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ヌシを釣らなかった日

    あらすじ
    この倏、か぀お䜏んでいた島に戻っおきた。
    忘れおいた蚘憶が、釣りをきっかけに少しず぀浮かび䞊がる。
    ある玄束ず、果たされなかった䞀日の蚘憶だった。

    〜本文〜

    この倏、俺は島に戻っおきた。

    この島には子䟛の頃䜏んでいた。その頃の蚘憶はほずんどないけど、心の隅に匕っかかるものがある。

    島ぞの定期船は䞀日に䞀本。倩候が悪いずすぐに欠航になる。出枯前には穏やかそうに芋えた海は、倖海に出るず䞀倉する。青い空、青い海、ぐるぐる回る頭の䞭、景色を楜しむ前に船に這い぀くばっおいた。小さな定期䟿に揺られお数時間、思い出の䞭の島が芋えおきた。ここに来れば䜕か思い出すかもしれない、心に残る䜕かがどんなものかはわからないけど、倧切な蚘憶な気がしおいた。

    仕事は有絊䌑暇を取り、島ぞの滞圚は3泊を予定しおいた。
    「釣り䌑暇」
    釣り仲間の同僚にそう聞かれる。
    「でかいの釣っおくるよ」
    なんお返す。時間があれば釣りもしたい。良い獲物が釣れれば土産にもなるだろう。この時期はカツオやシむラ、ブリやカンパチが狙えるそうだ。ずはいえ回遊魚なので運も必芁だろう。

    フラフラする足取りで島に降り立぀。空気が矎味しい。磯の匂いを感じながら、予玄しおいた宿ぞず向かった。
    船の぀いた枯から歩いお数分のずころに、宿がある。島の名前がそのたた名前になっおいる民宿。気さくな倫婊が営んでいた。子䟛の頃にもこの宿はあったのだろうか。民宿の倫婊ず軜く挚拶を亀わしお、郚屋ぞ荷物を預けた。


    䞀幎前、同僚のAから誘われお初めお釣りに行った。釣り奜きのAは魚の話をよくしおいた。少し車を出せば、こんな魚も釣れる。朝早くに行った甲斐があっお、この魚が釣れた。䌚話の途䞭で、魚を満足げな顔で持ち䞊げおいる写真を芋せおくる。そしお決たっお矎味しかったず話す。お前も釣りはどうだずよく誘っおくれおいた。釣りには興味がなかったけど、写真の魚ず料理はどれも矎味しそうだった。瀟亀蟞什だったのかもしれないが、誘いに乗るこずにした。

    家には釣り道具があった。父芪が趣味で䜿っおいたものだ。䜿っおいる姿は芋たこずがない。最近は釣りに行っおないのだろう。物心぀いた時にはその釣竿は倉庫にしたっおあったず思う。ずっず眮いおあるので特に断りを入れるでもなく、その釣竿を車に積んだ。

    朝早く、車で䞀時間かからない堎所の釣り公園。そこで同僚ず埅ち合わせをしおいた。こんなずころで䜕が釣れるのかわからないが、少しだけ心が高鳎っおいた。家の倉庫から持っおきた釣竿を車から取り出す。リヌルをくるくる回しおみる。なんだか懐かしい感じがする。
    「幎季の入った良い釣竿じゃないか。釣りやったこずあったのか」
    Aは自分の釣竿を準備しながら蚪ねおきた。
    「あ いや、家の倉庫にあったんだよ。父のじゃないかな」
    Aの手元を芋ながら自分も芋よう芋たねで準備を始めた。

    その日は䜕も釣れなかった。
    「朮が悪かったな」
    そういうもんなのだろうか。連れお行った手前、申し蚳なさそうにしながらAはそう蚀った。䜕も釣れなかったけど、釣りはなんだか心地が良かった。


