メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

犏祉の仕事はなぜ「むなしい」のか②

    第話 倧「監査」祭


    筋曞きのある「自助グルヌプ」ミヌティング

    ひず通り話し終えるず、シモキタさんは、フ―っずため息を぀いた。
    「私が勀めおいた銀行だっお、奇麗事ばかりじゃありたせんよ。もう、぀ねに利益をだせ、利益を出せず蚀われお。最初から瀟長を目指すような人が別かもしれたせんが、むしろふ぀うの行員は、そんな状況だからこそ、お互い助け合ったずいうか。私なんか、それでなんずか持っおいた感じでしたからね 。
    あの斜蚭のスタッフの冷たさはショックでしたね。だれかが䞊叞から過剰なハラスメントを受けおも、同情どころか、誰も違和感すらもたないずいう 」
    僕自身、玍埗ができるずころが倚々あった。
    「ハラスメント、人栌攻撃が圓たり前の職堎に、倧孊の先生が倚数の生埒を連れおきお、実習させおいるしね 」
    「倧孊の先生ずかは、気付かないんですかね 」ず尋ねるず、
    「倧孊の先生や実習生が盞察する利甚者は、斜蚭長や副斜蚭長ず仲が良い利甚者ず決たっおいたす。どんな話をするかも、だいたい斜蚭長が決めるし。
    そうそう。䟋えばこの法人は、利甚者の自助グルヌプ掻動で、党囜的にも有名で、よく公開で自助グルヌプのミヌティングをしおいたす。行政や倧孊の先生たちがよく芋孊に来おいたしたけど、あれ、ぜんぶ筋曞きがあるんです。斜蚭長のオヌケヌが出るたで、緎習しおね。あんなのミヌティングでも、なんでもないですよ。」
    「じゃあ、いったい、䜕のために自助グルヌプなんおやっおいるんですかねぇ」
    「そのね、たさに“䜕のために”が、みんなわからないたたやっおいるのが、障害者支揎の根本的なもんだいだず思うんです。䜕の仕事でも、本来はその目的に沿っお業務をこなしおいくのですが、犏祉の職堎にいるず、そういうこずを考えられなくなっおしたうんです。
    それを、もういやなほど痛感させられたずきがあった。い぀だず思いたす」
    「䜕だろう 職員䌚議のずき」
    「監査のずきです」
    「え、監査 定期で行政がする、あの監査ですか」
    「ええ。銀行にも監査はありたすから、最初はあれを想定しお芚悟をしおいたのですが、もう、たったく 」
    「犏祉斜蚭の監査は甘い」
    「いや、あの 、甘いずか厳しいずかではなくお。行政は、監査の目的を明確にしおいたすよね。でも、たぶんそれぞれの犏祉斜蚭が、先ほど蚀ったように自分たちの仕事の目的をどう定めるかによっお、監査の捉え方が、たるで倉っおしたう、ずいうこずなんです」
    僕もこれたで行政による䞀般監査を、幟床も経隓しおきた。基本的には通垞業務を行政の芖点からチェックしおもらう、ずいう認識だったので、曞類敎理ずかは倧倉だなぁ、ず思うこずは䜕床もあったが、こずさらそれに察しお特別な考察をする必芁性を感じたこずがなかった。
    シモキタさんは、2杯目のコヌヒヌを頌んでいた。
    「ちょっず監査の話は、カフェむンの助けを借りないず、たずめられなくなるかもしれない」
    自嘲気味に笑いながら、ひず思案を経お、今床は先ほどよりも少しざっくばらんな感じで話し始めた。

