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Photo bylectin

『IRIS OUT』

     最近、人生で初めおこんな絶望をした。

    「私は、歌が䞋手だ」

    ず。

    「私っお歌うたいよな」

    己の珠なるべきを半ば信ずる

     アニメの声真䌌をしお、話しおみんなが笑うのが楜しかった。子どものころは『クレペンしんちゃん』のオヌプニングをカラオケでしんのすけよろしく歌い、芪にたいぞん枋い衚情をさせた芚えがある。
     モスラの歌をテレビのなかにいる小さなお姉さんたちのように歌いたいず思っおいたこずも芚えおいるし、『眠れる森の矎女』のオヌロラ姫が動物たちず歌うハミングだけの歌も楜しそうだからず䜕床も自分でハミングした芚えがある。
     『リトル・マヌメむド』に至っおはアリ゚ルが足ず声を匕き換えにするのを「銬っ鹿じゃないの」ず憀慚しながら、その歌を真䌌しお緎習するこずにも䜙念がなかった。

     そうしおいくうちに、歌を歌えばほめられるようになった。
     人ず歌えば「うたいね」「声出おるね」ず声を掛けられ、䞀応称賛ずもずれる蚀葉をもらえば、自然ず成長するのは自尊心。

    たあ、あたし歌うたいもんね

     あるずき、友人ず行ったカラオケではこんなこずを蚀われた。

    「あんたが歌うずさあ、死ぬずか楜しいずか本圓にそう思っおるみたいになるからたじこわい」

     やった、ず思った。

    己の珠に非ざるこずを惧れる

     䞀人で出かけるようになれば、暇さえあればカラオケ。
     䞀人でも行ったし友達ずも行った。倧抵「声出おるね」「うたいんだね」ず蚀われたたいい気分になるが、それでもあくたで『趣味ずしお』の範囲だずいう自芚くらいはあった。
     プロほどではない。だけど楜しんで歌うぶんにはうたいだろう。

     呚囲から特にほかのこずで耒められた芚えがなかった私は、歌えばそれなりの誉め蚀葉がもらえる状況にいい気になっお、テレビのカラオケ倧䌚やそういった番組を芋れば「あ、うたいじゃヌん」などず批評家よろしくコメントするようになっおいった。
     ただし、自宅だけで。

     䞀぀だけ、ようやく最近匕っかかった蚘憶がある。
     効が結婚匏をやるず聞かされたずき、私は圓時流行っおいた『Butterfly』を詊しにカラオケで歌っお、録音しおみた。もし䞊手ければ、ちず䜙興ずしお提案しおやるかず思ったのだ。
     家に垰っおその録音を聎き、自分で思ったのはこうだ。

    これは䜙興で歌えないな

     この時点で䜕かがおかしい。おたえは歌がうたいんじゃないのかず突っ蟌みたくなるが、このずきは実際に曲を芚えずに歌いに行ったずいうせいもあっおか、そのたたこの䞍郜合な事実は蚘憶から葬り去られおしたった。
     ひず぀だけ感心するのは、そこで「これは出せない」ずゞャッゞしたこずか。

    時間を倱い、自分を芋倱い、芋えたもの

    トロむメラむ

     そのうち結婚しお、気づけば子䟛は人もいた。子どもが生たれおからは、たるきり歌えなくなった。歌えないだけなら、ただ仕方ない。やっおみたい勉匷も、読曞も、ほずんどが手を぀けられない。
     䞀日の時間の䞭で家族のこずを考える時間は増え、自分のこずを考える時間は枛っおいく。䞀人目の子どものずきに曞いおいた日蚘は、䞉人、四人目にはほが曞けなかった。
     子どもを育おるのにお金が必芁で、そのために自分は䜕をすればいいのか、そんな即物的なこずしか考えるこずができない。それすら、あれはできない、これもできないず頭を過ぎるにずどたり、無力感ず䞀皮の絶望感に䌌た䜕かは感じおいた。

     友達にも䌚えず、芋たい映画も芋られず、䌝えたいこずは盞手によっお断片的にしか䌝えられない。盞手によっおフレヌムをずらしおいくうちに、茪郭がだんだんがんやりしおいくような気がした。
     ああ子育おの孀独っおこういうや぀なのねず冷静な郚分は刀断を䞋すけど、刀断ができるだけで茪郭がずれた感芚が薄れるわけでもなく。

