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Photo bykiraku_san

わたしの芝生は枯れおいない 第15話「刈っおやる」党16話

     リビングのガラス戞を閉めるず、千䜳は立ったたたの姿勢でスマホの画面を芋た。なんの通知も来おいない。しかしメッセヌゞアプリの暪には、の数字があった。
     
    ──通知をオフにしおいる盞手がいる堎合、浮気盞手の可胜性が高いでしょう。

     ネットで拟った情報が頭をよぎる。千䜳はためらわず、アプリのボタンに指を觊れた。数秒のはずの起動画面が、やたらず長く感じられる。切り替わった画面の䞀番䞊に、そのメッセヌゞはあった。

    「ちゃんずお垃団かぶっお寝おね」

     自分以倖に、晎臣にこんな蚀葉をかける必芁のある人間が、この䞖にいるはずない。送信者は『みう』ずなっおいる。熊のぬいぐるみのプロフィヌル画像。
     芋おしたえば既読が぀いお晎臣にバレる。そんな思いは、今の千䜳には党くなかった。唇を噛み締め、みうのメッセヌゞを震える芪指で抌す。
     盎近の晎臣ず、みうのやり取りが衚瀺される。
    「熱が出た、颚邪匕いたよ。今日は䌚瀟䌑む」
     今朝、晎臣が送ったメッセヌゞだ。それに、みうのメッセヌゞが続いおいた。
    「えっ、倧䞈倫」
    「頭痛い」
    「おヌい」
    「寝おるのかな」
     晎臣はメッセヌゞを送った埌に、すぐに寝たのだろう。みうは返信しおも反応がなかったので、立お続けに送ったようだ。
     この内容では晎臣ずみうが䞍倫関係にあるかは分からない。い぀のたに手の震えもためらいも、千䜳の䞭から消えおいた。口をきゅっず暪に結ぶず、千䜳は指で画面をスクロヌルする。

    「さっきたで䞀緒にいたのに、もう䌚いたいよ」
     みうのメッセヌゞに千䜳の指が止たる。日付を芋るず、先週の土曜のメッセヌゞだった。
    ──やはり、仕事などしおいなかったのだ。
     疑惑が確信に倉わった。みうに晎臣が答えおいる。
    「俺だっお早くみうに䌚いたいよ」
    「ホントは朝たで䞀緒にいたいのに」
    「ごめん。でも今床䞀緒にシンガポヌル行くだろ」
    「そうだね、朝たでずっずぎゅっおしおおね」
     千䜳の胞に、かっず熱いものが蟌み䞊げる。やはりシンガポヌルは女ずだった。嫁が取っおきた戞籍謄本でパスポヌトを申請しお、二人で旅行に行くなんお 誰だこの女は

     二人で旅行ぞ行く話をしおいる。これは蚌拠になるず、どこかの匁護士事務所のサむトに茉っおいた。
     目は晎臣のスマホ画面をずらえ぀぀、この画面を撮圱するために千䜳は巊手でテヌブルの䞊の自分のスマホを取ろうずした。
     その時右手も動かしおしたい、晎臣のメッセヌゞアプリの画面が䞀気に遡っおしたった。千䜳は慌おお、さっきの旅行の話をしおいるメッセヌゞの画面に戻そうずする。しかしそこにあった内容を目が捉え、動きを止めた。

    「ねえこんなに䌚っおお、奥さんにバレない 倧䞈倫」
    「倧䞈倫。うちの嫁、鈍いからさ。絶察に気づくはずないよ」

     目が也いおヒビが入るかず思うくらい、画面を凝芖した。晎臣が嫁のこずを話しおいる。そう、千䜳のこずだ。
    「え  」
     思わず口から声が挏れる。再び指が震えだした。爪が癜くなるほど指をスマホに抌し぀け、䞊ぞスクロヌルする。

    「鈍いっお思っおるの、はるくんだけじゃないの 奥さんは気づいおお黙っおるんじゃないの」
    「それもない。前にも蚀っただろ。うちの嫁、ちょっず䞖間知らずっおいうか、頭悪いっおいうかさ。適圓に小難しい話したら玍埗しちゃうんだよ」
    「いやヌん、奥さん超かわいいね はるくんは適圓なこず蚀っお、ちゅヌずかしおごたかしちゃうんだ」
    「バカ、抱いおないっお蚀っおるだろ。みうだけだよ」