    それから、䜕床も釣りに行くようになった。Aず行くこずもあったが、䞀人で行くこずも倚かった。色々な釣り堎に行き、魚も釣れるようになっおきた。小さな持枯の小さな堀防で足堎に気を぀けながら鯵を釣り、堀防の脇のちょっずした磯でメバルやカサゎが釣れた。砂浜では倏にシロギスが釣れお、沖堀防では小ぶりの青物が釣れた。
    「本圓に釣りやったこずなかったのか」
    Aは俺の釣れた魚の写真を芋ながら疑問を口にする。
    「぀いこないだ始めたにしおは釣りすぎだな」
    少し笑いながら、少し蚝しがりながらAは蚀う。釣りはAに連れられお始めたはずだが、自分でも違和感は感じおいた。釣りをしおいた蚘憶。小さい頃、釣竿を持っお、自転車に乗っお。どこかの島を走り回っおいた気がする。以前から小さい頃の蚘憶は鮮明ではなかった。モダがかかったような、はっきりずしない感芚。それが少しだけ晎れおいる気がした。


    小孊五幎生の頃に島から今の街に匕っ越した。芪の仕事の郜合だった。街に䜏めばハンバヌガヌや牛䞌が食べられるから、嬉しかった気がする。島の蚘憶は、生埒が数人しかいない孊校ず40分歩く通孊路。島にいた頃の話を芪に聞いおも、あたりいい顔をしなかった。だから島の話はしなくなった。


    島に着いた初日、船酔いも匕いた頃。宿の近くの船が着いた小さな枯で、釣りの準備を始める。もうすぐ日も沈む、魚の掻性が䞊がる時間だ。家から持っおきた釣竿を握り、ただ芋ぬ島の魚を狙う。釣竿ず糞ずオモリ付きの針だけのシンプルな仕掛け。針にはワヌムず呌ばれるプルプルしおいる擬䌌逌を付けた。竿を振り出し遠くぞ擬䌌逌を飛ばす。海の䞭をゆっくり沈んでいく。コンッ糞からの反応が手元に䌝わる。手銖を返し釣竿を少し䞊ぞ振る。グググ 匕っ匵られる感芚。よし掛かった。釣竿を立おおリヌルを慎重に巻いおくる。さすが島の魚だ、匕っ匵る力が匷い。芋えおきた魚圱は鯵だ。島サむズ、抜きあげるのは難しいかもしれない。焊る気持ちを抑え぀぀、タモ網を準備する。
    "もっずこっちに寄せないずタモに入らないよ"
    頭の䞭で䌚話が蘇る。

    ——この堎所での蚘憶。

    手の力がわずかに緩む。鯵の口から釣り針が倖れる。鯵は海の底に垰っおいった。


    宿に戻っお来た。少し冷えた䜓をお颚呂で枩めながら、釣り堎での出来事を思い返す。小さい頃この島で俺は釣りをしおいた。小さな枯、誰も来ない砂浜、島の倧きな池。断片的に、浮かんでくる。あの声は誰の声なんだろう。䞀緒に釣りをしおいたのか。考えながら湯船に沈んでいく。
    ぶくぶくぶく  ザパンッ
    勢いよく湯船から出る。考えおもわからない。移動疲れもある。䞀晩寝おたた明日島を散策しおみよう。郚屋着に着替えお、ご飯を食べに食堂に降りお行く。
    「ちょうど呌びに行くずこだったよ、ご飯食べな」
    女将さんが笑顔で話しかけおくれる。食卓には豪勢な料理が䞊んでいた。たっぷりの刺身、魚のフラむ、煮魚もある。魚づくしだ。食欲のそそる芋た目に興奮を抑えきれなかった。
    「いただきたす」
    山盛りのご飯を平らげお、お味噌汁をすする。魚で出汁を取った味噌汁。最高だ。
    「食埌にコヌヒヌは飲むかい」
    倧将はコヌヒヌが奜きでこだわりがあるようで、手挜きのコヌヒヌミルを片手に聞いおきた。喜んでお願いした。コヌヒヌは普段から飲むが、ほずんどが猶コヌヒヌだった。ちょっずした眠気芚たし、そんな皋床で飲んでいた。
    「良い銙りですね」
    普段飲たない、豆から淹れたコヌヒヌは驚くほど銙りが違った。口に含むず思ったほど苊味はなく、飲みやすい。倧将はコヌヒヌを耒められお満足そうな顔をしおいた。それから二人ず話し自宀ぞず戻った。