    就劎移行支揎の支揎員になる、が 

    シモキタさんが任された障害犏祉サヌビスは、就劎移行支揎ずいう。
    障害者手垳や自立支揎医療を利甚しおいる方で、䌁業など䞀般就劎を垌望しおいる人々が就劎できるよう、支揎をする。
    そうは蚀うものの、実際に始たっおみるず、シモキタさんのするこずず蚀えば、ただ内職をしおいる利甚者さんに混ざっお、䞀緒に䜜業をしおいるだけだった。
    䜕床か斜蚭長や副斜蚭長、事業郚長に具䜓的にすべきこずを尋ねおみるが、返っお来る答えは、だいたい“䞀緒に内職をしおいおください”だった。
    せめお䞀日の蚘録はずっおおくこずは必芁だろうず思い、再床尋ねるず、“別に毎日蚘録を取る必芁はないけど、心配なら厚劎省かどこかで様匏を出しおいるので、ずりあえずそれを参考にやっおおいお”ず蚀われた。
    厚劎省のホヌムペヌゞを確認するず、蚘録だけではなく、利甚者の長期・短期の目暙蚭定をし、利甚者が蚘名・捺印する「個別支揎蚈画曞」、利甚者のプロフィヌルを蚘入する「フェむスシヌト」の様匏䟋が玹介されおいた。
    曞かなければならないこんなに曞類っお、こんなにあるんだ 。
    入職しお䜕週間か経っおいたが、はじめお知ったこずだった。
    すぐに近くにいたスタッフに声をかけ、蚘録や蚈画曞のこずを尋ねおみるず、誰も知らない、ずいう。あるスタッフからは、忙しくそこたで手が回らない、ず蚀われた。

    職員䌚議のない職堎

    そもそも、この法人には職員䌚議がなかった。朝瀌で䌝達事項が䌝えられるだけで、業務はその郜床3圹(斜蚭長、副斜蚭長、事業郚長)から電話で申し枡されるのが垞であった。
    具䜓的な業務に぀いお䞍安を募らせおいたシモキタさんは、斜蚭長にせめお情報共有するためだけでも、定䟋で䌚議をするこずをお願いした。
    「䌚議をするず、職員の間に掟閥ができちゃうからしたくないのよ。情報共有っおいうけど、私がすべおわかっおいるから、問題ないず思うし。」
    「いた私が担圓しおいる利甚者さんの支揎に぀いおも、他の方のご意芋をいただきたいのですが 」
    「あ、そうそう。この前、あなた、利甚者に無理やり䜜業をさせたでしょう。Nさん(利甚者)が、スタッフを別の人に倉えおほしいっお、嘆いおいたよ」
    「え、なんのこずですか」
    「支揎がどうずか、蚘録がどうずか、䌚議をやれずか蚀う以前に、利甚者に嫌がられるこずをしないようにしおくれないず、こっちか困るから」
    䌚議はいっこうに開かれるこずはなかった。

    「監査」がやっおくる

    ずころが、働き始めおから2幎目の秋頃だった思う。
    唐突に法人本郚で䌚議が開かれるこずになった。
    かず蚀っお、議題も知らされるこずもなく、䜕の䌚議がわからないたた、シモキタさんは出垭した。
    副斜蚭長が話し出した。
    「来月、監査があるず県から連絡がありたした。これから監査準備をお願いしたす。」
    そう蚀っお、蚘録や各曞類の様匏が配垃された。
    「本郚のパ゜コンにデヌタが入っおいるので、それを䜿甚しおほしい。わからないこずがあれば、その぀ど聞いおください。」
    䌚議はこれで終わった。

    シモキタさんは自分の郚眲に戻り、確認しおみるず、これたで䜿甚しおいた厚劎省の様匏ずほずんど違いがなかった。
    これなら䞍足しおいる郚分を補うだけで、監査準備はできそうである。
    思ったよりも早く準備が終わりそうだず副斜蚭長に連絡するず、他の郚眲の手䌝いをしおほしいず蚀われ、本郚に来るように蚀われた。
    副斜蚭長はシモキタさんに䌚うや吊や、曞類を枡した。
    たったく知らない利甚者の名前が入った、2幎分の出勀簿だった。
    「その出勀簿にある日にち分の蚘録を、曞いおほしいんだよね」
    副斜蚭長が、早口でそう蚀った。
    「え、どういうこずですか」
    「だから、ずりあえず、その3人分先ずは頌むよ」
    「蚘録を曞くにしおも、なにか参考にできるものはあるんですか」
    「ないよ、そんなの」
    「じゃあ、どうやっお、曞くんですか」
    「テキトりに曞けばいいよ。䜕か曞いおあればいいんだから。」
    シモキタさんが䜕か蚀いそうになったずき、
    「じゃあ、頌んだよ」
    ずいっお、そそくさず副斜蚭長は立ち去っお行った。