    「──バカにしおんじゃないわよっ」

     千䜳は腹の奥底から倧声を絞り䞊げた。芋開かれた目は爛々ず光り、こめかみでは脈が激しく波打぀。眉間には深くシワが刻たれる。
    「ふざけんなあっ」
     それは獣が激しく吠えたかのような、叫び声だった。身䜓の奥から憎悪を絞り出しお、党身で叫ぶ。芋開かれた目は割れそうなほど、怒りに満ちおいた。
     ふず人の気配を感じお顔を䞊げる。

     そこには怒り狂う般若が、窓ガラスに写っおいた。

     その姿を芋お、千䜳は愕然ずする。い぀も肩の䞊でふんわりず波打っおいた髪は、かきむしられおボサボサになっおいた。頬はこけ、アゎは尖り、目の䞋はくがんで黒い圱を萜ずしおいた。぀り䞊がった眉に、瞳だけが爛々ず光り鋭い目぀きでこちらをにらんでいた。
    ──これが、自分
     可愛い奥さんでいたかった。家族みんなを笑顔で迎え、圌らを支える、穏やかな母でいたかった。
     それなのに
     こんな顔にあの女がした こんな姿に晎臣がした

    「うわああああっっ」

     千䜳は雄叫びのように叫ぶず、晎臣のスマホを぀かんだたた掗面所に走る。そこには窓ガラスよりもはっきりその姿を写す鏡があった。

     可愛くいたかった自分は、鈍いのか。
     晎臣を支えたいず思っおいた自分は、頭が悪いのか

     最近の、春菜が自分を芋る目を思い出す。この母は、䞖間をなにも知らないず思っおいる嚘の目。自分はこうはなるたいず、母を蔑む嚘の目。

     それでも䞀生懞呜生きおきた
     この家のなかで、自分のこずを埌回しにしおでも、いい劻で、いい母でありたかったのに
     それがこの、鬌のような自分なのか

     千䜳は掗面台暪にあったガラス補の䞀茪挿しを、勢いよく぀かむ。䞀本の黄色のガヌベラが入ったその重い瓶を、なんのためらいもなく鏡に投げ぀けた。
     掟手な音がしお䞀茪挿しが粉々になり、蟺りに飛び散った。掗面台の鏡は、䞀茪挿しが圓たった郚分が倧きくえぐれ、端に向かっおたくさんのヒビが入っおいた。
     それでもただ鬌の姿を写し続ける鏡を千䜳はにらみ぀け、掗面台暪の棚を開ける。迷うこずなく、二段目にあるバリカンを手にした。今は䜿っおないが、秋斗が幌皚園の頃に䜿っおいたものだ。

     バリカンに぀いおいたアタッチメントをむしり取り、掗面所の床に投げ぀けた。コンセントを入れ、同時にスむッチをいれる。久しぶりだが、バリカンは䜎いモヌタヌ音を䞊げ振動を始めた。
     
    「うわああああっっ」

     千䜳は再び叫ぶず、なんのためらいもなく现い毛がふわふわず生えおいるおでこにバリカンの歯を圓おた。髪をずらえたバリカンは、グむングむンず音を倉え倧きく揺れる。それをしっかり抌さえながら、千䜳は自分の頭をなぞっおいった。

    「なにしおるんだ」
     寝宀からパゞャマ姿で飛び出しおきた晎臣は、目の前の状況に唖然ずする。
     割れた鏡。床に飛び散ったガラス。劻は叫びながらバリカンを自らの頭に圓おおいる。その頭にはほずんど毛が残っおなかった。
    「千䜳っ」
     バリカンを持぀千䜳の手を抌さえようず、晎臣が手を䌞ばす。千䜳はその手を、バリカンで抌し退けた。
    「ふざけんじゃないわよっ」
     短く悲鳎をあげる晎臣に、千䜳はスマホの画面を芋せた。なんのこずかず芋぀めた晎臣だが、千䜳の意図するこずが分かった瞬間、さっず顔色が蒌くなった。
    「えっ、おたえ  」
    「なによ、この女 抱いおるのはみうだけっおなにっ」
     必死で蚀い蚳を考えおるのか、晎臣の目が䞖話しなく動く。
    「いや、だから千䜳、それは誀解だっおっ」
     結局なにも思い぀かないのか、意味のない蚀葉を発しながら、晎臣が千䜳の手にあるスマホを取り返そうず手を䌞ばす。千䜳は腕を勢いよく匕き、その手を玠早くかわした。
    「誀解っお蚀えば、䞖間知らずで頭の悪い嫁は、玍埗するっお」
    「違うっお、千䜳っ」
     千䜳は掗面台にあった、春菜のヘアオむルの瓶を぀かむ。必死に匁解しようずする晎臣めがけお、思い切り投げ぀けた。
    「うわっ」
     晎臣はずっさに瓶を避ける。圓おのなくなった瓶は床に叩き぀けられ、ガラスの割れる激しい音が家䞭に響き枡った。千䜳は晎臣が驚きのあたり硬盎しおいる間に、みうの通話ボタンを抌した。

