
ひとりごはんが、好きすぎる。
うちは今、
夫とは別々に、時間をずらして食べている。
そのほうが、ちゃんと味がするから。
なかでも水曜と土曜は、夫が外で食べる日。
だから家には、ほんまに私ひとり。
誰のためでもなく、 自分のためだけに
ひとりの食卓を、ととのえる。
お気に入りのプレイリストジャンルは、その時の気分で 。
窓の外は、うっすら暗い。
今夜のメニューは、
ささみの湯引きサラダ。
きゅうり、セロリ、トマト。
さっと湯引きしたささみは、食べやすく手で割いて。
ささみの茹で汁は、いいお出汁が出ているから
味噌汁かスープように置いておこう。
(ほんと、使い勝手いいよ!)
バジルビネガーとマヨネーズで、さっぱりと和えて、出来上がり〜。

特別なものは、なにもない。
昨日買ってあったササミと冷蔵庫にある野菜で、ささっと作っただけ。
やっぱりお気に入りの野菜があると、安心だな。
大きなスプーンでボウルからすくって、
小さな絵付けのお皿に、ちょこんと盛る。
誰に見せるわけでもないのに、 真ん中が高くなるように
きれいに盛りたくなる。

お酒を片手に、ゆっくり食べる。
急かす人は、いない。
時計も、気にしなくていい。
スマホも、見ない。
ただ、食べることだけを、している。
ささみとセロリ、きゅうりを絡ませて、ひと口。
しゃりしゃり、ほろりと、口の中で幸せが広がる。
うん。バジルビネガーの風味、いいな。
マヨネーズとの相性もいい。ぜんぶをやさしくまとめてくれてる。
ひんやり、さっぱり。
夜の体に、すうっとしみていく。
食べながら、ふと気づいた。
あれ?ささみが入ると、 サラダが水っぽくならへんな。
なんでかな?
野菜だけだと、時間が経つにつれ
どうしても水分が出て、味がぼやけてしまう。
でも、ささみが居てくれると、
野菜の水分と、ささみの旨みが合わさって、スープのような味わいになるんかもな〜。
——ささやかな発見。 こういうのが、地味に、うれしい。
部屋が静かだから、 自分の噛む音だけが、聞こえる。
頭の中がすっきりとしてくるのがわかる。
急いで食べる必要も、どこにもない。
だから、ひと口ごとに、 噛んで、味わって、また次はお酒を含む。
——そして、ひと口ごとに、ひと飲みごとに
口元をそっと拭いてみた。
拭った瞬間、ふっと、何かが新しくなった。
口元がきれいになると、 まわりの空気まで、すぅ〜っとリセットされていく。 また一から、まっさらな気持ちで、次のひと口に向かえる。
ビネガーの酸味が、口の中をリセットするみたいに、
拭うことも、気分を、新しくしてくれる。
ふたつの新しさが、そっと重なっていく。
すごいな・・・。
その感覚が、なんだか初めてで。
ほんの一瞬、ふっと立ち上がってきた、新しい感じ。
ほんま、こんな小さなことで、と思う。
でも、たしかに、新鮮で気持ちよかった。
この感じ、覚えておきたいな、って。
……ふと、平日のごはんを思い出した。
パートから帰ってきて、まずやることは、ビールを開けること。
ぷしゅっ、と。(笑)
もう何十年もの習慣で、 身体に、すっかり染みついてる。
ひと口飲んで、さあ、と台所に立つ。
飲みながら、夫の分の夕飯をととのえる。
その時だけは、ちょっと、時計を気にしてる。
でも、片手にはちゃんと、ビール。(笑)
「ごはんできたよ」と階下から呼ぶ。 夫が、2階から降りてくる。
ダイニングテーブルには、夫ひとり分の、夜ごはん。
夫が席につくと、入れ替わりに、私は家事へ。
雨戸閉めたり、洗濯ものをたたんだり、あちこち動いて。
ひとめぐりして戻る頃には、 夫はもう食べ終えて、2階の部屋に帰っている。
——そして、やっと。
私の、晩酌タイムが始まる。
おなじ屋根の下で、 上と下に、時間がずれていく。
別々に食べるようにして、 ほんま、よかった。
そう思いながら、 ひと口ずつ、味わえる夜になった。
そして水曜と土曜は、 その夫も、家にいない。
家に、私ひとり。 空気ぜんぶが、私のもの。
しゃきっとした音も、じゅわっとした果汁も、
ぜんぶ、ちゃんと感じられる。
口元を拭いながら、西洋のナプキンを思い出した。
日本の食卓で育った私には、 ずっと、遠い世界の習慣だった。
子どもの頃は、 お上品に口元を押さえる仕草を、 ハンカチでふざけて真似して、笑ってたっけ。
あれは、憧れの、遠い遠い世界のものだった。
でも—— 今、私はそれを、ほんまにやってる。
ふざけてたあの仕草が、 いつのまにか、自分をいたわる所作になってた。
きっとこれは、お上品でも、ぜいたくでもなくて。
ただ、自分を心地よく保つための、小さな知恵。
小さなお皿に、きれいに盛ったのも、
水っぽくならないように、ささみを足したのも、
口元を、こまめに拭うのも、
たぶん、ぜんぶ、同じこと。
「丁寧に食べることは、 自分を、丁寧に扱うこと。」
ほんまは、どこかで思ってた。
別々に食べてるなんて、冷たいって思われるかな、って。
……でも、誰に?
まだ、誰かの目を気にしてる私が、いる。
でも
それも、ちょっとずつ手放していけたらいい。
ちゃんとしてなくていい。
ただ、自分のペースで。
好きなものを、好きと言いながら。
すこしずつ、自分に、還っていく。
今夜も、また新しく。
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梅を漬ける手も、遠くへ出かける足も、
たどっていくと同じところに繋がっている気がして。
そのことを書いたシリーズがあります。
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