
1985年の出来事
そう、あれはまだ僕が記憶があるかないかの3歳位の話。
Dr. Emmett Brownがタイムマシンを発明し、
Marty McFlyが1955年へ。
政治の世界では中曽根康弘が首相として幅を利かせていて、
機動戦士Zガンダムも放映開始される。
バース・掛布・岡田の強力打線で阪神が21年ぶりにリーグ優勝を果たし、
おニャン子クラブの「セーラー服を脱がさないで」が大ヒット。
流行語は「イッキ!イッキ!」だったらしい。
そんな年の話。

晴れた日の日曜日。
いつもの様に親父と2人で本屋さんへ。
親父は文庫本が大好きで、家の本棚にはバカみたいに埋め尽くされている。
歴史小説とかミステリーとかが好きらしく、
本屋に行けば2〜3時間もかけてその日買う1冊を吟味。
だが僕はどうやらそんな本屋で過ごす時間が嫌いではなかったらしい。
一緒に行きたい行きたいと必ずゴね、
本屋内を当ても無くブラブラと歩き回る。
たぶん本屋の匂いが好きだったんだろう。
ちょっとホコリ臭いあの匂い。
なんだか急にトイレに行きたくなるようなあの匂い。
そう、そのギリギリ感が好きだったのかもしれない。

あの日、親父と一緒に本屋に行った僕は
ちょっとだけ我慢していたんだ。
小さな本屋だったけど、さすがにトイレくらいはあるだろう。
でも、僕は我慢して
一生懸命に本屋をウロウロしては堪えていたんだ。
もしかしたら平積みにされてる文庫本を
何冊か落としたりしてたかもしれない。
さすがに親父もちょっとウロウロしすぎの僕が目についたらしく、
本を選ぶ手を止め、おとなしくさせようとした。
(…なんだか息子の様子がおかしい。)
(やたらモジモジしてる。)
親父の直感だった。
「まさかっ!」と思った時にはもう遅かった。

僕のすぐ後ろをよく見ると、
ウサギの"それ"位の黒く小さい塊が、
ヘンゼルとグレーテルのパンくずのように
ポロポロと落ちていたらしい。
僕には普段から我慢する癖があって、
よく硬いものをしていたらしいんだけど、
この日それを堪えきれなくなり、
出てしまったものをズボンの上から触っているうちに
小出しで半ズボンからこぼれてしまったんだね。
親父は焦ったよ。
何せこんな公共の場だから。
店主も他の客もまだ気付いていないらしい。
親父は僕を担いで一目散に本屋を後にした。
買おうか迷っていた文庫本も、
会計せず手に持ったまま本屋を後にしてしまった。
よっぽど焦っていたんだな。
曲った事が大嫌いな真面目な親父だから。

その後の事は良く知らない。
ただ、その後
その本屋へ足を運ぶ事は出来なかったそうだ。
そりゃそうだよな。
万引きしちゃって、
息子がお金の代わりにウ○コを置いていったんだもの。
今でも時々話してくれるよ。
潰れてしまったあの小さな本屋の前を通る度に。
もう笑い話だけどね。
親父は1954年生まれだし、
根っからの自民党支持者でも阪神ファンでもない。
ガンダムにもセーラー服にも興味はないし、
決してイッキ飲みなんてするタイプじゃない。
でも親父にとっては
きっと忘れられない年になったんだろうな。
息子が本屋で"ウ○コ一揆"を起こした年って事でさ。
親父、あん時はビックリさせてごめんな。
もう、我慢なんてしないからさ。