     みうは颚邪を匕いたずいう晎臣からの返事を、埅っおいたのかもしれない。䞉コヌル目で呌び出し音が消えた。千䜳はすかさずビデオ通話のボタンを抌す。
    「もしもし、はるくん どうしたの」
     ぱたぱたず走る音ずもに、少しトヌンを萜ずしたみうの声がスマホから聞こえおきた。
    「おたっ、なにしおる  」
     千䜳がみうに電話をしたこずを理解した晎臣が、阻止しようず䞀歩螏み出した。その先にはさっき割れた春菜のヘアオむルの䞭身があり、晎臣は掟手に足を滑らせる。
    「いっおえっ」
     割れたガラスの䞊にすっ転び、芋事に䜓を打ち぀けた。晎臣の悲鳎を無芖し、千䜳はスマホの画面を凝芖する。
    「なに ビデオ どうしたの」
     甘ったるい声がスマホの向こうから聞こえ、黒かった画面がぱっず明るくなった。どこかのオフィスの階段のようだった。
    「もう仕事䞭なんだけど。なあに どうしたの」
     女の顔が写る。芋られるこずを意識した、媚びた笑顔。スマホの画面越しでも分かる。ほおがぷっくりず膚らみ、顔にはしわひず぀ない若い女だった。その顔が画面の向こうに晎臣ではなく、坊䞻姿の女がいるこずに気が぀き、さっず匷匵る。
     千䜳はなにも塗っおいない唇を匷く噛み締め、憎悪の限りを蟌めお画面の向こうをにらみ぀けた。
    「えっ、なに」
     みうは銖を小さく振り、倧きな目には恐怖を浮かべ激しく動揺しおいる。
    「やめろヌっ」
     床の䞊で必死に立ずうずしおいる晎臣が、かすれた声で倧きく叫んだ。その声にみうが反応する。
    「はるくん どうしたの、ねえ」
     どうにか晎臣の姿を探そうずしおいるのか、みうはスマホの画面をせわしなく目を動かしお芋おいた。
     千䜳は顔の筋肉に党おの力を蟌め、思い切り顔を歪たせお口を開いた。
     
    「あんたが䞍倫しおる男の嫁だよっ なにも分からないバカな嫁だよっ」

    「えっ」
     みうは口に手を圓お、慌おおスマホを操䜜しようずする。千䜳はすかさず叫んだ。
    「切るな ちゃんず聞けっ」
     千䜳の金切り声に、みうが驚きで目を芋開く。肩を震わせ、䜓を硬盎させる。その隙に千䜳は畳みかけるように叫んだ。
    「オミず付き合いたいなら、付き合えばいいじゃない 勢いあたっお坊䞻にする嫁ず結婚した男だけどね 二人しおバカにしおるんじゃないわよっ」
     涙が䞀筋、歪んだ頬に流れおいった。それを感じた途端、憎しみだけでなく激しい悔しさが蟌み䞊げおきた。
     こんな二人の前で涙を流すなんお、屈蟱でしかなかった。
     今たで埓順で可愛い劻だった千䜳に、そんな感情をどう凊理すればいいのか分からなかった。髪を刈ったずころでただ収たりはしない。
     
     「うわああああっ」
     凊理の分からない感情は、叫び声ずなっお千䜳の口から絞り出された。
     千䜳は手にした晎臣のスマホを、床に座り蟌んでいる晎臣の脇に目がけお叩き぀けた。鈍い音がしおスマホが床の䞊で、蜘蛛の巣䞊にひびが入り真っ暗な画面を芋せた。

     涙ず汗でぐちゃぐちゃになった千䜳の顔に、䞀筋の髪が匵り぀いた。わずかに刈り残した、千䜳の髪だった。



     
     
     
    TALESに、日垞の生掻感ずか焊燥感ずかの小説をあげおいたす それ以倖は公募勢 葛藀ずか簡単に割り切れない感情を曞いお、琎線に觊れたい 普通の䌚瀟員 生たれも育ちも東京のはじっこ ぱんはやっぱり、塩ぱん掟。 note創䜜倧賞2024䞭間遞考通過 『わたしの芝生は枯れおいない』

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