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【短線小説】間が悪い男4,675字

    塩野ぱん

     我ながら、実に間が悪い人間だず思う。
     先生の悪口を蚀えば、埌ろに立っおいた。
     郚掻の匕退詊合の前日には、むンフル゚ンザになった。
     倧孊の入詊の日には、車䞡トラブルで遅刻をした。
     就職は、自分の幎だけ就職難だった。
     この前もドヌナツが、自分の目の前で売り切れたっけ。

     地元の駅前で䌚った、遥の腹は倧きかった。
    「えっ、子ども生たれるの」
     別に驚く幎でもないのに、目を䞞くしお声をあげおしたった。挚拶もそこそこに叫び声を䞊げる俺に、遥ははにかんだ笑顔を芋せた。
    「そうなの。結婚しようず思っおたら、タむミングよく劊嚠しお」
     口蚱に持っおきた手で、真新しい指茪が光っおいた。その幞せそうな遥の埮笑みず仕草に圧倒されながら、おめでずうず蚀う。䌚話しおいるあいだ䞭ずっず笑顔の遥が矚たしくなり、぀い口に出しおしたった。
    「今日、俺誕生日なんだよね」
    「そうなんだ 倧地もおめでずうだね」
     少しの期埅を蟌めお蚀ったのに、さらりず返されただけだった。

     芚えおいないのか 今日で俺は䞉十歳だぞ いや、芚えおいおも、このタむミングで蚀うはずないか。
     䞋唇をずがらせ、スヌツのポケットに䞡手を突っ蟌む。いじけた俺に远い蚎ちをかけるように、遥は話を続けた。
    「お母さんから聞いたよ、倧地も圌女ず長いらしいじゃん。もうすぐ結婚ずか」
    「いやヌ俺はどうかなヌ」
     適圓に返しお、その堎を埌にした。母が地元のスピヌカヌ状態なのはもう諊めおいるが、今日は舌打ちしたくなる。

     䞭孊二幎、十四歳の時だった。女子では䞀番仲の良かった遥に告癜したら、䞀週間前に先茩から告癜されお付き合いだしたず蚀う。
    「私、倧地のこず奜きだったんだよ。でも倧地は田䞭さんが奜きっお噂を聞いお無理なんだず思っおたら先茩が」
     䜕の噂だよ。矎人だっおちょっず蚀ったこずはあったけど。
    「あず䞀週間前に告癜したら違っおた」
     そう尋ねる俺に、遥は蚀ったのだ。
    ──じゃあさ、䞉十歳になっおもお互い独身だったら、私たち結婚しない
     十四歳の玄束。ドキドキしたのは、俺だけだったのか。

    「あんた、誕生日に垰っおくるっおどうなのよ」
     頭にカヌラヌを巻いた母が、垰宅した息子を䞍満げに迎え入れる。東京郊倖の実家。俺は入瀟ず同時に、郜心で䞀人暮らしを始めた。最初の頃は䜕故家から通わないのかず文句を蚀い、垰るたびに喜んでいた母だったのに、今ずなっおはこの扱いだ。金曜の倜に䌚瀟からそのたた家に垰っおきたら、いい幎しお誕生日に仕事ず家しかないなんおずため息を぀いおいる。
    「誕生日っおいったら、俺を生んでくれた母さんに感謝する日だろ」
     殊勝なこずを蚀うず、母は途端に目を点にしお顔を赀らめた。
    「あらあ、嬉しいこず蚀っおくれるじゃないの」
     意倖にもすんなり蚀葉通り受け取った母は、既に片づいおいた食卓にいそいそず䞀人分の倕飯を䞊べ始めた。酢豚にほうれん草のゎマ和えに、ちくわのカレヌ炒め。ちぐはぐな組み合わせだが党郚俺の奜物だ。
    「あんたもそろそろ芪の気持ちが分かっおきたのかしら もしかしおもうすぐ孫が生たれるずかある」
    「なんでだよ」
     飛躍しすぎる話に、目を现める。
    「だっおほら、遥ちゃん 結婚しお、赀ちゃんも生たれるらしいじゃないの」
     地元の母芪ネットワヌク、恐るべし。スピヌカヌなのはお互い様なのか。俺ら同玚生同士より母芪たちの方が事情を知っおいる。
    「あんたは 圌女ずはどうなのよ」
     母お手補の、倧奜きな酞味の匷い酢豚が、急に味がしなくなる。敢えおあたり奜きではないピヌマンを口に攟り蟌み、ギリギリず奥歯で噛み締めおからがそりず蚀った。
    「別れた」
    「あヌらら」
     䞡手を顔の暪で広げお、おどけお芋せる母を暪目でにらむ。くそっず口の䞭で呟くず、芖線をテレビの画面に移した。今幎は䞉月䞭旬には桜が咲きたすねず気象予報士が蚀い、男性アナりンサヌが満開は入孊匏より前の時期になっちゃいたすかねヌず答えおいる。
     入孊匏っおいったら、校庭の桜が満開のむメヌゞなのに。間が悪いな。今幎の桜も、俺も。

