私は鏡の氎底に話し掛ける。

「本圓は。私もお母さんのようになりたかった  。ねぇ。お母さん。ミモザを知っおいるでしょう。ミモザっおお母さん、そっくりなんだよ。矎しくお、匷くお、優しくお  男奜きで、たたにむラむラするけど、倪陜みたいな人。たぶしすぎお  ちょっず逃げ出しちゃいたした。私に玠敵な感情を沢山くれたした。でも、あの方の埌は継げそうもありたせん。才がないのです。そしお、それがないこずで奜きになった男性も倱いそうです。もう、どうしたらいいか分からないです  。」

スゥヌ。ホペホペ。
スゥヌ。ホペホペ。


「倧䞈倫さ。諊めるにはただ早いよ。」

「泰心。どうしお  。」

「君に倧事なこずを話そうず思っお。気を倱っおいるずきに、色々ず思い出したよ。なぜ、ミモザず君に無意識ず惹かれるのかも分かったんだ  。俺ず君はここで䞀床䌚っおいる。君の心臓の音、俺の本圓の才胜が共鳎したから分かるんだ。安っぜい蚀葉だず、フィヌリングっおいうのかな。俺は䞀幎前の成人の日に、この湖の前で死んだのさ。そのずき、君が救い䞊げおくれたのさ。」

「泰心。ごめんね  。䜕を蚀っおいるか、党然分からないよ  。ごめんね  涙が止たらない  。」

「倧䞈倫。あのずき、玄束したから憶えおいる。蟛い蚘憶だから魔術で消したんだ。感情は消えなかったようだけど。蟛い思いさせお、ごめんね。桜、手を出しお。これでもう楜になるから。預かっおいた才胜を、あなたにお返ししたす。」

 状況が党然分からない。ただ、泰心の手をずっおはいけないこずは本胜的に分かった。神様、なぜい぀も私を地獄に萜ずすの。私は王家ではなく、普通の家庭に子どもに生たれたかった。

「ダメ。泰心。才胜なんかいらないよ  その力はあなたにあげるわ。だから、生きおよ。」

「ありがずう、桜。でもダメです。これがないず、あなたが死にたす。本来、切り離しおいけない力です。圓時のあなたは運呜に抗っお、初めお䌚った少幎のために犁術を斜したした。あなたは本来、魔導士ずなるべくしお生たれた存圚。だから、これたでに散った倚くの魂を救枈するために、この手をずっおください。」

「無理だよ。倧切な䞀人の呜を捚おお、知らない倚数の呜を救えずいうの  。」

「そうです。倧䞈倫。俺もその倚数に入っおいたすから  。だっお、あなたは  あのずき、知らない魂を救っおくれたでしょう。あのずきず同じですよ。」

 フロスト・グレむの霧が䞀面に広がり、すべおのものを灰色に染めおいく。私の心も。
 頬を流れる灰色の雫は止たらない、溜たった雫は鏡の氎底の色圩を倉化させおいく。私は動けなかった  。アクア・マリンの瞳は、りルトラマリン、ラピスラズリに倉化する。茝きを増す瞳を前にしお、私は指䞀぀動かせない。そしお、私は叫ぶ。

「だめ  。だめだよ  。泰心。」

「ごめんなさい。桜。ミモザに犁術を䜿わないず蚀いたしたが、玄束を砎りたす。これが預かっおいた、あなたの本圓の力です。『四季圩しきさい』の力に愛される魂に救枈を、そしお祝犏を  。短い人生でしたが  桜。あなたに䌚えお本圓に幞せでした  。さよなら。」


 オヌロ・ノェネツィアヌノの瞳ず、ラピスラズリの瞳は最短距離を結ぶ。二぀の舌で、䞀぀の珈琲の銙りをゆっくりず味わいながら。走銬灯の奏でる音に合わせお  マンデリンの銙りを楜しんで。

 二぀の心臓の錓動は、やがお䞀぀に溶けおいく。灰色溶かす、癜銀の颚ずなっお。颚は倩空ぞず䞊がり、癜銀はい぀しか「銀河」ず呌ばれるようになった  。

 䞀幎に䞀床の奇跡を噛み締めお、䞀幎に䞀床の軌跡に想い寄せお、私は空を芋䞊げる。届きそうで届かない手を芋぀めお、心臓ず瞳に宿る最短距離を芋぀めお、私は矛盟を秘めた四季圩を愛する。


「桜。ようやく䞀぀になれたようだな。」

「ミモザ。苊しいよ  。泰心に䌚いたいよ。」

「桜。その心臓では満足出来ないのか。」

「ミモザみたい倧人じゃないから  。あの人に觊れたいの。声が聞きたい。四季圩の力もいらないし、魔導士にもなりなくないよ。」


ミモザは倧声で笑い出す。涙を浮かべ、少女のようにゲラゲラず音を立おる。我が子を芋぀める黄金の瞳は、枩かい。

銀河から差し蟌む僅かな光は、倩䜿の梯子ずなっお鏡の氎底を照らす。
氎面みなもはラピスラズリの茝きを攟ち、霧を䞀瞬でかき消す。

懐かしい声が聞こえる  。


「ミモザ。ギリギリだったぞ。生きおいるずいうこずは、俺にもただ魔術垫の才胜があるずいうこずか。」

「勿論だ。元々わしは、四季圩の力ずは別に貎様の才を認めおいる。そなたも、新しい力を肌で感じおいるのだろう。」

「ちょっず埅っおよ。泰心の心臓は  。」

「勿論。わしの分を半分枡した。お前のような未熟者ず違っお、わしは倩才だからな。寿呜はきっちり半分ず぀にした。そういえば、さっき恥ずかしい詩を読んでいたみたいだが  。これで、織姫おりひめの座はわしのものだな。瞳の色はお前ず䞀緒だし、ラピスラズリを貰い受けるぞ。」

「なんで詩の知っおいるのよ。この倉態魔導士。ミモザ、絶察にラピスラズリは枡さないんだから。」

「お二人ずも、䜕の話をしおいるんですか  。ちょっず怖いです。あず、ラピスラズリっお䜕ですか。」

「泰心、うるさい。」 「貎様は、黙っおいろ。」


い぀も幞せを噛み締めお  。
やっず出䌚えた幞せを噛みしめお。

目を閉じお、ゆっくりず深呌吞をする。

吹き抜ける颚を肌感じ、耳で音を感じる。
吹き抜ける颚の銙りを錻ず舌で感じる。

黒いキャンバスが癜ぞず倉わる。
癜は色圩を垯びおいく。
色圩は倉化し、私の心ずなっお広がる。

ゆっくりず、目を開ける  。

すべおの空間に愛されたあなたを芋぀めお。
私はミモザの花のような笑顔を送る。


「おかえりなさい。四季圩の銙りは、お奜きですか。」


いいなず思ったら応揎しよう