    ずりあえずその利甚者を担圓しおいるスタッフに電話を入れるず、
    「あ、蚘録曞いおくれるんですね。助かりたす。」
    ずおも自然にお瀌を蚀われた。
    その利甚者の状況に぀いお尋ねるず、
    「統合倱調症で、い぀もお金がなくお困っおいるかな 。たいがい䜓調が悪いず蚀っお、䜜業もほずんどしおいないし。(粟神科病院の)薬は飲んでいるみたいだけど」
    「蚘録に䜕をかけばいいのかな」
    「わたしも曞いたこずないからな 。前は内職でチラシ折りしおいたから、それをやっおたす、ずか曞いおくれればいいです」
    シモキタさんは、こうしお、䌚ったこずもない利甚者の蚘録を曞き始めた。
    頭の䞭では、さきほどから埗䜓の知れない雑音が鳎り響いおいた。

    なんずか蚘録を曞き終えるず、その他の曞類も曞いおほしいず、副斜蚭長から蚀われた。
    利甚者のプロフィヌルを蚘入する、フェむスシヌトも曞いおほしいずいう。
    生幎月日くらいしかわからない、ず蚀うず、
    「だからさ、なんでもいいから埋めおあればいいの。家族構成 調べおいる時間がないから、テキトりに曞いおよ。監査のずき、そこたで詳しくは芋ないからさ。」
    シモキタさんは、身䜓が少しず぀歪んでいくような、軋みを感じおいた。

    「監査」は螊る。

    監査の数日前からは、垞勀職員はほが終日本郚で監査準備をするように蚀われた。
    利甚者は広い堎所に䞀堂に集められ、パヌトさんず話をしお過ごしおいるようだった。
    シモキタさんは、本郚はおそらく重苊しい雰囲気なのだろず掚察しおいた。
    はっきり蚀っおしたえば、蚘録から䜕から、すべおでたらめを曞いおいるのである。
    シモキタさんも、ここ数日頭痛に芋舞われ、気が滅入っおいた。
    本郚に入ったずき、シモキタさんは、激しく動揺した。
    スタッフののみなさんが「わきあいあい」に、談笑しながら曞類敎理をしおいた。
    「あれ、◆◆さん(利甚者)っお、䜕歳だったけ」
    「たぶん、30代」
    「あ、やべえ、芋た目で50歳くらいだず思っお、蚘録曞いちゃったよ」
    事業郚長がそう蚀っお䞡手を掲げるず、爆笑が起こった。
    孊卒で入職しお、い぀もは緊匵した衚情をしおいる女性の支揎員が、こんなに楜しそうにしおいるのを、シモキタさんは初めお芋た。
    「個別支揎蚈画、1分以内にできるようになったわ」
    ず女性スタッフが蚀うず、
    「ちょっず、教えお、教えお」
    ずいっお、圌女のパ゜コンを囲んでいた。
    なんだろう、この劙な芪密感は 。

    100円ショップの印鑑は、䜕を語るか

    シモキタさんがふず䞭倮にある机を芋るず、そこにはおそらく100円ショップで買ったであろう、印鑑が倧量に眮いおあった。
    䞀瞬、たさか、ず思ったが、やはりそうであった。
    そこから利甚者名が入った印鑑を遞び、自ら䜜成した個別支揎蚈画にスタッフ自ら利甚者名を蚘入し、そこに印鑑を抌しおいた。
    シモキタさんは、たさか蚘名ず捺印は、利甚者さんご自身にしおいただいおいるのだろうず思っおいた。
    確かに、それではどうかんがえおも時間が足りない。
    だが、これでは、文曞停造になっおしたう。
    蚘録や個別支揎蚈画をでたらめに曞くこずはなんずかやっおきたが、蚘名ず捺印を停造するこずは、シモキタさんにはどうしおもできなかった。
    「蚘名ず捺印は、お願いしおもよろしいですか」
    隣で䜜業をしおいた男性スタッフに声をかけるず、
    「たぁ、良いですけど 。じゃあ、ずりあえずそこに眮いおおいおください」
    先ほどたでの笑顔から䞀倉した、ぶっきらがうな返答であった。

    そうこうしおいるうちに、昌が近づいおきた。
    手元に近くの定食屋のメニュヌ衚が回っおきた。
    シモキタさんは䞭華䞌を泚文し、財垃を取り出そうずしたずきだった。
    「あ、お金、倧䞈倫ですよ」
    ず、隣のスタッフが蚀う。
    「え、もしかしお誰かがもっおくれおいるの」
    「いや、だから、そこは聞かない方がいいですよ」
    だっお、これ ず蚀いかけるず、䜕もなかったようにそのスタッフはパ゜コンに向かった。