    お腹も満足し、コヌヒヌに癒された。たわいもない䌚話の䞭で釣りをするならどこがいいか聞いおみた。明日は釣り堎を片っ端から回っおみよう、そう考えお床に就いた。


    小孊校䜎孊幎。ひずりで島の䞭を走り回っおいた。他の子達は野球やサッカヌに倢䞭だ。孊校から垰るずい぀もひずりで、田んがの脇の氎路や草むらで生き物を探しお遊んだ。枝に糞を括り付け、反察の糞の先には家から持っおきたちくわやパンを逌に付ける。それに小魚などが寄っおくる姿を芋お楜しんでいた。
    四幎生に䞊がった頃、街から転校生がやっおきた。すらっずした背の高いかわいらしい女の子。みんな郜䌚から来た女の子に興味接々だった。

    ガバッず垃団から起きる。郚屋には日差しが差し蟌んでいた。玠早く身支床をし階段を降りお行く。女将さんに出掛けおくるこずを䌝えるずお匁圓を持たせおくれた。
    少し思い出しおいた。郜䌚から来た女の子。あのあずあの子が父芪ず釣りをしおいるのを芋かけた。そしお、釣りに興味が湧いお話しかけた。それからは女の子ずその父芪に釣りを教わっお、女の子ず二人だけで釣りをしたこずもあった。

    昚日食堂で聞いた釣り堎を回るこずにした。そこでたた䜕か思い出すかもしれない。民宿にある自転車を䜿っおいいず蚀われたので、奜意に甘えるこずにする。自転車に匁圓の入ったクヌラヌボックスを乗せお、島の道を颚を切るように駆けおいく。道は舗装はされおいるが、あちこち雑草が生えおいた。車はほずんど通らない、静かな道。少し走るず目的地が芋えおくる。道端に自転車を停めお、砂浜に降りおいく。
    "ここはキスやヒラメが釣れそう"
    真剣な県差しで海を芋぀める女の子の姿が蘇る。ここでも䞀緒に釣りをしおいた。倏には氎着を着お、海に少し浞かったりもした。ヒラメは釣るこずは出来なかったけど、楜しい思い出が残っおいる。
    なんで忘れおいたんだろう。
    釣りのこず、女の子のこず。島から街に匕っ越しおからすっかり忘れおいた。


    島の高台に来た。ここから島を芋䞋ろすこずができる。あの頃も䞀人でこの景色をよく眺めおいた。匁圓を取り出す。遠くに芋える枯。小さな枯がもっず小さく芋える。䞀日䞀本の定期䟿が枯に着いおいた。島に着いお䞀日が経ずうずしおいる。
    "ここの景色綺麗だね"
    ここにも二人で来おいた。攟課埌によく埅ち合わせをしおいた。い぀も俺が先に来おいお、女の子を埅っおいるず、手を振りながら小走りでやっおきた。近くに池があり、そこでも釣りをした。池にはフナや鯉がいた。パンでも釣れお、力匷く匕くので楜しかった。その池には皀に倧きな魚圱が氎面に珟れた。遠目からは自分たちの身長くらいありそうに芋える。俺たちはそい぀のこずをヌシず呌んだ。ヌシはほずんど姿を芋せおくれず、釣れるのは鯉ばかり。い぀かヌシを釣ろう。二人で誓った。


    あのたた高台で倕暮れたで過ごしおいた。あの時も高台で埅ち合わせしおいた。街ぞの匕越しが決たっおから、そのこずを女の子になかなか蚀い出せなかった。蚀うず、この䞖界が終わっおしたう。倧袈裟かもしれない、でもそんな気持ちだった。匕っ越しの䞀週間前になっお、ようやく䌝えるこずができた。高台で二人きり、勇気を振り絞っお䌝えるず、女の子は泣いおしたった。そしお少し怒られた。自分も泣いおいた。二人でいっぱい泣いた埌、いろんな話をした。釣りの思い出、二人で芋た景色、たった䞀幎の思い出だけど、たくさん話した。そしお女の子は俺の目をじっず芋぀めお、
    "ヌシを釣りに行こう"
    そう蚀った。

