メインコンテンツへスキップ
見出し画像

心に蘇る50年前の英国・欧州 【あとがき】

     列車で移動し、ユースホステルを泊まり歩くような個人旅行の魅力は、予期しない出来事との遭遇や、様々な人たちとの出会いにある。もちろん、無理をし過ぎて怪我をしたり、取り返しのつかない事態になったりすると困るのだが、安全と思われる範囲で海外を歩き回った経験は、私の視野を広げ、様々な状況に柔軟に対応できる力を育んだと思う。

     海外旅行も飛行機に乗るのも、このときが初めてだった。しかも一人旅だった。学生の身分で1か月間も英国・欧州を旅行し、スコットランドではレンタカーで自由に走り回り、ミュンヘンからもレンタカーでアウトバーンを通ってウィーンへ移動するなど、当時の私はかなり大胆だったと思う。それから50年以上が過ぎたが、あのとき以来、このような大胆な旅はしてない。

     レマン湖の遊覧船に乗ってシヨン城を眺めていた時、ふとロンドンでお世話になった松本さん一家に手紙を書こうと思い立った。船のエンジンの振動が伝わる小テーブルの上でペンを走らせるうち、筆がどんどん進み、英国を離れてから訪れた西ヨーロッパ各地の旅の記憶や感想が文字になっていった。最初はレター用紙に数枚の手紙を書くつもりだったが、書いているうち、次第にそれは日記のようなものになっていった。最初の4枚は遊覧船の中で、5枚目から13枚目はパリのホテルで、14枚目から17枚目は帰りの飛行機の中で、そして18枚目以降は帰宅後に書き継いだ。最終的にはレター用紙で25枚、文字数にして1万字ほどになった。

     それからおよそ50年が過ぎ、終活の一環として古い書類を整理していたある日、この「旅の日記」が出てきた。少し黄ばんだレター用紙を一枚一枚めくると、その頃の記憶が徐々によみがえってきた。これをそのまま捨ててしまうのは惜しいと思い、せめてデジタル化して残そうと文書ファイルにまとめ始めた。最初は要点だけを抜き出して簡潔に記録しようと思ったが、キーボードを打つうち、さらに記憶がよみがえり、結果として、当時の旅をあらためてたどるような「もうひとつの旅」が始まった。そして、それがこの旅行記になった。

     2026年5月14日
                           中村やまと

    前回 第36回 帰国 - あふれる安堵感
    目次へ
    マガジンへ


     
     
    元ICTエンジニアです。大学で英語講師をしたこともあります。リタイヤ後は自宅修繕、マイカー整備、家電修理などのDIYをする一方、保有する書類やアナログコンテンツ(写真、音楽、ビデオ)のデジタル化保存を進めています。また過去の体験を文字にして、多くの人に読んでもらいたいと思います。

    あなたへのおすすめ