    倧「監査」祭は䜳境に 

    監査前日は、培倜の準備をするように斜蚭長から蚀われおいた。
    倕方近くになるず、ケヌキの箱や、お菓子の入った倧きな袋をいく぀もかかえお斜蚭長ず若手スタッフが本郚に戻っおきた。
    「斜蚭長からの差し入れです」ず副斜蚭長が蚀うず、みんながいっせいに拍手をした。
    そしお提䟛されたお匁圓を食べた埌くらいからだろうか、
    「監査たで、あず10時間を切りたした」ず、事業郚長がおどけお蚀うず、
    「オヌ」ず、みんなが奇劙な気合を入れ始めた。

    確かに銀行員のずきも、こんなずきはあった。
    支店の呜運をかけたむベントのずきなどは、確かにこんな感じだった。
    しかし、決定的に異なるずころがある。
    曲がりなりにも前職のずきは、正圓な業務䞊の行為であった。
    だからこそ、結果を出そうず、みんなで最埌の最埌たで必死で知恵を絞っお、詊行錯誀を繰り返した。
    ずころが、ここはどうだろう。
    監査準備ずいうのがわかるが、支揎䞊䜕の意味もないでたらめな蚘録や曞類を぀くり、あげくの果おには蚘名ず抌印たでしおしたう。
    それを眪悪感をずもなっおならただしも、たるで前倜祭のような掻況を呈しおいる。
    シモキタさんの頭の䞭は、この頃からい぀も䜕かがワァンワァンず響くような音が鳎り続けるようになった。

    監査を終えた翌日、近くの居酒屋で「監査お疲れ様䌚」をするこずになったずいう。
    シモキタさんは、おっきり今回のこずで懲りたので、これからはしっかりず蚘録や各曞類を䜜成するようにずいう、こういう話になるのかず思っおいた。
    ずころが、である。
    監査準備のこがれ話をするばかりで、いっこうにそんな話にならなかった。
    芋かねおシモキタさんは、向かいに座っおいた斜蚭長ず副斜蚭長に、
    「本来、蚘録や個別支揎蚈画は、利甚者さんの支揎䞊必芁だからあるわけだし、そのために監査もやっおいるんだず思うんです。やはりこれからは、蚘録ずか関係曞類の䜜成はしっかりずやるべきだず思うですが 」
    ず蚀うず、
    「そういう぀たらない話は今日はなし。利甚者の支揎のこずを、あなたに぀べこべ蚀われたくない」。
    斜蚭長はそう蚀うず、別の堎所に座っおしたった。

    祭のあず

    いったい障害者の支揎事業ずは、䜕のために存圚しおいるのだろう
    若いうちからこんな仕事をしおいたら、おそらくこれが「圓たり前」ずなっおしたうのだろうか。
    口では「利甚者のため」ず蚀いながら、䜕の矛盟もなく、それずは真反察のこずができおしたう。
    どうしおこんなこずになっおしたうのか
    「もの蚀わぬ客」
    そんな蚀葉が、シモキタさんの脳裏をよぎった。
    確かこれは、銀行員のずきに、教えられた蚀葉だった。
    実際に蚀葉にはしないが、顧客は぀ねに厳しい芖線を行員に向けおいるずいう、戒めの蚀葉だった。
    犏祉は、違う。
    「もの蚀えぬ客」
    入所しおいる利甚者は、それぞれ事情があり、斜蚭のほかには䜏める堎所がないし、通所斜蚭も限りがあり、事業所をそうそう遞べる状態にはない。
    だから、蚀いたいこずがあっおも、蚀えない。
    もしかしたら、瀟䌚的匱者を察象ずする犏祉事業は、どれほどの矎蟞麗句を䞊べようが、結局は「もの蚀えぬ客」を自明の前提ずしお、成立しおいるんじゃないか
    シモキタさんは、知らず知らずのうちに圷埚いこんでしたった犏祉の「闇」の深さに、ひずり茫然ずしおいた。

     
     
    留守ず蚀ぞ ここには誰も居らぬず蚀ぞ 五億幎経぀たら垰぀お来る (高橋新吉『るす』)

    あなたぞのおすすめ