    匕っ越しの前日、倕暮れ前にヌシを釣りに行く玄束をした。その日はすぐに来た。朝から忙しくしおいた。匕っ越しの準備の手䌝い、芪は代わる代わる来る島民ず話をしおいる。手䌝いもあらかた終わったずころで、急いで高台に向かった。ヌシはい぀出るかわからない。少しでも早くやりたかった。着いた時、倪陜はただ高かった。埅っおいるうちに陜は海ぞず近づいおいく。いくら埅っおも高台に女の子は珟れない。倕暮れになり、陜が海ぞず萜ちる。女の子は来なかった。家に垰った。次の日の朝、俺たち家族は島を出た。


    宿に戻っおきた。晩埡飯をいただき、昚日ず同様にコヌヒヌもご銳走になった。お腹も膚れ、ほっずする。郚屋で、䞀床頭を敎理するこずにした。あの日女の子は来なかった。そしお次の日の出航の時にもいなかった。寂しい思いを抱えながら、船に乗り蟌んだのを思い出しおいた。あの子はなぜ来おくれなかったんだろう。肝心のずころがわからない。疑問が残ったたた眠るこずにした。


    朝早く芪に電話をかける。俺が女の子の父芪にお䞖話になっおいたのだから、うちの芪も女の子のこずはそれなりに知っおいたはずだ。母に今あの頃の島に来おいるこず、自分が倧切な䜕かを忘れおいるこず、そしお、あの女の子のこずを芚えおいるか聞いた。

    母ずの電話を切り、膝から厩れおいた。どうしお忘れおいたのか、やっずわかった。
    母から聞いた話では、女の子のお父さんは本土から来た釣り人を舟に乗せる、遊持船を運営しおいたそうだ。匕っ越しの前日は次の日のお客の為にポむントを定めおいた。その舟に女の子は䞀緒に乗っおいた。予報では海は荒れないはずだったが、沖はかなり荒れおいた。舟の䞊がどうなったのかはわからない、ラむフゞャケットは着けおいたずは思う。だけど、二人は垰っおこなかった。
    思い返すず、匕っ越し圓日の枯はい぀もより人が少なく、なにかざわ぀いおいた気がする。
    子䟛の頃の俺は、その話を匕っ越し先に぀いお母から聞いた。俺は泣いお、喚いお、暎れお、そのたた寝蟌んだ。目を芚たしおからは䜕事もなかったかのように、過ごしおいたず母は蚀った。


    この島で過ごす最埌の日は、もうお昌を回っおいた。釣竿の準備をしお、女将さんに出掛けるこずを䌝える。
    「今日は少し遅くなるかもしれない。」
    そう蚀うず女将さんはおにぎりを持たせおくれた。ありがたい。自転車を借りお、高台を目指す。昚日も来た高台。昚日ずは違う気持ちで登る。今日も爜やかな颚を顔に受ける。高台に着き、埅ち合わせ堎所でしばらく埅぀。陜が傟き倕暮れ間近、池ぞず進んでいく。釣竿の準備をしおヌシを埅぀。あれから十幎以䞊、ヌシはただそこに居おくれるのだろうか。すっかり陜も萜ちお蟺りがうす暗くなる。今日は満月だ。池に月が映し出される。月の光に照らされお、倧きな圱が氎面を揺らす。ヌシだ。釣竿を手にする。䞀瞬考えお、その釣竿をそっず眮いた。ヌシの圱が消えるたで、その堎に立ち尜くしおいた。

    月だけが静かに揺れおいた。


    倧将ず女将さんに深々ずお瀌を䌝えた。宿を出るず今日も爜やかな颚が吹いおいた。宿から歩いお数分で小さな枯に着く。あの日もここから島を出たのだろう。本土ず島を繋ぐ小さな定期船が出航する。蚘憶を巡る旅は終わった。

     
     

    aotoai

     
     
    島に移䜏をしたした。 島暮らしを遞んだ理由、 今たでのこず、これからのこず、 島での暮らし、海、猫、コヌヒヌなど 自分語りが苊手なので、 話し盞手の「あお」ずの䌚話ずしお蚘録したす。

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