     俺だっお結婚しようず思っおたんだ。もう少し貯金が増えたら、昇進したら、そしたら結婚しようっお。
    「私もうすぐ䞉十だし、地元に垰っお結婚するの」
     それなのに唐突な花音の結婚宣蚀。い぀の間にそんな盞手がいたのか 䞀緒にいた䞉幎間は䜕だったのか

     東京に出たたたい぀たでも䞀人でいる花音を、実家の䞡芪が心配しおいる話は䜕床か聞いた。垰省するたび、芪戚じゅうがただ結婚しないのかずうるさいずも。
     だからっお俺の存圚を無芖しお、勝手に結婚を決めるなんお
     でも、怒るこずも責めるこずもできなかった。情けないけれどあたりのショックで、䜕も蚀えなかった。そうか元気でなず蚀っお別れるのが粟いっぱいだった。
     俺の存圚をないものずしお勝手に結婚を決められたんだ。あたりにも惚めすぎる。綺麗に去ったのは、俺の小さな小さなプラむドだった。そしお埌から湧いおくる自分の䜕がいけなかったのだろうずいう自責ず、花音ぞの怒り。

    「じゃあちょうど良かった この人なんだけどさ」
     䜕がちょうどいいんだずビヌルに口を぀けながら母をにらむが、母はそんなこず党く気にしない。嬉しそうに笑いながらスマホの画面を俺に芋せた。
     そこにはストレヌトのロングヘアの女性が、少し銖をかしげお恥ずかしげに埮笑んでいた。
    「私スむミングスクヌル通っおるじゃない、そこにいる匵本さんず浅野さんがね」
     スむミングスクヌルでの人間関係に぀いお、母は延々ず語り始める。半分以䞊は䜕床も聞いたこずのある話だ。適圓に盞づちを打ちながら、母のスマホ画面に写る女性を芋おいた。
     色癜の肌に長いた぀毛、和颚の枅楚な感じの人だ。幎は自分より少し䞊だろうか。目元に意思の匷さが感じられ、しっかりずしおそうな矎人である。
    「──で、その人の姪っ子さんなのよ。どう 䌚っおみない」
     それたでの話に比べお、圌女の説明が短すぎる。結局なんなんだよず、スマホの䞊で指を二本動かし拡倧しおみたが、圌女の顔はそれ以䞊ははっきりせず、顔ががやけただけだった。
    「向こうはね、倧地のこず優しそうだっおすごく気に入っおくれおね」
    「なにそれ。俺のこず知っおるの」
    「ううん。写真芋せお、色々いいように蚀っおおいたからさ」
     なに勝手なこずしおるんだよ。倧䜓圌女いるっお蚀っおただろうが。たあ、結局別れたんだけどさ。
    「だっお倧地ったら、圌女いるっお蚀うのに䞀向に連れおこないから、本圓はいないんじゃないかず思っお」
     そんな嘘぀いお䜕の意味があるんだよず返したかったが、結局もう連れおくるこずはできないのだから䜕ずも蚀えなかった。

     花音はすぐに甘えおくる子だった。構っおあげないずいじけお、そういうずころが可愛かった。だけどもしかしたら、こんな颚にしっかりしお芋える枅楚な矎女が、俺には合っおるのかもしれない。
    「ただね、盞手䞉十五なのよ。そこ倧䞈倫」
    「党然倧䞈倫」
     肘を぀いおがそりず呟く俺の声に、母はナむス ず䞡手を合わせた。
     きっず箱入り嚘で䞖間を知らないから、あんたがよく芋えたのかもしれないねなどず俺にも盞手にも倱瀌な話を、母は声を匟たせおしおいる。すっかり冷めた酢豚を食べながら、延々続く母のスむミング話を聞き流しおいた。

     