     そんなある日。せめおも英語の勉匷のふりくらいはできるかもしれないず幎くらい前から始めたYoutubeを聞いおいた。おすすめの動画が画面に衚瀺され、「ぞヌこの人この歌歌うんだヌ」ず気になっお再生ボタンを抌し、家事を始めようずした。

    『IRIS OUT』

    だが、歌声を聞くなり「ん」ず手が止たった。

     初めお聎いたずき、実はただ本家本元である米接玄垫さん歌唱の『IRIS OUT』はただ聎いおいなかった。
     なんだこれなんだこれ、ず䜕床かリピヌトしお聎き返し、そのたた米接玄垫さんの歌唱を聎きに行く。子どもたちも『パプリカ』でお䞖話になったあの聞き芚えのある声の歌唱。たさに米接。

     でも違う。おそらくこのゞョヌ・力䞀ずいうVtuberさんなりの厩し方をしおいるのだろうけど、米接玄垫の歌唱から厩れきっおいるわけでもない。

     うたい。なんでだ。

     それから、時間を芋぀けおはこのVtuberさんの歌唱を聎き、関連で出おきたほかのVtuberや歌手の「歌がうたい」ず評されおいる動画も聎いた。

    誰も寝おはならぬ

     むさがるように聎き続けお頭に浮かんだのは匷烈な欲求。

    歌いたい

     録音できるカラオケのアカりントを䜜り、幞いにしお近所にあったカラオケ屋に分だけ駆け蟌み、曲ほど急いで歌った。特に昔ず倉わった感じはなかった。䞍幞䞭の幞いは、昔よりは声が出おいたような気がしたこずだった。
     垰宅し、やはり育児ず家事の隙間や子どもが寝静たった倜間に録音した歌を聎いた。

    こんなに䞋手だった

     いくら聎いおも、あの『IRIS OUT』やほかのうたいず思った歌には遠く及ばない。
     かすれた声。匵り䞊げお倧きいだけのロングトヌン。どこでなにをやっおいるのかわからない各皮テクニック。
     録音したどの歌を聎いおも同じだった。

     歌っおいたずきの感芚ずしおは、むしろ昔よりうたくなっおいるはずだった。実際、結婚するより前から歌っおいた歌の、出せなかった高音が出せるようになっおいたりもしたし、ロングトヌンも昔より息が続いおいるず思った。

     それでも、『IRIS OUT』を聎いた埌の自分の歌の評䟡は「䞋手」

     遠く及ばない、そう思った。

    過倧評䟡

    「私は、歌が䞋手だ」

     気が付いた瞬間、ふっず腑に萜ちた。
     なんでこの『IRIS OUT』に匕っかかったのか。
     たぶん、私がか぀おやりたかった歌を、歌っおいたからだ。

     自分の解釈で、人の気持ちを動かしたかった。

    死ぬずか楜しいずか、ほんずうにそう思っおそうでこわい

     そう蚀われたずき、感じた高揚感があった。
     うたいんだもん、ずいう自分の喉に、それができるだけの力はあったのか

     人生で、自分の感情の手綱が握れないような気持ちになったのは初めおだった。
     唯䞀、絶察自信を持っおいたものだったから。
     子育おしおおも、錻歌や、お颚呂のわずかな時間しか歌えなくおも「だっおわたし歌うたいしね」ず、きっずい぀か人前で堂々ず歌えるだろうず、恥ずかしくない歌唱ができるず思っおいたのに。
     䞀床も揺らいだこずがなかったのに。

     それなのに、そのずき瓊解した。

     絶望したこずがないわけではなかったけど、この、感情の振れ幅が制埡できないような感芚は手に負えない。泣けば、少しは楜になるはず。それを自分で知っおいるのに、泣き叫ぶこずもできなかった。今は倜䞭で、近くで子どもが寝おいる寝息を聞きながら、䞀人で咜び泣くので粟䞀杯。誰かの面倒を芋なければいけない状況ではなかったのだけが救いだった。

     タオルで顔を芆っお、垃団にう぀ぶせになっお、ずにかく動かないで、暎れだしそうになるのを必死で抑えお。息が぀らかったけど、幞い過呌吞の察凊法は知っおいたので萜ち着くこずだけを考えながら、しずどに涙ずよだれでタオルを濡らした。

     タガが倖れる、ずいうのか。ひずしきり咜び泣いお、どこかで泣き止んだのだろうが、そのあずも頭はうたく回らなかった。

    䜕もない壁

     それからか月ほど、うたく思考が敎理できなかった。毎日の生掻は倉わり映えもないので、頭があたり動いおいなくおもこなしおいたが、正盎、ほずんどがんやりしおいお子どもの甚事や持ち物を䜕床も忘れかけた。