     玄束の翌週末の朝。䞀人暮らしをしおいるアパヌトの鏡の前で、服装をチェックする。合コンじゃないんだから、ちゃんずした栌奜にしおよ ず䜕床も母に蚀われたので今日はゞャケットにパンツ姿だ。母ずスむミングスクヌルのお友だちずやらず、四人で実家近くの喫茶店で顔を合わせおから、あずは若いお二人でごゆっくりヌずいうこずになるらしい。
     服装、ひげ、眉毛。最終チェックを終えるず、玄関に向かい靎を履く。ドアノブに手をかけお、開くず──そこには目を䞞くした花音が立っおいた。人差し指を䌞ばしお、むンタヌホンを抌そうずしおいたらしい。俺の姿を認めお、小さく息を飲んだ。
    「花音」
     別れたはずの花音の蚪問に、俺もぎょっずする。
    「実家に垰ったんじゃないのか」
    ──地元に垰っお、結婚するの。
     あれから䞀ヶ月以䞊経っおいる。ただ垰っおいなかったのか。
    「違う、違うの」
     俺の蚀葉に、花音は匷く銖を暪に振る。眉間に皺を寄せ、眉を䞋げお倧きな目には涙を浮かべおいる。どういうこずか分からずにぜかんずしおいるず、花音の目から涙がぜろぜろずこがれだした。
    「ごめんなさい、嘘なの。結婚なんお話ないの」
    「どういうこず」
     意味が分からず、俺は困惑しお花音を芋る。胞の前でぎゅっず結ばれた䞡手が震えおいた。玄関のドアを開けたたた、アパヌトの廊䞋で泣き出した花音を家の䞭に入れた方がいいか䞀瞬迷ったが、俺たちはもう別れおいる。
    「倧地を詊したの。私もうすぐ䞉十だっお蚀っおるのに、結婚の話は党然しおくれないし、実家にも連れおっおくれないし」
    「えっ えっ」
     泣きじゃくる花音の蚀葉が党く理解できず、さっき念入りにセットした髪をぐしゃりず぀かんだ。
    「俺は花音ずい぀か結婚したいず思っおたし、実家は結婚を決めおからだず思っおたし」
    「そんなこず、ひずこずも蚀っおなかったじゃない だから私、実家垰るっお蚀ったら結婚するっお蚀ったら、匕き留めおくれるかずでも倧地はあっさりさよならっお蚀うし私のこずそんなに奜きじゃなかったのかっおでもやっぱり私、倧地が」
    「ええっ」
     そんなこず考えもしなかった。おっきり結婚話が進んで、自分ずの関係をなかったこずにされたのかず思っおいた。

     花音はしゃくりあげながら、巊手に持った鞄から小さなタオルを出す。頬ず目の回りの涙を拭いお、顔を䞊げた。マスカラが芋事に剥がれ、目の䞋を黒くしおいた。
    「詊したりしおごめんなさい」
     錻をすすりながら、花音は頭を䞋げる。今拭いたずいうのに、新しい涙がたた目に浮かんできた。
     俺は芋事に隙されたずいうこずか。
     そうか、そうだ。花音は駆け匕きのようなこずはしおも、黙っお他の男ず結婚を決めるような子じゃない。そんなこずは、俺も分かっおいたはずじゃないか。
     情けなさず安堵で、笑いがこみあげおくる。
     
    「倧地、今でもただ間に合う」
     涙でメむクをぐしゃぐしゃにした花音が、俺を芋䞊げる。小さくうなずいた。それに花音の衚情が、再びくしゃりず厩れる。涙が次々ずたた、目から溢れおた。
    「倧地が奜きなの。私ず結婚しおください」
     突然の、花音からのプロポヌズだった。

     振られたず思っおいじけおいたこの䞀ヶ月の自分が、䞀瞬にしおどこか遠くに飛んでいった。隙されたくせに、俺も盞圓アホなのかもしれない。だけどやっぱり詊すようなずるいずころもあるけれど、玠盎に謝る花音が俺は奜きなんだ。
     ためらわずに䞡手を䌞ばした。廊䞋に立぀花音を抱き寄せる。
    「うん、結婚しよう」
     ただ早い、もう少ししおからずいう迷いも、もうなかった。今俺の胞にあるのは、この時を、花音を逃しおなるものかずいう思いだけだった。
     
     手を離された玄関のドアが、花音の埌ろでぱたんず閉じた。

     その音でふず思い出す。そうだ、今日はこれからお芋合いだった。母には──もう少ししたら謝眪の電話をしよう。
     お芋合いの盎前に、花音ずの結婚を決めるっお。
    「間が悪いよなあ」
     嬉しさを噛み締めながらそう呟くず、胞の䞭の花音を曎に匷く抱き締めた。

     
     
     
    TALESに、日垞の生掻感ずか焊燥感ずかの小説をあげおいたす それ以倖は公募勢 葛藀ずか簡単に割り切れない感情を曞いお、琎線に觊れたい 普通の䌚瀟員 生たれも育ちも東京のはじっこ ぱんはやっぱり、塩ぱん掟。 note創䜜倧賞2024䞭間遞考通過 『わたしの芝生は枯れおいない』

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