     なぜか「Vtuberになればお金も入るし歌も歌えるんじゃない」ずいう䞀番珟実味のない考えに䞀週間ほど染たっおしたったこずもある。
     ただひたすら曲を聎いおいた時期もあった。

     このずきは、䞀番ひどいずきは鬱䞀歩手前たで远い詰められおいたず思う。それでも、歌を聞くのはやめられず、聞けば远い詰められるのに、歌に救われ続けるずいう正真正銘の矛盟の䞭にいた。

    「うたい  」

     がんやり感想を述べお、思い浮ぶのは

    歌いたい

     思い出したのは、昔から自分の歌唱を冷静に芋返したこずないなぁ。ずいうこずだ。「どうしお録音するず䞋手に聞こえるんだろう」ずいう「聞こえ」のほうに䜕故か責任転嫁しお、実際に自分がどううたいのかずいう芖点が抜け萜ちおいたような気がする。

     音皋がぶれる。
     声が支えられおいない。
     口が開いおいない。
     のどが絞たっおいる。

     録音を聞けば聞くほど、うたくできおいるこずもあるができおいないずころがあっお、それを行き来させおいる匱点が聞こえおくる。

    倩才前倜

     自分でも䞍思議だった。
     ああいう歌い方をしたい。ほかのうたいず思った歌唱のように、堂々ず歌えるようになりたいず気持ちが舵を切っおから、䜓の䜿い方すら倉わった。

     億劫だった、背筋をスッず䌞ばしお食事をする。猫背になったず気づけば、しゃんず䌞ばそうず姿勢を正す。䞀日に䜕床だっお盎した。誰かに蚀われたわけではない。
     家事の隙間で、のどの奥で響かせるようにハミングする。うるさくならないように、䜜業を邪魔しない皋床に。たたにいく぀か、歌いたいず思った曲を聞きながら歌詞を芚える。

     カラオケで採点機胜を䜿っお、初めお点超えを続けお出せたずきは、正盎ほっずしたが、「ただか」ずいう気持ちに匕き締たる。それたでは点代は特定の埗意な歌しか出したこずもなかった。

     あんなにがたがたに厩れたのに、敎っおくるのもたた歌のせい。

     倚分、なにしおおも歌いたいんだろうな。
     歌うのが奜きなんだろうな。
     人に聎かせたいんだろうな。

     子どもが歌をせがんできお、子䟛番組の歌を歌えば、子どもたちがにこにこ呚りに寄っおくる。
    「ママ、もっかい」
    「䜕がいい ママが歌えるや぀ね」
    「きめ぀」
    「ごめんただ歌詞党郚芚えおない」

     それでもいいかず思いながら、これだけ、は嫌だ、ず匷く思う。

    『レむテストショヌマン』

     さんざん悩んで吹っ切れたのは、「うたくなりたいなら、うたくなればいいのか」ず思えたからだった。

    さあ、䜕ができるか もがいおごらん
    アブラカタブラ

    ゞョヌ・力䞀『レむテストショヌマン』

     叩きのめされた盞手に励たされるずいうのもなかなか面癜かった。本人の歌唱を聞いおいたら出おきた曲の䞀節だった。

    「䜕ができるか」ず聞かれれば、歌が䞋手な自分はもううたくなるよりほかはないかなあ、ず、すっず思えた。
     結局、叩きのめされた埌の自分はうたい人の歌唱を聞き、家事育児の隙間時間に突然トレヌニングを始め、ふらふらカラオケに行っおああでもないこうでもないず歌っおいた。

     よく「やりたいこずは口に出すのがよい」ずいうが、今自分が口に出せるのはこのくらいだず思う。

    「人前で歌う機䌚で、心を動かせるだけの声で歌えたすように」

     そんなものは倧勢が願っおいるこずだろう。
     そもそも、口に出しおこなかったのが自分だずようやく気付いた。

     いずれ倜の女王のアリアずかも歌いたいずか思い始めたした。
     いやちょっずは歌えるんだけど、歌詞だけ耳コピで、ドむツ語芚えないず。

    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門


     
     
    春芋です。 いろいろ曞きたいけどなかなか完成させられない。 蚘事アップ千本ノックずかやっおみたいけどこだわりすぎる性分です。

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